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懺悔と断罪


――――ロゥ


「はぁ――……」


長い溜息と共にオレはジト目でクロノを見る。


「…………なんだよ?」

「べつに、女の子に微笑みかけられて顔を真っ赤にしながら『ふ、ふん!』と明日の方角を見るアースラエースに言うことなんて何もございません」

「一体いつ僕がそんなことをした!? 何時、何分、何秒!?」

「ごめんクロノ、オレの見間違いだった」

「そ、そうか……」

「そんな恥態をさらすやつにライバル心を持ってたなんてオレ自身嫌だから、今回のことはお互い忘れよう」


たった今、ジュエルシード回収についての当面の予定を決定する会議が終わったところだった。

そして、今回の捜査に協力者が二人。


「ロゥくーん!」


高町なのはと、


「やあ、ロゥ。使い魔うんぬんはおいといて、あの助言はありがとう。おかげでいろいろ決心が付いたよ」


ユーノ・スクライアことなのはの使い魔である。


「ちょっと待った! ロゥまた失礼なことを考えたろ!?」

「ユーノ君……キミはサトリの才能を開花させたのかな?」


サトリ:人の心を読み取る妖怪


「開花させてないしそんな才能持ってない!」


うむ、今日もナイスなツッコミだ。


「それにしても、ほんとに二人ともモノ好きだよね。てか、我がまま? こっちの迷惑も考えずに」

「ごめんね。だけど最後までやりとげたかったから」


なのはがすまなそうにいう。


「うん、それにぼくはともかくなのはの魔力はそっちにとっても都合がいいだろ?」

「ま、そうだね」


二人とも今回の決断に色々な葛藤があったことだろう。

ロゥとしても、それだけ考えて出した答えをむげにすることはしない。

それはそれとして――


「なのはちゃん、例のブツは?」

「ほえ? 例のブツ……あ、うん! はいこれ、みんなで食べて」


なのはが取り出したのは翠屋のケーキの入ってるであろう箱だった。それも段ボール。


「どっから取り出したかは気にせず……う~ん、うまそうな匂いがする」

「ロゥ、それは何だ?」

「鳴海市の翠屋ってゆう店のケーキ詰め合わせ、なのはちゃんに持ってきてもらった」

「…………そんなにまずいのか?」

「ちょっと待て! 確かにオレはゲテモノ好きだが旨いもんは旨いものでちゃんと食うぞ!」

「腐った缶詰を食べる奴の言葉は信用ならないな」

「シュールストレミングはああゆうものだ! てか、そんなに疑うなら食うな!」


正直、翠屋のケーキは旨いからこの段ボール中身を独り占めしたい。


「あら、みんなこんなところで何をしているの?」

「ぅわ、こんなところにも……」

「ロゥ君、女性にまるで家具の後ろの隙間に生えたカビを見つけたときのような反応をするのは大変失礼よ」

「やっぱり、発生源はクロノか……」


きっとクロノから細胞分裂みたいに、にゅーっとリンディさんが……。


「そうそう、ついでだからこれからのことを話しておくわ。ジュエルシードの探索、位置特定はこちらでするわ、場所がわかったらなのはさんとユーノ君には現地に向かってもらいます」

「や、リンディさん! そうゆうことはついでで言っちゃダメでしょ!」

「だってー、いちいち集まってもらうのも面倒だしー、それだったらここで言っちゃた方がいいかなーなんて」


てへっ、とやるリンディさん。

ごめんなさい。軽く殺意がわきました。


「ところでなのはちゃんは学校とか大丈夫なの?」

「あ、うん。家族と友達には説明してるから」


ロゥはその答えに満足した。

もし仮に誰にも言わずに来たとかぬかしやがったら、即刻自宅に転移させるつもりだったのだ。


よし、何の問題もない。今回の事件に参加することでなのはの日常が壊れることはない、危険な任務だがなのはもユーノもオレがサポートするから問題ない、オレがダメでもクロノがいる。

あとは黒い方――フェイトを説得できればいいだけだ。


「あら? ずいぶん嬉しそうねロゥ君」

「え!? リンディさんわかるんですか!?」

「待ってなのはちゃん! それじゃボクが能面無表情野郎みたいじゃないかな!」

「気付いていなかったのか?」

「うそ!? こんなに表情豊かなのに……」

「今もすごい淡々と喋ってるよ?」


自覚なかった。


「かなりショック……」



その後、エイミィからジュエルシード発見の連絡を受けて、なのはとユーノと共にジュエルシードの確保に行くのだった。


これは余談だが、翠屋のケーキはロゥが確保に向かってるあいだに全てアースラクルーの腹の中に消えた……この野郎!




