第参章 介入する運命
日のある内は人が行き交い、作業員や業者が往来する湾港施設も、夕闇が宵闇を連れてくる時間になれば人気はなくなり、ひっそりと静まり返る。
この場所はあくまで仕事をするための場所だ。
仕事が終われば無人になるのはやむを得ないだろう。
残業や忘れ物…そんなイレギュラーな用でもない限り、街の中心から外れたこんな場所で時間をつぶしたり訪れたりする人間がいるとは思えない。
人がいないだけで廃墟のように見える代わり映えしないプレハブの並ぶ倉庫街…まばらな街灯が照らす四車線のアスファルト道路はどこまでも無機質で冷たい。
聞こえるのは波と風の音だけ…そこに生き物の立てる音はそれに含まれていなかった。
しかし、その静けさを逆に好むもの達もいる。
神秘の秘匿を信条とする魔術師と下手な邪魔が入るのを嫌う英霊達…聖杯戦争の参加者…大型車両用に広く取られた四車線の道路…その真ん中を堂々と歩く二人組み。
「つまり私達のような人間には都合がいいのよね」
「そうですね」
アイリの言葉にセイバーが頷く。
「念を入れるのは悪い事じゃないわ…魔術の起こす奇跡は万能ではないのだから…」
「私も無辜の民が戦場に迷い込むのを望みません」
アイリとセイバーの会話が示すのは、ここに来る途中に感じた人払いの結界だ。
ただでさえ人気のいない場所だが、そこに結界を置く事で一般人が迷い込んでくる確率を減らせる。
同時に、結界の中は戦場とそれ以外を分ける境界線だ。
それを理解した上で、二人は踏み越える時に、戦いの覚悟は二人とも固めて来た。
「この辺りよね」
「おそらく、この倉庫街のどこかにいるとおもわれます」
シロウと切嗣が感じた魔力の気配…それはおおよそこの街にいる全ての魔術師、英霊に対しての自己主張であり、宣戦布告だった。
即ち、自分はここにいると言う意味の…挑発でさえあった“それ”に、アイリは切嗣から与えられた囮と言う役目を考え、あえて乗る事にした。
アイリを主として守護すると誓いを立てているセイバーに反論があるはずもなく…両者の意見が一致して今この状況に繋がる。
「良くぞ来た。今日一日、この街を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込む腰抜けばかり。…俺の誘いに応じた猛者はお前だけだ」
後はどうやって問題のサーヴァントを見つけるかと考えながら歩いていた所で、探していた当人が現れた。
いや…正確には“いた”と表現するべきなのだろう。
アイリとセイバーの進行方向…やはり道路の真ん中に立ってこちらを待ち受けていた男が一人…明らかにサーヴァントであり、先ほどの魔力の主であると、その身にまとう魔力が教えてくれる。
アイリスフィールとセイバーが、サーヴァントから10メートルほど手前の位置で足を止めた。
人間ならともかく、サーヴァントならばその程度の距離に対した意味はない…一足飛びでゼロに出来る距離だ。
そして、サーヴァント同士がこの聖杯戦争の中、彼我の距離を詰めると言う事の意味は戦闘開始以上の意味も以下の意味も持たない。
つまり、この距離をとった時点で前哨戦は始まっているのだ。
「その清澄な闘気…セイバーとお見受けするが如何に?」
「その通り。そういうお前はランサーに相違ないな?」
いきなり問答無用で戦闘に入るかと思いきや…二人はまず名乗り合いから入った。
二人共、生きる時代も場所も違うが戦乱を駆け抜けて伝説を作った者同士と言う共通項がある。
魔術師として“作られた”自分とは生き方そのものが違うのだと理解しているアイリは、二人の会話には関わらず、相手の観察に徹することにした。
このサーヴァントの真名が分かれば、戦い方も弱点もおおよその事も判明するはず…この国ではそれを適材適所と言うと切嗣が言っていたのを思い出した。
…まず、このサーヴァントがランサーなのは間違いない。
セイバーが男をランサーと判断した理由は、本当の戦いを知らないアイリから見ても明らかだ。
男が両手に持つのは長さの違う長柄…呪符に覆われていてその下にある物は見えないが、形からして槍だろう。
ならば、目の前にいるこの緑の軽鎧を着ている美形の男性が七騎のサーヴァントの中でも最速とされ、三騎士の一人とされる槍使い…ランサーのクラスで召喚された英霊と察するのに努力は要らない。
むしろそれを見て、このサーヴァントにランサー以外のクラスをあてはめる者はいまい。
…あれは、一体。
ただし…その肝心の槍には少々奇妙な所があった。
呪符で覆っているのは己が宝具を隠して真名を隠しているのだと理解できる。
逆に言えば宝具から真名が分かるほど有名な英霊と言うことの裏返しでもあり、それはセイバーにも当てはまる事だ。
もしセイバーの宝具が特殊でなければ、別の剣を用意するか同じ様に剣の正体を隠す方法をとっていたかもしれない…そんな事になれば、この少女が渋るのは目に見えているので今更ながらに面倒が少なかったことにはほっとする。
なので、ランサーが己の槍の正体を隠す…それ自体は問題ないのだが…“それが二本”となると問題にもなる。
…長槍と少し短めの槍?
