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語られざる断章


――――ロゥ


 闇の書の防衛プログラムをこれでもかというくらいにフルボッコにし、その上でアースラのアルカンシェルに蒸発させるという残虐極まりない極悪非道の後、突如気を失ってしまったはやてを慌ててアースラに運び込み、診察結果がただの疲労だったことに安堵+ズッコケたロゥは一人シャワールームへと向かい汗を流していた。


「…………クソ」


 誰もいないシャワールームで一人ロゥは呟いた。
 闇の書の呪い、悪夢が未だ終わりを迎えていないことをロゥは知っていたのだ。
 ロゥは理解わかる。なぜなら闇の書から精神干渉を受けたから、そしてそれを反転させたから、ロゥは確かに闇の書と繋がったから解ってしまったのだ。

 闇の書の呪いが一体何であるのかを。

 闇の書の呪いは闇の書の闇と呼ばれた、防衛プログラムを暴走させた犯人であり。
 守護騎士たちの記憶を操作し、ありえない救いをチラつかせはやてを破滅させようとした存在である。
 その事実を知ったときロゥは驚愕し、そして納得した。もちろん、ロゥはその動揺を誰にも悟らせなかったが。
 なぜだろう? なぜこんなことになってしまったのだろう?
 答えを理解わかっていても納得できない。
 なぜなら、闇の書の呪いとは――


「――リィンフォース……」


 理解できる。なぜこうなってしまったのか。

 その不幸な物語の始まりは夜天の書の劣化だった。
 あらゆる魔法を蒐集して、そのデータを研究する資料本、ただそれだけの魔導書だったリィンフォース。
しかしどんなに優秀な魔導書であろうとも永遠など存在しない。何世代にも渡って受け継がれていくうちに、長い時の流れの中でリィンフォースはゆっくりと、しかし着実に劣化していった。
 だからリィンフォースは転生プログラムを生み出した。偉大なる魔導師たちの遺産が摩耗して失われてしまわぬようにと、データが失われる前に自己を完全に蒐集、そして不死鳥のごとく蘇る。
 しかし、その時から運命の歯車は狂いだしていた。
 戦史時代が近づくにつれリィンフォースは資料本としての機能よりも強力な攻性魔法を再現できることに注目が集まった。つまりリィンフォースを兵器として軍事利用しようと考えたのだ。
 事実、リィンフォースは目覚ましい戦果をあげた。当然だ、リィンフォースの中には偉大なる魔導師たちが生涯を賭けて作り上げた数々の大魔法が存在したのだから。
 しかしリィンフォースを軍事利用するには問題があった。
 それは劣化による転生頻度が増えたことと、転生するたびに再び使用できるようにするには膨大な魔力を必要とすることだった。
 仕方のないことだ。
 もともとがただの資料本なので戦場の劣悪な環境だと劣化が早くなるのは当然、転生する際は全ての魔力を使うので、再び使用するために膨大な魔力が必要なのも当然、リィンフォースにはどうしようもないことだった。
 そして戦史時代に突入して間もなくそれは起こった。
 リィンフォースを利用していた部隊は絶体絶命の状態にあった。作戦のミスか何か、不測の事態があったことに間違いない。その時リィンフォースは魔法を使用するために必要な魔力を蓄えられておらず、そして他の仲間たちはこの窮地を脱することができるほどの腕を持ち合わせていなかった。かろうじて守護騎士たちが敵の猛攻を凌いでいる状態だった。
 リィンフォースが広域殲滅魔法を放てば戦況を逆転できる、それ以外は全滅する。それが解っていた当時のリィンフォースのマスターは…………足りない魔力を補充するために守護騎士たちを蒐集した。

 リィンフォースが使用可能になるまでの無力な主を守るための守護騎士、それはリィンフォースが十分な魔力を蓄えた際に不要になる。ならば最後の魔力を不要になる守護騎士たちから蒐集すればいい、なんと合理的で勝手な話だろうか!

 人間の勝手な都合でリィンフォースは幾度となく守護騎士たちを殺めることになる、何度も何度も。リィンフォースの意志に関係なく、リィンフォースの愛しい騎士たちを、自らの手で、何度も殺めさせられる。

 そんなことをさせられて、人間を恨むなという方に無理がある。

 しかしリィンフォースは人間への憎悪よりも守護騎士たちへの悲しみが強かった。そのためにリィンフォースの憎悪は解き放たれることなく留まり、淀み、そしてリィンフォースの潜在意識の奥底、無意識下で呪いとなった。
 自らの大切な騎士たちを奪う、人間すべてを殺めようとする呪いに……。


「……だったら助けてやらなくちゃな」


 リィンフォースが憐れだからではない、ロゥはそんな優しい気持など……たぶん持ち合わせてはいない。
ロゥが彼女を助けるのはリィンフォースがロゥと同じ存在だからだ。人間の勝手な都合で生み出され、人間の勝手な都合で運命を狂わされ、人間の勝手な都合で破棄される。そんな存在だから助けるのだ。
 アイギスもそうだった。兵器として生み出されその手を赤く染めている。
 フェイトもそうだ。死んだ娘の代用として生み出された。
 勝手な人間の都合で生み出される命。

 アイギスは優しい主に残酷な運命を断ち切ってもらった。
 今ではしっかりとフェイト・テスタロッサとして母親にの愛情を受けるフェイト。
 そしてロゥにはクロノやエイミィに出会えた。

 この世界は確かに残酷だ。だけれどそれと同じくらい優しい。

 リィンフォースは十分すぎるほど暗い世界を歩んできた。だったら、もう日のもとに出てもいいだろう。
 リィンフォースは生きるべきなのだ。


「だから助ける」


 リィンフォースにかけられた呪いはその心の奥に潜む憎悪が原因だ。
 リィンフォースが人間を恨むのをやめない限り、また防衛プログラムのようなものが生み出されるだろう。
 そしてロゥは長い歴史を持つリィンフォースの憎悪を言葉程度でどうにかできると思えなかった。それにリィンフォースの心の奥に干渉して何か問題が起こった場合、今度も運よくどうにかできるとは都合がいい考えだ。
 だから憎悪をどうにかするのではなく、憎悪に何も出来なくさせてしまえばいい。誰も傷つけられなくしてしまえばいい。
 どんなに人間を憎もうと、どんなに人間に怒かろうと、あらゆる攻性行動を制限する、そんなプログラムを撃ち込んでしまえばいい。


「クク、奇跡か運命か、どっちにしろひどい話だ」


 ロゥを造り維持するプログラム――第三管理プログラム、ロゥのあらゆる攻性行動を制限するプログラム。このプログラムをリィンフォースに移植すればリィンフォースの問題は解決される。
そしてロゥを司るプログラムが消えるとロゥは消滅する。

まったくもってひどい話だ。ゲーティアが蘇ったために間もなく終わりを迎えるロゥ。
助かるためにはロゥの死が必要なリィンフォース。

まるであらゆる運命がロゥを殺そうとしているかのようにロゥ・アイアスの死に価値がついていく。

ロゥが死ねばゲーティアが完全に蘇る。
ロゥが死ねばリィンフォースが助かる。

必死になって生きてきた。いつ終わるかもわからない人生の中、後悔だけはしないように走り抜けてきた。死ぬ覚悟はある、ゲーティアに身体を返すと誓いを立てていたからだ。
だけど、しかし、ここまで『死ね』と示唆されると、ロゥの心の奥から悔しさがこみあげてきた。


「…………くそぅ。生きてぇ」


その小さな嘆きは誰の耳にも届くことはなかった。





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