第12話『対話と交渉と消去』
時空航行艦『アースラ』
時空管理局の執務官クロノ・ハラオウンに連れられて、通路を歩いているのは、高町なのは、ユーノ・スクライア、垣根帝督。そして気絶したまま垣根に首根っこを掴まれて引きずられている海原光貴。
「スゲェな。次元世界を行き来する技術なんて学園都市にもねえぞ」
お上りさんよろしく周りをキョロキョロする。ちなみに先ほどから高町から質問攻めにあっていた。
「ねえねえ!どうやって(海原くんの)攻撃防いだの?さっきの白い翼は何?どんな能力なの!?」
高町は先ほどの海原の攻撃をモノともしないばかりか指を鳴らした(これは何をしたか気づかれ難いようにするためのパフォーマンスだが)だけで海原を気絶させたためか、垣根の能力に興味津々である。「だあー!もう、うるせえな!後にしろ!!こちとら今電子顕微鏡並に細かい作業してんだからよ!!」
「「「作業??」」」
高町だけでなく、クロノとユーノも首を傾げる。
「詳しいことは秘密だが、コイツの脳の海馬(※大脳辺縁系の一部。記憶に関わる器官)から俺とコイツが戦ったところの記憶を消してんだよ(俺は心理系の能力者じゃないからかなり苦労するがな)」
クロノが尋ねる。
「な、何故そんなことを……??」
「このバカイケメンのことだ、目ぇ覚ましたら怒ってまた突っ掛かって来そうだろ?だからその記憶は消して、俺はたまたまその場にいて巻き込まれたって言って思い込ませるんだよそれに全演算を使ってんだ。だから後にしてくれ」
「「「あ〜、なるほど」」」
どうやって記憶を消してるかは分からないが、理由が判明したためとりあえず納得する二人(と一匹)
先頭を歩いていたクロノ・ハラオウンが振り返る。
「ああ、いつまでもその格好というのも窮屈だろう。バリアジャケットとデバイスは解除してもいいよ」
「あ、そっか。そうですね」
高町はバリアジャケットを解除する。
「君も、元の姿に戻っても良いんじゃないか?」
続いてクロノはユーノに話し掛ける。その言葉に垣根は眉をひそめる。
「(元の姿…?どういう……っ!まさか!!)」(※思考時間一秒)
「あ、そういえばそうですね。ずっとこの姿でいたから忘れてました。」
思い出したように言うユーノだが、高町は会話の意味を理解できていなかった。
不意にユーノ・スクライアの身体が光に包まれる。
「ふえ……あっ!」フェレットがいた筈の場所には金髪の少年が立っていた。
「はあ、なのはにこの姿を見せるのは久しぶりになるのかな?垣根だっけ?君には初めてだろうけど」
おそらく、この少年はユーノ・スクライアなのだろう。
高町なのはは固まっていた。
「え?…え??ふえええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!?」
瞬間、高町の大音量の悲鳴がアースラ内にこだました。
「っ!うるせえな高町。それより、スゲェな、魔法はそんな芸当もできるのか。ユーノ・スクライアだったか?テメェはただのしゃべるフェレットだと思ってたよ」
「ん?なのは?」
悲鳴に驚くユーノだが、なのはが叫んだ理由はわからない。なのははユーノの倍、驚いていた。
「ユーノくんって、ユーノくんって、…あの、その、なに!?えー……っと、だ、だって、嘘!?ふえええぇぇぇ〜!?」
「落ち着け!そして黙れ!(ゴンッ)」
「痛あ!?」
二度目の悲鳴にはさすがにムカついたのか、垣根はなのはを"小突く"。
「……君達の間で何か見解の相違でも?」
クロノが尋ねると、ユーノはその相違を解決するためになのはと一つずつ確認していく。
「えーっと、なのは?僕達が最初に出会ったときって僕はこの姿じゃ…」
「違う違う!最初からフェレットだったよ〜!!」
「ん〜………………ああ!!そ、そ、そうだった!ゴメンゴメン。この姿見せてなかった」