宝具を複数持つ英霊は存在するが、主となる武器は基本的に一つのはずだ。
彼等はそれを極める事によって、伝説を作り上げて来たのだから…しかも槍である。
剣での二刀流と言うのは数こそ少ないものの存在する。
しかし、槍での二刀流というのは聞いたことすらない。
そもそも剣でさえ片手で振り回すのに相当な筋力が要るというのにそれを槍でこなすというのだろうか?
そんな特徴的な流儀を扱うのならば、ランサーの正体を特定するのも容易い気がするのだが…アイリには心当たりがなかった。
素人のアイリが気付いた事に、隣に並ぶセイバーが気付かないはずがないが…サーヴァント二人が互いの殺傷圏内にいるこの空気の中では、それを当人に聞くのも戸惑われる。
それによってわずかにでも出来た隙でセイバーが致命的な傷を負う事も、あり得ないとは言い切れないのだ。
…もどかしいわね。
本来のマスターではない彼女には、念話でこっそり相談するという事が出来ない。
相手の能力を確認する事も出来ないので、入手できる情報は目に見えるもの限定となってしまう。
「いかにも…ふん、これより死合おうという相手と、尋常に名乗りを交わすこともままならぬとは。興の乗らぬ縛りがあったものだ」
思考の中にいるアイリを部外者として、二人の会話はなおも続く。
同じ騎士として分かることがあるのか、ランサーの言葉にセイバーも同意らしく頷いた。
己の名前を隠すことが気に入らないと思っているのはお互い様らしい。
それはきっと、彼等にしか分からないこだわりだ。
しかしそれはそれ、これはこれである。
「是非もあるまい。もとより我等自身の栄誉を競う戦いではない。お前とて、この時代の主のためにその槍を捧げたのであろう?」
「ふむ、違いない」
セイバーの返答をランサーが満足げに認めた。
ランサーはその見目麗しい端正な顔にこれから殺し合いをするとは思えない苦笑を浮かべている。
血なまぐさい闘争とは無縁に思える穏やかな目元に、左目の下にある涙粒のような黒子が印象的な男の色香を加えていた。
…っ!?
ランサーの姿から、その真名に繋がる物がないかと観察していたアイリだが、不意に“それ”が来たのを感じて内心で呻いた。
いきなり背中をなで上げられるようなザワリとした感覚…覚えのあるそれが、自身の中にある“女”の部分が反応しそうになっているのを、ホムンクルスの高速思考で察する。
現在、自分は魔術的な影響を受けていると感じたアイリは、とっさに己の中の魔術回路を起動させ、抵抗すると同時に自分が受けた何かの正体まで看破した。
「魅惑の魔術?既婚の女に向かって、ずいぶんな非礼ね。槍兵?」
漏れ出た言葉ほどに、アイリの内心は穏やかではなかった。
むしろ嵐の海の如く荒れ狂っている。
自分の“女”は夫である切嗣の物だ…他の誰のものでもないし、娘にさえ見せる気はない。
それを無理やりに表に出そうとしたランサーの暴挙は、話でしか聞いたことのないレイプと言う行為をアイリに連想させた…勿論、アイリが被害者側だ。
本当なら、涼しげに笑っているランサーの横っ面を張り倒してやりたいところだが、流石にそれは自重する。
今のアイリはセイバーのマスターと言う事になっているし、それ以上に誰かに害されてはならない大事な体だ。
感情に任せて突っかかって行く訳にはいかない…対するランサーはアイリスフィールが言っている事とその表情の意味がわかるらしく、苦笑していた。
「悪いが、持って生まれた呪いのようなものでな、こればっかりは如何ともしがたい。俺の出生か、もしくは女に生まれた自分を呪ってくれ」
魔眼ではない…ランサーがセイバーを見ていた事から考えて、アイリはトリガーが自分の方にあったと推測する。
つまり、自分がランサーの顔を見つめていた事で魅惑の力が発動したのだ。
魅惑の魔貌…ランサーからは明らかにその手の女を惑わす霊力が放出されている。
ランサーの言う事を信じれば、少なくともこの魅了に関しては本人の意思では無いという事になる。
それもまた真名に通じる能力の一つかもしれないが、本人の意思に関係なく常時魅惑の能力が発動しているとするなら、この男は文字通り、女に生まれてきた者達の天敵だろう。
自覚があるのがわずかに救いだが、それでもアイリからすればこの男と無駄に接点を持つのは遠慮したい。
自分には夫と娘がいるという事が大きいが、大した手間ではないとはいえ、常に抵抗していなければ会話もできない相手と向き合うのは気分がいい物ではない。
