HOME > FEATURE > 緊急企画「LOVE CHECK/energy - 今だからこそ、のエネルギーのこと-」 > 上杉隆×小林武史「ガラパゴス化した日本のメディア」(2)
政府の発表、テレビや新聞のニュース、専門家の意見......。僕らが与えられている情報は何が正しくて、何が間違えているのか。メディアの内側を見てきたジャーナリストの上杉隆さんにその実情を語ってもらった。(対談日:2011年9月13日)
小林 そういう話題だと今わりとタイムリーなのが、鉢呂経産大臣のことですね。一部、あの人はマスコミにひっかけられたなんてことも言われていたけれど。確かに僕らもなんとなく違和感は感じたけれど、真相は分からずじまい。まあ、経産省の大臣になんだからもうちょっと発言に対して慎重にという思いはもちろんありましたけれど。でも、どうして一気にあんな状態まで追い込まれたのかなとも、感じましたよね。ここまで全国に一気に知らしめられてしまう仕組みってなんなんだろうと。
上杉 あの件に関しては、扇動されている部分があったと思います。鉢呂さんて原発に関しては、3.11以降、最も現地に多く入っている国会議員の一人なんです。
元々「農政の鉢呂」と言われて、福島に足繁く通っていた。現地の農業関係者からヒアリングを行うわけです。国会から向こうに行って、何人もの農家と直接会って。さらには各市町村のトップにも全員会っている。その中でこれはもうダメだと。早く政府は放射能汚染によって「まだ帰れない」と認めるべきだと。行程表では9ヶ月で戻れると書かれていたんですよ。そんなのは嘘ばかりだと、農家にちゃんと保証してやってくれということを、何度も福島にいきながら確信して、菅さんに報告もしていたんですよ。それを野田さんも知っているので、事情もわかっているし農政や除染のことについても一番詳しいだろうということで、鉢呂さんを任命したわけです。
小林 そうなんだ。
上杉 それに脱原発という菅総理の方針に鉢呂さんはいちばん合っているんですね。地元北海道で反原発を唱えていた。原発事故についてよくわかっているからこそ、「死の街」という表現になるわけですよ。ここにあるのは(PCを見せながら)、鉢呂さんの記者会見の言葉を全部起こしたものなんですけど、全く普通のことを言ってるんですよね。要するに、「みんなが住んでいたところなのにここが死の街になってしまった。こうなってしまったからには、政府はこれにすぐ対応しなければいけない、経産大臣として早くここを復興させなければいけない」ということなんです。なのに「死の街」という単語だけを切り取られて、騒がれた。今の内容を聞いたら、「死の街」って別に悪くないですよね? だって本当のことだから。
小林 まあそうですね。単語だけではなくて、文脈のなかでどういう表現だったかを考えなくてはいけないとは思いますね。
上杉 現地に入っている人間ならみんな分かると思いますけど、福島の被災地では、誰も「死の街」という言葉で怒ってないですよ。逆に現地の人達は、自分たちの街が「死の街」になってしまったということを、早く国に知らしめしてくれと願っているわけですから。もう住めない土地になってしまったのに、どうして日本のテレビや新聞は住めるというんだ、と。住めるといいながら、テレビや新聞の報道陣は勝手に「50キロ圏内には入ってはいけない」というルールを作って入ってこないわけですから。自分たちは中に入ってこないで、フリーとか海外組に取材させて、外から安全だ安全だと言っているんですよ。鉢呂さんの方がよっぽど、福島県の現地の避難している人の意見に近いんですよ。テレビや新聞では現地の人々が怒っていると報道されましたが、誰も怒ってないですよ。
小林 そうなんですか。
上杉 そもそも「死の街」にしたのは枝野官房長官です。彼が嘘をついて、(放射能は)出てない出てないといって対応を遅らせたから被害か拡大した。そんな枝野官房長官を鉢呂さんの後任にするという時点で、既にとんでもない国だと思いましたね。
あと、「放射能つけるぞ」というのもありましたよね。あれはどんな状況での言葉かみなさんあまり知らないでしょう? 鉢呂さんが福島から赤坂宿舎に帰ってきたわけですよ。
それで毎日新聞、共同通信など4、5人の記者がいたんですね。こんなことどこにも書いていませんけど。そして記者が帰ってきた鉢呂さんを囲むわけですよ、で、「大臣お疲れ様でした、どうでした?」というわけです。「放射能とか大丈夫でしたか? 放射能、ついてんじゃないですか? 大丈夫ですかそんな格好できちゃって」と記者が言ったら、鉢呂さんが毎日新聞の記者に半歩近づいて「ほら」とやったわけです。それだけです。そこにいた記者達は「あはは」とみんなで笑って、そんなことは誰も記事にしなかった。