結局、相違の違いはユーノの勘違いだった。
「艦長、来てもらいました。」
扉が開き、クロノが言う。
「なんだこりゃ、日本カブレの外国人みたいな部屋だな。」
部屋を覗いた垣根は呆れたように言った。
無機質なパネルを敷き詰めただけの部屋。そこに並べられた畳、茶釜、多数の盆栽、何とも統一性の無い部屋だ。
そこにはアースラの艦長であり、クロノの母である、リンディ・ハラオウンがいた。「お疲れ様。はじめまして、私はアースラの艦長、リンディ・ハラオウンです。まあ、四人とも、どうぞ楽にして?」
人の良さそうな笑みを浮かべてなのは達を迎え入れた。
「……いい加減、彼を起こしてあげたらどうだ?」
クロノが見兼ねたように言う。
まるでさっきまで忘れてたように垣根は
「ああ、そうだな」
海原光貴を掴んでいた手を離し、彼を仰向けにする。そしてまるで空き缶でも潰すような気軽さで海原の腹を踏み付ける。
「起きろコラ」
「フグホッ!?」
激痛で変な悲鳴をあげてのたうちまわり、目を覚ます。
垣根帝督の容赦の無さになのはもユーノもクロノもリンディも絶句し唖然、呆然としている。
「ゲホッ、ゴホッ!なっ!?ここは??(アースラか!?なんでオレは寝てたんだ?なんでモブがここにいるんだ!?)なんでてめーがここにいるんだ!?」
「普通に歩いてたんだが何故か巻き込まれたんだよ。成り行きで同行することになってな。あと、突然倒れたテメェをここまで肩を貸しながら運んでやったって訳だな」
「「「「(サラッと、平気な顔をして大嘘ついた!!)」」」」
事実を知っている四人は驚愕する。
「チッ!どーせならなのはに肩貸されたほうがよかった」
その言葉に顔を引き攣らすなのはだった。
「………なるほど、そうですか、……あのロストロギア、ジュエルシードを発掘したのは貴方だったんですね。」
高町なのは、ユーノ・スクライア、海原光貴、が、何故ジュエルシードを集めているのか、その経緯を説明し終えると、リンディは漸く一息つくことができた。
目の前にいる子供達は息子よりも幼い。だが、そのポテンシャルは計り知れない。
若干9歳にして、しかも魔法を知ってから一月も満たないのに、推定Aランク越えの少女、高町なのは。
直接戦闘には協力していないが、デバイス無しで広域結界、補助魔法の展開の早さと鍛練度から、相当な実力が伺える少年、ユーノ・スクライア。
魔力SSSランク、見たことも無いレアスキル、粗削りで性格に問題がありそうだが高い戦闘能力を持つ少年、海原光貴。
極めつけは、魔力は一般以下。魔法は全く使えない。正体不明の謎のチカラであの海原を一瞬で倒した(海原本人は記憶を垣根に消された)。だが、どこか希望を失ったような悲しげな目をしている(リンディの見解)少年、垣根帝督。
「立派だわ」
目の前のユーノ・スクライアという少年がいかに清い精神を持っているかを確認した。
「だけど同時に無謀でもある!」
「だろうな」
そこで口を挟むクロノ。管理局でも選抜された魔導士でしか介入することなどできないロストロギア関係の事件。実力も知れない者達にどうこうできるものでは無いというのが彼の考えだった。
垣根もその考えに同意する。
「あの、ロストロギアって何ですか?」
指摘されて落ち込むユーノを見て、話題を変えようとするなのは。
無論、先程から聞きたかったことでもある。
「ああ、遺失世界の遺産……って言っても分からないわね」
「よくわからんな」
「………えっと、……次元空間の中にはいくつもの世界があるの。それぞれに生まれ育っていく世界。その中にごく稀に進化しすぎる世界があるの。技術や化学。進化したそれらが自分達の世界を滅ぼしてしまって、その後に取り残された失われた世界の危険な技術の遺産……」
「(だからロストロギアか)」一人だけ納得する垣根。
