今回、急展開です。
ちょっと文章の推敲が甘いかも('A`)
【スカリエッティ研究所】
「クックック」
研究所に、愉しそうな笑い声が響く。
いつものことだ。またグランマの資料を読んでいるのだろう。
「ずいぶんと愉しそうですね、ドクター」
「やぁ、ウーノ。今、以前の闇の書の事件の情報を見ていたところなんだ」
闇の書の事件。
私達がターゲットとしている、グランマが追っている事件のことだ。
「面白い点がありましたか」
「ああ。以前に闇の書を追い詰めた手順なのだがね、これが傑作なのだよ」
ドクターから送られた資料をコンソールに表示し、中を確認していく。なるほど。これは面白い。
資料の内容は、前回の闇の書事件だ。
管理世界の一つで、魔導師のリンカーコアが抜かれる事件が発生。即座にグランマが管理局の精鋭5名を連れて闇の書の主の確保に向かった。
まずは交渉で、闇の書の引渡しと解体への協力を呼びかけたようだ。だが闇の書の主はその場で拒否。ヴォルケンリッターが、管理局の精鋭とグランマからリンカーコアを収集しようとしたことによって、その場で戦闘が発生した。
戦闘自体は特筆すべきことはない。事前にヴォルケンリッターの情報を解析し、相性やフォーメーションを考慮して派遣された管理局側が終始圧倒し、闇の書の主と騎士たちは逃げることになる。
凄まじいのはそこからだ。
闇の書の主が逃げた先で、ちょうど近辺を航行中だった艦隊が連絡を受けて襲いかかった。いくら闇の書の主やヴォルケンリッターといえども、完全武装した艦艇にはかなわない。当然のように転移で逃げているのだが……。
どこに逃げても、数日内にすぐに補足されている。これでは心の休まる暇はなかっただろう。実際、報告書によると闇の書の主は最後には発狂に近い状態だったようだ。
「……どうやったら、こんな追跡戦ができるのか……」
「タネを明かせば簡単だ。最初から逃走経路がわかっているんだから、それに沿って艦隊を配置していただけだ」
「グランマに艦隊を動かす権限があるのは分かります。ですが、逃走経路はどうやって把握したのでしょうか」
「ふむ。じゃぁ、二つ質問をしよう」
ドクターは指を一本立てて見せた。
「一つ目。転移魔法に必要なものは?」
「そうですね。まずは魔力と転移魔法陣ですね。あとは転移先の座標でしょうか……あ!」
「そういうことだ。逃走するには座標を指定する必要がある。安全に転移するためには、既に知っている次元世界や都市にしか転移できないわけだ」
なるほど。そういうことなら、ある程度は転移先を絞ることができる。闇の書の主と騎士たちが土地勘のある地域を割り出し、最初から逃走経路を想定していたということだろう。
ドクターは、こちらが納得したことを確認して、指をもう一本立てて見せる。
「そしてもう一つ。ウーノは敵に囲まれた時、どちらに逃げる? 例えば、北と東西から艦隊が押し寄せてきたら?」
「逃走経路を読まれていても、南に逃げます。心情的にも逃走後の安全確保のためにも、そちらにしか逃げようがありません」
コンソールに表示された艦隊の動きと、闇の書の主の逃走経路を再度確認してみる。見事なまでに、管理局のコントロール下にあることが分かる。最初から最後まで、心理も情報も掌握されていたわけだ。
「グランマの最も恐ろしいところはそこだな。徹底的に情報を収集し、準備を整え、戦いが始まった時にはすでに敗北が決定している」
「ドクター……。本気でこんな人を相手に戦いを挑むおつもりですか?」
「もちろんだとも。私には勝算があるのだからね。グランマが教えてくれたのだ」
ドクターが愉しそうに哄笑する。
「私自身が彼女を凌駕する必要はない。凌駕する者を作り出せばよいだけだ」
ジュニアのことだろう。現在のところ成長は順調だ。
「……そして勝てないというのであれば、相手が負けるのを待てばよいだけだ。彼女はすでに、老いと病に敗北しかけているのだからね」
◆ ◆ ◆
【時空管理局最高評議会 地下】
時空管理局最高評議会。その地下に広がる、無機質な空間。
そこには、[Ⅰ][Ⅱ][Ⅲ]と刻まれた3つの培養基が並んでいる。その培養基に浮かぶのは、時空管理局最高評議会の評議長、評議員、そして私こと書記長の3人だ。
時空管理局の創世以前。
旧暦の時代から次元世界を見続け、その豊富な資金力と情報力で管理局を主導してきた者たち……そのなれの果てだ。
そしてもう一つ。私達の3つの培養基に挟まれるように、棺のような寝台が設置されている。正確には棺ではなく、冷凍保存装置を備えた冷凍睡眠装置だ。そこには、色の落ちた銀の髪をした老婆が横たえられている。
時空管理局最高評議会顧問、通称"グランマ"だ。
彼女は病と老いによって、その寿命を終えようとしているのだ。
──グランマの決意は変わらないのかね?