「アイリスフィール、下がってください」
「セイバー?」
二人の会話からおおよその所を察したセイバーが、アイリスフィールを庇うように前に出た。
それだけで、アイリスフィールに向かっていた魅惑の影響が遮断される。
「その結構な面構えで、よもや私の剣が鈍るものと期待してはいないだろうな?槍使い」
「そうなっていたら興醒めも甚だしいが、成る程、セイバーのクラスの対魔力は伊達ではないか」
直ぐ傍、しかも影響を受けたアイリスフィールより前にいるセイバーに影響が出なかったのは、ランサーの言う通り彼女に備わった対魔力がAクラスの恩恵で、ランサーの魅惑がキャンセルされたからに他ならない。
あるいは女と言う生き物に置いて唯一、ランサーに敵対出来る存在かもしれない。
逆に言えば、アイリがホムンクルスで、セイバーに最高の対魔力が備わっていなければ、一瞬にして骨抜きにされていた可能性も否定できない。
しかもランサーの言を信じるならば、その力は無自覚で無制御、無差別と来ている。
常時抵抗していなければ、自分が自分でいられなくなるかもしれない相手…あるいはそれも女としての一つの幸せかもしれないが、セイバーとアイリにとっては揃って拒否する類の幸せだ。
「…結構、この顔のせいで腰の抜けた女を斬るのでは、俺の面目に関わる。最初の一人が骨のある奴で嬉しいぞ」
「ほう、尋常な勝負を所望であったか。誇り高い英霊と相見えたのは私にとっても幸いだ」
己の魅惑が通用しない事に、落胆するどころかむしろ本望と笑みまで浮かべたランサーをセイバーが認めたその瞬間…傍にいたアイリは、セイバーとランサーの体から、ほぼ同時に魔力が噴き出すように立ち上るのを視認した。
魔術師でない物には見えない、魔力のほとばしり。
透明な…それでいて鮮烈な笑みを浮かべるセイバーが蒼色…美しい顔に戦いの高ぶりを映すランサーが翠色の魔力をその全身から立ち上らせている。
二人の顔に浮かぶのは命を懸けて戦う者達に共通した笑みだ。
セイバーもランサーも時代は違っても戦いの人生を生き抜き、伝説を作った英霊達…一度戦いになればその総てをかけて相手を打倒することにためらいはない。
全力を持って戦う事に誇りを見出す人種だ。
「それでは…いざ」
もはや言葉は不要とランサーが構えを取る。
右手に長槍、左手に短槍を持った鳥のような独特の構え…槍に張られた呪符をはがさない所を見ると、宝具の本領を発揮する気はまだないらしい。
対するセイバーはその全身を青き静謐の色をたたえる魔力光が包み、ダークスーツ姿だった彼女を、銀と紺碧に輝く鎧姿へと変える。
威厳と風格を兼ね備えた彼女本来の姿に、ランサーが軽く感嘆のため息を漏らした。
「セイバー…気をつけて。私でも治療呪文ぐらいのサポートはできるけど、でも、それ以上は…」
伝説の騎士王、アーサーであるセイバーと、その正体は知らないが明らかに手誰と見て取れるランサー…伝説の英雄同士の戦いに、ホムンクルスとはいえアイリの介入する余地はない。
彼女に出来ることは闘気と殺気の吹き荒れるこの戦場で目の前の騎士を信じ、見守ることだけだ。
それがアイリスフィールにできる精一杯だった。
セイバーは微力なアイリの申し出に頷く。
「ランサーはお任せを。ただ、相手のマスターが姿を見せないのが気懸かりです」
二人が同時に思うのは切嗣だ。
厄介なサーヴァントを無視して、簡単に殺せるマスターを狙う…この簡単な公式に気が付き、実行する者が切嗣のほかにいないとも限らない。
「妙な策を弄するかもしれない。注意しておいてください。…アイリスフィール、私の背中は貴女にお預けします。」
「わかったわ。セイバー、この私に勝利を」
「はい、必ずや」
アイリスフィールの信頼を得て剣の騎士は一歩を踏み出す。
目の前に待ち受けるランサーの間合いの中へ。
■□■□
「始まっているな…遅かったか…」
独白に切嗣が顔をしかめた。
アイリスフィールの渡した発信器の反応を頼りに、遅ればせながら切嗣が戦場を見渡せる場所にたどり着いた時点で、すでに戦いは始まっていた。
魔術で強化した視界に映るのは、自分のサーヴァントであるセイバーが別のサーヴァント…得物からしておそらくランサー…と切り結んでいる姿だ。
「初戦から三騎士の一人とやりあうとは、吉と出るか凶と出るか…」
もちろん凶と出ても無理やり吉にするつもりが切嗣にはある。
その為にはランサーのマスターを探さなければならない。
