No.250575

灰色の砂漠。

執筆スピードを上げるために、ノリとインスピレーションだけで書いた短編小説です。
一応、ファンタジーです。
……多分。

TINAMIでは、久々の投稿です。

登録タグ: 短編 ファンタジー 小説

2011-07-31 17:49:43 投稿 / 全30ページ    総閲覧数:425   閲覧ユーザー数:331

 僕は、忘れてしまったのだと思う。

 あらゆる思い出を、これまでの自分を作り出した過去を。

 今となっては、ほとんど思い出せない。

 遠い過去に思いをはせようとしても、記憶の世界は果てのない砂漠で、灰色の砂だけが広がっていた。

 記憶は劣化して、砂になり、風にさらわれては、どこかへと消えていく。

 空は真っ白で、雲も生き物もなく、

 あるのは灰色の砂漠だけ。

 今、この瞬間も記憶は劣化し、ひび割れて、粉々に砕けているのだろう。僕の知らない間に。

 だけど、それは仕方ない事だと思う。僕にとって過去は無意味だった。知識だけで十分だったのだ。

 なぜなら、僕には過去が必要ないからだ。

 僕は、いつどこで生まれたのか。

 いつだったろう、どこだったろう。今となっては、消えてしまった過去だ。

 ただ僕がここに存在していて、今を生きている。それだけの話だ。

 過去に意味はない。必要なのは知識だけだ。知識だけが、僕の頭の中に留まり続けている。

 記憶をすべて捨て去ってしまったわけではない。記憶がすべて無かったら、今のように僕が思考する事はないと思えるからだ。

 でも、大半の記憶は、消えてしまった。

 粉々になって、灰色の砂漠と混ざってしまった。

 そして、砂は、風にさらわれて消える。

 いつか、この思考のための記憶さえも消えてしまうのだろうか。

 わからない。

 けれど、もしすべての記憶を失ってしまっても、僕は何も感じないと思う。

 現実は、真っ白だった。

 重い瞳を開いて、眼球を空気にさらして、世界を眺めた。

 世界は、いつも真っ白で、そこには生者は僕以外に一人もいない。知識だけが落ちている。

 僕は、進むたびに、知識に触れる。知識は、瞬時に僕の脳に刻まれる。

 色、形、感触、におい、意味。

 一つの知識のあらゆる情報を、瞬時になんとなく理解する。

 歩くたびに、見えない知識に触れていく。

 ――概念とも言うのだろうか。

 知識と概念の差異について、僕は深く考えないでいる。ただなんとなく理解して、なんとなく使っている。そんな感じだ。

 僕は進む。

 一歩。

 そして、食事という知識を得る。

 食事。基本的には栄養、すなわち人間が生命を維持し活動し成長をするために必要な栄養素をとる行為の事。

 ここで、気が付いた事がある。

 僕は、食事をした事があっただろうか。

 灰色の砂漠をどれだけ彷徨っても、疑問への答えは出なかった。当たり前の事だ。砂になった記憶は、元には戻らないのだから。

 世界はなんなのだろう?

 答えはない。どこにもない。膨大な知識を持ってさえ、答えは出やしない。

 僕はなんなのだろう?

 僕という存在は、どこから生まれ、どうしてここにいるのだろう?

 世界が真っ白な理由はなんだ? 知識の中の世界と違うのはなぜだ? どうして世界なんてものが存在しているんだ?

 自分に疑問を投げかける。曖昧な答えばかりを吐き出し続ける。自問自答を繰り返す。

 やがて、思考に飽き、歩みを再開する。

 知識を得る。

 その頃には、先ほどの自問自答を忘れつつある。

 哲学も砂へと変わるのだ、と思った。

 そして、そう思った事も、砂に変わってしまう。

 いつか、きっと。

 ぐるぐると意識が回り、砂がキラキラと輝く。

 輝く砂は、やがて形を成していく。知識の中にある世界と同じような形になって。

 僕は、長い夢を見ている。

 目を閉じたら、眠りの国に連れ去られ、そこから夢の国に放り投げられた。

 目覚めるのは、いつなのだろう。

 わからない。

 いつもそうだ。

 目を閉じるたびに、夢を見る。

 気が付けば、夢から覚める。

 今も。

 底なし沼のように深い夢の中へ、僕は沈む。沈んでいくのだ。

 夢から覚めない間は、ずっと。

 夢から覚めなかったら?

