特集ワイド:西新宿から4キロ2時間、「素人の乱」デモに参加した 「再稼働反対、再稼働反対!」鳴りやまないシュプレヒコール
毎日新聞 2012年07月04日 東京夕刊
それでも、私の隣にいた30代の銀縁眼鏡の銀行員風の男性は一人静かに唱えている。「デモはデモでしかない」と分かっていても、口に出さずにはいられないというふうだ。気の毒になった私も普通の声で「再稼働反対」とハモったら、励まされたのか彼は少し声量を上げ、私もさらに上げる。雨脚が強まる中、ちょっと切ない気分で歩いていると、やがて黙っていた周囲の男女が1人2人と加わり、ギャラリーの多い新宿駅西口では大合唱となった。言葉も交わさない者同士が醸し出す共感−−。結構グッとくるものがあることに我ながら驚いた。
もうひとつ面白かったのは、ギャラリーとの視線のぶつかり合いだ。携帯で必死に撮影する若いカップル。目を見開いて追いかけてくる5人組の男子中学生。植え込みからはい上がってきた日焼けしたホームレス。先回りして写真撮影を繰り返す鋭い目の私服警官、何だかうれしそうな外国人観光客……。普段は目を合わせるのもまれな新宿の群衆一人一人と視線を交える体験は、デモする側にいなければ味わえない。分かったのは、彼らの6割方が好奇か好感で見つめ、3割は硬い表情で無視を決め込み、反感を抱くのはごく少数ということ。あえて横づけしてきた右翼の街宣車が「反原発右派」と応援看板を見せ去っていった。