マスターが死ねば、サーヴァントもその役目を終えるのだ。
「切嗣、あの場所からなら、戦場がくまなく隅々まで見渡せますが」
隣に並んだ女性…合流した相棒の舞弥が指差したのは岩壁の暗闇を背景にそびえ立つデリッククレーン、高さは目算で30メートルほどか…確かにあそこの上ならば戦場を観察するのにうってつけだ。
しかしうってつけであるが故に…。
「確かに監視にはあそこが絶好だ。誰だってそう思うだろう」
「……」
舞弥からの反論はない。
長い付き合いから、切嗣が言いたい事を察している。
監視に絶好の場所…そう思うのは自分達だけではないという事だ。
ならば、その絶好のポイントにつられてやってきた誰かさんを狙い打つのが切嗣たちのやり方である。
切嗣は舞弥に東側の岩壁から…自分は反対の西側から回り込み、港で戦っているセイバーとデリッククレーンの両方を見張れる場所での待機を指示した。
「分かりました」
「それと…」
「はい?」
切嗣の指示にしたがい、即座に動こうとして呼び止められた舞弥が振り向くと、割と長い付き合いになる彼女からしても珍しく考え込んでいる切嗣がいた。
舞弥から見て、切嗣は周囲を警戒しながら何かを探しているように見える。
「何かあるんですか?それともいるんですか?」
「…少なくともサーヴァントが一人、この近くにいる。確認できたのは黒い外套のようなものを着ているということだけだった」
「接触したのですか?」
舞弥の目が険しくなる。
切嗣の様子から、一方的に切嗣がサーヴァントを見つけたのではなく、鉢合わせしたかもしくは“切嗣の方が先に発見された”のだと舞弥は察した。
サーヴァントを引き付けるのはセイバーとアイリの役目であり、そんなマスターの背後を狙うのが切嗣と舞弥の担当だった。
それなのに、裏の要となる切嗣が先に狙われた…あるいは存在がばれたとなると、作戦の大幅修正が必要になるかもしれない。
切嗣がまだ生きている事が不幸中の幸いか?
「ああ、正確には向こうから接触してきたんだが、何故か僕がマスターだって事も見抜かれていた」
「見逃されたのですか?」
「そう言う事に…なる」
苦虫を噛み潰したような顔をしている切嗣に、舞弥はどういったらいいのか分からなかった。
見逃されたことにプライドが傷つけられたと言うことはないだろう。
切嗣はそんなことを気にするような人間ではないし、必要とあれば相手が恩人であっても引き金を引ける人間だと舞弥は知っている。
切嗣が困惑しているのは…おそらくそのサーヴァントの行動が理解できなかったからだ。
理解できないという事は、次の行動が読めないという事である。
事実、切嗣は困惑していた。
あのサーヴァントは何故自分を見逃したのか?
何故切嗣とアイリスフィールの関係を知っていたのか?
「…いや、今は良い」
「はい…」
疑問はいくらでも沸いて来るが、今は目の前のセイバーとランサーの戦いの方が重要だと切り替えた。
未来の不安に、現在を蔑には出来ない。
「とにかく、何をするか分からない奴だ。脅威になるかどうかすら分からない。十分周囲を警戒してくれ」
「はい」
それを最後に、切嗣と舞弥は分かれた。
それぞれに、己の果たすべき役目を果たすために移動していく。
■□■□
切嗣と舞弥が戦場に到着したのと同時刻、セイバーとランサーの戦いは佳境に入りつつあった。
「すごい…」
前もって英霊同士の戦闘に魔術師は無力だと知っていたアイリスフィールだったが、実際にサーヴァント二人による戦闘を目にして口から出てきた感想は、そんな安易で陳腐にさえ聞こえる言葉でしかなかった。
アイリの語彙が少ないのではなく、色々な物が常軌を逸しすぎていて、それらをまとめて表現する為にはやはり“すごい”の一言しかなかったのだ。
二人の戦いは、原始的な剣と槍によるしのぎあいでありながら、まるで人間大のハリケーン同士が正面衝突しているかのようだ。
セイバーもランサーもあくまで敵はお互いのはずなのに、その踏みしめる足がコンクリートを砕き、その一振りが突風を起こして倉庫街のプレハブをなぎ払う。
戦闘の余波だけで周囲が破壊されている光景はまさに神話の一幕、伝説級の戦いはここに再現された。
確かにこのレベルの戦闘では、人間の魔術師の介入する余地はない。
それどころか、近づいただけでその余波を食らい…死ぬだろう。
ホムンクルスとはいえ、戦闘特化型ではないアイリスフィールも、巻き込まれればその例に漏れるまい…それ以前にセイバーの足を引っ張ってしまうのがオチだろう。