 きっと、夢の世界が現実になるに違いない。

 夢。

 世界。

 建物、施設。

 廊下、壁、足音。

 動物、人間、患者、患者。

 病院、病室、ドア、天井、染み。

 白、無人、無音、自己、自我、肉体。

 ぐるぐる、砂、僕、白、知識、記憶、夢。

 僕は、長い夢を見ている。

 底のない夢を。

 僕は、病院に入院している。

 いつまでも、いつまでも。

 そんな夢を見ている。

 夢の中で、僕は眠っている。

 目覚める様子はない。

 白い病室、白いベッド、白い天井。

 真っ白な世界の中で。

 僕という視点は、宙に浮かんで、僕は僕だけを見つめている。

 そんな夢を見ている。

「おかーさんと、おとーさんは、どこ?」

 僕は、問いかける。

 誰もいないから、答えは返ってこない。

「どこなの?」

 僕は、再度問いかける。

 世界は、沈黙し続ける。

「ねぇー、どこー!?」

 僕は、泣き叫びながら、問いかける。

 誰も答えない。

 当然だ。

 おとーさんとおかーさんは、どこにもいないんだ。

 僕だけを置いて、どこかに消えてしまったんだ。

 もう二度と僕の手の届かないところに。

 きっと、彼らは、砂漠に行ったんだ。

 その光景を思い浮かべる。

 彼らは、一歩だけ進む。

 彼らの足首あたりに、ぴかっと黄色い光が走った。ただそれだけだった。一瞬、彼らは動かなくなった。声もあげなかった。やがてゆっくりと、木が倒れるように、くずおれた。それでも物音ひとつしなかった。砂漠の砂のせいで。

 そして、夜があけると、彼らの身体は、どこにも見当たらなくなった。

 きっと、自分の星に帰ってしまったのだ。

 僕を置いて、消えてしまったんだ。

 夢の中で夢を見た。

 中の夢で夢を見た。

 夢の夢で中を見た。

 見た夢の中で夢を。

 夢の中で見た夢を。

 中の夢で見た夢を。

 ぐるぐる、きらきら。

 回っては、かがやく。

 世界はどこだ、現実はどこだ、夢はどこだ。

 僕はなんだ、ここはどこだ、僕は何なんだ。

 そこで、僕は目が覚めた。

 真っ白な世界。

 重い瞳を開いて、眼球を空気にさらして、世界を眺めていた。

 ここが、僕の世界だった。たしかにここにいる。

 でも、僕は疑った。

 その時、不思議な事が起こった。

 死んだ記憶が、元の形へと組み立てられていった。

 砂から、記憶へ。

 粉々になってしまったはずの、記憶が過去を描いた。

 思い出す。

 そして、気が付く。

 やっと。

 僕は、忘れてしまっていたんだ。

 ここは、知識の墓場なんだ……。

 僕が、こぼしてしまった知識が落ちているんだ。

 だから、僕は拾わなくてはならない。

 この知識を一つ残らず、拾わなくちゃならない。

 行こう。

 そして、僕は走り出す。

 零れてしまった知識を、がむしゃらに拾うために。

 一歩。

 机に関する知識。

 一歩。

 テレビに関する知識。

 一歩。

 花瓶に関する知識。

 一歩。

 花に関する知識。

 一歩。

 友達に関する知識。

 知識が砂を集めて、記憶へと固めていく。

 遠い、遠いどこかで起きた事の記憶。僕の過去が蘇ってくる。

 一歩。

 初恋に関する知識。

 それは、いつかどこかの少し悲しい記憶で。

 一歩。

 恋心に関する知識。

 でも、少し嬉しかった日々の事だった。

 ああ、これが悲しいって事か。

 これが、嬉しいって事なのか。

 知識としては覚えていた。だけど、今みたいに僕の内側から湧き上がってこなかった。

 忘れていたよ。

 こんな大事な事を、僕は忘れてしまっていたんだ。

 粉々になって、砂になって、果てのない砂漠にしてしまった記憶を。

 思い出の輪郭が、明確になっていく。

 僕は、知識を拾い続ける。

 思い出したい。

 遠い過去に思いをはせたい。

 消えてしまった記憶もすべて、取り戻したい。

 だから。

 僕は。

 僕は!