評議長が言う。
──変わらないようだね。我らと同じ姿になることを拒否している。
──やれやれ。次元世界の未来にとって、グランマは必要だというのに……。
──老いた体に執着することもあるまいに…。もっとも、彼女は老いた自分を誇りに思っているようだ。我々とは価値観が違うといえばそこまでだが……。
──さて、どうすべきか。正直にいえば、彼女にはこれからも我々の同士として共にあって欲しいのだがね。
私達は管理局を創設し、見守ってきた。
評議長はその政界へのパイプで、各次元世界の政治家達との折衝を担当した。議員は経済に対する造詣を生かし、予算の確保と配分を担当した。私が情報収集・管理を担当し、グランマはその優れたセンスで管理局の組織デザインと運営管理を行った。
当初の30年間は、私達は自ら組織の運営と次元世界の平定に乗り出した。次の30年間は、表に出るのはグランマ一人とし、管理局への干渉は最小限のものに抑えた。
だが、まだまだ問題は多い。特に時空管理局となにかと利害の対立する聖王教会。そして軍部の強硬派。
それらに太いパイプを持ち、にらみを効かせることのできるグランマは、まだ時空管理局に必要な存在だ。せめてあと10年は。
──無理やり私達のようにしてしまえば、彼女は諦めて力を貸してくれると思うのだがね。
──そして、彼女からそのことを攻められ続けるのかい? 胃に穴が空きそうだね。
──くっくっく。
面白い冗談だ……
ひとしきり笑った後、私は以前から考えていたことを言ってみることにする。
──1つ、皆に提案なのだが。
──……なにかね?
──もうそろそろ、良いのではないかね。
──良い、とは?
──まだ問題は山積みだ。だが後進の者たちは着実に育ってきている。
──うむ。問題を自身で解決のできる組織に育ってきているな。
──それについては同感だ。
管理世界との交渉や、新たな管理外世界の発見など。
かつては管理局全体を挙げての大仕事だったが、組織の効率化と問題解決を進めた結果、実にスムーズに運営がなされている。
その原動力は、グランマが担当していた人材発掘・育成システムだろう。様々な次元世界から人材を発掘し、よりスムーズに組織運営が行えるように配置する。
言葉にするのは簡単だが、それを実現するには多種多様な人材の素質や気質、将来性を多面的にとらえ、最適解を出す必要がある。それも全世界的にだ。
管理局創立当初からの徹底した研究とマニュアル化によって、それはようやく形が整いつつある。あとは、研究を続けつつ、問題点を解決していけばよいだけだ。
そう。
かつて私達によって作られた時空管理局には人材が溢れ、活力に飛んでいる。もはや私達の手を離れる時がきたのだろう。
──グランマには、彼女自身が望むように天寿を全うしてもらってはどうかと思うのだ。そして役目を果たした私達自身も、そろそろ休んではどうかと思うのだがな……
──……
──……若い者たちに必要とされなくなるのは、少々寂しいものがあるが……
──うむ。検討の余地はあるか。……もうすぐメンテナンスの時間だ。この議論はその後でも構うまい。
──そうだな。
──……
私達は人間の体を捨て、頭脳だけとなった歪な存在だ。定期的な研究員によるメンテナンスがないと、即座に死に絶えることになる。
「失礼します。ホットメンテナンスのお時間です」
会話が途切れた、ちょうどそのタイミングで、若い女性研究員が扉を開けて入ってきた。私達のメンテナンスを担当している研究員だ。
彼女は私達に向かって一礼するすると、宙にコンソールを表示させた。
──うむ、ご苦労だな。
──手早くやってくれたまえ。……ところでグランマの容態はどうかね。
「あまりよろしくはないようです。もって1ヶ月といったところでしょうか」
──もう100を超えているのだ。仕方ないか。
──うむ……。む?