「それらを総称してロストロギアと呼ぶ。使用法は不明だが、使いようによっては世界どころか次元空間でさえ滅ぼす力を持つものがある危険な技術…」
リンディを引き継ぎクロノが説明し、更にそれをリンディが引き継ぐ。
「しかるべき手続きを取ってしかるべき場所に保管されていなければならない品物。貴方達が探しているロストロギア、ジュエルシードは次元干渉型のエネルギー結晶体。幾つか集めて特定の方法で起動させれば空間内に次元震を巻き起こし、最悪の場合、次元断層さえ巻き起こす危険な物」
「あの時の変な地震か…」
「そうだ、よくわかったね
垣根とクロノが言葉を交わす。
「あ…」
なのはも心当たりがあったらしく、息を呑んだ。
「たった一つのジュエルシードでもあれだけの威力がある。複数個集まって発動させたときの威力は計り知れない。」
「もう、あんなことは繰り返しちゃいけないわ。もちろん黒衣の子も、理由はどうあれ次元震を起こさせるわけにはいかないわ」
過去にロストロギア関連で何かあったのか、リンディは辛そうに言った。
そして抹茶に角砂糖を入れる。
「あ…」
「うわ……おい、執務官、テメェんとこの艦長、味覚壊れてんじゃねえのか?」
「むぅ……」言い返せないクロノ。
リンディは角砂糖入りの抹茶をゆっくり飲んでからなのは達を見据える。
「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます。」
「「え?」」
「なんだと?」
「お、そりゃありがてえ」
四人は一斉に反応する。
「君達は今回のことは忘れてそれぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」
「でも、そんな…」
「次元干渉に関わる事件だ。民間人に干渉してもらうレベルの話じゃない」
クロノは突き放すように言う。
「専門家が処理してくれるって言ってんだ。万々歳じゃねえか」
「でも……っ!」
「まあ、急に言われても気持ちの整理もつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて四人で話し合ってから改めてお話しましょ」
「送っていこう。元の場所でいいね?」
「変だな」
今まで黙っていた海原光貴が口を挟む。
「なにがです?」
「何で改めて話し合う必要があんだよ。」
「お、気づいたの俺だけだと思ってたが、テメェもか」
垣根帝督が感心したように言う。
「巻き込む気が無いならそんなもの要らないだろ。大方、なのは達から協力を申し出るように誘導して、戦力に引き入れるつもりだろ?」
得意げに言いつつリンディを睨む海原。
「っ!………」
「それは本当ですか!?艦長!!」
リンディは答えない。いや、答えられない。
「あ、あの!」
なのはが沈黙を破る。
「私きっと、リンディさんに言われなくても自分からお願いしたと思います。だから私にお手伝いさせてください!!」
「僕もお願いします!!」
「しかし…」
「おー、頑張れよテメェら。陰ながら応援しないから」
「ええ!?垣根くん手伝ってくれないの!?しかも応援しないんだ!?」
「だって面倒臭いじゃん♪」
「なのはが手伝うならオレもやってやるよ。ただし、てめーら部下になったんじゃないからの命令は聞かないからな!!」
「…だとよ、艦長さん。よかったな」
垣根は茶化すように言う。
「わかりました。」
「艦長…」
「高町なのはさん、ユーノ・スクライアさん、海原光貴さん、垣根帝督さん、先程はあなたたちを利用しようとして申し訳ありませんでした。」
リンディは頭を下げる。
「い、いえ、そんな……」
「ご協力感謝します。改めて、よろしくね」
ニッコリと笑いながら言うリンディ・ハラオウン。
「は、はい!」
「フン!」
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