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ワラウソラ

――――ロゥ


「マスター!!!」


突然抱きつかれた、唐突過ぎてよくわからない。 なので思考しよう。

――使い魔はオレのことをマスターと呼んだ使い魔からは敵意を感じないオレと使い魔のマスターの何かが酷似していることが予想される下手に拘束して警戒心を煽るのは得策ではない使い魔の喜びようから死んだはずのマスターが生きていたと勘違いしているようだ昼ドラ見忘れた使い魔のことは早めにアースラに伝えるべきだオレがマスターでないと伝えるべきだ……。


「あー、ボクはキミのマスターと違うよ?」

「マスター頭大丈夫?」

「www(怒)」


イラッときた。 無邪気って怖いね~。

オレはひくつく口元を押さえつつ、使い魔を悟させようとする。


「ほら、よく見てよ。 キミのマスターとボク、違うところがあるよね?」

「う~?」

「…………」

「あ! 縮んでる!」

「――――」


忍耐だ! 耐えろ!


「カッコわるい!」

「プルプル(怒)」

「ヘンな目~~」

「……覚悟はいいか?」

「ロゥくん! ストップ、ストップ~~!」


なのはに腕を取られ取り押さえられた。 うむ、見事な関節技サブミッションだ、硬質化しなければ関節が外れるくらいの。


「なんでそんなの使えるのかな?」

「えっと、お父さんに護身用に教えてもらって……」


なのはパパ、娘が心配だからってそんなの教えないで下さい、危険です。

とりあえず開放してもらった。


「で、話を戻すね。 ボクがキミのマスターじゃ無いことはOK?」

「オーケー」

「じゃあ、キミは一体何があったのかな? 説明してくれるかな?」

「やだ」

「…………」


このまま会話を行って意味があるのだろうか? いや、無い!


「イタイ、痛い! なのはちゃんギブ!!!」

「ロゥくん、相手は子供なんだから……」


精神干渉を使おうとしたらなのはにシメられた。 あなた意外とバイオレンスですね。

なのははオレを拘束したまま使い魔に話しかけた。


「ねぇ、お話聞かせてくれるかな?」

「いや。 おばさんにはなにも教えてあげない」

「…………」

「あー、なのはちゃん? 小さい子って自分より年上はみんなおじさんおばさんみたいな認識だったりすることもあるのですよ?」

「…………ロゥくん、わたしこの子と少しお話するからはずしてもらえるかな?」

「…………ハイ」


オレは一旦退室した。

しばし見ざる聞かざる言わざるの精神で過ごした。 部屋の中のセットアップの光なんて見えない、射撃音も聞こえない、暴挙を制止する声なんてかけない、だって自分が大事だから!!!

というより、なのはってこんなキレキャラだっけ!? 他作品の『O☆HA☆NA☆SHI』ネタに触発された作者の暴走であって欲しい、切にそう想います!!!


しばらくたってからなのはに呼ばれた。

リビングは先程となんら変わりはない。 不気味なほど。


「はい、じゃあ挨拶!」

「はじめまして、リア・アークの使い魔で『アイギス』といいます」

「これはご丁寧に、ミッドチルダ魔導師ロゥ・アイアス二等陸士です……なのはちゃん、なにやったの?」

「? 何って、少しお話しただけだよ」


オーケー、さっきのことはブラックボックスに入れておこう、気にしたら負けだ。


「じゃあ聞くけど……アイギスちゃん、何があったのか話してもらえるかな?」

「えと(チラ)」

「(ニコリ)」

「(ビクッ)ハイ! わかりましたッ!!!」


……気にしない!!!


そして、気を取りなおして使い魔――アイギスに質問を始めた。

始めたのだが――


「名前は?」

「アイギス」

「どこの世界から来たのかな?」

「わからない」

「ご主人はどうしたのかな?」

「わからない」

「何があったのかな?」

「わからない」


~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~


「~~~~?」

「わからない」

「…………」

「ロゥくん、わたしが代わろうか?」

「(ビクッ)」


アイギスは即座にオレの後ろに隠れた。 オレの服をつかんだ手が驚くほど震えている。

ホントに何をした~~!?


「あ~、なのはちゃん。 この子の言ってることは全部ほんとだからね?」


猛烈な勢いでうなずくアイギス、深紅の長髪がどこぞのバンドの人の如く振り乱れる。

髪の毛は置いといて、アイギスがいま答えたことは全て事実だろう。

ロゥは問答の間、絶えずアイギスの挙動を解析していたのだが不自然なところは見つからなかった。 嘘をつき慣れている者であれば見分けがつかないが、この使い魔がそれだけの技術を身につけているとは考え辛い。


「多分、一時的な記憶喪失。 うん、在り来たり過ぎてつまらないけど、何か精神ココロが壊れかけないほどのヒドイ体験でもしたんだとおもうよ?」

「そんな……」


思い出すだけで狂いかねない出来事、直視できないほど辛い記憶、背中でなのはに怯えている姿から想像出来ないような過去。


「……とりあえず、アースラに連絡して近くの有人世界で次元干渉事故が起こってないか調べてもらうかな」


それからしばらく、アースラと情報交換をしてアイギスについての今後の対策をたてた。

アイギスはアースラで保護しようという話になったのだが『マスターが探しに来るからここで待つ』と、本人の強い要望があったため、鳴海市に残ることになった。

そしてなのはとオレ、どちらの家に保護されるかという話になったのだが『お願い! こっちがイイ! ここに居させて!!!』と、本人の激しい要望があったため、オレの拠点に滞在することになった。 地味になのはがキズついていた…………本当に何をやったの!!!?


