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焦点 宮城・津波で全壊なのに危険区域外 移転支援なし、住民不満
 | 石巻市門脇町地区では高盛り土道路(点線)から内陸側が居住区域、海側が移転対象となる計画。左が石巻湾、手前が旧北上川 |
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東日本大震災の津波被災地で、災害危険区域から外れた住民の間で住宅移転への支援策を求める声が高まっている。危険区域内では公費による移転支援を受けられるが、区域外では基本的に支援がない。自治体が独自支援を打ち出すにも財源の壁があり、国に財源措置を求める動きが出ている。ただ地域の人口流出を招く可能性もあり、現地再建を目指す住民には不満も渦巻く。
◎自治体限界「国財源措置を」
<全額自己負担> 石巻市の旧北上川河口に近い住宅街の門脇町2〜5丁目地区。約1700人が暮らした住宅は大半が流され全壊した。市は地区を東西に貫く県道沿いに高盛り土道路を造り海側を移転対象とする計画だが、内陸側にも移転を望む住民は多い。 「大津波を経験した住民がどれだけ戻るのか」。危険区域にならない門脇町2丁目に暮らしていた団体役員美濃徹さん(60)は移転か現地再建かを決めかねている。 危険区域は土地買い取りや住宅ローンの利子補給などの支援があるが、移転は原則として自己負担。生活再建支援金の加算支援金などがあるだけだ。周辺が危険区域と同じく、壊滅状態の住民は割り切れない。 「浸水区域以外の地価は上がる一方で、自力での移転は負担が大きい。土地の買い取りといった支援が少しでもあれば」と美濃さんは言う。
<独自に助成も> 同じ声は、ほかの自治体でも上がっている。 昨年12月に危険区域を指定した仙台市では、移転支援を受けられない住民が一斉に反発した。市は津波浸水地域を対象に、集団移転と同等の利子補給と移転費用助成を独自に行うことにした。 こうした支援は、財政規模が大きい自治体や、被災規模が比較的小さかった自治体に限られる。 石巻市の試算では集団移転対象区域外の全壊世帯は約1万5000。仙台市並みの支援策を打ち出すと、約550億円が必要となる。亀山紘市長は市議会6月定例会の一般質問で「当市の財政力では到底できない。国に財源措置の要望を続けていく」と繰り返した。 市は6月11日、気仙沼、東松島、南三陸、女川の4市町とともに村井喜浩知事に協力を要請。村井知事は19日の政府要望で区域外の住宅移転支援について「特段の配慮をお願いする」と求めた。
<地域分断懸念> 個別に住宅を移す住民が増えれば、コミュニティー再生にも影響する。宮城県幹部は「移転で虫食い状態になりかねない地域のまちづくりを並行して考える必要がある」と指摘する。 高盛り土道路で地域が集団移転の対象と対象外に分断される石巻市門脇町の4町内会は4月、復興街づくり協議会を設立した。土地区画整理事業が想定されるまちづくりの方向性を話し合い、6月に亀山市長に要望書を出した。 避難路の拡充など防災対策に加え、自宅再建が困難な住民が地元に残れる復興住宅の整備を求めた。協議会長の会社員田代方政さん(65)は「住民が戻るには、商店が進出しやすい環境整備も必要。病院や保育施設も欠かせない」と山積みの課題を指摘した。
[災害危険区域]地方自治体が津波や傾斜地の崩壊などで危険の著しい区域を指定し、建築などを制限する。防災集団移転やがけ地近接等危険住宅移転などの補助事業の前提になる。宮城県内では仙台市、東松島市、南三陸町、亘理町、山元町が危険区域を指定。ほかの市町も今後指定する予定。
2012年07月05日木曜日
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