高順が黒の率いる盗賊集団で足掻いて十数年がたった。今まで、「強者」となるために黒の元で様々な事を行って来た。時に、村を襲撃し、時に同じような盗賊集団を殺したりしており、はからずも実力はどんどん付いていき今では黒の次に強い存在と盗賊団内でも認識されていた。
成長に伴い、高順は様々な変化を遂げた。かつての優しげな風貌は最早陰も形もなく纏う雰囲気は幽鬼のよう。まだ20に成ったばかりだというのに髪には白色が混ざっており、顔もどこか老人のように疲れはてていた。
「ほらよ。今日からお前の得物だ。銘は「散華」。好きに使うといい」
黒から渡されたのは、ボロボロの布で鞘を巻かれた一振りの倭刀だった。そして、その倭刀は黒の得物だったはず。
「何故、これを私に渡す?」
一人称もすでに代わっており、口数も少なくなっていた。そして、黒から渡された倭刀『散華』を受け取り、今までは拾った剣を使用していたため自分専用の武器を手に入れて嬉しい反面、自分に力を与える黒への不信感を拭うことはできなかった。
「別に意味はない。言ったはずだ。お前はまだ「弱者」、俺が「強者」だ。その序列はまだ変わっていない」
高順が黒のもとで生きてきて分かったことがある。この男は、「強者には弱者を好きにする権利がある」という考えのもと生きている。そのため、この行動も自分の考えに基づいているのだろう。
再び数年の時がたった。
「分からんな。あの男はどうしたいんだ? そして、私はどうすればいい?」
高順は今日は一人で敵対する盗賊集団の討伐に来ていた。本来ならやる必要がないのだが、以前からちょっかいを出してきていたのでこの際に殺しておけと黒から命令が来たのだ。
「復讐……そのために今まで足掻いてきた。だが……あの男に恩を感じているのも事実」
敵の根城で全ての盗賊を惨殺して、周りに死体が散乱している中で高順は思う。最初は復讐のために力をつけてきた。しかし、今では昔のように復讐をするという気にはなれない。
「「所詮この世は弱肉強食」か。真理なのだろうが……私は納得できん」
そう言って高順は自嘲の笑みを浮かべる。自分が黒の思想に染まっている事に気づいたからだ。だが、黒の思想に染まってきているが、自分の村を焼き討ちされた経験からか、何もしていない民を巻き込むのは気が引ける。
だが、手段を選べば「弱者」はどんどん増えていく。ならば、手段を選ばなければいい。
「……そうだ。漢王室を再び「強者」とすれば「弱者」の安全は保証される」
無論、完全に保証はされないだろうが、今程盗賊たちに怯えなくてすむ。
「ならば…私の進む道は―――」
高順はどこか憑き物が落ちたように晴れやかな顔をして盗賊の根城を後にした。だが、その顔には狂気の笑があった。
「よぉ…高順か。全員殺したんだろう?」
「ああ。黒……貴方には感謝している。おかげで私は「強者」になることができたし、私なりの考えを持つことができた」
高順は根城に戻った後、そのまま仲間たちを殺し始めた。無論、抵抗されたがこの集団で№2の実力を持つ高順にとってはさしたる障害でもなかった。そして、残るは頭領である黒のみ。しかし、黒はまるでこのことを予期していたかのように平然としている。
「クックック。お前もいい感じに狂っているじゃないか。いいねぇ…やっぱりお前を拾ったのは正解だった」
「ああ。狂っているだろう。仮にも、十数年一緒にいた『仲間』を皆殺しにしたんだ。だが、それでも私は私なりの「悪」を掲げる。その覚悟のために殺させてもらった」
「別に構わんぞ。あいつらは俺についてきて「強者」として「弱者」を踏みにじってきた」
黒は部下が殺されたというのに気にすることはなく酒を飲み始める。その豪胆さに高順は内心畏敬の念を注いでいた。
「「強者」は「弱者」を好きにできる。その代わりに「より強者」に踏みにじられる義務を負う。それが分からん奴らでもあるまい」
「私は、「弱者」を守るために「強者」を作る。そのために、お前を殺す」
「いいぞ。やればいい。お前は、俺のように好きに生きればいい。だが、分かっているか? その生き方は今のように身内から殺される可能性もあるぞ?」
「覚悟のうえだ。それに、私はあなたの「弱肉強食」だけを掲げることはしない。私は「悪を持って善を成す」という思想も掲げる」
「……なるほど。お前の考えが読めた。お前は、仕える主の善性を肯定するために「悪」をするんだな?」
高順は内心、黒の読みに驚いていた。それは、正しく自分が考えていたこれからの行動だったからだ。
「いいじゃないか。実に面白そうだ。残念なのはそれに参加できないことだな。まあいい。それより、俺を殺した後に後ろにある箱の中身をくれてやる。その箱の中には俺が持てる限りの「財」がある。好きに使え」
「……ありがとうございます。では―――」
「クックック。まあ、お前がどうなるか……空の上から見させてもらうか。最後に、お前は真名がなかったな。俺の『黒』をやる。『高順』をやめなければならないときに使え」
「重ね重ね「それともう一つ。恐らく、大陸の何処かに娘がいる。まあ、見つけたら父親が死んだことを伝えておいてくれ」御意。して、名前は」
「賈詡文和。真名は詠だ。ま、会うことがあればでいい」
「委細承知」
その言葉を聞いた後に高順は黒に向かい散華を振り下ろし、その生命を絶った。
「……恐らく、貴方に私は一生勝てない」
黒を殺したが、「勝った」とは到底思えなかった。言ってしまえば勝ち逃げ。そして、箱の中には、黒が記したと思わしき様々な戦術や武装の資料、さらには『黒色火薬』と書かれている粉とその生成方法が書かれていた紙が置かれていた。それらは、あまり学がない高順からしてもありえない知識。例えるなら天の知識と分かるものだった。
「……この人は一体何者なんだ?」
すでに事切れた黒の死体を見ながら、高順は呟いた。
黒は多分、これからも何らかの形で出てきます。そして、黒の正体もいずれ分かっていくはず。
次回は、再び時代が飛んで黄巾の乱辺りです。要するに、董卓軍入り。
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