A's編突入。
説明回なので、ちょっと長くなってしまいました。
ほぼ書き終えているので、このまま毎日投稿していこうかと思います。
「しょせん、個人でできることなんて大したことはないさ」
ビヴロスト・B・アングルボダ
【新暦0054年 時空管理局最高評議会顧問執務室】
【Side:ギル・グレアム】
「申し訳ありません。闇の書をロストしました」
私は、監視していた闇の書が転生したことを上司に報告した。
私の上司は時空管理局最高評議会顧問、通称お婆さんと呼ばれる女傑。時空管理局創世記の伝説の三提督に並ぶ最高権力者の一人だ。
三提督が次元犯罪者対策に力を発揮したのに対し、グランマは組織運営や法律の制定等の内政面で伝説とも言える活躍している。
ミッドチルダの政治家の家に生まれた彼女は、成人するとすぐさま血族とまとめ上げ、三提督と連携して時空管理局を作り上げ、わずか十数年で中央世界に平和をもたらした。彼女がいなければ、あと数十年は混迷の時代だったろうと言われている。
三提督と合わせて「管理局の四英雄」とすら言われているほどだ。「史上最高の政治家」と言われることもある。
グランマ自身の政治能力も確かに傑出しているのだが、それ自体は「史上最高」というほどでもない。グランマと同等かそれ以上の政治家は何人もいた。現代でもいるだろう。
彼女が特別なのは、本人自身の政務能力よりも、その人材発掘能力と育成能力だ。どのような人材であれ、彼女の部下になると能力を最大限に発揮するのだ。
こんな逸話がある。
時空管理局創世記に、彼女と対立する政治家の思惑で役立たずの新人ばかりを集めた部署が作られたことがある。彼女がそこの管理者に赴任して三年後、その部署はミッドチルダ一のエース部署となっていた。その部署の出身者たちは「グランマの高弟」と呼ばれて、いずれも教科書に乗るような活躍をしている。
笑えない逸話もある。
時空管理局の提督が率いる艦隊とグランマの率いる輸送部隊が、次元犯罪組織の艦隊に強襲されたことがある。その時はわずか一時間の戦闘で犯罪組織を殲滅したのだが、その時の撃墜スコアが提督7隻に対してグランマも7隻だった。
戦艦を含む艦隊と、輸送艦隊の撃墜スコアがほとんど同じって、どういうことなんだ? おかしいだろ。というか、なぜ輸送艦で犯罪組織の艦隊を沈めることができるんだ?
調べてみると、輸送艦隊の各艦長や砲撃手が異常なまでに効率的な指揮能力と命中率を発揮していたらしい。なお、比較対象となった提督の艦隊指揮も決して悪くないどころか、非常に優れていたことを付け加えておく。
そういったことが重なり、グランマには「部下の能力を上昇させるレアスキルでも持ってるんじゃないか?」という噂もある。無論、冗談だが。
脱線してしまったな。話を戻そう。
そのグランマだが、現在は顧問として表立った活動はほとんどしていない。数少ない例外として、一部のロストロギアの追跡や収集がある。私が担当しているのもその内の一つ「闇の書」だ。
この闇の書とは、魔導師のリンカーコアから魔力と技術を収集し、破壊のために使用するロストロギアだ。
本来は「夜天の書」という、純粋な収集目的で作成されたアイテムだったのだが、過去の所有者がこれによって改悪され、現在では持ち主を含めて破壊して回るただの呪いのアイテムと化してしまっている。
さらに厄介なことに、この闇の書は主が死亡した時には転生して新たな主を探すという機能がある。この機能のおかげで、今回も闇の書を逃がしてしまったというわけだ。
グランマとこの部署の目的は、その「闇の書」の改悪プログラムを解呪して元の「夜天の書」に戻し、時空管理局の管理下に置くことにある。
幸いなことに、無限書庫の調査によって歴代の闇の書の主は特定されている。その能力や研究内容も追跡調査が完了しているため、闇の書にかけられた改悪プログラムについてはほぼ特定されている状態だ。
後は、闇の書の主に選ばれた者に協力してもらって、その改悪プログラムを解除するだけだったのだが……
残念なことに今回の主は協力的ではなかったためにロストしてしまうはめになった。
先刻、死亡が確認されたので、闇の書は次の主を探して転生していることだろう。
グランマから、必ず次回の転生を阻止するように厳命されていただけに、報告するのが気が重い。
「ロストか。……済んでしまった以上、仕方ないね」
グランマが、不機嫌そうな顔と声で言う。
普段から不機嫌そうな顔をしている御仁だが、今回は格別だ。かなり不機嫌らしい。すぐさま帰りたい気分になる。
「ギル。この後の対応予定は?」
「はい。ミッドチルダを含め、魔導師の多い世界から順に闇の書の探索を行います。魔力パターンは解析済みですので、探索は容易と思われます。少なくとも、闇の書が収集を終える前に見つけることができるでしょう」
闇の書の転生についての最大の問題は、転生先の世界だ。魔導師の多い世界に転生すると、あっという間に被害が広まり、収集が進むことになる。
逆に魔導師の少ない世界であれば、その被害は少なくて済む。また、闇の書の完成までに大幅な時間を要するため、後回しにされるわけだ。
そういった事情もあり、闇の書の探索は魔導師の多い世界順に探索を行う予定だ。ちなみに私の出身世界である地球は、魔導師の数が少ないためにリストの真ん中よりやや少し後ろあたりにある。
「そうさね。発生する被害を考えると、その順序で探索するのが当然かね。人的リソースも限られている以上、妥当な判断か」
グランマにしては歯切れが悪い。なにか懸念点があるようだ。
「何か懸念点でもあるのですか?」
「いや。個人的な引っ掛かりだ。ギルが妥当と思える順で探索して欲しい」
「了解しました」
グランマが口に出して明言しない以上、こちらは論理的に仕事をすすめるだけだ。
「すでにクライド・ハラオウンを中心とした探索チームの編成と調査機器の準備は終えております。ご許可を」
「許可する」
「ありがとうございます。闇の書が動き出した時のために、探索チームとは別に調査部隊と強襲部隊をいつでも派遣できるように手配しておきたいと思います」
「魔導師が襲撃される事件があった際は、お前さんに連絡が行くように手配済だ。また事件発生時には協力するように関係各所に通達を出しておく。部隊の編成と管理は任せる。それでいいな」
「は。ありがとうございます」
さすがに話が早い。
「ああ、ギル。そういえば一つ頼みがある」
「なんでしょうか」
「調査機器の仕様書と、操作手順書を用意して欲しい」
「は。すぐにお送りいたしますが……理由を伺ってもよろしいでしょうか」
「私は今抱えている重要案件を完了したら、管理外世界にバカンスを取りに行くつもりだ。ついでに暇つぶしに探索しておこうかと思ってね」
バカンスのついでに暇つぶしで調査?