「どうしたセイバー。攻めが甘いぞ」
「……ッ」
鳥のような構えから、片手によるものとはとは思えない突きを繰り出すランサー…それを不可視の剣で受けるセイバー。
レベルが高すぎてアイリスフィールにはどちらが有利なのか、あるいは押されているかの判断がつかない。
彼女には、セイバーの勝利を信じることしかできなかった。
■□■□
…この男…強い。
ランサーの軽口に舌打ちしたセイバーだが、実際はそこまで一方的な流れにはなっていない。
確かに両方の槍を使った変幻自在な槍術は未だかってセイバーの経験したことのないものであり、片手で両手で扱うのに匹敵する速度と威力を出せる事にも脅威を感じずにはいられない。
右手の長槍で刺突を繰り返し、左手の短槍で牽制する。
片手で扱われる槍は両手で扱われるものとは違う変幻自在な軌道を描き、竿状武器の欠点である引き戻しの隙をついて接近しようとしても今度は左手の短槍が邪魔をしていた。
…とにかく隙がないのだ。
どれだけの修練の果てにこの神技は成り立っているのだろうかと…そして、そんな強敵に初戦からまみえた“幸運”に、セイバーに流れる武人の血が沸騰する。
似たような事はランサーにもいえる。
一見間合いの広いランサーがセイバーを追い込んでいるように見えるが、その実セイバーを間合いに入れないようにするので精一杯だった。
余裕と言えるほど楽な戦いはしていない…ランサーにはセイバーの剣が見えていない…比喩ではなく実際に見えないのだ。
その理屈をランサーが知りようもないが、見えない刀身は見えないだけで確実にそこに存在している。
かろうじてセイバー自身の動きから剣の軌道はよめる物の…その長さによる前後の間合いを見謝れば…気がついた時には切り裂かれ、血の海に沈んでいてもおかしくない。
必然、避けるための移動幅は大きくなり、前に出ても踏み込みを浅くさせるうえ、見えない剣の防御を抜くのが難しい。
剣が見えないために何処に隙があるのか確信が持てないからだ。
セイバーの宝具の一つ…【風王結界】…剣の周囲に大量の空気を魔力で集め、光の屈折率を操作することで不可視とする“今の聖剣の鞘”…それをランサーが知りようなど無いが、少なくとも近接におけるその優位性は誰よりも当事者であるランサーが感じている途中だ。
…この女、強い!!
ランサーの心を占めるその思いは歓喜だ。
刃を合わせるたびに伝わってくるセイバーの力量がランサーの体を流れる血を高ぶらせる。
決して武器の特性に頼り切ってはいない…セイバー自身の強さが撃ち合う剣と槍を通じて伝わってくる。
男か女かではない…強いか弱いか…そして勝つか負けるかだ。
お互いがお互いを打倒する為に全神経を集中し、無制限に高ぶらせていく…すでに二人共、お互いしか見えていなかった。
…だが…たとえそうでなくとも気づくことは出来なかっただろう。
誰に気づかれることなくデリッククレーンの上に陣取り、剣と槍の競演を観察する漆黒の影、骸骨のような仮面を持ち、【気配遮断】のスキルを持ったそれは時臣のサーヴァントに倒されたはずのアサシンのサーヴァントが立って二人の戦いを見ていた事に…サーヴァントの目を持ってすればこの距離でも戦闘を見ることは可能であったし、アサシンに与えられた気配遮断のスキルを重ねることで察知される危険性は皆無といって良いだろう。
アサシンは安全に、互換を共有している主に自分の見た情報をつたえる事が出来る“はずだった”。
「…ん?が!!」
それは突然だった。
アサシンが背後からの風斬り音を聞いたかと思った次の瞬間、振り向く間もなく背中に灼熱の感触が生まれ、ほぼ同時に胸にまで突き抜けた。
見下ろせば自分の胸から何かが生えている。
自分の着ている黒衣よりも、なお暗い夜色の刃…いや、刃を黒く染めているのはアサシン自身の血だ。
「うぐ!!」
倒れそうになりながらも踏ん張ったアサシンは襲撃者の姿だけでもと最後の力を振り絞り、背後を振り返る。
自分を刺し貫いたものが飛んできた方向から、放った人物は自分の背後にいるはずだ。
「い、いない?」
だがしかし…背後にいるはずの何者かの姿は何処にもなかった。
強化した視覚で夜の闇に隠れた何者かを探すが見当たらないどころか気配さえ感じられなかった。
サーヴァントである自分に傷を負わせたのだから投擲したのもサーヴァントのはずなのに、その魔力さえ感じられないのは何故だ?