上杉 それを、記者クラブの記者同士の情報共有という談合によって「大臣がこんなこと言ってたよ」と話したら、その言葉を別の記者が拾って、フジテレビがテレビに流したわけです。
小林 うーん、なるほど......。
上杉 なんでそんなことをするかというと「死の街」のニュースにはみんなもう飽き始めているから、よし、また叩いてやれという感じで流したわけですよ。現場にいた人はだれも書いていないんですよ。
小林 官報複合体という言葉が出てきていたけれど、たしかに震災後の報道に関する諸々の問題については、僕らにも多少、見えてきているところもあるけれども。
上杉 本当にひどかったですからね。フリーの僕らは震災直後から東電の会見に24時間体制で貼り込んでいました。あの頃、明らかにされていなかったことを、いろいろと追求したわけです。「本当は核燃料棒はもう壊れてるんでしょう?」というようなことを。でも、記者クラブの人はだれも質問しないんですよ。これはもうその時の録音や、YouTubeに証拠も残っていますけれど。どうしてかというと、東電が自分たちの最大のクライアントだからですよね。自主規制です。
小林 そこから始まっていたんだね。
上杉 放射能についても、3月15日あたりから、僕らフリーはずっと(放射能が)漏れているんじゃないかと記者会見で指摘していたんです。
それならすぐに発表して、とにかく子供と大人だけでも避難させてくれと。
IAEAからも勧告がきているんでしょう?と。とにかく逃して、大丈夫だったらまた戻せばいいじゃないかと。日本はその当時、避難指示を出しているのが2キロか3キロ圏内のみだったんですよ。その時枝野さんは僕の直接の質問に対してなんて言ったかというと、「日本と世界の基準は違います」と。こっちもムキになって、それはないでしょうと。でも、核燃料棒は壊れてないとか放射能は出ていないとか、枝野さんが今までいったことはみんな間違えていたじゃないかと。謝らなくていいから、前の情報は違っていましたと訂正してくださいと。訂正してくれないと前に進めないでしょうと言ったら、「それについてはペーパーで出してますから」と。
小林 へえ〜。
上杉 驚くのは、普通だったらみんなそこで記者たちが突っ込むじゃないですか。なんだそれは、と。
でも、(大手メディアは)一社もその事実を書かないんですよ。
逆に、12日の段階でメルトダウンが始まっているんじゃないかと指摘した僕はデマ呼ばわりされました。もちろん、こちらも根拠なく言ったわけではなく、原発の設計士や、作業していた自衛隊の職員、それから3号機の設計に携わった上原さんという佐賀大学の学長、政府の中枢のから情報をもらっていました。でも、政府も東電も、とにかく「してない、してない」ですよ。「安全だ」「安心しろ」「逃げる必要はありません」と、そればっかり。
小林 そうでしたね。
上杉 終いには、汚染水の海洋リークですよね。3月末の深夜の会見だったと記憶してますが、僕らフリーは言い続けたんです。海洋リークは絶対にやるなと、これをやったら日本は終わりだと。国際法違反、国連海洋法違反、ロンドン条約違反で、賠償金が何十兆円という額になってしまう。
これだけは、将来の日本を背負う子供たち、子孫のためにも、絶対にやっちゃだめだと言い続けたんですよ。 それから1週間ちょっと経った4月3日、もう溢れるという頃になって、貯蔵プールが到着するので大丈夫です、場合によってはピットに流すので大丈夫ですというので、そうかと安心したんです。安心して東電のロビーで仮眠をとっていたんです。フリーはみんなほとんど会見場に泊まりこみですから。その矢先に、枝野さんが1万1500トンの海洋リークをしたという会見をしたんです。僕らはもうびっくりして、東電の会見場に「何をやってるんだよ!」と突っ込んでいったわけなんですよね。誰の権限でやったんだと、大変なことをしたぞ、と。海外にはちゃんと通告したのか?と。結果的に事前通告をしていなかったんですね。驚くのはフリージャーナリストがずっとそうしたことを東電に質問する一方で、会見場の後ろから「お前たちだけの会見じゃねえんだよ!」「どうでもいいよ、そんな質問」と大手メディアの記者たちが怒鳴るんです。
上杉 僕らフリーが海洋リークについての指摘をしたときに黙っていたのはいいとしても、まさか同業の記者たちが邪魔するとは想像もしていなかった。このとき、この国のメディアはもうだめだなと。
小林 そうか......。
