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下艦
――――フェイト


なのはが倒れてから二万字というよく理解らない時間が過ぎた気がする。

襲撃を受け気絶したなのはをロゥがすぐさま治療した。

そして――


「え? これをなのはに? く、く、くくくくく口移しでッ!?」


私はロゥに渡された薬を手にしたまま固まってしまった。

ロゥの話によると、なのはの磨耗したリンカーンコアを修復するにはこの薬を口移しで飲ませる必要があるらしい。 口移しにも儀式的な意味合いがあるらしく、口移し以外の方法だと効果がないと説明も受けた。

プレシア母さん、私はどうしたらいいの?


「フェイトちゃん! なのはちゃんがどうなってもいいの!?」

「ッ!? …………わ、わかった!」


なのはの危機に意を決して薬を口に含むフェイト。

ゴメン、なのは――


「――じゃあボクは撮影の準備を……」

「ブーッ!?」


薬を吹き出してしまった。

それよりも……。


「どうして撮影するの!?」

「や、最近医療関係の管理が厳しくて、医療行為はその行為を立証するものがないといけないんだよね。 ほら、手術を録画するのと同じだよ」

「そうなんだ……」


知らなかった。 だけどカメラの前でキキキ、キスをするなんて……。


「…………羞恥心となのはちゃん、どっちが大事なのかな?」

「ッ!?」


そんなの迷うわけがない。 ロゥの一言で、揺らぎかけたわたしの意志が固まった。

わたしは再び口に薬を含む、甘くほろ苦いそれをなのはに飲ませるために顔を近づける。

静かに眠るなのは、時折苦しげに眉をひそめる。 わたしは早く楽にしてあげたくて、早く元気になってほしくて、だから横で激写しているロゥも気にならなくて――


「ぅ…………?」

「………………」

「フェイトちゃん?」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


なのはが起きた。


「ブーーーーッ!?」


また吹き出してしまった。 不幸中の幸いなのか、とっさに顔を背けたのでなのはにはかかることはなかった。


「残念、起きちゃったね♪」

「ゴホッゴホッ……ロゥ?」


なのはの目が覚めて安心した。 そして落ち着いて考えたらロゥはもっともそうなことを言っていたが、その内容はどれも突拍子もないものばかりだった。

はっきり言って騙された。


「フェイトちゃん、口移しは噛む力のない患者に固形物を食べさせる手段であって、絶対に意識のない人にやったらダメだよ、気管に入ると危ないからね」


今まさにそれをやらせようとしていた人の言葉とは思えない発言だ。

「あの、ロゥ君? なにがあったの?」

「フェイトちゃんが寝込みを襲っただけだよ」

「ちがう! ああしなきゃなのはが治らないって言われて、それで、あの…………ごめん」

「ううん、心配してくれたんだよね? ありがとう、フェイトちゃん。 それと、おかえり」


そう言って微笑むなのは。


「あ……うん、ただいまなのは。 また会えたね」


私も微笑み返す。

見詰め合う私となのは、二人とも話したいことがあるが再び会えたことに感動してどちらも言葉が出せずにいた。

そして――


「――空気壊しエアブレイカー! ということで少し検査するからフェイトちゃんは離れてて」

「あ、うん、わかった」


車椅子のロゥが私となのはの間に割り込んできた。

そうだった、なのははついさっきまで意識がなかったんだ。 そんな病人に私は何をやってるんだろう。

どこか自虐的思考に陥ったフェイトになのはが『大丈夫♪』と微笑みかける。 それだけでフェイトの心は軽くなった。


「……ボ、ボクの右手が効かない!? それじゃあ解析するよ、息を吸って~」

「スゥ~」

「はい、吐いて~」

「ハァ~」


ロゥは妙なことを言っていたが、なのはを淡い紫色の領域で包み込み検査を始めた。


「はい終ったよ」

「「早い!?」」

「うん、やっぱりボクと同じでリンカーンコアの磨耗だね、怪我自体は擦り傷程度だし明日の朝には歩き回っても問題ないよ」


始まって一分も経っていないのに、すごい技術だ。


「魔法はまた使えるようになるけどしばらくは無理だね、最低でも三日間は使用禁止だよ。 あと、ご両親にはリンディさんが連絡したから今日はアースラに泊まっていってね。 じゃ、色々と忙しいからボクはこれで」

「あ、ちょっと待って!」


さっさと出て行こうとしたロゥをなのはが呼び止める。


「アイギスちゃんは大丈夫だった?」


そういえばなのはを襲った子と戦ったロゥの使い魔のことだ、私は自分のことで精一杯だったからアイギスがどうなったのか知らない。

なのはの質問にロゥはニッコリと笑いながら答えた。


「只今絶賛ケンカ中だよ。 命を軽く扱うのは許さない」


そういうとロゥは病室を出て行った。

間違いない、ロゥは怒っていた。




――――ロゥ


なのはを治療した後、エイミィに襲撃者の使用した魔法が古代ベルカ式だったことを伝え、リンディさんに下艦に関する書類を渡し、いまだ口も聞こうとしない(もっとも元から喋れないが)アイギスを捕まえ、襲撃者の映像を見ながら考えにふけっているクロノに奇襲を仕掛け、時空管理局本局へと向かった。

行き先はもちろんギル・グレアム提督のところだ。 新しい任務に就くために色々と話をしなければならない。


そして、ロゥが指定された部屋に行くとグレアム提督が無駄にハードボイルドな雰囲気で待っていた。 双子の使い魔、リーゼたちはいない。


「よく来てくれたねロゥ・アイアス二等陸士、感謝するよ。 すまないね、お茶も出せずに……極秘任務だからね」

「いえ、もう一度この任務に――チャンスを頂いたことに感謝こそすれ責めよう等とは思いません」


静かに、しかしはっきりと返答するロゥ。

グレアム提督はその言葉に怪訝な表情をする。


「『チャンス』かい? 一体なにのかね?」

「この任務を達成するチャンスです」

「ふむ、八神はやての関係者に対する暗示、八神はやて本人に生活能力を与えるなどキミは十分な仕事をしてくれたはずだが……」

「守れなかったモノがありました」


それしか言わない、それ以上言う気もない。 しかし、グレアム提督はそれで納得したよでそれ以上この話題を振ることはなかった。


それからロゥは任務についての説明を受けた。

基本的な事は前回と同じ八神はやての護衛、八神はやてに接触し彼女を害する者からその身を守る、グレアム提督の指定した以外の局員との連絡は禁止する、等々潜入任務によくある命令、前回と同じ。

しかし一つだけ、前回と違う命令があった。


「……『八神はやてに正体を知られなければ魔法の使用を許可する』ですか」


前回は魔法の使用自体が禁止されていたのに今回は許可されている。 これが意味することは『魔法による対処が必要とされる事態が発生する可能性』が存在するということだ。

魔法を必要とする事態、思い出されるのはつい数時間前なのはを襲撃した魔法使いたちのことだった。


「……あの古代ベルカ式を使う魔法使いたちは……いえ、結構です。 任務開始はいつからですか?」


不可解な謎の多いこの任務で詳しいことは一切教えてくれないだろうと判断したロゥはグレアム提督に始まりの時を問う。


「任務は――」


グレアム提督は感情を押し殺した平坦な声で答える。


「――現刻をもって開始とする」







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