 そして、僕は全ての知識を拾い切った。

 そこで、僕は目が覚めた。

 病院。僕がいる病室。僕以外には誰もいなかった病室。

 僕という視点は、宙に浮かんで、ベッドで眠る僕を見ていた。

 周囲を見渡してみる。

 この狭くて真っ白な場所は、いつも変わらなかった。知識の墓場みたいに、僕らが何かをこぼしてしまったかもしれないのに。

 変わらない。この場所は、ずっと変わらない。

 僕が起きないから。目を覚まさないから。夢の国に沈んだままだから。

 僕は、ここにいるけど、ここにいない。

 目の前で眠っている僕がいる場所こそが、『ここ』なんだ。

 さぁ、早く起きて、こんな真っ白で寂しい場所から抜け出そう。

 この苦痛もない夢から覚めて、どこかへと。

 でも、目覚めない。

 どうして。

 僕は焦った。

 その時、病室のドアが開いた。

 僕という視点は、開いたドアへと視線を向ける。そこには、色鮮やかな誰かが立っている。その『誰か』の輪郭をゆっくりと認識する。

 病室へ一歩踏み出す少女がいた。

 彼女は、制服を着ていて、僕と同い年のように思え、色とりどりの花束を持っていた。綺麗な色が、真っ白な病室を変化させていくようで、僕は戸惑った。

 なぜか。

 その彼女は、後ろ手にドアを閉め、今も眠る僕へと歩き出す。

 ゆっくりと。

 いつ逃げてもおかしくない、野良猫に手を伸ばすように。

 やがて、彼女が僕のそばにきて、花束をベッドの隣にある机の上に置く。

 表情は、少し悲しそうだけど、微笑んでいるように見えた。

 そして、その手は、僕の頬に触れて……。

 そこで、僕は目が覚めた。

 目の前には、灰色の砂漠があった。

 僕の記憶が、灰色の砂となって、何もない場所を砂漠にしていた。

 劣化した記憶は、粉々になってしまった。

 ここは、墓場だ。

 僕の過去が眠る、記憶の墓場なのだ。

 でも、死んではいない。

 知識の墓場に死者はいなかった。

 だから行こう。

 どうして、そう思うのか分からないけど、砂が風にさらわれてしまう前に、僕は記憶を全て拾い切らないといけない。

 風にさらわれてしまったら、記憶は死なないけど、どこかへと消えてしまうんだ。

 その頃には、手遅れだから。

 もう、取り返しが付かないから。

 だから、早く。

 早く!!

 僕は、手を伸ばした。

 灰色の砂漠が、意思を持つかのように変質した。粉々になっていた砂は、形を作りはじめた。それは、やがて、世界の形になった。

 僕は、世界へと手を伸ばす。

 忘れてしまったものを取り戻そうとして。

 消えてしまう前に。

 そうして、僕は、世界に触れた。

 そこで、僕は目が覚めた。

 アパートの一室に僕という視点はいた。

 ここは家だった。狭い家だった。狭い部屋で、僕の小さな世界だった。

 ここには幼い頃の僕がいた。

 僕という視点は、幼かった子供の僕を見ていた。

 子供の頃の僕は、無邪気な笑顔を浮かべている。無邪気で、何も知らなくて、幸せそうだった。

 それに反するように、父と母は気持ち悪い姿をしていた。

 人間のような、怪物のような、あるいは世界そのもののような。

 彼らは、僕を一瞥して、気持ち悪い顔を浮かべていた。諦めているというか、憎んでいるというか、憐れんでいるというか、喜んでいるというか、よくわからない、そんな顔を。

 のっぺらぼうよりは、マシだろうけど、僕の親は本当に気持ち悪い顔をしていた。幼き日の僕は、そんな彼らを見て恐怖を感じなかったのかもしれない。

 多分、家族だったんだ。

 少なくとも僕は、そのつもりでいたんだ。

 そうして、彼らは出ていった。

 それから、少し時間が流れて、幼かった僕は気が付いてしまった。

 彼らは、もう帰ってこないんだって。

 そこで、ようやく、幼かった僕は泣き始めた。

 隣に住んでた人が、僕の泣き声に気が付いて、助けに来てくれるまで、ずっと。

 そこで、僕は目が覚めた。

 僕の目の前に、女の子が立っていた。

 舞台は、いつの間にか変わっていて、小学校になっていた。いくつもの教室の中の一つにいた。自分のクラスに。

 小学校。その小さな社会の縮図に、どこか気持ち悪い一面があったのを、僕は覚えている。

 僕は、思い出していた。

 視点は、主観になり、僕は僕となって、彼女を見ている。

 席について、自分の机の上で文庫本を読んでいたのに、僕へと足音が近づいてくる事に気が付いて。

 顔をあげたら、目と目が合って、そこでようやく彼女がクラスメートだという事に気が付く。

「どうしたの?」

 僕は、目の前にいる女の子に声をかけた。どうして、彼女が僕を見ているのか、気になったから。

「……」

 でも、彼女は何も言わずに、視線を下にずらしたと思ったら、再度僕と目を合わせた。

 そして、僕の読んでいた文庫本を指さして、

「『星の王子さま』?」

 と聞いてきた。

 僕は、少し呆気にとられた後、

「そうだけど……」

 と控えめに言った。多分。

 僕が読んでいたのは、サン=テグジュペリの『星の王子さま』という児童文学だった。挿絵がたくさんあって、素朴な主人公や脇役が描かれている。

「キミも読むの? そういう本」

 彼女は、『星の王子さま』を指さしたまま、問いかける。

 僕は、ポケットサイズの文庫本にしおりを挟みながら、「それなりには」と答えた。

 親戚の家で暮らし始めてから、数年後、家の本棚に置いてあったルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を興味本位で読んで以来、僕は本を読むようになった。『床下の小人たち』、『ナルニア国ものがたり』、『世にも不幸なできごと』、『ゲド戦記』などなど。漢字と言い回しが少し難しかったけど、僕は本を読む事に夢中だった。