「…がふ!!」
アサシンの抱いた疑問に答えが出ることは永遠になくなった。
視界の中にいきなり現れた白刃がその眉間を貫いた瞬間、アサシンは即死し、魔力の粒子になって消えていく…アサシンは最後まで自分を殺した存在の影さえ見ることはかなわなかった。
■□■□
「ぐぁ!!」
港から南東におよそ15キロ…夜の沈黙に支配された冬木教会の地下で悲鳴が上がった。
僧衣姿を着た男はいきなり走った激痛に耐えきれず、椅子から転げ落ちて床に倒れ落ちる。
戦場からは遠い…いかなるアーチャーによっても攻撃を届かせる事は叶うまい。
しかも、この冬木教会に関して言えば、ある特殊な理由から魔術的な防御も考慮されている。
いかなる呪いであっても聖なる家の最奥にいる男まで及ぶとは考えられない。
「う…ぐ…」
それでも男は激痛を感じていた。
傷もなく、血も流れていないが、彼は間違いなく痛みを感じている。
『綺礼、どうした!?』
綺礼と呼ばれた男を心配する声が部屋に響く。
ただし、声の主の姿はない。
声が聞こえたのは彼が座っていた椅子の前にあるテーブルに備え付けられた骨董品からだ。
朝顔形の集音部分があるそれは、見た目は蓄音機に似ているが、その下にあるべきターンテーブルや針がない代わりに朝顔の終端にあるのは大粒の宝石…見る者が見ればそれが魔術による道具であると見抜くだろう。
それから声が聞こえてくる。
「だ、大丈夫です。遠坂師…」
綺礼が何とか床から身を起して答えを返した。
それでも痛みは残っているのか、顔はしかめられたままだ。
『どうした綺礼!?』
「…アサシンがやられたようです」
『何?』
言峰綺礼はアサシンのマスター“だった”…そのアサシンは通信装置の先にいる男…遠坂時臣のサーヴァント・アーチャーに“討ち取られ”、綺礼は聖杯戦争から“脱落した事になっている”。
無論、それは表向きの話だ。
アサシンが存在しているのを見たシロウが予想したとおり、アサシンが討たれたように見せかけた綺礼は、こうやって教会の地下で父の友人であり魔術師としての師である時臣を勝たせる為に暗躍している。
今夜もまた、ランサーの魔力を感知すると共に“アサシンの一体”を向かわせ、互換を共有させて密かに他の参加者の能力とサーヴァントの力量を図って時臣に報告していた所に…“アレ”が来た。
まず背中に感じた激痛が胸に抜けた。
感覚を共有していたアサシンの痛覚がこちらにフィードバックしてきたのだと理解すると同時…己を貫いた剣を見て、背後に向かって振り返るアサシンの視界が回転する。
しかしそこに何者の姿も見いだせず…次の瞬間、目の前に現れた何かに額を割られる感覚を最後に、アサシンからの感覚共有が切れた。
アサシンが死んで感覚の共有が切れたのだが、頭部を貫かれる感覚に思わず綺麗は椅子から転げ落ち、苦悶の声を上げてしまったのだ。
「…お恥ずかしい声を上げてしまいました。申し訳ありません」
『君のそんな声を聞くのは初めてだったので少しびっくりしたが…アサシンが見つかったのか?』
時臣の驚きの声も仕方がないと、綺礼は思う。
アサシンは気配遮断を使っていたのだ。
しかもサーヴァントであるアサシンを倒したとなるとその存在は同じサーヴァントでしかありえない。
つまり、アサシンの現界を聖杯戦争が始まった序盤で他のマスターに知られた事になり、それはそのまま綺礼がマスター権を失っていないことを示す。
ばれたらここまで仕込んだ策が水泡に帰すだけでなく、綺礼の父親にして聖杯戦争の監視役の言峰璃正…本来中立であり、見届けるだけしか許されないはずの男が、息子とは言え一人のマスターに肩入れしていた事がばれてしまう。
『それはまずい…』
時臣の言う通りだと綺礼は思う。
この場合、血縁関係など言い訳にもならないどころか魔術師相手には追及され、譲歩を引き出す餌を自ら差し出すような物だ。
『個人的に交渉してくるかもしれないな…どのサーヴァントがやったか分かるかね?』
「いえ…一方的に殺されたようですので…」
背後を振り返ったアサシンは何も見ていない。
これが意味するものは一つ…アサシンはサーヴァントの目の届かない場所から何者かに狙撃されたのだ。
遠距離攻撃をしてきたと言うことはキャスターの可能性もあるがおそらく違う。
なぜならば…
…あれは…剣か?
アサシンとの感覚共有が切れる寸前…その胎を貫いていた物は確かに剣の形をしていたと思う。
つまり剣で切りかかるのではなく、剣を飛ばしてアサシンを貫いたということだ。
もしキャスターならば剣ではなく魔力弾の類を飛ばすだろう。
とっさに思いつくのは時臣のサーヴァントのアーチャー、”剣を飛ばす”と言うところも合致しているが…。
…いや、違う。
理由がない。
アサシンは味方だと説明してある…いくらあの男でも目ざわりと言う理由だけで殺したりはしないだろう。
残念ながらはっきりと断言できる確証もないが…それに多分アーチャーは同じことは出来ない。
重要なのはサーヴァントの視覚強化も届かないような超遠距離から、正確にアサシンの額を打ち抜くという離れ業をやってのけたという事だ。
会った回数は少ないが…あの大雑把なところのある英雄にそんな精密なことが出来るとは思えないし、そもそもあの英雄なら堂々と目の前に姿をさらした上で殲滅するだろう。
やり方が違いすぎる。
とにかく情報が少なすぎる。
「今すぐに“他のアサシン”を向かわせます」
『そうだな、念のため、もう二・三人アサシンを向かわせたほうが良いだろう。アサシンを倒した何者かの姿だけでも確認したい。港の方にも別のアサシンを』
「承知しました」
時臣の指示に従い、綺礼は残りのアサシンに指示を出した。
倒れていた椅子を元に戻すと、それに座って迷走するかのように目を閉じる。
…何だ…これは?
