この一話で戦いを終わらせたかったのと学祭でまとまった時間が取れなかったのと風邪をひいたの三コンボで更新の遅れた朧木です。
こんな幼稚な作品を待っていてくれた読者の皆さまありがとうございました。
決戦
――――リンディ・ハラオウン
地球、衛星軌道上に待機する時空航行船・アースラのブリッジでは誰もが息をつく暇もなく戦っていた。そう、戦っているのだ。
絶えず現場のあらゆる情報を収集する者、その情報をまとめる者、町で起きた火災を鎮火する者、その指揮を執る者。
その中でリンディはリアルタイムで中継されるなのはたちの戦闘を見ていた。なのは、フェイト、アイギス、それにユーノとアルフが加わって、巧みに闇の書に攻撃を当てていた。
その結果、ひときわ強力な攻撃が直撃したとき、民の書はまるで凍りついたかのように沈黙した。
何が起こったのか。強力な攻撃で気を失っているわけでもなく、魔力ダメージでプログラムが欠損したようにも見えない。
ただ、止まっていた。
「…………」
何があったのか、映像を凝視するリンディ。
その時、一瞬映像が紫色の輝きに包まれ、光が収まった時には空中に造られた足場の上に座る黒マントの少年がいた。
『どうも、ご無沙汰ですね。とりあえずボクを信用してもらうところから始めた方がいいでしょうか?』
ニヤニヤと信用の置けない笑顔で少年はそんなことを言った。
少年――ロゥ・アイアスは今回の事件において守護騎士捕縛の妨害行為など明らかに管理局に敵対する行為を取っていた。
「……その必要はないわ、アイアス二等陸士。先程クロノ執務官から連絡がありました、あなたが誰の指示で動いていたのか、何のために動いていたのか。そして現状を打破できる秘策があると……」
『それはよかった。ではさっそく、まず秘策についてですが当初の予定と多少異なる事態が発生しましたが、無事に軌道修正が終わりボクの計画は順調に進んでいるといえますね』
それは吉報だった。
リンディは喜びを胸に、ロゥにその先を離すよう促した。
『現在、魔力ダメージによりフリーズした闇の書の内部空間で、主および管制プログラムが暴走中の自動防衛プログラムの切り離しを行っていますね。これが成功すると闇の書を闇の書たらしめるプログラムがなくなるわけですから闇の書は呪いの魔導書ではなくなり、晴れて夜天の書に返り咲くことができるのですよ』
そう言ってロゥは背後を振りかえり闇の書を確認した。その瞬間、彫像のように動かなかった闇の書が光に包まれた。
そして次の瞬間には空中に白く輝く小さな光球と、その下方の海面でドス黒い輝きを放つ巨大な球体に分離した。
『……Nice timing.切り離し成功したみたいですよ』
「…………」
アースラクルーたちはその言葉があまりにも平然と『あれ? 雨が降ってきた』程度の語調で言われたがためにその意味を理解することができなかった。しかしクルーたちはゆっくりとその言葉の意味を理解していき、囁き、笑い、そして歓声をあげた。
ブリッジに広がるざわめきの中、リンディは未だ集中を切らないロゥに問いかけた。
「アイアス二等陸士、闇の書の主の無事は確認できましたが切り離された防衛プログラムはどうなったのですか?」
リンディのその問いにざわめいていたブリッジが水を打ったように静まり返った。
「どうなったの? ロゥ君」
再び問いかけたリンディにロゥはやはりいつも通りの口調で、しかし十分な間をおいて答えた。
「………………ちょっとピンチですよ」
――――はやて
光に包まれた世界、そこではやては魔導書――夜天の書と向き合っていた。
「……管理者権限発動」
《防衛プログラムに割り込みをかけました。数分程度ですが暴走開始の遅延ができます》
「うん、それだけあったら十分や」