 だからだろうか。わんぱくなクラスメートの男子とは、あまり話が合わなかった。おじさんは、僕が本好きである事が友達のできない理由じゃないかと、心配そうにしていた。

 でも、僕は、そんな事は何も気にせず、本ばかり読んでいた。

 だから、「それなりには」と答える事が出来た。

 その結果が、どうなったのか。

「……ねぇ」

 彼女は、僕の目を見て、呟くように言った。その声は小さかったけど、僕の意識を引き寄せたのを覚えている。

「?」

 僕は、少し不思議に思いながら、彼女の言葉を待った。

 そして、

「……私に、面白い本、教えてくれない?」

 と彼女は恐る恐る言った。

 ここからだ。

 ここから、僕らの仲は始まったんだ。

 その日、僕に友達ができた。

 そこで、目が覚めた。

 舞台は、ある秋の日の中学校、そこの図書室になっている。

 図書室は、夕日に呑みこまれて、オレンジ色に染まっている。本が並ぶ、その場所には僕らしかいない。司書はサボっているらしかった。

 僕らは、成長していて、互いに真正面から立ち会っていた。

 僕は、学ランを着て、彼女はセーラー服を着ている。

 そう、目の前に、彼女がいる。小学校の頃からの友達が。

 小学生のころからの付き合いが、よく続いたものだ、と当時は思ったものだ。

 そんな風に少し昔を思い出しながら、僕らはシャーペンを走らせている。僕は、ノートに小説を。彼女は、ノートに宿題を。

「……ねぇねぇ」

 彼女が声をかけてくる。

「……」

 僕はダンマリを決め込む。

「……ねーねー」

 彼女はイントネーションを少し変えて、再度声をかけてくる。

「……」

 そして、僕は相変わらず、無視を決め込んだ。

 その時、

「ねぇったら!」

 と彼女は少しキレて、机に乗り出し、僕の顔に迫って頬をつねった。

 ほどほどに痛い。

「はにをする(何をする)」

 僕は、少し発音が難しいまま、彼女に問いかける。

 彼女は、自分が立ち向かっていた宿題を僕の眼前に持ってきて、

「ここの答え、教えてほしいんだけど」

 と八つ当たり気味に言った。

「……」

 が、僕は何も見なかった事にした。

 彼女はいい加減、数学に慣れた方がいいと思う。慣れたら、少しは勉強するのも苦痛じゃなくなるだろうし。

「……」

 彼女は、無言のまま、僕の頬をさらにつねった。すごく痛かった。

「いひゃいいひゃい!(痛い痛い!)」

 僕は、オーバーリアクションを取りながらも、痛みを訴えた。

 シャーペンを握る手は、いつの間にか止まっていた。

 僕のノートには、書きかけの物語がある。

 僕は、物語を書くようになっていた。

 たとえば、今。

 本の匂いがする知識の墓場で、彼女と一緒にいながら。

 友達同士、じゃれ合いながら。

 そこで、目が覚めた。

 舞台は、高校へと変わって、校舎の中にある文芸部室に僕という視点はあった。

 夏の日の放課後。

「キミたちも、エロゲーをやったほうがいいぞ」

 部の先輩が、僕らにエロゲーを勧めている。

 僕は、苦笑しつつも、

「考えておきますよ」

 と本音を言った。別にエロゲーに興味がないわけじゃないけど、まだ年齢的に問題がありそうだから、先延ばしにした。そのつもりだ。

 だが、先輩は、それが逃げ口上に聞こえたらしく、

「いーや、いますぐやれ」

 と僕に迫った。先輩、脅迫っぽいです。

「……あほらし」

 そんな僕らから一歩離れたところに、僕と同じように高校生になった彼女がいた。

 彼女は、僕と同じように、この高校に合格し、文芸部員になったのだ。

「……そこの後輩A」

 先輩は、彼女に矛先を向けた。

「後輩Aじゃありません、私にはちゃんと名前が、」

「シャラップ。口出しするんじゃない」

 彼女の言葉を、先輩はバッサリ切り捨てた。

 あっ、彼女がキレそうになってる。

「どぅどぅどぅ」

 僕が率先して、彼女をなだめる。

「私は馬かっ!?」

 彼女に、軽く蹴られる。多分、冗談のつもりで。

 部室は、ワイワイガヤガヤと賑やかになっていく。

 今、この瞬間も。

 僕らは、雑談して、笑っていた。

 そこで、目が覚めた。

 舞台は変わらず、時間だけが流れていた。

 僕らの卒業式が終わった後、静かな祭りは終わりを迎えようとしていた。

 僕という視点は、校舎を見つめていた。