上杉 その他も、フリーランスで自由報道協会所属の田中龍作さんの質問だったんですが、3月11日に東電の勝俣会長はどこにいたか聞いたんです。その回答は「中国に旅行に行っていました」と。まあ旅行なら仕方がない。でもそれで判断が遅れたという可能性もあるし、ということでさらに田中さんが誰と行っていたか尋ねたんです。結局、テレビ、新聞などのマスコミ幹部やOBとの接待旅行だったわけです。だから大手メディアは突っ込めなかったのかということです。
フリージャーナリストや、CNNなどの海外メディアの記者も一緒になって、突っ込んだんです。
そしたら後ろのほうから「もういいよそんな質問は!」「どうでもいいだろう、そんなこと」と大手メディアの記者が怒鳴るんです。まったくひどい話です。後に調べたら、この接待旅行の内容というのが、ひとり5万円で一週間、飛行機はビジネスクラスで最高級ホテルに泊まり、高級な食事に、ゴルフや女の接待、というもの。1回に20人程度呼んで、定期的に行っている。そうした接待の総予算が何億円にもなるんですよ。それを受けているメディアは東電に突っ込めないよなと思いますよね。
小林 そういうことが実際にあるんですね。
上杉 せめて広告費のないNHKだけでも正しいことを言ってくれよと思っていたんですね。公共放送ですから。震災直後は、水野解説委員がけっこう突っ込んだ発言をしていました。震災直後から、レベル7も視野にとか、チェルノブイリ級の事故だ、とか。そしたら3月いっぱいで姿を見なくなってしまった。同じような話は他にもたくさんあります。3月23日の記者会見で僕がプルトニウムに関する質問をしたんですね。MOX燃料を使っている3号機からはプルトニウムが出ているはずだろうと。その中で、NHKの記者が一人だけ、加勢してくれたんです。「プルトニウムは検出されてもおかしくないのですが」と。おお、珍しいなと思いました。だって会見場にはいつも記者クラブの記者が200人くらいいて、みんな黙っているんですよ。フリーの7〜8人以外は。
それで会見が終わってからそのNHK記者に、ありがとう、この状況はひどいよね、という話をしていたんですよ。そしたら次の日から会見場にその記者の姿はありませんでした。
小林 本当に?
上杉 もう、滅茶苦茶な国だなと思って。で、こういうことをいくら僕が話しても、記事に書いても、既存メディアはなにひとつ報道しないんですよ。最初にフリーや海外メディアが指摘したように、飯舘村も放射能汚染されていました、福一はメルトダウンしてました、食品も放射線汚染されていましたし、海洋には汚染水が流れていた。僕らが朝から晩まで会見場に貼り込んで、うんざりするくらい同じ質問をして、調べて、僕らがとっくに書いていてそれでも否定されたことを、大手メディアがようやく報道したのは5ヶ月も後でした。しかも、彼らはみな最初は否定していた。だから、海外の特派員なんかには、中国の方が随分ましだねと言われます。
上杉 中国は、新幹線の列車事故で一両目を埋めいてたけれど、メディアの猛反発を受けて明るみにされて1日で掘り返したと。ところが日本では同じような過ちが150日間も隠し続けられていると。150倍、中国より悪いということだ、と。
小林 それはすごい話だね......。
上杉 日本は原子力国家なわけですから。そうした未熟な政府の対応としては、ある意味、予想通りなんですね。いまや世界のメディアもそこではなくて日本のメディア自体を批判しているんですよ。BBCや、アルジャジーラなどは僕を出演させてその実態を報じている。ところが日本ではなんでそれが知られていないかというと、日本でそういった海外メディアの放送が流される時は、都合の悪いところだけ、要するに僕が出るような原子力国家に対して都合の悪いところだけカットされているんです。もはやこれは洗脳ですよ。
小林 でもね、震災後はみんなもメディアの言うことは信用していなかったんじゃないかな。
小林 メディアが言論統制をしているというのは、周知の事実だったと思うんですよね。
上杉 でもそれは一部の人だったと思いますよ。それだけクレバーな人は少ないです。1%もいないと思います。ほとんどの人はテレビや新聞からしか情報を得ていないんです。とくに年配層の人達はネットを見ないから、そうすると1億3千万人のうちの1億1千万人くらいは、新聞テレビの情報の方が、ネットやフリーランスの情報より正しいと思ってしまう。僕だってそう思うと思います。知らない人が大多数ですよ。
小林 でも、電力会社を中心とする、この国の経済の仕組みがなんだかおかしいということは、今回のことで大分知れ渡ったんじゃないかな。
小林 ほとんどの人とは言わないまでも、7〜8割の人がそう思ってるんじゃないですか?
