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国会事故調に参考人として出席した菅直人前首相(c)時事 |
3.11から1年と3カ月たち、政府や国会の原発事故の調査・検証活動は、事故の本質には一歩も踏み込まぬまま、逆に事故の真因と責任の所在を覆い隠す格好で、終幕を迎えようとしている。
事故は福島第一原発のサイト内で起きた。首相官邸で誰かがボタンを押し違えて発生したわけではない。隣接する4つの原子炉が連続して致命的に損壊するという、世界に類例のない事故が、なぜ福島第一で起きたのか。地震・津波の襲来から外部への放射性物質の大量放出まで、当事者はどんな対策をとり、炉心と原発システムの溶融・破壊はどのように拡大・進行していったのか。それを防ぐ技術的・政策的手立てはなかったのか。
事態の推移、シークエンスを客観的に解き明かし、事の本質を公にするのが「事故調」の仕事のはずだが、メディア受けを狙って官邸を含む「周辺」のエピソード集めに走る図は、日本社会の深層で進行する知的な衰弱を映して物悲しい。
フジテレビのヒットドラマで映画にもなった「踊る大捜査線」、主役の若手刑事を演じる織田裕二さんが放つ決め台詞が、原発事故調査の迷走・逸走と物の見事に重なる。若手刑事は、面子と保身のために鳩首会談を続ける警察幹部に向かって、こう叫ぶ。「事件は会議室で起こっているんじゃない。現場で起きているんだ」。
これから結論をまとめる政府の事故調査委員会(畑村洋太郎委員長)と、国会の事故調査委員会(黒川清委員長)の皆さんには是非、この決め台詞を肝に銘じていただきたい。
調査を阻む東京電力と経済産業省
福島第一原発事故の調査や検証では、民間の独立検証委員会(北澤宏一委員長)が2月に報告書をまとめている。政府の事故調は昨年末に中間報告を出し、7月にも最終報告をまとめる。国政調査権を背景に、事故関係者に意見聴取や資料の提出を厳しく求める組織として、鳴り物入りでスタートした国会事故調も、6月中の報告書提出を目指している。ついでに言うと、責任企業の東京電力がつくった外部調査委員会も、昨年12月に中間報告を出し、6月中に結論を出す予定だ。
まるで被疑者が事件を捜査するような、奇怪な構図の東電の外部調査委員会を除けば、いずれの事故調も、未だに肝心の事柄は何一つ国民には知らされていない未曾有の大事故の闇に、客観的事実の解明によって光を当てるべき中立的調査組織である。
しかし、残念ながらこのままでは、それは全く期待できない。理由は、事故の「核」となる福島第一の11日間に迫ろうとしても、東電と経済産業省のエネルギー官僚たちの妨害と証拠隠滅によって立ち往生してしまうからだ。
昨年3月11日に地震と津波が襲来してから15日までの5日間に、福島第一のサイトでは4基の原発が次々に爆発と損壊を続け、科学的・技術的な安全工学システムとしては致命的で赤っ恥の連続過酷事故に至った。原発サイトから周辺地域への放射性物質の大量放出には、15日と21日という2つのピークがある。
要するに事故の本質は、3月11日から21日までの11日間に原発サイトで起きた出来事、事態の推移の中に埋め込まれている。それを掘り起こすのはかなり困難である。事実の詳細が判明すれば、刑事責任を問われるのは必至の当事者企業、東京電力が、今でも全ての記録と物的証拠を一手に管理し続けているからだ。
事故収束のための作業は、当然、東電が事業者責任において最後までまっとうしなければならない。しかし、事故原因の解析に不可欠な記録や物証の保全は、公的機関の管理に速やかにゆだねられるべきである。今日に至っても、福島第一原発サイトへの公的機関の立ち入り調査も、記録と証拠の保全も実施されていないのはなぜか。日本においては、電力会社は実質的な「治外法権」を得ているということなのだろうか。
「昔陸軍、今電力」
東電に対して個人的恨みはない。しかし、この日本有数の巨大企業は、今回の事故で自社保有の発電所がばら撒いた放射性物質を、通常の落し物と同じ「無主物」だとして、その影響による被害に責任は持てない、と裁判で主張するような、常軌を逸した無責任企業という面を持つ。
環境汚染に関する国際社会の共通ルール、汚染者負担の原則(PPP原則)を、東電の経営幹部は毛筋も理解していないらしい。環境汚染物質の除去と原状回復、損害賠償は、全て汚染者の責任で行なうのが、PPP原則である。日本最大のCO2排出企業である東京電力の経営幹部が、それを知らなくてもやっていけるほど、日本は電力会社にとって天国だった証左といえる。
政治も、行政も、司法も、メディアも、この巨大企業に対して異様に甘いことは、新聞記者時代の原子力取材を通じてそれなりに感じてはいたが、今回の事故取材で、改めてつくづく心底からそれを思い知った。現在の状況は、電力に甘いというより、ほとんど電力の使いっぱしり、走狗と化しているといった方が正確かもしれないほどだ。
被害住民への賠償はまるで施しをするような態度で、電気料金値上げはむき出しの強権で押し切る。この権柄ずくの思い上がりは、日本の国際的な信用と技術的信頼を失墜させ、国全体を悲惨な状況に追い込んでいくという意味で、旧陸軍とよく似る。まさしく「昔陸軍、今電力」である。
機能しなかった米国流の「免責」
政府事故調は、手ごわい東電との対峙に、「個人の免責と引き換えに事実を隠さず話してもらう」という、米国流のシステムを導入した。組織への帰属意識が強い日本では陸軍並みの締め付けが予想されたが、案の定、米国のような効果は得られなかったようだ。
昨年12月末に公表した政府事故調の中間報告では、福島第一では運転員が緊急対応を十分に習得していなかったため、本来機能すべき非常用冷却システムが作動しなかった実例が、2つ記載されている。
1つはICと呼ばれる電源がなくても働くはずの非常用復水器で、運転員も管理者も作動停止に気づかず、作動しているものと思い込んでいたという事例だ。2つ目は、緊急炉心冷却用の高圧注水系のポンプ電源の切断で、いったんスイッチを切ったため、再起動に失敗した。
東電の明らかな対応ミスだが、これが炉心溶融から水素爆発へと続く過酷事故のプロセスにどう関与しているかは不明だ。また、同委員会の吉岡斉氏は、津波襲来の前に、地震の揺れですでに冷却システムが一部破断していたという指摘に対しては、それは確認できない、と語った。福島第一で発生した事態の詳細な推移は、通常の調査では解明できないことを、彼は示唆したものと筆者は受け止めた。
7月に出るという最終報告で、どこまで正確に事故経過の解明ができるかに注目したい。手法はいささか見当違いだが、事故調の中で一番まっとうな事故解明への意欲が感じられる。
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