 彼女も、三年間世話になった校舎を見ている。そこには、たくさんの思い出がある。いつか、忘れてしまうかもしれないけど、楽しいと思えた事が幾つもあった。

 僕らは、きっと、この場所を忘れないと思う。

 その瞬間も、冬の終わりが近づいて、春の足音が聞こえてくるような気がした。

 確かに近付いてくる足音を実感できた。

 周囲には誰もいない。

 静かだった。

 とても、静かで、僕らだけがいた。

 彼女は、校舎に向かって、どことなく寂しそうな、悲しそうな、だけど強い微笑みを浮かべていた。

 透明で、どこまでも澄み切った涙のような。

 綺麗な微笑みがあった。

 僕は、そんな彼女の横顔を見つめていた。

 じっと、深く見つめてしまう。

 ……どれだけの時間が過ぎただろうか。

 ハッと気が付いたかのように、彼女が言った。

「部室にいこ。皆が待ってるよ」

 その姿は、いつもと変わらない彼女だった。

 僕は落ち着きを取り戻しながら、彼女の言葉を受け止める。この動揺を気付かれなかっただろうか。わからない。

「……そうだな」

 そうして、僕は彼女の言葉に頷いて、校舎の中へと、部室へと歩き始めた。

 そこで、目が覚めた。

 世界は変わっていた。舞台は変わっていた。僕は変わっていた。

 ぐるぐる、きらきら。

 綺麗なものが、回って、輝く。

 砂は嵐となって、僕をかき乱す。

 記憶は刃となって、僕の内側に潜り込んで、胸の内を刻んでくる。

 痛みは、僕の行き先を惑わせる。

 どこか遠くへ、遠くへと。

 砂漠の果てで、永遠の眠りにつかせようと。

 きらきら、ぐるぐる。

 記憶の刃が、僕から外へ抜け出して、その姿を見せた。

 それは、とても綺麗だった。

 宝石みたいに、輝く思い出だった。

 僕は、それを逃さぬようにと、手を伸ばした。

 あと少し、あと少し。

 そして、触れた。

 記憶の刃は、指先に触れると同時に粉々に砕け散った。

 粉々になった刃は、砂の上に落ちていく。その破片でさえも、キラキラと輝いていて、綺麗だった。

 やがて、破片の一つが、地上の砂に触れた。

 その瞬間、僕の記憶が、意識内で複数の線になって交差した。

 小学生の彼女は、本を読むのが好きだった。クラスには、本を読む人が少なかった。だから、本を読んでいる僕に近付いた。

 

 幼い頃に捨てられた僕は、親戚に拾われて、大事に育てられた。おじさんやおばさんを本当の家族だと思って、過ごしてきた。でも、なんとなく気が付いていた。本当の両親の事を。

 

 中学生になって、本当の父と母の話をされた。父と母は、消息がわからないらしかった。僕の本当の両親は、文字通り、どこかへと消えてしまったのだ。

 

 中学生の頃。

 図書室で僕は一本の小説を書いた。村上春樹作品の影響を受けた掌編だった。友人である彼女に読ませたら、「村上春樹っぽい文体だけど、なかなか良いわね」と言われた。

 

 高校受験僕と彼女は同じ高校を受験した。自分たちにとって都合がいい場所を選んだ結果だ。そして、結果は、二人とも合格で、あの時の僕らは『腐れ縁』と互いに指差して笑い合ったものだ。

 

 少し高校に慣れた日の事。

 僕らは、校舎から少し離れた廃教室の中にある文芸部室に足を踏み入れた。薄いドアの向こうは、この時は初対面となる先輩が、僕らと同じような新入部員候補に演説をしようとしていた。その先輩の後ろ手は、他の文芸部員の人たちが、呆れ顔で「すまない……」と一斉に呟いていた。

「諸君! 君たちは、エロゲに興味があるかい!? 小説だけあれば、それでいいと思っているかい!? 俺は、そんな人生は偏りすぎて、面白くないと思っている」

 先輩は、小説しか読まない僕らの読書趣味を少し離れたところから否定していた。

 僕と一緒に来ていた彼女の横顔を、ちらりと見てみると、少し呆れたような顔をしていた。

「別に小説が嫌いなわけじゃない。俺は、村上春樹や村上龍、円城塔や伊藤計劃をといった作家の作品だって好きさ。『虐殺器官』なんて、もろ俺の好みだし。……作者が早く逝っちまったのは、悲しいけどな」

 だが、彼は完全に否定しているわけじゃない。その証拠に、自分の好きな作家の名前をあげ、リスペクトしている。SFが好きなのだろうか。だったら、僕の趣味と合うかもしれない。

「だけどな、エロゲーだって、時にそれを凌駕するんだ!! わかるか。いつも変わらずに、様々なタイトルへと意識を向けている。なぜなら、俺は、エロゲーを常日頃から楽しんでいるからだ!!」

