ウルムチ暴動3年:富める漢族へ不信強く
【北京・工藤哲】中国新疆ウイグル自治区ウルムチ市で197人(当局発表)が死亡した09年の大規模暴動発生から5日で3年となる。自治区では先月29日、ウイグル族が旅客機をハイジャックしようとする事件が発生。これを機に自治区内で当局が厳しい取り締まりを行っている。豊かになる漢族と地元のウイグル族の間で格差拡大を懸念する声もあり、3年を迎えても民族間の火種はくすぶったままだ。
「ウルムチ市内では警官が巡回し、ウイグル族居住区では夜中の家宅捜索も増えた。カシュガルやホータンでは道路の検問も厳しくなった」。国外に住む亡命ウイグル人は、自治区に住む知人からの情報として現地の様子をこう語る。
中国メディアによると、未遂事件は、ホータンを離陸したウルムチ行きの航空機で29日発生。ハイジャックを試みたとされる6人が乗客・乗員に取り押さえられた。6人はいずれもウイグル族で、取り押さえられた際のけがで容疑者2人が搬送先の病院で死亡した。
中国政府は「重大な暴力テロ事件」と非難。自治区の張春賢党委書記は2日、事件を防いだとして乗客ら10人を表彰した。
しかし、日本在住のウイグル人、トゥール・ムハメットさん(48)は「漢族とウイグル族の座席を巡るトラブルが大きくなった結果だ。『ハイジャック未遂』との報道は疑わしい。事件はこの時期に当局がウイグル族を抑え込む口実だったのでは」と指摘する。ウイグル族の不信感は払拭(ふっしょく)されておらず、当局は警戒を強めざるを得ない状況だ。
◇抑圧強化、反発必至…「ウイグル・オンライン」開設者
ウイグル族に関する情報をインターネットで発信する「ウイグル・オンライン」を開設し、北京の中央民族大学で教べんを執るウイグル族のイリハム・トフティ氏(42)が毎日新聞の取材に応じた。主なやりとりは次の通り。
−−大規模暴動から3年を迎えるが、自治区の状況は。
中国政府や漢族系企業はここ3年、自治区で巨額投資を続けてきたが、資源開発や都市向けが中心だった。ウイグル族の約9割は農村におり、その恩恵は限られている。都市部に多い漢族が潤う構造になっている。
−−今秋、中国指導部は世代交代する。事態は改善するか。
習近平国家副主席ら次世代指導者がウイグル族とどう向き合うか次第だ。ウイグル族の間では、中国の大国化に反比例し、ウイグル族の国内での地位は低下しているとの危機感がある。漢族が抑圧を強めれば暴力による反発を招くことは過去の事例が証明している。