無事梁山泊から帰ってきた作者です! 今回ムクロ戦を全部入れたかったもんで結構長めになりました♪
相変わらず戦闘描写難しいね♪
仙水さん戦争する
呪念錠という束縛が解かれた以上、当然長年の負荷も無くなったわけで体は羽根のように軽いが、地面と己を結びつける重力が無くなったような喪失感もある。かつての祖先が何とかその重力から解放されようと飛行船を開発したことを考えれば贅沢な願いかもしれない
少し体を慣らしたかったが、そうはさせじと前方から三つの殺気がやってくる。その三人は俺達が立っているビルの屋上まで一気に上り詰めるとその姿を現した
毒々しい色の戦闘装束に身を包んだ男達は全員これまた悪趣味な篭手を装備して、一糸乱れぬフォーメーションで三方向から襲い掛かる。一対多数の場合は、敵全員に気を配る必要があるので基本的にどうしても一人側は受け手に回ってしまう。しかし多数は攻め手に回れ、更に周りがカバーしてくれるので各々の全力の一撃を叩き込むことが出来る。
それはこの三人にも言えることでほとんど硬に近い凝で攻撃して来た。その判断は概ね正しい
だが……今回に限ってその考えは甘かった
三人の渾身の一撃は全て俺の体に直撃したがアザ一つつかないどころか、当たったにも関わらずその衝撃はまるで最初から無かったものとして体を微々と動かさなかった。
一瞬息を呑む三人の急所に攻撃を入れることは随分容易いもの
腹部に攻撃を受けたものは上半身と下半身が真っ二つに裂け、頭部は脳髄を撒き散らして粉砕された。
「凄まじいオーラだな。例の念具を外せばそこまでの力を手に入れられるのか?」
死体を興味深そうに眺めながらクロロは尋ねる。
「ああ。着けた時間と外した後のオーラ量が比例する。一度しか使うことが出来ないがな」
「成る程。……とりあえず作戦変更だな。お前にそこまでのオーラがあるのなら夜号の長の元へ連れて行って、タイマンさせるほうがよっぽど効率的だ。知らない間じゃないんだろう?」
元々旅団でもないのにクロロたちを巻き込んでしまった責任が俺にはある。そこを言わずにおいてくれるクロロへの恩を仇で返すほど人間が出来ていないわけではないので勿論だと頷いておく。
とりあえずムクロとその護衛をバラかさないことには話が進まない。聖光気を身につけた今の俺でさえムクロの相手をしながら、護衛の連中と殺り合うことは出来ないからだ。それほどムクロからはこの距離で見える程邪悪で濃密なオーラが滲み出ている。
その為にはとにかく人員が必要となる。クロロは殺し合いをやっている最中のノブナガとマチを呼び出すと作戦の概要を話しだした。
「へぇ、いかにも団長らしい大胆な作戦だな。それより仙水! お前何だそのオーラ!? この間まで纏しか出来ないへなちょこ野朗じゃなかったか?」
「今は真面目な話だってのに…。仙水のことは後で聞くとして、面白そうだね」
「マチ、お前は成功すると思うか?」
「成功すると思うよ。あたしの勘だけどね」
「その言葉が聞きたかった」
最初のビルの屋上にクロロ、ノブナガ、マチ、コルトピ、ハギリ、俺と揃ったところで作戦は始まる。
向かいあうムクロたちと俺達がいるビルの直線状には大きな道路が走っている
この空間を利用しない手はない
その為に最初クロロは道路を挟む左右に戦力を分散させたのだ
「コルトピ頼む」
「分かったよ」
コルトピの能力でコピーされたビルが道路上に次々と具現化されていく。あっと言う間にムクロのいるビルまでの直通路が完成すると、ビルの上を通って走りだす。
ムクロのビルまで行くにはどうしても敵側の能力者が出した壁が邪魔だったので、コルトピの能力で壁を越す高さのビルを具現化したのだ。ただの壁を出すだけの能力とは篭っているオーラ量から見てとても思えないので今回このような安全策をとった
「相変わらずコルトピの能力はすげぇわな」
「でもボク戦闘能力はほとんど無いから」
「それだけ出来たら十分だよ」
コルトピを脇に抱えながらビルの上を駆けるノブナガは本当に楽しそうだ。
途中、ムクロの元へ向かう俺達を止めようと来た連中もいたが相手をする前に、その連中を追いかけていたシャルナークやウボォーギンがそれを阻止したので道中は平和だった。
問題はここからだが……
いよいよムクロのいるビルを見上げる距離にまで近づくと、ムクロ直属の上半身裸の厳ついスキンヘッド男が何やら床に両手を押し当て始める。
何をする気か分からないがこの先の壁さえ越えれば――
――ゴゴゴゴォ
