第51話『夕食』
『粒子制御』一派殲滅の仕事を終えた垣根帝督は今晩の夕食(コンビニ弁当)を買うべく、近くのロ●ソンに向かっていた。
「あら、垣根君じゃない」
後ろの方から垣根を呼ぶ声が聞こえた。
彼が声のした方向に向くと、そこには柔和に微笑む金髪の女性と青みがかった銀髪の少女がいた。
シャマルとリインフォースⅡ(ツヴァイ)だ。
「帝督さ〜ん!」
リインが満面の笑みで垣根に手を振った。
「あれ、なんでお前らがここにいる訳?」
「ちょっとはやてちゃんに頼まれてお使いの帰りよ。垣根君は?」
「仕事の帰りだ」
垣根の答えにシャマルは僅かに表情を曇らせた。
「リイン達はお家に帰ったらご飯ですけど、帝督さんも一緒にどうですか〜?」
リインが垣根の元に駆け寄りながら言った。
「イヤ、つい最近昼飯食わしてもらったのに今度は晩飯食わしてもらうのはさすがに悪いだろ」
彼はヤンワリと遠慮しようとする。
「ふふ、リインは垣根君と食べたいのね。それに別に迷惑だとは思わないし、はやてちゃんも喜ぶわ。」
シャマルも奨める。
「けどなぁ………」
別に彼は八神家に行くのが嫌という訳ではない。
ただ、さっきまで汚れ仕事をしていた自分が誰かと食事を楽しんで良いのか等と、いまさらながら複雑に思ってしまう。
「一緒に食べましょ〜!!」
「あ、おい…!」
リインは垣根帝督の右手を両手で掴んで引っ張っていく。
「遠慮しなくて良いわ。行きましょ♪」
リインの純真無垢な笑顔についに断りきれなかった。
(無下に断るのも悪いか………)
垣根は真面目に考えるのをやめた。
……そして八神家に到着。
「ただいま戻りました〜」
「ただいまですぅ〜」
「…邪魔する」
エプロンを着けたはやてが出迎える。
「お帰り、帝督くんもいらっしゃい♪」
「悪いな八神、昼飯の次に夕食ご馳走になっちまって」
「ええよ。それに一食分増えたとこで何も困らんし♪」
むしろはやては嬉しそうだった。
そしてそれぞれテーブルに座る。
シャマルは端に、その隣にはやて、シグナム。
シャマルの向かい側に垣根、彼の左側はリイン、右側はヴィータが座った。
垣根帝督は怪訝そうに眉を僅かにひそめながらヴィータの方を向く。
「お前、俺の隣で良いのか?」
「はあ?何言ってんだ?」
ヴィータは意味が解らないという感じで首を傾げた。
「だってよ、シグナムもそうだが俺のこと嫌いじゃねえの?」
「…??別に嫌いじゃねーけど?」
「何故私達がお前を嫌いだと思うんだ?」
シグナムもヴィータも首を傾げながら垣根に尋ねる。
「イヤ、だってよ、俺は五年前におまえらを殺そうとしたじゃん」
五年前、垣根帝督は彼の魔力を蒐集しに襲撃したヴィータとシグナムと対峙した。
そのとき垣根は能力を駆使して圧倒し、彼は『敵には一切容赦しない』という考えだったためそのまま彼女達を殺害しようとしたのだ。
「……確かにお前はあの時あたし達を殺そうとした。そのときは恨んだり忌ま忌ましく思ったりもしたよ。でもそれはあたし達も悪かったし………」
シグナムがヴィータの言葉を引き継ぐ。
「それより、お前は後半で私達を助けようとしてくれたじゃないか」
さらにシャマルが続ける。
「何より、垣根くんははやてちゃんの命の恩人の一人よ。今さら恨んだり嫌ったりする理由なんて無いわ」
シャマルは柔和に微笑む。
「そうや。だいたい帝督くんはわたしの命を二回も救ってくれたやん。あの事もみんなに話したから知っとるんやで♪」
はやては垣根に笑いかける。
ヴィータが溜息混じりに言う。
「そもそもおまえの事嫌いなら家に入れないし、隣に座ったりもしないだろ」
垣根帝督は一瞬だけ驚いたような顔をする。
そして呆れたような表情になる。
「……なんつーか、甘えよなお前ら。俺にゃ真似できねえよ」
ヴィータが茶化すように言った。
「そりゃそうだろ。おまえは悪党なんだし」
「そうだな」
垣根は小さく笑う。
「お話はそれぐらいにして早く食べましょぅ〜よ〜。リインお腹ペコペコですぅ〜」
垣根の制服の袖をクイクイと引っ張りながらリインがボヤく。
「そやね。ほな、冷めてまう前にいただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
「…いただきます」
八神はやての料理は旨い。
金が取れるぐらい旨い。
「やっぱはやての料理はギガうまだな♪」
食べながらヴィータが言った。
「これで商売できそうだな……」
垣根は呟き、はやての料理を賞賛する。
食後はリインの遊び相手に付き合ったり談笑した。
垣根帝督は自分にじゃれるリインフォースⅡを見て、静かに思った。
(随分と懐かれたもんだな……)
「……メシだけのはずがすっかり長居しちまったな。そろそろ帰るか」
「ええ〜、もう帰っちゃうんですか〜!?リインはもっと一緒にいたいですぅ〜」
「リイン、わがまま言うなよ。垣根に迷惑だろ」
駄々をこねるリインをヴィータが咎める。
「いっそ、泊まってくか?明日は土曜日で学校お休みやし♪」
はやてが半分冗談で言った。
「ありがたい提案だが、あいにく明日も仕事でな。ここいらでおいとまさせてもらう」
八神家を跡にした垣根帝督の気分は穏やかだった。
そして同時に違和感もあった。
彼が自分の中に渦巻くこの違和感の正体に気づくのはまだまだ先になる。
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