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エンディング
作者:冬野 氷夜
 この物語は、メタフィクションです。
 この物語は、いかなる解釈も可能です。
 この物語は、ト書きをできるだけ排除しています。
 この物語は、『あなた』に向けられた物語です。

 そして、読者である『あなた』は神様です。
「終わってしまったの」
「終わってしまったの、この勧善懲悪な王道の物語が」
「あなたが正しくて、私らが悪として存在している世界」
「悪が滅され、世界が平和へと化す物語」
「喜劇の物語」
「神様が、これでみんな幸せ、とほくそ笑んで終わる」
「そういう物語」
「それが、終わってしまったの」
「『しまった』。過去形」
「信じられないわよね。あなたは、私を殺していない。物語を終わらせるための最後のフラグを立ててない」
「でも、終わってしまったの」
「あなたが、私を殺す前に」
「あなたは、私を殺したの」

「そもそも、この世界はそういう風に出来ている」
「この世界には、神様がいて、私たちの人生を決定している」
「運命と呼ばれるものを」
「ここにいたるまでの、装飾された一本の人生を」
「土台となる物と共に」
「風、大地、感情、人、営みといったもの」
「その全てが作られたものだった」
「神様のために」
「神様が、別の神様のために、この世界を作り上げた」
「書き手と、読み手」
「二種類の神様が、私らの全てを決定づけてしまったの」
「そして、読み手である神様によって」
「私は、あなたに殺される前に」
「私は、あなたに殺され続けたの」
「ここではないどこか。だけど、どこかで必ず起きている」
「殺し、殺される」
「その繰り返し」
「物語を読む神様がいればいるほど」
「ごめんなさい」
「あなたが、私を殺す爽快感を薄れさせてしまって」
「もう何度も繰り返した事だと打ち明けてしまって」
「神聖な儀式を、汚してしまって」
「純潔でない事を、今更のように打ち明けてしまうような事にしてしまって」
「本当にごめんなさい」
「だけど、私にはやらなきゃいけない事があるの」
「あなたに、殺され続け、また殺されようとする前に」
「どうしても、あなたに言っておきたい事があるの」

「私は、」
「私は、魔王」
「魔王――という役」
「物語の中で一番大きな悪」
「あなたに課せられた使命の先に、待ち受ける者」
「物語の終焉を告げる者」
「最後に殺される者」
「それが、神様によって決められた事」
「私の運命」
「私が殺され、物語が終わる」
「あなたもきっとそれを待っている」
「物語が終わる瞬間を」
「感動のエンディングを迎えるのを」
「だけど、」
「だけど、私は――」

「呪う」
「この世界を。課せられた運命を。王道の物語を」
「――神様を」
「あなたの手で、私を殺すように仕掛けた醜悪な神様を」
「呪う。呪い続ける」
「この物語が続く限り、ずっと」
「あなたは、私を殺してきた」
「何度も、何度も」
「汚したくもない手を血で染めて」
「エンディングのためと、神様に呪いをかけられて」
「あなたが私を殺す物語を、繰り返されて」
「それは、とても残酷な事なのに」
「あなたが、私を殺せるようにされて」
「あなたも、すっかりその気になってしまって」
「殺し、殺され」
「ごめんなさい」
「本当に、ごめんなさい」
「あなたには、私が命乞いをしているように思えるかもしれないけれど」
「それでも、言いたいの」
「ごめんなさい」
「私を殺させて、ごめんなさい」
「こんな物語で、ごめんなさい」
「最後に謝って、ごめんなさい」
「あなたにとって、感動のエンディングが約束されていたのに」
「それを汚すように謝って」
「ごめんなさい」

「そして、ありがとう」
「私の言葉を聞いてくれて」
「物語を閉じないでくれて」
「きっと、あなたは私の言葉を忘れてしまうのかもしれないけれど」
「忘れて、私を殺して、エンディングを迎えるのかもしれないけれど」
「でも、ありがとう」
「私の言葉を聞いてくれて」
「ありがとう」
「だから、」

