戦争は終結した。高順たちにより夏侯惇や三羽烏といった主要な将が戦闘不能になり、そこを呂布や張遼、華雄につかれ本陣まで食い込まれた魏軍は降伏。曹操は捕らえられ、処刑を選んだ。魏軍の主要な将もそれに殉じ、処刑の道を選んだ。だが、劉協は五胡襲来の危険性があると考え、元魏軍を五胡との最前線に送り処刑の代わりとした。無論、人質として曹操を洛陽に軟禁した。五胡と手を組む可能性もあったのだが、曹操はそのような気はないと宣言した。しかも、今は亡き北郷一刀の名前に誓ったので偽りはないだろう。
「高順をこの手で殺せなかったのは残念だったけど……もう逆らうつもりはないわ。それにね? 私の中に……一刀との子がいるから……死ねないのよ」
董卓との会談で曹操はそう告げた。処刑を望んだ後に子をはらんでいる事が分かった後の曹操はどこか落ち着いた雰囲気を持っていた。恐らく、このまま子を育てていき一生を終えるつもりなのだろう。
そして、片足を亡くした楽進は木の棒を義足として曹操の侍女として働かせてもらいたいと土下座をしていた。賈詡は不満げだったが、劉協が許したので従うほかなかった。まあ、楽進はすでに戦える体ではないため扈三娘が監視役兼護衛役として側につくことになった。一応、処分は下したが曹操などが董卓軍と戦ったことにより戦争で死んた旧魏軍兵の家族などが暴走する可能性もあったからだ。
「結局、私は一刀の警告を無視して戦いを挑んだ。その時点でもう私が動く資格はないわ」
曹操は自嘲を浮かべながらそう呟いていた。
高順が居なくなった後に端を発したように董卓に不満を持つ連中が蜂起したが、宋江率いる元高順隊によりわずか1日で鎮圧され、高順の策通り董卓は大陸での「強者」となった。董卓の庇護のもと劉協は漢王室の再興のために奮起し、かつての威光を取り戻していった。
「は~い。「弱者」をいたぶる「なんちゃって強者」はとっとと死んでくださいね~」
張勲は袁術を育てながらも、宋江たちを率いて悪政をしく連中を粛清していった。
「進めぇ!」
華雄や張遼、呂布といった武官たちは五胡と戦い、旧魏軍の将兵を監視しながらも自らの腕を磨いていった。
「いい? 王として清廉潔白なだけじゃだめ。時として高順のように手段を選ばない冷酷さも必要なの。清濁併呑できてこその王よ」
孫策は孫権に自分の知る限りの王としての心構えを教えつつ、政務などを孫権に引き継がせていった。それに伴い、呉内でも徐々に黄蓋や周瑜、韓当などといった旧将から陸遜や呂蒙、周泰といった新将などへの移行が進んでいた。
「桃香様! 南蛮の孟獲が攻めて来ました!」
「え!? えっと……とりあえず、董卓さんに伝令を入れて!」
蜀の太守となった劉備は、最初は不満だったようだがいつしかこの立場に納得し蜀内の安定に尽力することになった。
「ふぅ。今日のお仕事は終わったよぅ」
「董卓様。お茶でございます」
董卓はそう言って大きく背伸びをした。後ろには戴宗と呉用が控えている。戴宗は、高順より自分の死後は董卓に仕えるように命令されていた。戴宗は何気に護衛から伝令と幅広く活動することができる。呉用も軍師として優秀な結果を残している。
「詠ちゃん……今どうしているかなぁ」
董卓は窓から見える空を見上げながらここにはいない親友を思い浮かべる。彼女と会うのは年に一度か二度ほど。それ以外で会う機会は殆どない。
「一応、文なら私が届けますが?」
「うぅん。そんな事しなくていいです。何時までも、詠ちゃんに甘えるわけにはいかないから」
董卓はそう言って戴宗と呉用を連れて散歩に出かけた。
「起きてる? 包帯を取り替える時間よ」
とある森の中に庵が一軒建っていた。その庵の寝台に全身に包帯を巻いている男がいた。そして、その男に甲斐甲斐しく世話をやく一人の少女。
「詠、か」
包帯の男、高順はしゃがれた声で少女の名前を呼んだ。
川に落とされ、張勲に助けられたとはいえ全身火だるまになった為、筋肉のほとんどは使い物にならなくなり全身を動かすことも、声をあげることも難しくなった高順をここまで支えてきたのは賈詡だった。
戦争終了後に賈詡は董卓軍を抜け、洛陽の街のはずれにあるこの庵で高順と暮らし始めた。高順が生きているということを知っているのは、賈詡と董卓と張勲と高順隊のみ。一応、護衛として花栄や関勝といった人間が庵から離れた場所に住んでおり、張勲が月に数回高順に会いに来るが、それ以外にここを訪ねてくる人間もいない。董卓も何時までも賈詡に頼るわけにはいかないと、此処に来るのはそれこそ年の移り変わりくらいしかない。
「ほら……動かないで」
「……ああ」
包帯をとるとそこには目を逸らすほどの酷い焼けただれた皮膚があった。だが、賈詡はそれすら愛おしそうに薬を塗った手で撫でる。そして、ゆっくりと包帯を巻いていく。
「父様もね? きっと母様のところに来ればよかったのよ。そうすれば死ぬこともなかった。だから、アンタは父様のようにはさせない。ボクがずっと見ていてあげる。ボクがずっと……ずっと……」
高順に後ろから抱きつきながら幸せそうに頬を緩める賈詡。高順は自分の首に回されている腕を引きつる皮膚を無視しながら握る。
「(もう……私は「弱者」だ。ならば……「強者」である賈詡に従うほかはない。それが私だからな)」
「悪人」としては有名になったが、最後の最後で自らの手で目的を達せられなかった高順は自嘲を浮かべながらも「弱肉強食」に従い、賈詡の庇護のもとで生きて行くことを決めた。
数十年後、再び漢王室の権威が落ちたときに大陸は再び混乱し始めた。その中で「悪」の軍旗を掲げた青年が現れた。
「所詮この世は弱肉強食。弱者である漢王室はいらん。今度は我らが「強者」となり「弱者」を守る! 覇権を狙う者よ……我らを倒せるものなら倒してみろ! 我が名は高詡なり! 我が父高順の教えに従い……我が主を「強者」とするために貴様らには死んでもらう!」
その青年は、曹操の娘である曹丕と共に乱世を駆け抜け、父親である高順のように手段を選ばず、母である賈詡から教えられた軍略で後に「晋」の成立に尽力した猛将として曹丕と共に祀られたという。
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