 そして、エロゲーのリスペクトへ。

「俺はなぁ、『CLANNAD』や『リトルバスターズ!』、『ToHeart2』を愛している。だがな、大手ブランド以外にも、好きになった作品は、全て愛する事にしているんだ!! 猫柳まんぼ先生の大正伝奇モノ『WW&F』、心理描写が巧みな青山拓也先生のデビュー作『蒼刻ノ夜想曲』、最後のルートで気持ち悪さと美しさを表現しきった『サクラの空と、君のコト』。……そう、俺は、それらを持っていて、すべてを愛している!! 作品にちょっと不満が合ったら、ダメ出しするが、好きな部分はとことん愛す。それが、俺だ!!」

 そして、彼はエロゲーへの愛を叫んだ。

 その姿を見ていた僕は、彼のエロゲーに対する愛が本物であると思えた。

 そうして、彼の演説が終わった。

 気が付けば、他の新入部員候補は、僕以外、みんな他の先輩のところへ行ってしまったみたいだった。僕と一緒に来ていた、彼女でさえ。

 つまり、先輩が作り出した一種の空間に、僕だけが残されていて。

 なんとなく、僕は、先輩を目を合わせた。

 視線がぶつかったと思ったら、先輩は笑顔を浮かべた。

 その頃からだ。先輩とよく話をするようになったのは。

 彼女と先輩と僕が、文芸部室で楽しく騒ぎ合うようになったのは。

 

 高校時代のある夏の日の事。

 同じ部員の人に、僕と彼女の中を茶化された。付き合ってんじゃないのー、と能天気な声が、僕らを戸惑わせた。

 たった茶化されただけで、僕らは数日、顔を合わせるのも難しくなった。どう接すればいいか、わからなかった。だって、付き合うだとか、彼氏彼女だとか、僕と彼女の事をそんな風に考えた事がなかったから。

 やがて、戸惑いは、日常と溶けて薄まった。一週間後には、元の僕らの関係に戻った。

 ただそれだけの話だった。

 

 ある冬の日の事。

 僕は、部室にノートパソコンを持ってきて、先輩から勧められたエロゲーの体験版をプレイしていた。

 部室には、僕と先輩しかいなかった。彼女は、その日、めんどいからという理由で部をサボった。

 僕は、何に向けたのか分からないため息を吐いて、モニターに集中した。

 モニターには、詩的なスチームパンク『赫炎のインガノック』の画面が映っていた。

 最初、インターネットで下調べをした時、綺麗な絵だなと思ったのを、今でも覚えている。

 そして、プレイしてから、霧に包まれて孤立した世界へと呑まれていった。物語と同化している気さえした。僕の頭の中には、異形都市インガノックのイメージが構築されていった。

 とにかく、すごかった。

 だから、体験版を終えた後、先輩に「先輩、製品版持ってませんか?」と聞いた。借りる気満々だった。

 そんな僕をたしなめるように、先輩は言った。

「自分で買え」

 僕が、『赫炎のインガノック』の製品版を買うのは、それから数年後の事である。

 

 先輩の卒業式。

 彼は、最後まで僕らをかき回した。

 かき回して、かき回して、そして僕らに思い出ばかりを残していった。

「俺は泣かないよ」

 去り際に、彼はそう言った。

「振り返れば、ちゃんとこの場所があって、お前らがいるんだから」

 彼は、泣かなかった。

 僕らも、泣かなかった。

 時間は流れて、流れて。

 大学生活もあった。

 高校時代と同じように、楽しい思い出はあった。

 だけど、僕は思い出さない。

 思い出すのは、長い夢から覚めた後でいい。

 万華鏡のように、どれ一つとして同じものが出来ない思い出。

 記憶の一粒に触れて、その一粒はどこかに遠ざかっていく。再度触れる日が来るまで、一粒の思い出は砂漠を彷徨い続けるのだ。

 触れたけど、掴みはしない。

 ごめん。

 僕は、大学時代の思い出に謝った。

 いつか、拾いに行くから。

 そう一方的に約束して。

 

