【注意】途中まで転生者Jによるクソマジメな考察が続きます。面倒な方は、最後の ◆ で区切られた後ろの部分だけ読んでいただいても、後の展開に影響はありません。【注意】
Strikers編開始です。
スバルやエリオたちの処遇は決まっていたんですが、ここまで前編と違う雰囲気で始めて良いのかと悩みました……。
【新暦????年 ミッドチルダ スカリエッティ研究所】
【転生者J】
さて。私自身のことについて少し話すとしよう。
私の現在の名前はジェイル・スカリエッティ。前世では、国立大学の理学部で教鞭を取っていた。転生者としてのコードは"J"をあてられている。
前世の人生は、悪くないものだったと思う。学内では学閥や勢力争いに巻き込まれて面倒なことにはなったが。まぁ、好きな研究がそこそこに出来てそれでメシが食えたのだ。問題はあるまい。
転生する際に私が行ったことは次の3つだ。
1.転生先の世界についての調査
2.転生先の世界についての考察
3.充実した研究ができるような特典の選択
まず私は転生先の世界を知るために、世界の元になったアニメーションを見た。その時に、私は二つのことに驚いた。
一つはその異常なまでの治安の悪さだ。
原作の"StrikerS"においてレジアス中将が「地上の犯罪も発生率20%。検挙率においては35%以上の増加を初年度から見込む」と言っていたが……
その数値が本当なら、その段階での検挙率は65%未満ということになる。初年度見込みということは、常識的に考えると現段階では40%未満といったところか。犯罪者の内、半分も捕まえられていないことになる。検挙率には未発覚の事件は含まれていないだろうから、実質的な検挙率はその半分以下……20%以下ということすらあり得る。
犯罪発生率については件数が分からないため断言はできないが、武力を強化するだけで20%低下を見込める以上、私の前世の日本とは比較にならないくらい高いのは間違いないだろう。治安の悪い都市といえば南アフリカのヨハネスブルグが有名だが、あの町ですら武力の強化だけで犯罪率が20%も低下するとは思えない。つまりはそれよりひどい可能性が高いわけだ。
原作で市街地は非常に発展していた。それでありながらこの治安の悪さということは、かなり大規模なスラム街が複数存在している可能性すらある。
そしてもう一つ驚いたことが政治形態だ。
ミッドチルダの文化レベルはおそらくは地球の先進国レベルにある。科学?のレベルは地球のそれをはるかに凌駕しているが……政治レベルは中世そのものだ。
時空管理局が世界を主導するのは構わない。が、「軍事」と「警察」と「司法」の権限を一つの組織が合わせ持ち、政治的な指導も行うとは……。
私の前世の地球では、その政治形態を「軍部独裁政権」と呼ぶ。軍部独裁政権は長続きしない。だが、その統制が行き届いている時期の犯罪発生率はそれほど高くないはずだ。
つまり時空管理局は……少なくとも地上本部はミッドチルダを統治できていないということだ。ろくに統治できていない軍部独裁政権下の都市で生きるなど、悪夢に近い。
まぁ所詮はアニメーションの世界だ。そのような最低の治安環境までは想定していないのだろう。
だが、これを元に世界を構築するというのであればそういうわけにはいかない。明確な数値として原作で表示されている以上、その最悪な治安環境が再現されるであろうことは想像にかたくない。
だが、私はそこから目を背けた。
社会の問題に気づき、特典を利用してそれを改善する方法も少しは思いつかなくもなかったのだが、それよりも研究を欲した。
──見知らぬ世界。
──見知らぬ技術。
──そして魔法という学問。
未知なる知識は私を興奮させた。社会の問題など知ったことではなかった。今にして思えば、私が「ジェイル・スカリエッティ」として誕生したのは必然だろう。
私は原作開始の50年前に生まれた。
アルハザードのものと思われるロストロギアの中に、胎児の状態で凍結保存されていたのが私だ。後で聞いたところによると、凍結保存機能が耐用年数を超えており、そのままでは死亡するところだったそうだ。
そこで人道的な対応として、管理局最高評議会の指示で胎児を人口子宮で育成し、誕生したのがこのジェイル・スカリエッティというわけだ。名前や、研究者の遺伝子から作られたクローンであることは、私が保存されていたロストロギアに記載されていたらしい。これはおそらくは転生に関する配慮だろう。
その結果として、私は管理局最高評議会専任の研究員として育つことになった。もっとも、原作とは異なり戦闘機人といった軍事研究ではなく、魔法医療や社会インフラの研究といった「まとも」な研究を依頼されていたが。
私が生まれた時代が原作の50年も前ということに最初は驚いた。私が転生者だったために遺伝子ではなく胎児として存在したのが原因かも知れない。
次に驚いたのが、時空管理局が原作におけるイメージとはまるで異なっていることだ。
管理局はおおまかに分けて三分割されていた。ミッドチルダや他の次元世界の代表からなる「連邦評議会」、陸士部隊や警察部門、行政部門を抱える「管理局本部」、そして裁判権をもつ「司法省」。
評議会が立法権をもち、管理局本部が行政を担当、そして司法省が司法権を持つ。地球の近代国家の原則であるモンテスキューの三権分立が綺麗に成立している。
それだけではない。評議会議員はもちろん、管理局本部の運営委員や司法省の運営委員には軍人はなることはできない。「政治家による軍人の統制」つまりは徹底した文民統制が成立している。
統治組織が順調に機能しているせいか、治安もさほど悪くない。昨年の地上本部による検挙率は80%だったし、犯罪発生率も政治問題になるほど高くもない。
