No.116625

綺麗な死に方

一日で書き上げる事を前提に書いた小説。鬱。ネガティブ。妄想と現実の区別が付かない方は読まないで、そんな作品を目指しました。あと、この作品は、殆どの確率で電波です。ご注意ください。

2010-01-05 10:18:08 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2097   閲覧ユーザー数:2076

 ……狂っていた。

 

 自殺したくて、……狂っていた。

 

 自殺という行動に大義名分など存在しないのだ。

 存在しているのは、ただ一つ。

 その自殺方法によって死亡した場合、その死に方は綺麗なのか――?

 死骸に外傷は無いか、表情は崩壊していないか、肉体の形は正常か、汚物は流れていないか、外見的に芸術的か――。

 

 走馬灯――に似た死への美学が、僕の脳内を犯している。

 狂っている現状に危機的なモノを感じたのだ。

 

 鋭利な刃物が、僕を殺そうとしている。

 

 ……僕は、それに堪えられない。

 

 金属光沢が、僕の体を突き刺そうとする。殺す者の姿は、建物の影に隠れて見えない。

 ――今は、夜。漆黒の闇のような、黒い本能に世界が覆われる時間。

 人の死骸が転がっていそうな、道路の中心で、僕は、殺されそうになっている。

 止めてくれ、止めてくれ、止めてくれ――。

 そんな死に方は、醜いから止めてくれ――。

 僕は、漆黒の金属を持つ誰かに、懇願する。

 願いは届かない、懇願は聞き入れられない。

 

「嗚呼、止めてくれ。僕は、自殺して死にたいんだ――」

 

 僕の悲鳴は、……届かない。

 醜悪にして美麗な願望は、叶わない。――のかもしれない。

 

「……君が望んだ死に方は、綺麗なの?」「醜悪な生き物である人間に、美麗など存在しない」「――だから、私は、貴方を殺すのよ」

 

 願望への返答が、反射された。

 若い女の声。闇が、月の明かりに照らされて拭われる。僕を殺そうとしていた殺人鬼の姿が浮かび上がる。

 少女。瘡蓋の様な固まった血を連想させる、黒く紅い髪。青い闇に染まったセーラー服。天使のような外見をした、――殺人狂(なのかもしれない)。

「――私は、人間が醜いから、人間を殺す」「人間に美しさは無い」

 少女は、金属の部類に入るナイフをちらつかせながら、言う。

 狂っているかのように鋭いナイフが、殺意の塊のように煌いていた。ちかちか、と月光を浴びて反射しているソレは、さながら不可侵の魂の欠片のようなモノであると錯覚出来るだろう。

 しかし、そのナイフは人を殺す。……人を傷付けて、殺す。

 その事が、僕には理解できない。

 人の死を汚す行為が理解できない。

 ――価値観の一方通行。

「ああ、じゃあ、どうやったら、人間は、――出来るだけ綺麗に近づける?」

「知らない」

 妄想と思考が、少女へ問いかけると、返事がすぐに返ってくる。

「……じゃあ、一緒に考えないか」

 妄想が、少女に問いかける。

「……私は、人間を殺さないと」

 一方通行。狂っている。

「綺麗な死ってなんなのか」

「私は、貴方を殺す」

「自殺したい」

「殺したい」

「――じゃあ、君も死ねばいいんだよ」

「……」

「自殺は、自分を殺す事だから」

「……考えよう」

「うん」

 ――――――――――――――――――――。

 

 ……狂っていた。

 

 自殺したくて、……狂っていた。

 

 自殺という行動に大義名分など存在しないのだ。

 存在しているのは、ただ一つ。

 その自殺方法によって死亡した場合、その死に方は綺麗なのか――?

 死骸に外傷は無いか、表情は崩壊していないか、肉体の形は正常か、汚物は流れていないか、外見的に芸術的か――。

 

 誰にも分からない。

 理解されない。

『何故なら、僕は狂っている』。

 

『彼女も、狂っている』。

 

『最初から、この現実(夜)は、狂っている』。

 

『だって、これは、誰かの妄想かも知れない』。

 

『例えば、僕の』、

 

 綺麗な死に方は、

 ――死体も残らずに、消えてなくなる事じゃないだろうか。

 

 消えてなくなるその時まで、僕と彼女は、『生きるしかないのだ』。


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