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目的


――――ロゥ


ロゥは再び鳴海市に訪れていた。

日もすでに沈み明りが灯る町、その上空の魔法陣の上にロゥはたたずむ。

これからロゥは重大な命令違反をするつもりだ。いや、無断で鳴海市に来た時点ですでに命令違反なので、重大な命令違反をしていると言った方が的確だろう。

ロゥはこれから自分のやることがどれだけ危険なことかはっきりと理解している。それは自分の命だけでなく、アースラクルーの生命を脅かすこともだ。


「……可能性だけだけどね」


しかし、ロゥはこうせずには居られなかった。

これからすることは、ロゥにとってアースラクルーよりも重要なことなのだ。

たとえそれが、傍から見るとどんなに小さなことであろうとも……



「……間違いない黒い方だ」


ロゥは自分の感知魔法を見て確信した。

ロゥは訳あって攻性魔法が使えないが、そのほかの魔法はとても優秀なのだ。


「……座標特定完了」


ロゥは転移魔法を構成し、消えた。



――――フェイト(黒い奴)


拠点にしているビルの部屋、窓際のソファーの上にわたしは横たわっていた。

体が重い。まるで自分の体じゃないみたいだ。

きっと連日の無理がたたったのだろう。その上、被殺傷になってるとはいえ管理局の射撃魔法を受けたのだ。

フェイトは瞼を開く。

時計を見ると、ジュエルシードを探しに行く時間を大きく過ぎていた。


「うっ、くっ!」


わたしは重たい体を持ち上げる。いや、持ち上げようとしたが動かなかった。

わたしの傷ついた体をアルフが押さえている。


「だめだよ! 時空管理局まで出て来たんじゃ、もうどうにもならないよ! ……逃げようよ。二人でどっかにさぁ」

「それはだめだよ」

「だって!」


アルフが心配してくれるのがわかる。


「ザコクラスならともかく、あいつら一流の魔道師だ! 本気で操作されたらここだっていつまでばれずにいられるか……」


全部わたしのことを考えて言ってくれてるってわかる。


「あの鬼婆! あんたの母さんだってわけわかんないことばっか言うし、フェイトにひどいことばっかするし」


だけど、


「母さんのこと、悪く言わないで……」

「いうよ!」


アルフがうつむく。

あんなに涙をこらえて、せっかくのかわいい顔が台無しだ。


「だって私、フェイトのことが心配だ! フェイトが悲しんでるとわたしの胸も千切れそうに痛いんだ! フェイトが泣いてるとわたしも目と鼻の奥がずんとして、どうしようもなくなるんだ! フェイトが泣くのも悲しむのも――」


アルフが泣きそうな顔でまっすぐ私を見る。


「――私、嫌なんだよぅ!」


わたしのせいだ。

全部、わたしのせいだ。

わたしが弱いからアルフは泣いちゃうし、わたしがどんくさいから母さんはわたしを怒る。

そして、私が何も言わないから『あの子』はわたしとお話をするためだけに危険をおかす。

全部わたしのせいなんだ。


「わたしとアルフは少しだけど精神リンクしてるからね。……ごめんね。アルフが痛いなら、わたしもう悲しまないし泣かないよ」


だからこれは、わたしがアルフにできる精一杯の謝罪。

だけど、ついにアルフの目から涙が流れだす。


「わたしはフェイトに笑って! 幸せになってほしいだけなんだ! なんで! なんでわかってくれないんだよぅ!」


慰めたいけどわたしはそのすべを知らない。

だから、わたしは自分の想いを語る。


「ありがとうアルフ。……でもね、わたし母さんの願いを叶えてあげたいの。母さんのためだけじゃない、きっと自分のために……だからあともう少し、最後までもう少しだから――」


