1992年から稼働する中国広東省の大亜湾原発。事故隠しを指摘されるなど50キロ圏内の香港などで不安が広がる
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中国政府は5月末、原子力の安全と放射能汚染の防止に関わる5カ年計画や長期目標を承認し、原発推進へと再びかじを切った。東京電力福島第一原発事故を受けてネット上などで沸き上がった原発反対の声は、一党独裁の政治体制の下では国の基本方針を変えるまでに至らなかった。 (北京・安藤淳)
■民意捏造
三月、安徽省と江西省の間を流れる長江(揚子江)沿いに計画中の彭沢原発をめぐり、反対派の男性住民に、地元政府から圧力がかかった。「(国会に相当する)全国人民代表大会の前だから、民衆を扇動するようなことはだめだ」
彭沢原発では、加圧水型原子炉(百万キロワット)四基が建設される。だが、認可時に住民を買収して賛成が多数の民意調査書を捏造(ねつぞう)したことが発覚。住民の間で反対の機運が盛り上がり、一部でデモが計画された。
ただ、「反原発の運動は、中国では日本のように広がらない」と環境学者の呉輝氏は自嘲気味に話す。
中国では現在、原子炉十五基(計約千三百万キロワット)が稼働中。ほかに二十六基が建設されており、今後数年間に続々と完成する。それでも、国内の発電能力の3%に満たない。
石炭など豊富な資源に恵まれた中国でも、火力や水力による発電では経済成長に伴う膨大な電力需要を賄いきれない。発電能力で世界一を誇る風力発電など自然エネルギーを今後も推進する一方で、原発にも頼らざるを得ない状況だ。
■軍事技術
中国の場合、原子力の民生利用は核兵器開発など軍事技術の転用により発展してきた。このため、実態は分厚いベールに包まれている。原発の危険性など原発を推進する側に都合の悪い情報が公開されにくいばかりか、共産党と政府の推進方針に疑問を挟む学者やマスコミは少なく、原発政策の決定過程はほとんど見えてこない。
福島の事故は中国でも大きく報道され、国民の間に原発への不安が高まった。しかし、時がたつにつれ原発報道は消えていった。事故直後から凍結してきた新規の建設計画の審査や認可も近く再開される見通しだが、原発の安全性を問う報道は極めて少ない。
■政府任せ
だが、ごく少数とはいえ、勇敢に疑問の声を上げる知識人も存在する。中国科学院アカデミーの何祚〓(かそきゅう)教授は、内陸部への立地や突貫工事での建設に、福島の事故直後から反対を訴え続けている。
中国水利発電工程学会の張博庭副秘書長も「内陸型原発で最大の心配は水源が汚染されること。情報公開が必要だ」と話す。
広東省の大亜湾原発の南西わずか五十キロに位置する香港では、中国の原発政策に住民が強い不信感を抱き、反対デモが発生。半径百キロ圏内は人口約七百万の香港をはじめ計四千万人を超える人口集中地域だけに、原発事故への懸念が大きい。
中国の原発事情に詳しい専門家は「原発のテロ対策など日本より進んでいる面もある」とするが、共産党と政財官一体の強固な「原子力ムラ」に対する市民の監視のシステムは存在せず、安全面は政府任せなのが実態だ。
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