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再会

――――はやて


『ロゥの顔なんて二度と見たくない、出てってッ!!!』


そう言ってわたしはおもちゃの宝箱を投げつけた。

それはロゥの顔に当たってガシャンと床に転がった。

ロゥは見たことのない虚ろな目でわたしを見つめていた。

そして静かに家を出て行った。

戻ってくることはなかった。

ああ、指輪だけじゃない、わたしは大切な家族までもなくしてしまった――


……。

……。

……。


『――てちゃん、はやてちゃん!』


誰かがわたしの肩をゆすっていた。


「はやてちゃん!」

「ん……しゃまる?」


はやてが目を覚ますとそこは病院の待合室だった。


「あはは、眠ってもーたみたいやな」

「いいんですよ、最近はやてちゃんは頑張りすぎですから」

「何言ってん、守護騎士の面倒みるんが主の勤めやろ」

「ちょっと違う気がしますが……あんまり無理するとみんな心配しますから、ほどほどにしてくださいね?」


シャマルが困ったように微笑む。

だけどシャマル、わたしはやりたくてやってるんよ? 前みたいな後悔をしないように……。


「……それにしても石田先生遅いなぁ」

「なんでも、この間の通り魔事件で意識不明だった男の子が昨日の夜いなくなっちゃったみたいで」

「そりゃ大変やなー」


その子大丈夫やろか?


「その子がさっき戻ってきて石田先生に怒られてるんです」

「……そりゃ大変やなー」


石田先生は優しいんやけど怒るとおっかない。

耳を澄ませば石田先生の声が聞こえる。


『ちょっとキミ! 一体何を考えてるの!?』

『あれですよ『目が覚めると、そこは知らない天井だった……』みたいに混乱してたんですよ、きっと。 もしくは子供的誇大妄想でどこかの施設に拉致られて改造されると思い込んだんですね』

『明らかに自分の状況を理解してるわよね! そんな子が改造されるなんて思うわけないでしょう!?』

『や、今は落ち着いてるだけですよ、きっと。 それに拉致改造はそれほど珍しいことじゃありませんよ。では失礼』

『待ちなさい!』


……石田先生と普通に言い合ってる。


『無理です! 待てません! ボクはトイレに行くんです!』

『ダメよ、キミをこの病室から出すことはできないわ。 トイレに行きたかったらこれを使いなさい』

『それは老後の楽しみにしてるのですよ。 というか、この若さでそれに頼ったらプライドというものが粉々に砕け散りますよ!? トゥ!』

『あ! 待ちなさい!』

『クク、公道最速といわれるこのボクに追いつくなんて不可能ですよ』

『ここは公道じゃありません病院の廊下です! 危ないから止まりなさい!』

『『公』共の施設の通り『道』ですから公道ですよ。 そしてこの車椅子マシーンの構造を熟知したボクには危険など有って無きがごとしです、止まれませんね。 とくと見よ! 華麗なる90度直角カーブ!』


なんだか凄い事になってる!?


「主はやて、いつもより時間がかかっているようなのでお迎えにあがりました」

「あ、シグナム。 ちょうどええ、石田先生から逃げ回ってる子を捕まえるのを手伝ってあげて」

「かしこまりました」


シグナムはそのまま石田先生の加勢に行った。


『石田先生』

『あら、シグナムさん。 ちょっと待ってください、患者が一人逃げ回ってて』

『そのことで加勢に参りました』

『すみません、わたしは右から行きますので、シグナムさんは左からお願いします』

『わかりました』


そして――


『シグナムさん、今です!』

『なっ増援!?』

『貴様は!?』

『隙有り! マラセーユ・ターン』

『しまった!』


猛スピードで奔る暴走車椅子のシャーという音が近づいてきた。


「ッ!? なんですって!?」

「? どうしたんや、そんなに慌てて」

「あ、あのはやてちゃん、巻き込まれたら危ないからあっちの方に行きましょう」


わたしの返事も待たずにシャマルがわたしの車椅子を押し始めた。

段々と近づいてくる車椅子の音、そして――


「YaHooooo!」


廊下の角から男の子が飛び出した。


「え?」


明るい金髪、深い翠眼、車椅子で駆けるその子は――


「――ロゥお兄ちゃん?」


二度と会えないだろうと思っていたその人だった。




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