No.116241
冬野 氷夜さん
神は、呟いた。
私は、存在すべきではなかった、と。
慟哭する人間の争いを見て、深く深く悲しみながら。
神は、呟くのだ。
神という存在が無ければ、人々は心の支えを得られなかった。
神という存在が無ければ、人々は争う事もなかった。
世界は、神が作り上げた。神を信仰する事を人間の心の支えにし、自身を肯定する存在として。
「嗚呼、それは間違っていたのだ」
神は、今更のごとく嘆く。
かつて犯してしまった自らの行為を嘆くのだ。
自身は、神という存在だ。だが、その存在を人間の知識として認識させるような事にしなければ良かったのだ。
何度も、人間の腹に神の子を宿させて、神の存在を人間に広める行為をした。神が、自身を肯定させるべく。
神は、全知全能ではない。人間を作り出すことが出来た、生物の創造に過ぎない。しかし、神はそこにいる。
生み出す前に生み出され、生み出される前に、生み出した。
世界の管理者に近い存在。管理者に近いだけで、管理者ではない。生物の誘導は可能だが、完全な操作は出来ないが為に。
いつから存在しているのか、神にも、人間にも、誰にも分からない。
神は、嘆くのだ。
世界が狂ってしまった元凶が自分である事を嘆くのだ。
人を神へと導いた、神の子は、それぞれの自我を得ていた。方向性は、同じでも価値観のズレが生まれていった。
人は、彼らを神と崇めて、信仰した。
神の子は、自分らが神であると錯覚した。
歪みはそこから始まった。
信仰は、宗教と呼ばれる団体を生み、価値観の違いが、争いを生んだ。
そして、人々は狂っていった。正解など無い世界を血の色に染めていった。
倫理は壊れ、生命は失われ、地上は汚れ、――世界は、醜悪な存在へと変貌した。
「嗚呼、嗚呼」
神は、嘆くのだ。
「私は、人間に、狂ってほしかったわけではないのに」
争いによって壊れた世界を見下ろして、神は嘆くのだ。
そして、神様、と。
自身が神であるにもかかわらず、祈るのだ。
無様な姿で。
人間の千切れた手足が、宙に飛ぶ。もがれた眼球は、土で汚れた後、踏み潰される。子供の腹は、引き裂かれ、内臓は壁に張り付く。脳漿は、蒸発する。女性は、首から上が消失する。胎児は、地面に叩きつけられる。心臓は、貫かれる。指先は、溶解していく。声は、空中で霧散する。舌は、焼かれる。骨は、切断される。口は、弾丸によって破裂する。死骸は、腐る。
「嗚呼、嗚呼、嗚呼――」
神は、戦争を見て嘆くのだ。元凶である自分を嘆くのだ。無力な自分を嘆くのだ。
神は、呟いた。
私は、存在すべきではなかった、と。
慟哭する人間の争いを見て、深く深く悲しみながら。
神は、呟くのだ。
しかし、神は何も出来ない。
神は、嘆くのだ。
しかし、どうにもならない。
全知全能でない彼には、どうする事も出来ない。
そして、『醜悪な神様は、願うのだ』。
どうか、全ての人間が、私の存在を否定してくれますように――。
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意図して書いた鬱小説。グロ描写(?)あり。反宗教的作品。やばかったら、消します。
2010-01-03 17:56:57 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:621 閲覧ユーザー数:607