閑話休題?


ごたごたとアイギスの居住地が決まり一段落、丁度いいので三時のおやつタイム。

お茶菓子作りに時間をかける気はなかったので、小麦粉、卵、ミルク、ベーキングパウダーで生地を作り、あんこを包んで蒸籠せいろに並べ、それを水を張った小さなボウルの上にのせ電子レンジの中へ――


「出来ました手抜きアンマン(っぽいもの)!」


淹れたての紅茶とともにぽけっとしている二人の前へ差し出す。


「……ロゥくんって実は何でもできる?」

「何でもはできないよ、出来ることだけ」


最近読んだ小説の言い回しを使ってみた。 特に効果はなかった。

その後三人でのほほんと間食を楽しんだ。 こうも穏やかだとジュエルシードのことを忘れてしまいそうになる。

何でこんなことになってるんだろ?




――――アイギス


「さて、二人とも町の巡回に付き合ってよ」


マスターによく似たそいつはわたしが食べ終わるのを確認するとそう言い放った。

マスターに似ている。 似ているけど違う。

きっとマスターが子供だったらこんな姿だろうといった感じだ。 それともこいつが年をとったらマスターみたいになるのかもしれない。

そう、姿は年齢的に違う。 アイギスがマスターと間違えたのはもっと別な場所だ。

しかしそれはほんの一瞬のことで、別人だと認識してしまったわたしには何が似通っていたのかもうわからなくなっていた。


金色の髪、長い前髪で表情が分かりづらい。 前髪の隙間から覗く深緑色の瞳は虚ろで、そのくせ笑ったり嫌がったりするのがよくわかる。

ヘンなヤツだった。


「アイギスちゃんは知らないよね、ボクがこの町にいるのはジュエルシードっていう危険物を探すためなんだ。 で、今から探しに行こうというわけなんだよ」

「…………」


行ってもいいが、なのはというやつがいるのなら行きたくない。


「キミのご主人にバッタリ会うかも知れないよ? それにキミを見つけたときヒドイ怪我をしていたんだよ、もしかしたらご主人も怪我をして動けないでいるかもしれないし、ご主人の痕跡が見つかるかも知れないよ?」

「行く!」


マスターはとても強い、怪我をするなんてありえない。 けど方向音痴だから道に迷ってるかもしれない。

だったら早く見つけてあげなきゃ。



…………。……


日が落ちて道の端にポツポツと灯が燈る頃、巡回が終わりを迎えた。

「や~、ドンマイ? ボクもアイギスちゃんも、あとなのはちゃんも今日は付き合ってくれてアリガトね」

「…………」


マスターは見つからなかった。

探している途中でゲームセンターや図書館、公園、デパートなんかに寄ったりした。 そして現在港の公園に至る。 楽しかった。

マスターが来たら一緒に遊ぼうと思う。


「にしても、アイギスちゃんの世界の文化は遅れてるね。 車を見たとき『箱が走ってる!?』っていうのは傑作だったよ」

「ロゥくん、あんまりからかっちゃダメだよ」

「きょうは許す」


あんなに楽しいことを教えてくれたんだからこれぐらい大目に見る。


「ククッ、こんなに穏やかだと死ぬのが嫌になるな……」

「え?」

「?」

「何でもないよ……おお!? 空が面白いことになってる!?」


指された方を見ると灰色の雲に覆われた空、そこにポッカリとあいた隙間から金色の月が覗いていた。


「……ぅあ」

「角度的に目みたいだね?」


――月が睨んでいた


「あはは、じゃああそこがお口かな?」

「なる~、不気味な表情だね」


――空が不気味に嗤っていた


「----」

「----」


周りの音が遠くなる。

嫌な臭いがする。 打ち捨てられたモノが腐る臭い。

自分がどこにいるのかわからない。

マスターが巨大なナニカと闘っている。

ナニカはとても大きくて、空を覆うほど大きくて。

だけどマスターには勝てなくて。

そしたら、あの金色の目が私を睨んで

それから、それから――


「--っぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


アイギスの背に羽の様な紋様が翼を広げる。 その数百と八枚。

その中の数枚が砕け、周囲を塵に還す。


「――マスタァァァァァァ!!!!!!!」


少女の叫びが静かな港に響き渡った。




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