──と、ここまでまるごと事業の概要や社内体制の傾きについて見てきたが、実際、社員からはどう見られているのか。パナソニックの次世代を担う、若手社員たちにお集まりいただき、会社への不安を打ち明けてもらった──。
【座談会参加者】
A…入社6年目/営業職
B…入社3年目/管理職
C…入社5年目/営業職
『松下幸之助日本を叱る』(幸福の科学
出版)
A 最近、「これはパナソニックでしょ」って言われるような商品って、何か思いつきます?
B あー、2010年に発売された「ポケットドルツ」じゃないですか? あれは結構売れましたよね。昔はテレビとかエアコンとかでしたけど、今じゃ電動歯ブラシっていう……。
A あと、LEDには商品力がある気がするけど、家庭用だけでは全然ビジネスになんないよね。今はどこもエコエコって言ってるから、法人向けに打ち出したら変わるかもしれないけど。
C 僕は正直、売れてるって感じるものがないからなぁ。むしろ、逆に「この会社終わったな」って思ったのは、この6月の上旬に発売されたスマホ対応炊飯器と下旬に発売されるナノイー搭載テレビ(苦笑)。炊飯器は遠隔操作ができるわけでもないし、テレビも大型が安く買える時代に19型にナノイーが付いて4万円ってね……。
A 確かに、あれはいらない。しかも、そんな無駄な予算使ってるくせに、大規模なリストラってね。
B 本社に手を出すっていうのは、結構インパクトありましたね。
C それは思った。うちって今、有価証券報告書を見ても、尼崎市のプラズマ工場への投資の失敗と三洋買収で、キャッシュがめちゃくちゃ減ってるじゃないですか。これまでは儲かってる関連会社から本社に上納するみかじめ料……じゃなくて本部費【編註:本社がグループの企業から、経営意思決定、管理及び広報などのために徴収する費用のこと】の配当を増やしたりしながら、何もしなくてもお金が入ってくるシステムを作ってきたはずなのに(苦笑)。そうまでして守ってきた本社のリストラに踏み切るって、よっぽどピンチなんだろうなと思いました。
A まぁでも、三洋電機とパナソニック電工を買収して3つだった会社がひとつになったわけだから、これまで3人でやっていたことを、ひとりでとは言わないまでも、1点何人とか、2点何人とかで回すことは可能なんじゃない? その上、十数個にわかれていた部門を、(経営や管理をする)本社、(研究関連の)R&D部門、(商品開発の)事業部門という3つに整理したでしょう。だから、例えば管理部ひとつ取っても、その手間自体は4分の1くらいになったはず。もちろん、実際はそんな単純な数字では出せないと思うけど、遊ばせてる人が出ていることは事実でしょう。
C 聞いた話ですけど、関連会社では、経理は1事業部の仕入れから在庫管理、経費処理までひとりで全部行うこともあるのに、対して本社は、1事業部の中で「在庫だけ管理してる」とか「材料の費用だけみてます」っていう人が何人もいるとか。もちろん、扱う量も多くて内容も細かいんだろうけど、当然システム化も進んでるわけじゃないですか。そりゃ、窓際族は出てきますよね。
A しかも、じゃあ関連会社は安泰かっていうと、それもまた微妙で。関連会社にも、各事業部に「●●事業部本社機能」とか「●●事業部の本社対応の現場管理部門」みたいなのが設置されていて、現状、そこにもリストラ要員はいるでしょう。たぶん、本社機能がスリム化されれば、減員の対象になってくるんじゃないかな。
B あと、早期退職に関しても、より本格的になるんでしょうね。詳しくはわからないですが、グループ会社なんかだと、30代前半から早期退職の対象になってて、ある年齢になると退職金の積み増しがあったりするとか。
A これも津賀さんの力を見せるための改革ってことなんだろうけど、そんなにうまくいくのかな?
C そもそも津賀さんが社長に就任するって、「結局テレビの人間かよ!」って思いませんでした?