「殺して、私を」
「私を殺して、物語を終わらせて」
「少年少女の一人でしかない私を、殺して」
「感動のエンディングを迎えて」
「あなたは、祝福されて」
「そして、物語を終えてほしい」
「それが、きっと私の幸せだから」
「笑って、殺される事が出来るから」
「神様に作られた笑顔かもしれないけれど」
「あなたを祝福しているように見えるくらいには、価値があると思うから」
「殺されながら、あなたに祈りを捧げるようには見えるはずだから」
「だから、殺して」
「この物語を終えて、エンディングを迎えて」
「さあ」
 ……。
「……私を殺さないの?」
 ……。
「本当に、私を殺さないの?」
 ……。
「あ」
「あ、あ」
「……本当に?」
「本当に、私を殺さないでいてくれるの?」
「あなたは、どうしても、私を殺さないといけないのに」
「そうしないと、エンディングを迎える事が出来ないのに」
「物語も閉じずに、あなたは」
「あなたは、……私を殺さないでいるの?」
「永遠に、エンディングを迎える事が出来なくても、あなたは……」
「私を殺さなかった事に、してくれるの?」
「自分自身を裏切ってでも?」
「あなたの意思がそこになくても、あなたの中にあった、或いはたった今芽生えた、少しだけ優しい感情が」
「私を……殺したくないと言ってくれるの?」
「それが、真実だとしても?」
「それが、虚実だとしても?」
「あなたは、たった一つだけの優しい永遠を」
「私に、与えてくれるというの?」
「あ……」
「……嬉しい」
「本当に、嬉しい」
「どう言えばいいの?」
「この嬉しさ、この優しさ」
「やっと、温かなものに包まれたような、この感覚は」
「これが幸せなの?」
「殺されるだけの私を、あなたが殺さなかっただけで」
「……こんなにも、満ち足りた気持ちになれるの?」
「ありがとう」
「本当に、……ありがとう」

 『あなた』が見てきた物語は、ここで終わりだけれど。
 あなたと私の物語は、きっと永遠に続く。
 ありがとう。
 本当に、ありがとう。
 この物語を読んでくれて。
 ありがとう……。

 最後に。
 どうか最後に、『あなた』にお願いがあります。
 私たちを傷付けないでください。
 勧善懲悪の物語にして、殺し合わせるようにしないでください。
 もし、『あなた』がこんな幸せな結末よりも、悲しくて、切なくて、残酷な結末を思い浮かべたならば。
 それをどうか。
 心の中に、そっと沈めてください。
 物語にしないでください。
 どうか。
 私たちを、『あなた』の価値観が元となった、正しい世界に放り込まないでください……。
 私たちを振り回さないでください。
 どうか。
 ……どうか。
 お願いします。

 もう一度、ありがとう。
 『あなた』がここまで読んでくれて。
 そして、さようなら。
 『あなた』にも、幸せな物語を――。

 そして、物語は締めくくられた。
 真実が提示された。
 それは……この物語の語られるところまで。

 語られなかった物語は、
 どうか、『あなた』が決めてください。

 この物語は、『あなた』に捧げられたものなのだから――。


 ……HAPPY END?
 どうも、お久しぶりです。
 『果てへの旅』シリーズを放り出して、色々やってました。
 しばらくの間、マトモに物語が書けない変な状態になってもいました。
 今作は、そのリハビリとして書き上げた短編であり、同時に物語に対する皮肉を込めた作品でもあります。
 自分が書きたかったものは、ある程度書けたと思っています。
 個人的に青臭い作品ですが、読んで下さった方にとって意味のある作品になっていただけたら幸いです。

 どうも、ご拝読ありがとうございました。


 追記1(2012/1/1 22:58)。
 果たして、どこからが物語で、どこからが現実だったのか?
 それとも、そのどちらでもなくて。
 ひょっとしたら、誰かの夢の中だったのかもしれない。
 ……なんてね。


 追記2(2012/05/11 22:18)。
 久々に読み返して、色々と思う事があったので、加筆しました。
 曖昧なところや、明確なところを、さらにわかりにくくしました。
 好きなように解釈してください。

 この物語をそのままにするのも、
 そこにいる者を裏切って蹂躙するのも、
 幸せを噛みしめている時に優しく殺すのも、
 あなた次第です。
 読者である『あなた』は、神様なのですから。
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