唐突に……眠気が襲ってきた。
脳だけの姿になってからも睡眠はあまり必要としなくなったのだが……
──なにやら、調子がよくないようだな…。そこの君。培養液の調整に問題はないのかね。
「少々お待ち下さい。今、確認します。……はい。培養液の成分に問題ありません」
──む。なにやら、強烈に眠気がするのだが……
──私も…だ……。成分の再調査を……
研究員は私達を眺めて陶然とした笑みを浮かべている。
「成分問題はありません。これまでの功績への感謝です。せめてこのまま、眠るようにお休みください」
それが、私の百年以上の生涯で最後に聞いた言葉だった。
◆ ◆ ◆
邪魔な三人には、ドゥーエによって覚めない眠りについてもらった。
グランマの冷凍睡眠装置は、起床モードに切り替えてある。
もうまもなく、彼女は目を覚ますだろう。
会いたくて会いたくて焦がれ続けた相手に、ようやっと会えるのだ。この気持ちをなんといえばよいのだろうか。歓喜か。それとも感喜か。
「ドゥーエ。待ちに待った時が来たようだ……」
「ジュニア。相手は管理局の妖怪です。落ち着いてご対応ください。」
「もちろんだとも。私を誰だと思っているんだい」
心は浮き立っているのだが、頭は冷静に動いている。
これから私は、彼女と生涯でただ一度の邂逅を果たすのだ。彼女の寿命が尽きるの間に合ったことに、私はこころの底からホッとしている。
本当にギリギリだった。
グランマが病によって伏したのと同時に、ドクター・スカリエッティがプロジェクトFを秘密裏に推進。研究員であるナンバーズと共に、コピーである"私"を創り上げた。
そして1年。
ようやっと全ての記憶の継承が完了した私は、こうしてグランマに会いに来たというわけだ。
はやる気持ちを抑え、ドゥーエがセッティングした椅子に座り、ゆったりと足を組む。サイドテーブルのコーヒーを一口飲んで落ち着いたところで、グランマの冷凍睡眠装置のカバーが上がった。
「お目覚めかい、グランマ」
声をかけてみる。色の落ちた銀髪。険しい目。間違いなく、管理局のグランマだ。彼女はこちらを一目見て、驚いたような顔をしている。
「なぜ……ここにいる?」
ふむ。しかし、やはりグランマの特典は他の転生者が会えなくなるようなもので正しかったようだ。
「言わなくても気づいているんだろう?」
「……プロジェクトF。それも、本来の……"原作"のプロジェクトFか……」
ご名答。今ここにいるのは、ジェイル・スカリエッティの手によるコピーであり、後継者でもある。
「正面からでは勝ち目がなかったんでね。あんたが病と寿命に負けるその時を狙わせてもらった」
グランマが隙を見せるまで辛抱強く行動に移るのを我慢していた、スカリエッティの粘りがちと言える。
「まぁ、そういうわけだよ。私の名前は作成者の名前を取って、ジェイル・スカリエッティ・ジュニアという。気軽にジュニアと呼んでくれて構わんよ」
「…ずいぶんと悪趣味な名前だね」
ただでさえ険しい顔をしかめて、イヤそうな顔をしている。グランマは、私の名前がお気に召さないようだ。
「…あんたの目的を聞いていいかい?」
「あんたを超えることさ。もっとも、どのように超えるかは秘密だがね」
私の答えで、グランマは私の意図を察したようだ。
呆れたようにため息を一つ吐くと、覚悟を決めたようだ。
「子は親を超えるものか……。いいだろう。後はあんたの好きにしな」
もちろんだとも。期待には必ず答えてみせるよ。
「それではグランマ。おやすみ」
「ああ。それなりに充実した人生だったよ。おやすみ、ジュニア」
グランマが棺で眠りについたことを確認した私は、グランマの生命維持装置のスイッチを──
──切った。
というわけで、主役(?)退場です。
次回からは "魔法小将・レジアス☆げいず" が始まります。(嘘)
一応、プロット作って矛盾なく最後まで持っていける予定です。
が、いろいろと突っ込みたいところがあるかと思いますので、遠慮なくツッコんでください。
Stsについては、数値や登場人物のセリフから世界観を構築するとトンデモ世界になってしまいましたので、いっそ再構築してあります。そのため、管理局や聖王教会、軍部も魔改造済みです。
その結果として、グランマの"同僚"である三脳が意外と男前な存在に……
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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