私が転生する時に確認した原作とは明らかに乖離している。何者かによる干渉が行われたことは、すぐに分かった。誰がやってのけたのかもすぐにわかった。
──管理局最高評議会顧問、通称「グランマ」
原作では三人だった最高評議会の四名のうちの一人。
間違いなく、他の転生者だろう。
原作に登場しなかったからだけではない。彼女が転生者本人だと確信できたのは、「いかなる方法を持ってしても、接触できなかかったから」だ。
私の研究のスポンサーは、管理局の最高評議会だ。その最高評議会の中で、唯一名前と姿が知られているのがグランマだ。研究施設の提供や資金、課題の提示は彼女の部下からなされる。
だが、私から彼女に直接接触を持とうとすると必ず失敗する。
メールでこちらから連絡しようとすると、端末の故障やネットワークの切断がおこった。電話をかけようとすると、電話機が故障したり回線事故がおこった。
直接会おうとした時はひどかった。車が故障したり飛行機の故障したりは序の口。無理やりに会いに行こうとしたら空港火災が起こった。それでもあきらめずに会いに行こうとしたら雷に打たれた。さすがに死ぬかと思った。
ことここに至って、私もようやく気づいた。
直接コンタクトを取れない理由は、グランマ本人や管理局による妨害ではない。おそらくは超自然的な何らかの力によって「会えないことが決められている」のだろう。
通常であればそんな現実逃避じみた発想はしないのだが、私にはそれに心当たりがあった。転生者に与えられる「特典」だ。
特典の可能性としては、「転生者は会うことができない」というのが一番高いか。あるいは「不利益を与える転生者は…」か。
どちらにせよ、向こうからこちらにメールや書面で指示を出すことはできるが、こちらからはいかなる方法をもってしてもコンタクトが一切できない。イヤな特典だ。
だが管理局に創設時から食い込み、世界のデザインを行なってきた立場からすると、特殊な能力を持ってどのように動くか分からない転生者の動きを特典で制限するのは当然か。
グランマのその他の特典についてははっきりとは分かっていない。
だが、ここまでの政治的手腕を見るに、おそらくは政治系の能力なのだろう。さもなくば、いくら未来をある程度知っているとはいえ、ここまで見事に世界のデザインをやってのけることができるとは思えない。もしも特典無しでこれだけの政治力を持っているとすると……いや、さすがにそれはありえないか。
グランマの方針として、もう一つわかっていることがある。「原作への配慮」というべきか、「生まれるはずだった命への拘泥」というべきか。
グランマの政治活動により、多くの命が救われている。私が直接知っているだけでも、事故防止によってアリシア・テスタロッサが救われ、魔法医療の発展によってエリオ・モンデヤルが救われている。……ん?エリオ・モンディアルだったか。
アリシアの生存によって、本来であればフェイト・テスタロッサは生まれなかった。だがグランマは私に研究指示を出して、クローン技術を応用した不妊治療対策の「プロジェクトF」を発足。アリシア・テスタロッサに母体となるように交渉し、フェイト・テスタロッサの誕生を促した。
原作の戦闘機人、ギンガ・ナカジマとスバル・ナカジマについても同様だ。
ゲンヤ・ナカジマとクイント・ナカジマに「プロジェクトF」への参加を促し、ギンガとスバルの誕生を促した。もっとも原作とは違い、通常の体を持った普通の子として生まれているが。
いずれも幸せに育っているらしい。
さて。
グランマのこの行動を見ていて、思ったことがある。
原作において、主人公と敵対する悪の科学者役だった私は、どうすればいいのか、ということだ。
このまま行けば、数年後にはナンバーズの誕生に関わる指示が来るのだろう。おそらくは原作よりも人道的な研究成果として生み出されるに違いない。グランマの行動指針からして間違いはないだろう。
研究ができるのは構わない。だが……
正直な話、一から十まで完全に手のひらの上に乗せられるているのは癪に障る。
この私にとってこの世界での親は最高評議会の四名。
グランマもその内の一人だ。そして原作のジェイル・スカリエッティが言っていたように、子は親に似るものだ。
グランマが原作に配慮するというのであれば、私もそうするとしよう。
◆ ◆ ◆
「目が覚めたかね。ジェイル・スカリエッティ・ジュニア」
培養機の中。目が覚めた私の正面にいたのは、紫の髪に金色の瞳をした、初老の男だった。
「……」
「ふむ。まだ言葉はしゃべれないか。まぁいい。あと数年もすれば、私の知識の全てを思い出すことだろう。……クックックッ、アーッハッハッハッハ!」
ずいぶんと楽しそうに笑っている。
なんとなくわかる。この人は私の父親で、そして私自身でもある。
どこからか「クローン」「プロジェクトF」という言葉が頭に流れ込んできた。
「……」
「君の妹たちの成長も順調だ。君が成人する頃には私は死ぬだろうが……後は好きにしたまえ。もはや君を縛るものはなにもない」
「……」
私を縛るもの……。転生者としての特典か。
私は転生者ではなくクローンとして生まれている。転生者Jとしての特典は失うが、同時にグランマに接触することが可能になるだろう。
手足となるナンバーズも研究施設も、既に確保している。ここからは何を研究するのも、何を行うのも自由なのだ。
そう。ここからがジェイル・スカリエッティとしての真の人生なのだ。
「さぁ。誰にも邪魔されない、楽しい夢の始まりだ」
政治的な表現が多かったのは、直前までNHKのマイケル・サンデルの講義を見ていたからかもしんない('A`)
面白いよね、あれ。
あと、さり気にSide表記も取りやめています。読みにくいってことはないですよね。
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