次にやるべきことは傷ついた愛しい騎士たちを癒すこと。
「リンカーコア送還。守護騎士システム、破損修復」
はやての周りに四つの輝きが生まれる。
それは大切な四人の家族の心臓であるリンカーコアだ。
そしてはやては彼女たちに呼びかけた。
「おいで、私の騎士たち……」
はやての言葉に応えるように四つのリンカーコアが輝く。
瞬間、はやては希望の光と共に現実世界へと帰還した。
はやての周りに四つのベルカ式魔法陣が浮かびあがった。
「我ら夜天の主の下に集いし騎士――」
鮮やかな紫の魔法陣の上でシグナムが言葉を紡ぐ。
「主ある限り我らの魂尽きること無し――」
やわらかな翠の魔法陣の上でシャマルが言葉を紡ぐ。
「この身に命ある限り我らは御身の下にあり――」
透き通る白の魔法陣の上でザフィーラが言葉を紡ぐ。
「我らが主、夜天の王、八神はやての名の下に――」
燃える赤の魔法陣の上でヴィータが言葉を紡ぐ。
「リィンフォース、私の杖と甲冑を――」
はやての言葉に王の甲冑が編み上げられる。
そしていまここに、夜天の王が降臨した。
――――クロノ
はやてが闇の書から解放され、騎士たちの無事、なのはたちとの再会を喜んでいるのをようやく戦域に到着したクロノはその上空から眺めていた。
「提督、見えますか?」
『ああ、よく見えるよ』
クロノは中継越しに現状を見守るグレアム提督に語りかけた。
「闇の書は呪われた魔導書でした。その呪いはいくつもの人生を喰らい、それにかかわった多くの人々の人生を狂わせてきました。アレのおかげで僕も母さんも、他の多くの被害者遺族も、こんなはずじゃない人生を進まなくちゃならなくなった」
闇の書が憎いかと問われればクロノは答えられない。
アレさえなければクロノは早くに父親を失うこともなかっただろう。こんなはずじゃなかった、それはきっとあなたも、リーゼたちも。
しかし、闇の書は望んでクロノの父を殺めたわけではない、歴代の主による改変でそういう存在にされた、いわば加害者にして被害者。
クロノは闇の書――いや、夜天の書に憎しみ以上に憐れみの感情があった。
「失くしてしまった過去は変えることができない、だから――」
クロノは確かな想いを胸に宣言する。
「今を戦って未来を変えます!」
「相も変わらずカッコイイねー、オレにはそんなセリフ言えないから羨ましい恨めしい妬ましい」
そこへどこからかロゥが足場を作りながらやってきた。
そして唐突にクロノに問いかけた。
「確認だクロノ。今まで反管理局ぶっちぎりな行動をとってきたオレの現目標はあの分離した防衛プログラムをどうにかして処理したい」
「ああ、管理局としてもアレをできるだけ早急に処分したい」
クロノの言葉にロゥはニヤリと口の端を吊り上げた。
「だったら信用云々はともかく共同戦線でいいな?」
「問題ない。キミは解決法を持っているみたいだが?」
「残念ながらオレの作戦は魔導書を破壊するのが目的のものだ、分離した防衛プログラムを破壊する作戦じゃない」
ロゥの元々の作戦ははやてと守護騎士たちを救うものだったらしい、その救うべき者たちに新たに夜天の書が加わってしまったために計画が狂ったようだ。
「そっちは?」
「極めて強力な凍結魔法がある」
クロノはグレアム提督から受け取ったデバイスをロゥに提示する。
「無理だな、一個人の魔法程度でどうにかなるようなモノだったら闇の書事件はとうの昔に解決してる」
「…………」
考え込むクロノ、しかし一向に名案は出てこない。
「行くぞクロノ」
難しい顔で考え込むクロノとは正反対にいつもの笑いを顔に張り付けてロゥは言った。
「考える頭は多い方がいい。なのはたちの再会ムードをぶち壊して、とっととこの物語に終止符を打つぞ」
そしてロゥは足場を蹴り、眼下のなのはたちの下へ飛び降りた。
――――ロゥ
