原則40年で原子炉を廃炉にする法案が可決され福井県美浜町が揺れています。 美浜町ではあと4年で全ての原発が運転開始から40年を超えることになります。 長年、原発に依存してきた町の人は大きな選択を迫られています。 朝、人口わずか1万人ほどの町で渋滞が起こります。 たくさんのバスが向かう先は関西電力の美浜原子力発電所です。 長年、原子力発電所とともに歩んできた福井県美浜町は今、大きな転換期を迎えようとしています。 国は先月、原子力規制委員会の設置法案を可決しました。 法案には原子炉を運転から原則40年で廃炉にする規定が含まれています。 この規定は規制委員会で見直される予定です。 しかしそのまま適用されれば2030年には関西電力では再稼働が決まった大飯原子力発電所3、4号機以外はすべて廃炉になります。 もっとも古い美浜原子力発電所では4年後にもすべての原子炉が40年を越え廃炉になる可能性が出てきたのです。 【美浜町・山口治太郎町長】 「3.11が起きたが原子力と共生していこうという思いは変わっていない。美浜にとって原子力は非常に大きい存在。脱原発に方向性が大きく変わることで受ける打撃は大きい」
美浜町が廃炉に反対する理由の一つは原子力発電所に依存する財政です。 小さな町にある巨大な町役場。 平日にはほとんど利用者が見られない総合運動公園。 これらは交付金や町の税収の半分を占める関西電力関係の固定資産税などで建設されました。 もし原子力発電所関連の収入がなくなれば施設の維持費などで財政は立ち行かなくなる恐れがあるといいます。 【美浜町・山口治太郎町長】 「脱原子力と40年廃炉というのは技術的、科学的に検証されたわけではない。方向転換になって町が成り立たないようにすべきではないと思っている」 原子力発電所に依存しているのは財政だけではありません。 美浜原子力発電所には関西電力の社員およそ450人が勤務。 下請け会社など関連企業には1000人ほどが勤めています。 他に大きな企業がない町では大事な雇用の受け皿なのです。 さらに恩恵をうけているのは働いている人だけではありません。 作業員が寝泊まりするのは地元の旅館です。 海水浴シーズン以外は客のほとんどが作業員のため、発電所が停まってからは客が激減しています。 【旅館の経営者】 「これで廃業するかな。ずっと動かなかったら。原発が停まって客がこなくてさびれていくのはさびしい」 おととしまで40年以上、発電所のすぐ近くで旅館を経営してきた男性がいます。 福島の事故のあと原子力発電に反対するようになりましたが、これまでその恩恵をうけてきただけに複雑な思いを抱えています。 【中道勇海さん】 「腹の底はみんな一緒やと思う。原発は怖いけどやむなくというか、後の生活より今の生活が大事というか。戦時中と一緒で日本列島焼け野原になるまで目が覚めないんじゃないかと思う。汚染されてどうにもならんようになるまで、目が覚めないんじゃないかと心配」 美浜の人たちは原発と共存する恐怖と生活を失う恐怖で前にも後ろにも動きだせずにいます。 一方、発電所の長期間停止による雇用への影響が徐々に出始めています。 この地域では去年12月に美浜2号機が停まって以降、建設や宿泊といった業種だけではなく、小売り業や飲食業などを含めた全体の求人が減っています。 すでにハローワークには「発電所が停まった影響でリストラされた」という相談も寄せられています。 【ハローワーク敦賀・山口昌也統括】 「解雇もあるし契約社員の場合は契約を終了という形。原子力発電所に勤めていらっしゃる方をターゲットにした商売で成り立っている地域なので消費が冷え込んだり、関西と関東からビジネスマンが出張でくる方が減ってきた」 脱原発を推進した場合、美浜町は衰退してしまうのか。 町の新たな可能性を指摘する専門家もいます。 【一橋大学・橘川武郎教授】 「美浜町には送変電設備の立派なものがある。大きく長い目で考えるとそこに火力発電所を立てるという出口戦略がすっきりする。原発を廃炉にさせながら火力発電所を建てる」 美浜町には原子力発電のために建てられた巨大な変電所があります。 仮に原子炉が廃炉になってもこうした設備を有効活用して原子力以外の新たな発電所が作られる可能性が高く地元の経済は守られるというのです。 【一橋大学・橘川武郎教授】 「3.11があった以上、元に戻るということはないということをまずはっきりした方がいい。エネルギーに関係する政治家も会社も地元も。原子力の依存度が何%になるかはわからないが、それとは関係なくこれから先も長期的に福井は関西の電源であり続ける」
脱原発に向けた議論が進まない中、町の将来像を自分たちで模索する動きも出てきました。 美浜町で自然体験教室を開いている松下照幸さんです。 原子力発電所の変わりに太陽光や風力など自然エネルギー関連の施設を作り、雇用を確保しようと考えています。 研究機関にも協議に参加してもらい、政策としてまとめた上で町に提案する予定です。 【松下照幸さん】 「原発がとまると明日職場がなくなる。生活の糧が無くなる人が何百人、何千人と出る。それはソフトランディングにならない。とめようというなら経済や雇用を解決する道筋をつけないとスムーズにはとまらない」 普段から地元の子どもたちと触れ合う機会が多い松下さん。 原発のしがらみから抜けだすことは次の世代にむけた自分たちの使命だと考えています。 【松下照幸さん】 「原発がなくなっても自立していけるような仕組み作りを僕らがどれだけできるか。それを他の立地の人も見てくれていると思う。変わらなければいけないという立場に美浜町は追い込まれているので僕らもやるしかない」 脱原発という理想だけでは、変われない町の現実。 電気を使う私たち1人1人も原子力発電所を抱える地域の将来像について考えることが求められています。