［ライフ］【将棋・棋聖戦】快挙にわく小さな温泉街　島根の有福温泉＋（1/2ページ）（2012.7.5 22:01）

　初めて将棋のタイトル戦が開かれた小さな温泉街が、大記録に沸いた。羽生善治棋聖（４１）の通算８１期という歴代最多記録を、多くの人が支え、見守った。

　終局から数分後、立会人の小林健二九段に促され島根県江津（ごうつ）市の「旅館　ぬしや」の対局場から館内の大盤解説会場に足を運ぶと、松江市や広島市など地元ばかりか、埼玉県内からも訪れたファンや関係者約１００人の大きな拍手がわき起こり、カメラのフラッシュが瞬いた。

　「将棋のマス目と同じ数で、縁起がいいですね。よかったです」。一般対局と同じように、クールに振り返った羽生棋聖。そんな本人とは対照的に、周囲は熱かった。

　江津市内に金型工場を持つ林田英男さん（６６）に、将棋連盟関係者から棋聖戦開催の打診があったのは今年２月。自身もタイトル戦で使用される駒づくりを手掛けることから「街を活気づけるには、打ってつけ」と市役所に提案した。「ＪＲを使うと、国内では東京からは最も遠い場所。こんな田舎で、そんな大きなことができるのかと思った」と、田中増次（ますじ）市長（６７）。

　今年は日本最古の歴史書「古事記」が編纂（へんさん）されて１３００年。神話の舞台が描かれた島根県内では今月２１日から４カ月かけたイベントが開催される。出雲市や、世界文化遺産に登録された石見銀山遺跡がある大田市より西にある地味な街のため、起爆剤を求めていた。それが棋聖戦。県にも広報活動の協力を求めるなどしたため、結果的に約５０人の報道陣が集まる盛況ぶりに。田中市長は「歴史的瞬間に立ち会えた。市にとって、記念になる一日」と興奮ぎみだ。