残りのアサシンと互換を共有させながら…綺礼は妙な感情を抱いていた。
先ほど、アサシンから流れ込んできた痛み…貫かれた腹の部分がうずく。
勿論貫かれたのは綺礼ではない…幻痛の類のはずだが…妙な熱さのようなものを感じる。
「…私は、何かを期待しているのか?」
客観的に自己を見直した綺礼は、そんな結論に達した。
この熱さには覚えがある。
初めて衛宮切嗣の事を知った時…時臣曰く、卑しい猟犬…魔術師殺しの衛宮切嗣…爆弾銃弾も好んで使い、必要とあれば魔術師一人のために満員のジャンボ旅客機ごと落す。
殺すことに戸惑わず、殺すことに躊躇せず、殺すことに誇りを持たず、殺すことに悲しまない殺人機械に興味を惹かれた。
彼なら自分に答えをくれるかもしれないと思った時にともった熱…そしてアインツベルンのマスターが前例にならってホムンクルスの女であり、衛宮切嗣ではないと知った時に消えたはずの熱と同じ物…いや…むしろこれは…比べ物にならないほど確信じみた…。
「……」
綺礼は無言で自分の腹に手を置いた。
もう幻痛もなくなっているが…綺礼はそこに別の疼きを感じていた。
アサシンを貫き…綺礼にフィードバックして来た魔力を思い出すと、何故か鼓動が早くなる。
殺される感覚を味わったのだ。
興奮や恐怖を覚えて鼓動が早くなるのは、人間として正しい反応だと思うが…同時に背筋がぞくぞくする何かを感じる。
「なんだ…これは?」
綺礼はもう一度問うが、やはり答えは返ってこない。
初めて感じる感覚と、少しだけ早くなった鼓動に困惑していた。
自分にも分からない…言峰綺と言う人間の暗く深い部分が反応している。
…こんな事は初めてだ。
■□■□
戦いを監視していたアサシンの消滅…それに気がついたのは綺礼達だけではなかった。
「何が起こった?」
『分かりません、サーヴァントらしき魔力が霧散しました』
舞弥に言われるまでもなく、切嗣も赤外線スコープを通して同じものを見ていた。
科学の産物である熱感知スコープと暗視スコープを駆使して周囲に何人かのマスターとサーヴァントの存在を確認した後、ランサーのマスターを狙撃しようとしたところで切嗣達はデリッククレーンの上で戦闘を監視するサーヴァントの存在に気がついた。
暗視スコープの倍率を挙げて確認したのは黒のローブを着て髑髏の仮面をつけたサーヴァント…明らかにアサシンだ。
数日前に遠坂のサーヴァントであるアーチャーに討ち取られたはずのアサシンが濃緑の暗視スコープ越しにはっきりと確認できた。
もともと切嗣はあからさま過ぎて逆に他のマスターとサーヴァントを油断させるための策だろうと警戒していたため、今更アサシンが現れた程度で驚きはしない。
切嗣を驚かせたのはその後に起こったことだ。
いきなり何かが飛んできてアサシンを貫いた。
ふらふらとよろけながらも背後を振り返ったアサシンの頭を二射目が貫き、アサシンを倒したのだ。
『どうしますか?』
「あれは間違いなく狙撃だ。狙撃方向から死角になる位置に入って待機」
『了解』
クレーンの上のアサシンを狙撃したと言うことはここも十分射程距離に入っていると言うことだろう。
何かが飛んできた方向を見るがそこにあるのは夜の闇、一応月は出ているが強化した視線でも狙撃手の姿を見ることは出来ない。
だが切嗣にはなんとなく分かっていた。
これをやったのは、きっとあの漆黒の外套をまとったサーヴァントだと、戦場での勘が告げている。
「ちっ」
他のマスターを狙いに行くとしても、その為には物陰から出て移動しなくてはならない。
自分や舞弥が狙撃手に見つかってないと考えるのは希望的観測だ。
しかも相手はサーヴァント…位置さえわかれば壁にしている建物ごと撃ち抜かれかねない。
「何者なんだ?」
一度は切嗣の生殺与奪権を持ちながら、あっさりそれを手放したサーヴァント…だがしかし、見逃したとはいえあのサーヴァントが敵でないという保証もない…と言うよりもむしろ敵だろう。
サーヴァントである限り、そのマスターも含めて敵以外にはなりえないのだから、切嗣は銃器を構えたまま死角越しに移動し、自分のサーヴァントの戦闘に目を向けた。
下手に動くのが危険な以上…他に出来る事もない。
■□■□
港から直線で2キロほど離れた場所にある建設中の高層ビルの上、鉄骨の上に立つ影があった。
一歩前後に踏み外せば、数十メートル下の地面にまっ逆さまになるだろう状況にありながら、影に危うげなところはない。
月に照らされ、漆黒の外套に文様のような赤い筋が走っているのが見て取れる。
「……」
影は手に持っていた黒塗りの弓を下ろす。
矢はすでにさっき二回ほど放った。
「一撃で絶命しなかったのはさすがサーヴァントと言うところか…時間稼ぎにしかならないだろうが…私の存在がばれるのは遅い方が良い。特に遠坂時臣にばれるといろいろと面倒くさいしな」