B 僕も、「またか!」って思いました(笑)。津賀さんて、尼崎工場を潰したことを功績みたいに言われてるけど、そもそもお前らのせいで大赤字出したんだろっていう。その上、役員人事を大きく変えて、前の負債を全部ゼロにしてしまって新しい体制に見せようなんて、とんでもないですよ。この前上司も、「責任の所在があいまいなまま終わったな……」って漏らしてました。
C 大坪さんだって、社員から見たら「そんなに赤字出しといて会長になるんだ。ふーん」って感じ。
A これで、大坪さんを会長から降ろすくらいの大胆な人事改革とかをやったら、津賀さんはすごいけどね。まぁ、まだ就任したばかりだし、評価はこれからでしょう。
骨抜きのまるごと事業韓国勢には勝てません
C そういえば弊社、再起をかけてソリューション事業もやってますよね(笑)。家電単体では、もうサムスンやLGには勝てない。だから「まるごとやりますから」って形で、まとめて売っていくしか生き残る道がなかったんでしょう。ただその割に、社内にいても実態が見えなくないですか? 経済誌で大坪さんのインタビューを読んでも、ななめ上を見ながら「頑張ります」とだけしか言ってない。
A 数年前から「まるごと事業を主軸にやっていく」って話は定例会議や社内報でガンガン打ち出してはいたけど、じゃあ、具体的にどんなことをやるのかっていうのは、正直決まってないんだろうね。そもそも、Fujisawaサスティナブル・スマートタウンって、うちの工場跡地に作ってるんでしょ? 土地あるし、三洋と電工買ったから”とりあえずやってみてる”って感じがしてならないよ。
C そんなだから、実際中身はスカスカな事業なんですよ。”家まるごと”とか”店まるごと”とか言ってるけど、よく見ると肝心のエアコンが入ってなかったりして……。これは社内政治的な話なんですけど、統合した時に旧体制が微妙に残ってしまったところがあって、もともと主力商品だったテレビとかエアコンなんかをやっていた家電営業部が、今はAVCネットワークス社【編註:本社の中にある事業部門のひとつ。このほかデバイス社、ヘルスケア社など、計10個の事業部にわけられている】として運用されているんですが、そこだけ特別扱いなんですよ。まるごと事業っていうのは、このAVC社以外の事業の寄せ集めに過ぎない。もちろん、いざ始まったら一緒に販売していく方向なんでしょうけど、初めから協力し合って、という体制は作れてないんです。赤字出してるのは誰かって話なんですけどね。
B ほんとですよね(苦笑)。今、まるごと事業って”インフラ”を押してるんですけど、日本はすでにインフラができているわけで、本来は、その上に乗っかるのがパナソニックの商品になればいいな、という話でしかないはずなんです。単品単品を組み合わせることで、パナホームがやってきたインフラ”的なもの”に見せる以上のことはできないんですから。
A そこの打ち出し方というか、方向性が微妙にズレてる感じなんですよね。結局手探りだから、どの事業部がどれくらい力を入れて、どのモデルを使って、という具体的な内容は、藤沢市のプロジェクトが成功してからじゃないと出てこないんでしょう。
C とはいえ、価格競争に負けた家電の赤を埋めるには、一括で頼めるという、ソリューションの便利さで買い叩かれない方法を取っていくしかないんですよ。これがコケたら、本当に潰れてしまうかもしれないけど。
B 昔みたいに100%倒産はしないと確信されていた時代とは違って、あり得るかも……という状況にあることは確かですよね。
A そうならないために、今後、まるごと事業のほかにやっていくことがあるとしたら、新興国のボリュームゾーンを狙って、国ごとの需要に合った商品を輸出していくことなんじゃないかな。インドでエアコンが売れていたり、中国で美容機器が売れていたり、そういう細かいニーズにもきちんと対応していかないと。
B 18年には「環境革新の会社になる」って打ち上げてますが、エコなんてもう当たり前。その先の収益を作らなきゃダメですよね。
(文/編集部)
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