 そして、僕らが大学を卒業した後に。

 ……それは起きた。

 僕と彼女は、今後の事を話しながら歩いていた。

 僕らが暮らしてきた街。春の足音が近付くのを確かに感じながら、アスファルトの上を二人で歩いた。

 僕は、話を書く職業に就きたいな、という話をした。先輩にエロゲーのシナリオの仕事を誘われてもいたし、卒業前に完成させた小説を何本か投稿している。

 彼女は、「私も」と同意した。彼女は僕より先に、恋愛モノで小さなデビューを果たしていたから、その延長として仕事にしようと言っているのだと思う。

「……ねぇ、」

 そんな会話が、唐突に止まった。

 どうしたんだろう、と彼女の顔を見ると、その頬が赤く染まっているように見えた。多分、錯覚じゃない。

 僕は、何も言えなくなり、彼女の言葉を待つ事になる。

 そして、

「私の事、好き?」

 真正面から見つめられて、僕は彼女にそう聞かれた。

 内面を冷静に保とうとしながらも、無意識に動揺していた。僕は、精神に冷却物質を打ち込むように、深呼吸をし、彼女の問いに答えた。

「……うん」

 紛れもない言葉だった。

 友達としても、男女としても。どちらにでも、通用する「好き」への肯定なのだけど。

 それでも、僕は、気が付いてしまった自分の気持ちを吐き出してしまって、少しだけ恥ずかしい気持ちになっていた。

 そして、しばらくの間、僕らは沈黙した。

 沈黙を破ったのは、彼女が先だった。

 彼女は、真っ赤だった頬が、さらに赤くなっていて、今すぐにでも沸騰してしまいそうな雰囲気だった。

 そして、

「……私も」

 と、辛うじて聞こえるような声で、言った。

 その時の僕は、どうだったろう。

 ただ何かが噛み合って、何かが始まったような気はしていた。

 だから、僕は、僕らの言葉を補強するように、こう言ったのだ。

「付き合ってください」

 僕が、彼女に好意を抱いたのは、いつだったろう。

 思い出せない。いつだったかなんて、わからない。きっと、思い出すのも難しいところまで、砂が風にさらわれていったのだと思う。

 それらは、いつか取り戻す。

 でも、今はそんな事はどうでもよかった。

 ただ互いに理解したのが、嬉しかったのだ。

 そうして、僕らは歩き始める。

 手を繋いで少しずつ。

「……♪♪」

 彼女は、僕の隣で笑顔を浮かべている。

 とても幸せそうな笑顔だった。

 僕もつられるように笑って、前方を見た。

 

 僕は、反射的に彼女を横に突き飛ばした。

 彼女の悲鳴が聞こえた。だけど、僕はそんなのを無視して、目の前の光景に集中していた。

 時間が止まってしまったかのように。

 目の前に、軽自動車が迫ってきていた。

 運転手は、ケータイ電話を手にしていて、たった今、ようやく僕らの存在に気が付いたようだった。

 もう遅いだろうけど。

 彼女の悲痛な叫びが聞こえた。

 それは、僕の耳元で反響し続けた。

 ……無事だったんだ。よかった。

 そして、全身に衝撃が走る。

 世界が、ぐるぐると回る。

 彼女の涙が見えて、キラキラと輝いている。

 何かが粉々になっていく。

 やがて、世界は回らなくなり、気が付けば、僕は、空だけを見つめていた。

 いつも青かった空は、赤く染まっていた。血の色みたいだ。なんとなく、不愉快だ。

 だからかな。

 僕が不愉快だと思った真っ赤な空は、真っ白になっていった。

 不愉快だと思ったものが、消えていく。僕は、世界を操作している気がしていた。

 でも、そんな気は瞬時に失せた。

 彼女が、僕の視界に入ってきた。僕の顔を覗き込んで、必死な形相で、涙と鼻水を流して泣いている。

 泣き声は、僕の名前の形をしていた。僕は、彼女に声をかけて、泣くのを止めさせようとする。

 だけど、できなかった。声が出ない。指や唇さえも動かない。

 どうした事だろうと、彼女をじっと見つめた。

 そこでやっと気が付いた。

 彼女が、灰色になっていく。

 彼女を彩っていたあらゆる色が、灰色に変わっていく。

 僕は、叫び声をあげる事も叶わずに、その光景をずっと見ていた。

 やがて、彼女が完全な灰色の塊になり、粉々になって砂となった。

 そして、

 