――――なのは


鳴海市の人気の無い森の奥。

ジュエルシードの位置がわかったので急いできてみたのだが、なんだか火の付いた大きな鳥さんが火をふきながら暴れていた。

そんな火の嵐の中をロゥくんはポケットに両手を突っ込んでまるで散歩でもするように歩いている。

よく見るとロゥくんは自分に向かって飛んで来た火を全部シールドはじいている。


「Let’s go.(ほら行け) あくまでボクは保険だから。二人がダメだったときしか動かないからね」

「うん、わかった。いくよ! ユーノくん! レイジングハート!」

「わかった!」

〈了解しました〉


相変わらず無表情なロゥくんの言葉に、わたしたちは火の鳥に向かうのでした。



――そして、


空を猛スピードで飛んでいた火の鳥はようやく木の陰で待ち伏せしていたユーノくんのチェーンバインドに捕まった。


「捕まえた! なのは!」

「うん!」〈シーリングモード〉


レイジングハートが三枚の翼をもつシューティングモードへ変わる。


「ディバイン――」


わたしはレイジングハートにおもいっきり魔力を注ぎ込む。


「――バスター!!!」


桜色に輝く奔流が火の鳥を飲み込む。火の鳥がジュエルシードにもどる。

ところが、


「あ、あぶない!」


なんと勢いあまったディバインバスターがそのままの勢いでロゥくんに向かって飛んで行く。

ロゥくんは避ける気がないのかぼんやりと立ったままである。両手をポケットから出しもしない。

そして、ディバインバスターが直撃する。

その直前、


「Dispell(解呪)」


ディバインバスターが砕け散った。




――――ロゥ


ベッドの上に段ボールが積み上げられ、机の上は実験器具に占拠され、床の上はレポートや辞書や専門書やグラフや資料に埋め尽くされている。不潔なわけではないが、はっきり言って汚い。

この部屋が何かというと、ロゥの部屋だ。


「……少し散らかってるけど気にせずどうぞ」

「…………うん」


オレに促されてどこかゾンビのようななのはが部屋に入る。

実は今回、なのはの戦闘を間近でいて気付いた事なのだが、なのはは魔力の制御が下手だ。

ジュエルシードの相手だけならば問題ないのだが、フェイトのような戦闘経験の豊富な奴が相手だと心もとない。

だから魔力制御の簡単な練習方法を教えてやろうと思ったのだが、


「お~い、なのはー」

「………………」


……返事がない、ただの屍のようだ。


「……ごめんね」

「返事があった! 只者じゃない屍のようだ!!! じゃなくて、なに?」

「ごめんね、ロゥくん。わたしもう少しでロゥくんを打ち抜くところだった。ロゥくんはこうゆうことになるからってちゃんと注意してくれたのに、忘れるなって言ったのにわたし――」


俯くなのはの顔から透明なしずくが流れ落ち、なのはの足元のレポートにしみを作る。


「――わたし、前もこうゆうことがあって、もうこんなことがないようにって、頑張るって決めたのに――」


きっと自分の不注意から誰かに迷惑をかけたことがあるのだろう。

そう、一期の三話あたりで。


「――なのに、フェイトちゃんが現れて、フェイトちゃんのことしか考えられなくて、一番大切なことを忘れて、火の鳥と戦ってる時もフェイトちゃんのことを考えてて――」


あー、なのはをおとすならここで優しく慰めればいいんだろうけど、


「戦闘中に別のことを考え、その上フレンドリーファイア……最悪だな」


残念、オレにその気はないし、その気があったとしても厳しいことしか言えない。

なのはから噛み殺してはいるが嗚咽が聞こえる。

恋人出来ないだろうな……。


「おい、なのは。お前の言った通りだ。幸い不幸な目にあった奴はいないが、それこそあそこにいたのがオレ以外の奴だったら無事じゃなかった可能性がある。いや、その可能性が高い。集団戦は個人戦と違って複数の人間から構築され戦闘を行う。性格も能力も違う個人の集まりだ、連携なんて難しい。長年チームを組んでいようとそれは変わらない。最近できたチームで考え事の片手間に戦うなんて論外だ」


なのはが完全に泣き出す。

今、オレが言ったことはなのはも既にわかってたことだろう。

なのはの周りはみんな優しいから、きっとみんな優しく慰めたんだろう。

しかたなかった。しょうがない。次から気をつければいい。

――優しすぎる世界

なのはは強いから、しっかりしてるから、綺麗だから、みんな背中を押す。

――優しさに包まれて

物分かりがいいから改めて罪を突き付けることはない。

――優しさに満たされて

裁かれないなのは、自分で自分に罰を与える。

――そして

しかし、どれだけ罰を受ければ許されるかわからない。

――息が詰まり

わからないから裁き続けて。

――溺れる

自分に厳しくすることで。

――どんなにもがいても

許しを乞う。

――優しさに埋もれ

返事はない。

――沈む――



だからオレに懺悔する。

彼女の周りで唯一の断罪者。遠慮のない異質な存在のオレに。

なのはに罪を突き付ける存在であるオレに。

優しさに沈んだ彼女を冷たい刃で救い上ることが出来るオレに。

なのはがオレに求めるのは裁きだけ。


オレは――裁く。


「今回のことは許されない。ルールのことじゃない、一つの業として、罪として。罪は許されるものじゃない。今回のことを一生胸に刻んで忘れるな」


それだけ言うとオレは沈黙し、声をあげて泣くなのはを見続ける。

なのはという存在は強くてまっすぐで優しくて、そんな彼女だからこそみんな助けたくなる。

実をいうとオレも今すぐ慰めてやりたい衝動に駆られている……自制してるけど。

今慰めたらみんなと同じだし。


なのははしばらく泣くと立ち上がった。

その顔は多少影はあるがなにかが吹っ切れたような感じがあった。


「今日はごめんね」

「ああ」

「せっかく注意してくれたのに無駄にしてごめんね」

「ああ」

「レポート読めなくししちゃってごめんね」

「あぁ!!!」

「あやまってばかりでごめんね」

「…………」


なのはが扉に向かう。自分の部屋に帰るのだろう。


「……なのはちゃん」


そのなのはに声をかける。

なのはは扉の方を向いたまま立ち止まる。


「罪は背負うもので引きずるものじゃないよ」


優しさはダメだからこんな慰めにもならない言葉が出た。


「……ロゥくん」


なのはは言う。


「ありがとう♪」


振り向いたなのはの表情はとてもきれいだった。




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