わたしはアルフの頭をなでながら問う。


「――わたしと一緒に頑張ってくれる?」


わたしの言葉にアルフは涙をふき、何かを言おうと口を開ける。

しかし、何者かの魔力反応に閉ざされてしまう。


「誰かがここに転移してくる!?」


魔力はしだい強くなり空間が歪む。

それを見て思い出すは、フェイトたちを多重転移で追ってきた魔道師。

わたしはバルディッシュをつかみ迎撃の構えをとる。

やがて空間の歪みから音もなくあの魔道師が降りたった。


「「はあ――!」」


アルフと共に迎撃する。

しかし、すべてバリアに受け止められる。

フェイトはすぐに第二波を放とうとして止めた。


「突然だけどお願いがあってきたんだよね。信用できないのならバインドや結界に閉じ込めてくれていいよ?」


金色の前髪で表情の隠れたそいつは、両手をあげてそう言ったのだ。

とりあえず、フェイトたちに危害を加える様子がないので話を聞くことにする。バルディッシュは向けたままだ。


「一体、何の用?」

「バインドで拘束しないの? 交渉が決裂して戦闘になった際、有利になるよ?」

「……アルフ」


わたしはアルフにバインドで拘束させる。

そいつはしっかりと拘束されているのを確認すると話し始めた。


「さて、ボクがなぜここに来たかだったね? それは最初に言った通りキミたちににお願いがあったからだよ」

「お前に話すことなんかない!」


アルフが反射的に答える。

しかし魔道師はアルフを無視して話を続ける。


「もし、この質問に納得のいく答えがもらえたら、ボクは管理局が発見したジュエルシードの位置および管理局の動向を教えてあげるよ」

「……それは明らかに管理局を裏切る行為だよね? 管理局を裏切ってまであなたがして欲しいお願いってなに?」

「とても簡単なことだよ。だけど、ボクにとってはとても重要なことだけれどね」


魔道師は前髪の隙間から虚ろな緑眼でフェイトを見つめ言う。


「ジュエルシードを集めた後、管理局に投降して欲しいんだ」


魔道師のお願いだった。


「キミたちの目的はまだ判明してないんだ。今の段階でなら『珍しいので集めてみた』という無理な言い訳もギリギリ通るよ? うちの執務官は頑固ですが型物じゃないんでどうにかしてくれるからね」


そのお願いはとんでもないものだったが、フェイトにとっては魔道師が言ってることは正直どうでもよかった。

わたしは母さんの願いを叶えたいから、そのためなら犯罪者になってもいいから。

だから、


「その申し出はうれしいけど……断らせてもらうよ」

「そうなんだ。残念だよ」

「もういいの? もっとねばると思ってたけど」

「意思が固そうだからね、これ以上は逆効果になりかねないよ」

「そう……ひとつ聞いていい?」


一つだけ、フェイトが気になったことがある。

それは、


「どうしてこんなことをしたの?」


彼がしたことは全てフェイトたちのメリットになることで、彼自身になんのメリットもないのだ。

彼は仲間を危険にさらしてまで何がしたかったのだろう?


「『どうして?』か…………キミに惚れたからだよ」

「そうなんだ……………………………………………………………………………………え?」


顔が熱湯に突っ込んだみたいに熱くなる。鏡を見たらきっと真っ赤だろう。もしかしたら火を吹いてるかもしれない。


「え? えと? それはつまりそうゆうことで? え? あの! その気持ちは嬉しいんだけどけどやっぱり年齢的に若すぎるしわたし犯罪者だしまだ会ったばかりだし――」


「ク、ククッ」


フェイトがあたふたしていると、どこからともなくくぐもった笑いが聞こえて来た。

目の前で魔道師が腹を抱えて笑っていた。

なんというか、あきれる。


「こうゆう方がいいだろ?」


魔道師がいままでと違った崩れた態度で聞いてくる。


「ボクはね、人が傷つくのが嫌いなんだよ。笑えないからね。それは味方は当然、戦うべき敵であってもそうだよ。傷つくのは見たくないよ。そのためならボクは何でもする、命を賭けるし仲間も裏切る。そうやって生きて来たからね。それが理由だよ。……さて、お願いも断られたしそろそろ帰るかな」

「おーと待った!」


立ち上がった魔道師をアルフが止める。


「フェイトの邪魔をするような奴を黙って返すと思ったかい?」

「アルフ!」

「フェイト! こいつのはここで仕留めた方がいい! 大丈夫、ジュエルシードを集めてるあいだ動けないよう手足の骨を砕くだけだから!」

「それは困るのでもう行くよ」

「え?」


気が付けば魔道師はアルフのバインドを消し去り、それどころかフェイトとアルフを結界魔法で捕らえていた。


「さて、お兄さんからの忠告だ。バインドは魔力を込めればいいというものじゃない。そういった力任せは『解呪魔道師ディスペラー』にはきかないから面倒でも魔力を細かく編み上げること」


そう言いながら魔道師はフェイトたちの目の前で転移魔法を編み上げていく。


「そうそう、自己紹介をしてなかった。オレはロゥ・アイアス二等陸士だ。お前らは?」

「……フェイト・テスタロッサ」

「アルフだ!」

「フェイト、アルフ。オレは諦める気ないから。しつこいぜオレは。それは執務官のお墨付きだから覚悟しておけ。無血終結、それ以外に興味はないから。じゃあね」


魔道師――ロゥ・アイアスは言いたいことをいうと私たちの前から消えて行った。



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