1号機の非常用復水器(IC)の問題もある。ICは非常事態の際に自動的に起動して原子炉を冷やす重要な装置だ。事故直後、実際に起動したが、当直の運転員が手動で停止していたことが分かっている。重要な装置をなぜ、運転員は止めてしまったのか。
既設炉への影響を最小化したかった政府と東電
東電はこの問題について「手順書で原子炉圧力容器への影響緩和の観点から原子炉冷却材温度変化率が毎時55℃/hを超えないよう調整することとしている」(東電の事故調査報告書)と説明してきた。温度変化が激しかったのでマニュアルに沿って止めた、というのだ。政府事故調も東電の言い分をそのまま受け入れてきた。
ところが国会事故調の運転員へのヒアリングによると、まったく違う。原子炉の炉圧が下がっているのはICが原因かどうか、ほかにも漏洩がないかどうかを確認するために停止した、というのである。
ICを止めて炉圧が元に戻れば、IC以外には漏洩がない(つまり正常)と分かる。つまり運転員がICを止めたのは、ほかに漏洩の有無を確認するためだった。にもかかわらず、東電が55℃/hうんぬんの説明に固執したのはなぜか。報告書は「地震動による配管破損というやっかいな問題」に注目が集まるのを避けるためだった、と推測している。
なぜICを止めたのか。そんなことは運転員から事情を聞けば、すぐ分かる話である。にもかかわらず、本当の理由をあきらかにせず、もっともらしい作り話をデッチ上げた。東電はあくまで「事故は巨大津波によるもので地震が原因ではない」という主張を押し通したかった。そのために地震原因説につながるような話をすべて否定したのだ。
東電だけではない。政府も同じである。政府事故調は地震発生直後にIC配管が破断した可能性を完全否定している。その理由として、政府の中間報告は「ICにはフェイルセーフ機能があり、破断すれば(一時的にも)ICは動かない」「破断すれば炉圧と水位が大幅に低下する」「破断していれば、当直員に生死に関わる事態が生じていたはず」という3点を挙げている。
ところが国会事故調報告は「配管の小規模破断ならICは止まらないし、炉圧も水位も急激に下がらない」「作業員の生死に関わるほど大量の放射性物質が撒き散らされるわけでもない」と政府の説明を一笑に付した。
これ以外にも「直流電源が喪失したために交流電源のフェイルセーフ機能が作動し、ICの弁が閉じた」という政府の中間報告を、国会事故調報告は「原理的に不可能」と退けている。直流電源が喪失したなら、その前に交流電源が喪失しているからだ。
さらに1号機の主蒸気逃がし弁(SR弁)が地震によって作動しなかった可能性も指摘した。それが小規模の配管損傷を招き、全交流電源喪失も重なって炉心損傷につながったかもしれない。
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