姿さえつかませない長距離からアサシンを狙い撃ちした犯人…エミヤシロウの顔が苦笑にゆがんだ。
他のマスターに気づかれないように、ほとんど魔力を込めずに投影した剣で心臓を射抜いたのだが、魔力のこもっていない武器では心臓を貫いたところで致命傷にはなっても即死にはならないらしい。
エミヤシロウは足場にしている鉄骨を蹴って前に出る。
空中に身を躍らせたシロウはビルのなどを足場にして三次元的な疾走を開始した。
「しかし、ギルガメッシュが遠坂時臣のサーヴァントだったとは…しかも言峰綺礼のサーヴァントがアサシンだと?」
アサシンがギルガメッシュに倒されたのを千里眼で見た。
そしてその後、10年前の言峰綺礼が教会に保護を求めたのも知っている。
「しかも討ち取られたはずのアサシンがまだ現界しているのはどんな手品だ?」
エミヤシロウは第四次聖杯戦争で何があったのか、その詳細な内容を知らない。
知っているのは未来の第五次聖杯戦争で知りえた知識だけだ。
だから何故討ち取られたはずのアサシンがいまだ現界していられるのかにかんしては見当もつかない。
「そういえば言峰綺礼、自分は序盤でサーヴァントを失い、教会に保護されて脱落したとか言っていたな、しかもそのときの監査役の神父は自分の父だったとも言っていたか?」
それがすべて事実だったと仮定する…すると一つの関係頭が浮かび上がって来た。
師である時臣と示し合わせて敗退を装い、監査役の神父に保護を求めて聖杯戦争から退場したと思わせておいて、裏で暗躍しているというあたりだろうか?
どうやら公平さを求められるはずの、観察役の神父も一枚かんで遠坂時臣に力を貸しているようだ。
そうでなければ言峰綺礼だけですべてのお膳立てをすることはできない。
なんと言ってもあの言峰綺礼は神父のくせに嘘をつくことに罪悪感を感じるどころか嬉々として他人を陥れるような奴だ。
その父親ともなれば一癖も二癖もあって当たり前なのかもしれない。
「確かにアーチャーよりアサシンのほうがあの男にはお似合いだろう。そしてギルガメッシュが言峰のサーヴァントではないという事実…遠坂時臣を殺したのはあいつか?」
衛宮士郎とエミヤシロウの記憶にある限り、あの黄金のサーヴァントは言峰綺礼のサーヴァントだった。
そして、一度しか会ったことが無いが遠坂時臣がギルガメッシュほどの手駒を手放すかと言われれば、おそらくそれは無い。
時臣は絶対の自信を以ってギルガメッシュを選び、召喚したはずだ。
では他のマスターとサーヴァントに打倒されて時臣が死んだのかといえば、ありえなくは無いが難しい。
これもギルガメッシュが理由だ。
ギルガメッシュの戦闘力を打倒して時臣を狙えるか?
それが出来るならギルガメッシュが生き残るのはおかしい。
ならば時臣を直接狙うしかないのだが、時臣は聖杯戦争が始まってからずっと遠坂家にこもっている。
魔術師の家ともなれば要塞だ。
そこを攻めるとなると一筋縄ではいかない…時臣はそこに篭って単独行動のできるギルガメッシュを外に出して好きにさせているのだろう。
「定石であるだけに隙のない布陣だな…」
そこにアサシンを従えた言峰までが協力している。
これを抜いて時臣だけを殺すことが出来る可能性はどれくらいだろうか?
だが、逆を言えばこれで下手人が絞れる。
外の人間に難しいとすれば時臣に手を出せるのは内部の人間、布陣の内部には言峰とギルガメッシュがいる。
時臣を手にかけるのはたやすい。
この時代の言峰のことは良く知らないが、少なくとも10年後の言峰は笑って背後から背中を刺すような男だった。
そしてギルガメッシュも、アレをまかりなりにも御せる人間はギルガメッシュに気に入られた人間だけ、何かを抱えていたり性格が破綻していたりと様々だが、少なくとも言峰の言葉に従っていたのは間違いない。
言峰を基準にすれば時臣はまだまともといえる。
というより言峰レベルの性格破綻者もなかなかお目にかかれないが、となるとギルガメッシュが時臣を見限る可能性はかなり高い。
「しかし、ランサーと言い…あの男は他人のサーヴァントを奪う運命でも付いているのだろうか?」
あるいは一度やった事に味をしめたか…他の誰かならともかく、あの男ならあり得るかもしれない。
シロウはウンザリ気味なため息をつきながらも走る速度は緩めなかった。
戦場を観察していた”目”は潰した。
あとは向こうの視力が回復する前に可能な限り優位な状況をつくっておく。
おそらく剣の飛んできた方向からすぐにでもこの位置にあたりをつけるだろう。
狙撃手を確認しに来るだろうが、それとすれ違うように戦場に乗り込めばある程度は撹乱できるはずだ。
シロウは戦場に向けて速度を上げた。
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