はやてに抱きつき涙を流すヴィータ、それを優しく受け止めるはやて、二人を温かく見守るシグナムとシャマルとザフィーラ、そしてはやてたちの無事を心から喜ぶなのはとフェイトと使い魔‘s、以下略。
彼女たちの作り出す感動に溢れた空気にクロノはすまなさそうに、ロゥは面白そうに割り込んで現状を説明した。そしてロゥは解決案を求めた。
「時間がないから要点だけ言うよ。防衛プログラムの破壊は現状アースラのアルカンシェルという魔導砲でしかできない、けれどこれは威力が高すぎてこの場で使えば被害が甚大なのですよ。だからみんなには防衛プログラムを移動させる方法とアルカンシェルを使っても問題ない場所を考えて欲しいんだよね。移動方法は持って運ぶなんて不可能だから当然転移魔法、だけどあの質量はどんなに頑張っても転移し切れないよ。ああ、だったら削ればいいか、ここには武闘派がそろってるからどうにかなりそうだね。残る転移先は地球上じゃダメだよ、どこで撃とうともアルカンシェルの空間歪曲の影響が出るからね。どこかの無人世界もダメだからね、次元跳躍なんてただでさえ難しいんだから防衛プログラムに次元を越えさせるなんて危険なことはできないよ。安全性的にも魔力的にも転移の距離はアースラ付近が限界……ならそこに飛ばせばいいかな? ちょうど宇宙だから周りが被害を受けることもないしね。よし、みんなそれでいいね?」
「「「「「…………」」」」」
そのとき、その場にいたロゥ以外のメンバーは思った。
(((((質問の意味無いじゃん!)))))
…………。
…………。
…………。
色々とあった(なかった?)がやるべきことが決まりそれぞれが各自の配置についた。
「あたしたちはサポート班だ、あのうざいバリケードをうまく止めるよ」
「おう!」
「うん!」
ロゥの横にいたアルフが確認を取りそれにザフィーラとユーノが応えた。
ロゥもサポートだ。
「……始まるよ」
ロゥが呟いた瞬間、海上の黒い淀みが弾けて内部から形容し難い容姿の怪物が現れた。頭部に女性の上半身が付いている。
夜天の書を呪われた魔導書と呼ばせたプログラム、闇の書の闇が動き出した。
それに合わせてロゥたちは動き出す。
「「チェーンバインド!」」
アルフとユーノが魔力で作られた鎖で怪物の周りで蠢いていた触手を拘束し、さらに絞める圧力を強くし絶ち切った。
「ぉぉおおおッ! 鋼のくびき!」
ザフィーラが気合いと共に海面から無数のくびきが突き出し、アルフとユーノが討ち漏らした触手を串刺しにした。
「ちゃんと合わせろよ、高町なのは!」
「ヴィータちゃんもね!」
ヴィータが戦鎚――グラーフアイゼンを振り上げる。
「鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン!」
《ギガントフォーム》
ヴィータの持つグラーフアイゼンがその姿をあらゆる障壁を打ち砕く巨大な鉄槌へと変えた。
「轟天爆砕――ギガントシュラーク!」
振り下ろされた鉄槌は見事に防衛プログラムの四層の障壁の一つを砕いた。
「高町なのはとレイジングハート・エクセリオン、行きます!」
《ロードカートリッジ》
間髪いれずになのはが動いた。
レイジングハートから二発のカートリッジが排出され、それに合わせてレイジングハートから桜色の六枚の翼が現れる。
「エクセリオンバスター!」
放たれた砲撃魔法はヴィータに続き防衛プログラムの障壁を破壊した。
「剣の騎士シグナムが魂、炎の魔剣レバンティン」
抜き放った愛刀をかざすシグナム。
「刃と連結刃に次ぐもう一つの姿……」
《ボーゲンフォーム》
シグナムがレバンティンの柄頭にその鞘を当てると、レバンティンは弓の姿へと姿を変えた。
「駆けよハヤブサ!」
《ストームファルケン》
