70歳まで働き続ける高齢者のつらい現実

 では、長年勤めた職場を退いても、人々が働き続けなければならない理由は何か。老後への備えが万全でなく、働き続けなければ生計を立てられない高齢者が増えているためだ、というのが専門家の分析だ。OECDの昨年の所得不平等統計でも、韓国の65歳以上の人は、所得水準が全世帯平均所得の3分の2程度で、OECD加盟国の中で最も低かった。これは、韓国の高齢者が国民年金などの公的年金による恩恵を本格的には受けられずにいることを示している。

 韓国の高齢層は、年金所得が15%にすぎず、勤労所得の割合が58%に達する。一方、フランスでは高齢者世帯の所得に占める年金の割合は86%で、勤労所得は6%にすぎない。韓国の高齢層所得に占める勤労所得の割合は、OECD加盟国平均(21%)の2.7倍に達する。

■高齢者の貧困率、自殺率トップ

 ソウル・乙支路の集合住宅で借家に住んでいるイ・ボンナムさん(80・仮名)は、道路脇でトーストを販売しながら月30万ウォン(約2万1000円)を稼ぐ以外に、区庁から支給される支援金20万ウォン(約1万4000円)で持ちこたえてきたが、8月からこれまで5万ウォン(約3500円)だった家賃の値上げを求められ、不安を抱いている。イさんは「まともに食事もできないのに、子どもがいるという理由で基礎生活保障(生活保護に相当)の対象に含まれない」と嘆いた。

 国民年金保険院の報告書によると、イさんのようにつらい状況に追い込まれた高齢者が増え、韓国人の高齢者の貧困率(所得が中間値に満たない人の比率)は45%(2000年代半ばの平均値)に達し、OECD加盟国のうち最も高い。韓国の高齢者10万人当たりの自殺者数は77人(09年)で、これもOECD加盟国の中で最高水準だ。

  専門家は高齢者が働ける質の良い雇用を創出し、あらかじめ老後に備えることができるセーフティーネットの整備が急がれると指摘する。LG経済研究院のシン・ミニョン経済研究部門長は「健康状態が悪くても、生計を立てるために高齢者が働かなければならないとすれば、社会の幸福度が低下する。若い世代が老後にしっかりと備えられるよう制度を整え、高齢者にも相当額の収入が保障される質の良い雇用を創出すべきだ」と述べた。

 韓国経済研究院(KDI)の高英先(コ・ヨンソン)研究本部長は「人口構造が高齢化すれば、高齢者も働かなければならないが、雇用の質が悪く、高齢者に貧困層が急増しているという現状は問題だ。年齢によって賃金が上昇する体系を改善し、企業の高齢者雇用の負担を軽減するとともに、自営業者などの国民年金加入率を高め、老後に備えられるようにすべきだ」と指摘した。

キム・テグン記者
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