 僕の世界は、砂漠になったんだ。

 無意識に認識した記憶。

 白い病室。

 僕という視点は、宙に浮いている。

 病室には彼女がいて、僕の頬を撫でている。

「……ねぇ、起きてよ」

「……待ってるんだよ、私」

「私、君のコトが好きなんだよ」

「……君が眠ってしまってから、何度も言ってるけど」

「私って、バカだね。……眠っている君を無理やり起こそうと、声をかけているんだもの」

「……でも、君の方が、バカ」

「寝過ぎなのよ」

「……バカよ」

「……バカなのよ」

 彼女は、眠る僕の胸で泣く。

 僕は、彼女の涙を拭おうとするけど、身体は全く動かない。

 それに、視点となった僕には、何もできなかった。

 そこで、僕は完全に目が覚めた。

 僕は、気が付いた。理解した。完全に。

 この灰色の砂漠の上に立って。

 全てを見渡しながら。

 これは、脳だ。

 僕の灰色な脳なんだ。

 きっと、あの日、粉々になってしまった脳なんだ。

 でも、僕は生きている。

 僕は、ここにいる。

 だから、まだ間に合う。

 どうにかできる。

 さぁ、繋げよう。

 全ての知識を繋ぎ目に、僕の思い出を組み立てよう。

 今。

 ここで。

 そして、僕は手を伸ばした。

 記憶の砂は、灰色なまま形を作る。

 ゆっくりと、ゆっくりと、世界の形を成していく。

 細部まで、丁寧に組み上げていく。

 平らに、曲げたり、歪曲させ、凹ませて、切断し、螺旋状に練り上げる。

 ありとあらゆる工程で、組み上げていく。

 時々、手が止まる。

 無意識的な不安感により、確信を持てなくなる事がある。

 泣きそうになる。

 だけど、先輩の言葉を思い出す。

「俺は泣かないよ」

「振り返れば、ちゃんとこの場所があって、お前らがいるんだから」

 だから、僕は振り向けるところまで、たどり着くんだ。

 立ち止まるつもりは、毛頭ない。

 そうして、僕は、作業を再開し、黙々と続ける。

 その繰り返し。

 やがて、そこは砂漠じゃなくなった。

 記憶の墓場じゃなくなった。

 灰色の砂漠じゃなくなってしまったのだ。

 色のない世界を見つめながら、僕は世界を進み続けた。

 感慨に浸る。

 人が滅んでしまった世界を散歩するように。

 僕の脳は、きっと元に戻ったのだと思う。少し自信はないけれど、これでようやく長い夢から覚める事が出来るんだ。

 灰色の世界から、去る事が出来るんだ。

 でも、少しだけ躊躇ってしまう。

 もし、長い夢から覚めたとして、そこはここよりも過酷なのではないだろうか。僕は普通の生活を送れないかもしれない。ひょっとしたら、精神に異常をきたして、目覚めるのかもしれない。

 それに、世界が僕以外に滅んでいる可能性だって、あるかもしれない。

 怖い。

 そう怖気づく。

 でも、本当に怖いのは、

 ……彼女はもう僕に好意を抱いていないのかもしれない。

 ただそれだけの事だった。でも、僕にとっては充分怖い事だった。

 彼女が、僕から離れるという事が。

 ……なんて、自己中心的な考えなんだろう。

 僕は、彼女を独占したいんだ。この感情が、やや歪である事は分かっている。

 僕が眠っていた分だけ、ずっと触れていたいんだ。

 だけど、それが叶わなくなってしまっているのが怖い。

 それが、決定的だったら、……特に。

 でも。

 ……僕は、ここを去る事にした。

 現実は、過酷だ。

 だからこそ、僕は現実に行く。

 前に進んで、振り返りたいんだ。

 そこには、楽しい思い出があるんだから。色褪せないものがあるんだから。

 だから、こんな。

 灰色の世界からは、サヨナラだ。

 そして、世界が色を取り戻していく。

 灰色から、様々な色彩へ、と。

 時が流れ始めたからだ。

 前に僕は進み始めたからだ。

 世界が現実になっていく。

 僕は、その世界のどこか遠くを見ていた。

 そこは、キラキラと輝いていた。

 こぼれ落ちる涙のような気がした。

 ……行こう。

 僕は、その涙を拭わなくちゃ。

 そう思った時、光が爆ぜた。

 僕は夢を見ていた。

 長い夢を、ずっとずっと。

 その夢を終わらせて、僕は過酷な現実に向かう。

 ちょっと後悔はしている。

 でも、僕は進み続ける。

 灰色の砂漠から抜け出して――。

 キラキラと輝くものがあった。

 僕は、その輝くものを見つめて、綺麗だなぁ、と思いながら、それを拭わないといけないような気がした。

 少しずつ腕と手と指を動かした。ゆっくりと。

 やがて、指先で透明な雫に触れた。

 それを僕は拭い取る。丁寧に、優しく触れるように。拭い取った指先を見てみると、そこが小さく輝いているのが、見えた。

 ふと、誰かが、僕を見ているような気がした。

 僕は、その視線をたどった。

 そして、目が合った。

 目の前に彼女がいた。初めて出会った時と同じように、二人、顔を合わせていた。

 彼女は、目を見開いていた。ポカンとした表情になっている。

 だから、僕は、目の前にいる女の子に声をかけた。

「どうしたの?」

 その声が、彼女に届くと、そのポカンとした表情が崩れた。

 彼女は、涙を流して、嬉しそうな笑みを浮かべながら、僕に抱き付いた。

 僕は、彼女の抱擁を受け入れて、抱きしめ返した。

 ――現実は過酷だ。

 だけど、僕らはここにいる。

 前を進むつもりで、ここにいる。

 彼女の温もりを感じながら、僕は灰色の砂漠を思い浮かべようとした。

 だけど、脳裏に浮かんだのは、灰色でも砂漠でもない、楽しげな思い出だけがあった。

 振り返れば、思い出の場所があった。

 そう。

 僕は、ようやく振り返る事が出来るようになった。

 進む事が出来ようになった。

 だから。

 この過酷な現実を、僕らは歩いていく。

 今は、二人で。

 

 今、僕らが見ている世界は、キラキラと輝いているように見える。

 その輝きは、時間が流れても薄れなくて、僕らは「不思議だ」と笑い合った。

 

 そして、僕らは、この輝きを飽きる事無く、眺め続けた。

 

 

 FINE.

 

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