上杉 いや、僕はそう思わない。そこまでは全くいかないです。それを感じている人もまだごく一部です。永田町でもそうですから。
小林 いやでも、モーニングバードなんか見てると、コメンテーターの玉川徹さんあたりがそのあたりのきわどい発言もしているけれどね。
上杉 玉川さんはテレ朝の中でもちょっと特殊な存在というか......。つまり、組織としてはガス抜きとして置いているんだと思います。それは「スーパーモーニング」の頃からですね。そのかわり他の番組には絶対に出さないでしょう?
小林 じゃあ、彼のコーナーだけはテレビ朝日としても治外法権としているところなんですかね。
小林 週刊誌だと、大手出版社から出ているものでも、東電のスクープなんかを書くじゃないですか。あれはどういう感覚なんですか?
上杉 各媒体ごとに色々と事情がありますよね、きっと。たとえば、辛らつな東電批判している「週刊文春」などは、編集部門だけでなく、広告担当や電通などの広告代理店も含めた経営判断にもなると思われます。電力会社を敵に回すとそこからの広告だけじゃなくて、メーカーから関連企業などの広告もなくなりますから。その上で、『週刊文春』は島田真編集長の決断で東電批判に踏み出した。でも、月刊『文藝春秋』は違う方針ですよね。また『週刊現代』は東電批判をやっているように見えて実は巧妙にやってないんですよ。週刊現代をよく読むと、東電のことには触れずに今回の原発事故を批判しているんですよ。要するに、東京電力だけが悪いわけじゃないという論調なんです。そのへんは絶妙なコントロールですよね。
小林 雑誌は記者クラブに入ってはいないんですよね?
上杉 雑誌協会として個別会見へのオブザーバーでの参加は可能です。
実は雑誌も記者クラブ制度のシステムの中の補完作用になっているんですよ。記者クラブの新聞記者が、取材で得た情報だけど自分たちのところでは書けないようなネタがあるとする。それはさっきのスポンサーの問題だったり、自主規制などがあって書けないという場合です。そうするとそのネタは週刊誌などに売るんです。日本の週刊誌に署名が無い記事が多いのはなんでかというと、それが新聞記者からもらっている情報だからなんです。だから『週刊文春』『週刊現代』などは記者クラブ批判をできないんでしょうね。小学館では、僕が記者クラブ批判の記事を書くときに、どうするかと議論になったようです。最初は『SAPIO』でやったんですね。『SAPIO』はそういう記者クラブの補完作用のラインに乗っていなかったので、当時の飯田編集長が載せることを判断した。その後、飯田編集長が『週刊ポスト』の編集長になったんです。そこで、上杉の記者クラブ批判はどうなのかということになったようです。で、小学館内では続けようという判断になったようです。その後『記者クラブ崩壊』という本も小学館から出すことになるんですけど。小学館はその路線で勝負に出たということなんです。そういう感じで、各出版社も実は記者クラブシステムにいろいろな形で組み込まれているわけです。
上杉隆
フリージャーナリスト
自由報道協会暫定代表
1968年福岡県生まれ、東京育ち。都留文科大学卒業。大学在学中から富士屋ホテル(山中湖ホテル)で働き、卒業後NHK報道局勤務。26歳から鳩山邦夫の公設第一秘書を5年間務め、退職。ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者になる。退職後の2002 年、フリーランスジャーナリストとして政治・メディア・ゴルフなどをテーマに活躍中。著書に『記者クラブ崩壊』(小学館101新書)、『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎新書)など。