ふむ。公にはできないが、闇の書の転生先に心あたりがあるといったところか。
「了解いたしました。バカンスの際には、私の娘のリーゼアリアにご連絡ください。転送ポートの使用手続き等の雑務を手配いたしますよ」
こうすれば、グランマの行き先を把握しておくことができる。
「わかった。ロッテとアリアは元気かい」
「ええ。二人とも元気にしてますよ。そろそろ孫の顔も見たいもんなんですが、当分先になりそうです」
アリアへの手配を了承してくれたということは、必ず秘匿しなければならないというわけではなさそうだ。当然、私がカバーに動くことも理解しているだろうから……
どうやら、思ったよりも確実性の高い情報らしいな。いつでも動けるように、調査チームに予備人員を確保しておくことにしよう。
「そうか。二人に宜しくな。退席していいぞ」
「は。これで失礼します」
さて。忙しくなりそうだな。
◆ ◆ ◆
【新暦0060年 第97管理外世界:地球/日本国】
【Side:クライド・ハラオウン】
前回のロストから6年。ようやっと闇の書の転生先とその主を特定できた。
"八神はやて"という、第97管理外世界に住む4才の女の子が、今代の闇の書の主だ。
今年で4才ということは、前回のロスト以降に最低でも2年ほど別の主がいたということだろう。どおりで、以前にグランマとグレアム提督がこの次元世界を調べた時は見つからなかったわけだ。
「しかしまいったな」
事実上、彼女しか闇の書の解呪ができないことになる。彼女には両親はいないようだし、時空管理局で引き取って特別な教育を施すことになるのだろう。闇の書の侵食もあるので、それ以外の対応方法はない。
両親を亡くした子供を引き取って、ロストロギアの対応を任せる? 失敗したら死ぬのに?
それ以外に方法がないとはいえ、弱みにつけ込んでかなりゲスなことをしている気分になってくる。
この報告をグランマにしなければいけないことを思うと、胃が痛くなってくる。対策会議では、この4才児に命がけの行為をさせるプランを提示しなければならないのだ。
グランマは理性的な人だし、暴君ではない。当初より予定していた合理的な手法なのだから、文句を言ったり攻めたりすることはないのだろうが……。ただでさえ不機嫌そうな顔を盛大にしかめて、あたりにプレッシャーをまき散らしてくれるシーンが目に浮かんでくる。
……グレアム提督に押し付けてしまおうか。
第一、今回の闇の書の発見が遅くなったのは、グレアム提督のせいなのだ。
以前グランマがここでバカンスをした時に、グレアム提督の指示でこの世界の探索を先に行なっていたのだ。当初のリスト順に探索していれば、発見はあと二年は早かっただろうに……。
『よし。グレアム提督が悪い。僕は悪くない』
うん。心の説得完了。
グランマの次の出勤に合わせて、僕が外せない用事をセッティングしておこう。
そうすれば、報告後の対応策検討会議を欠席できる。提督に報告を押し付けることができる。
結論から言おう。
グレアム提督の方が一枚上手だった。
会議は針のむしろだった。胃薬を新しく買うはめになった。
グランマは「有能な部下や同僚や上司を得られる幸運」と「選んだ職場で最大限に実力を発揮できる幸運」という特典を持っています。
他の転生者の特典(魔力SSS等)とバランスを取るために、この「幸運」が拡大解釈されているという設定です。
もう一つの「他の転生者と関わらない幸運」という特典も、愉快な形で稼動している模様です。
夜天の書についてですが、ユーノが数日間調べただけで判明したくらいです。専門チームを編成して無限書庫に年単位で放りこめば、過去の主の追跡調査や解呪プログラムの設計ぐらいはできるでしょう。
……というか、できたことにしましたヽ(`・ω・´)ノ
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原作に対する改変
【管理局】
お婆さんの関与により原作とはほぼ別物。就業年齢の規制や、ロストロギアの管理体制の強化等によって、原作が始まる余地を与えない。
【ユーノ】
年齢による就業制限に引っかかって遺跡探索できず。当然、ジュエルシードにもなのはにも接点なし。
【なのは】
ユーノとの出会いがないため、魔法少女が始められません。
【フェイト】
プレシアとアリシアに望まれて生まれ、家族の愛情に囲まれ幸せに育てられている。
【転生者たち】
無印で原作介入を予定してたメンバーは、ほぼ全員が肩透かし。
【クライド・ハラオウン】←New
闇の書の暴走に巻き込まれそうになるが、無事に生還。その後、闇の書転生先の探索チームを率いる。生還できた理由は、管理局のロストロギア対策が原作よりもはるかに厳重だったため。
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