ウルムチ事件から3年
ウイグル人数千人が行方不明?


有本 香 (ありもと・かおり)  ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。執筆者は、富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)、城山英巳氏(時事通信社中国総局特派員)、平野聡氏(東京大学准教授)、森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)、三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)。

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あれから3年も経ったのか、と思うと無力感がことさら深い。3年前の7月5日、新疆ウイグル自治区のウルムチ市で、いわゆる「7.5ウルムチ事件」が起き、数百人の犠牲者と夥しい数の行方不明者が出たと伝えられた。この事件を、読者の皆さんはどれほどご記憶だろうか?

 3年前、事件からちょうど10日後に筆者は、ワシントンD.C.で世界ウイグル会議(WUC)のラビア・カーディル(Rebiya Kadeer)総裁にインタビューし、その内容を寄稿したが、一体あのときと今とでウイグル情勢の何が変わったといえるのか?

 この3年、ラビア総裁のWUCメンバーをはじめとした在外ウイグル人らは、「事件を忘れないで」「国際機関による調査を」と訴え続けてきた。しかし、今年の5月、日本で「世界ウイグル会議 代表者大会」が催された際のインタビューで、ラビア総裁は、祖国における中国当局の弾圧はますます厳しく、暴力的なものとなっていると、その窮状を訴えた。

 同じく前回の本コラムで触れたが、この5月から6月にかけて、12歳の少年が当局によって拘束された後、拷問を受けて死に至ったと見られる事件や、当局のイスラム学校への強制突入により、多くの児童が負傷する事件等が起こったとの情報も伝えられている。にもかかわらず、焼身抗議が続くチベットと同様、ウイグルの現状に関して、国際社会の一員たる私たちはまったく無力である。

ウルムチ事件以降、数千人の強制失踪?

 ウルムチ事件から3周年の日が間近に迫った6月末、WUCからあるレポートが出された。標題には、「2009年7月5日の事件後、東トルキスタン(中華人民共和国 新疆ウイグル自治区)において発生した強制失踪事件について」とある。

 まず、「強制失踪」という文言だが、これは2006年の国連総会で採択された「強制失踪防止条約」のなかで、「国の機関又は国の許可、支援若しくは黙認を得て行動する個人若しくは集団が、逮捕、拘禁、拉致その他のあらゆる形態の自由のはく奪を行う行為」と定義されている。日本も批准している同条約では当然のこと、強制失踪は人道上の罪として禁止されている。

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有本 香(ありもと・かおり)

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企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

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