放たれた矢は文字通り空を駆け、防衛プログラムの障壁を打ち抜いた。
「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュ・ザンバー、行きます!」
大剣の姿をしたバルディッシュをフェイトは勢いよく振り上げた。そしてフェイトに呼ばれた雷がバルディッシュに纏われる。
「撃ち抜け雷刃!」
振り下ろされた刃に防衛プログラムの最後の障壁が切り裂かれた。
これで防衛プログラムは丸裸だ。
自分の身の危険を感じたのか今まで動かなかった防衛プログラムが攻撃に移った。
破壊された無数の触手が修復され、それぞれがロゥ達に向けて数多の砲撃魔法を放ってきた。
「きゃあ!」
「うわあ!」
「や~ら~れ~た~」
次々に撃ち落とされて行くロゥたち…………の幻影、防衛プログラムが攻撃しているのは全てロゥの作り上げた幻だった。
「当たるわけないけどこの弾幕は邪魔だな。アイギス、蹴散らせ」
「オッケー、マスター♪」
アイギスの背中の羽が一斉に散った。もちろん命の羽ではなくゲーティアから受け取った魔力で作られた羽だ。
「モードガトリング、いっけー!」
弾、弾、弾、例えるならば豪雨のごとく撃ち出された弾幕は砲撃を放っていた防衛プログラムの触手の全てをハチの巣にした。
「クロノ、はやて、このままじゃ埒が明かない、動きを止めた後一斉砲火で一気に決めるぞ!」
「「わかった!」」
はやてが前に出る。
「彼方より来たれヤドリギの枝、銀月のやりと成りて撃ち貫け!」
杖を掲げたはやての周囲に無数の銀槍が生み出される。
「石化の槍――ミストルティン!」
防衛プログラムは銀槍に貫かれた部分からみるみる石化し崩れていく。しかし防衛プログラムは崩れたそばからその部位を即座に再生していった。
その再生を抑えようとさらにクロノが動く。
「行くぞディランダル」
《OK.ボス》
クロノはグレアム提督の執念が作り上げたデバイスを掲げた。
「悠久なる凍土、凍て付く棺の内にて永遠の眠りを与えよ」
それだけで周囲の海が凍りついた。
クロノはデュランダルを闇の書へと向ける。
「凍て付け!」
《エターナルコフィン》
そして氷の海の中で蠢いていた防衛プログラムは強力な凍結魔法によりその動きを止めた。
「行くよ! フェイトちゃん! はやてちゃん!」
「「うん!」」
再び前に出る三人。
《スターライトブレイカー》
今まで散々まき散らされてきた大量の魔力がなのはの十八番、集束砲によりかき集められる。
「全力全開!」
レイジングハートを防衛プログラムに向けるなのは。
「雷光一閃!」
バルディッシュを振り上げるフェイト。
「ごめんな。おやすみな……」
人間の身勝手な想いのためにそんな姿にしてしまったこと、そして破壊することでしか止めてあげられない自分たちの無力さをはやては謝った。
「響け終焉の笛!」
はやての背後にベルカ式魔法陣が現れ、三角のそれのそれぞれの頂点に凄まじい魔力が練り上げられる。
そして――
「スターライトブレイカー!」
「プラズマザンバー!」
「ラグナロク!」
三つの強力な攻撃が放たれた。
桜、黄、銀の魔力が吹き荒れ、巨大な防衛プログラムの身体を削っていく。
「……つかまえ――た!」
シャマルが防衛プログラムの核を捕捉する。
そして待機していたロゥたちが即座に動く。
「強制転移魔法!」
「発動!」
「Dood by」
転移は一瞬で終わった。
役目を終えたロゥは魔力を使い切って飛べなくなったアイギスを支えながら空を見上げる。ほどなくして何かが弾けるのが見えた。
「たっまやー」
ロゥはそんなことを呟いた。
――ここに辛い戦いは終結した――
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