不気味な重低音と共に飛び越えようとしていた壁が急に高さを変えて、乗っていたビルの約二倍の高さになる。俺達は壁の異変に一瞬早く気づいたマチの念糸によって難を逃れたが、一人突っ走っていたノブナガは既に遅く抱えていたコルトピをこちらへ投げ渡すと、壁へ真正面から激突する。衝撃自体はそんなに凄いものではなく、せいぜい鼻を折るぐらいだったが、ノブナガは壁にぶつかると同時にまるでゴキブリホイホイのようにくっ付いて離れない。
「何だこりゃ!? 磁力か?」
「危ないとこだったな。もう少しマチが気づくのが遅ければ全滅だった」
本当にそうとは分からない程度に少し微笑みながらクロロの放つセリフにノブナガが団長っ!! と大声を上げている。
「まぁ、別に残された道はここだけじゃないから――
――ゴゴゴゴォ
――ゴゴゴゴォ
――ゴゴゴゴォ
マチのセリフに合わせてビルの四方を囲うように四枚の壁が現れ、ビルの侵入路は空を残してなくなる。一度烈蹴紅球波を打ってみたが特殊な念でも込められているのか、罅さえ入らない。仕方無いと地下から侵入しようとしたが地下にも同様の物が伸びていてそれも無理だった。
「どうする? さすがにあの高さは飛び越えれないんだけど」
「仙水、今のお前なら何とか行けるんじゃないか?」
「ジャンプの瞬間足に全オーラを集中させれば何とかなるかもしれないが、まだオーラ(聖光気)の扱いに慣れていないから飛びすぎて下から狙い撃ちになるか、距離が届かずノブナガのようになるのがオチだな」
「案外役に立たないんだな」
ハギリにそう言われても仕方無いほど、まだ聖光気をコントロールしきれてない。今まで纏しか出来ないほどのオーラ量だったのが、他を圧倒するほどのオーラをいきなり手に入れて直ぐに扱える方が不自然だと思うのだが…
図星は図星だ
この聖光気でいずれ空を舞うことさえ可能になる日は来るのだろうか? オーラをある程度具現化すれば出来ないこともなさそうだが今は到底無理そうだな
ふと背中をツンツンと突く感触を感じた。コルトピだ
「このビルの上にもう一棟ビルを具現化するからどいていて。僕の能力は具現化する場所に障害物があると発動できないから」
確かに壁の高さはちょうどこのビルの二倍。具現化したビルの上から移動すれば壁に邪魔されずムクロたちのもとへたどり着けるはずだ。
だが相手もそれを悠長に待っていてくれるほど優しくない。この作戦において重要なことはコルトピが具現化したビルを素早く上り、スキンヘッド男が能力を発動させる前にムクロのいるビルにどれだけ移動するかに掛かっている。
「あとボクが具現化したビルは建物の基礎までしっかりコピーするから、具現化した瞬間下のビルは上のビルの重さで潰れ始めるよ。だからなるべく早く飛び移ってね」
コルトピの助言どおりに具現化する一つ前のビルに移り体勢を整える。
三・ニ・一の合図でコルトピがビルを具現化した。俺達は不吉な音を立ててゆっくり崩れていく下のビルの窓の桟に飛びつき、それを足がかりにして上へ上へとバッタのように跳躍する
上のビルの屋上にたどり着いた時にはすぐ目の前にムクロ達の姿が…
しかしビルは既に前へと傾き始め、更に悪い事にスキンヘッドの男が再び能力を発動させようと床に手を着けようとしていた。
―ドン! ドドドン!
崩れ行くビルの叫びに合わせてハギリのコルトバイソンが火を噴く。俗に言うワンホールショット、一度打った場所と寸分違わずに同じ場所に打ち込む神業がスキンヘッドの男を違わず狙い、壁の高さを変えることを諦め自身の防御に回すほどの腕前だった。
その隙に慣性の法則によって崩れ行くビルの勢いを利用してムクロ達の下へたどり着くことは俺達にとって苦ではなかった。
ムクロの周りを囲う精鋭たちは殺気を強め、互いに激突の瞬間を待つ。その緊迫した空気を破ったのはやはりムクロだった。精鋭たちを片手で止めると囲いを破り一歩ずつこちらへ歩いてくる。包帯越しにムクロが酷く楽しげに興奮しながら殺気を撒いてくるという器用な事をしていたので、あまり近寄りたく無かったがクロロとハギリに目で急かされて大人しく一人歩き、あと二メートルというところで立ち止まり向かい合う。
「よく来たな。歓迎しよう」
気のせいだろうか。そのムクロの言葉に背後から奇妙な気配と殺気が膨れ上がる
この感じはおそらくマチだろうが、殺気を向ける相手がムクロではなく俺な訳はいったいどうしてだろうか? さすがに前と後ろから殺気で挟まれるのは勘弁して貰いたい
「歓迎という割りに、ここへ近づかせないために壁を作るのはどういう訳だ?」
俺の言葉にスキンヘッドの男が怒りを顕にして飛び掛ろうと身構えたが、再度ムクロが手で制止させると大人しく引き下がった。
「あれは忠誠心故の行為だ。さすがにそれを止めるほどオレは厳しいわけじゃないし、お前らならあの程度超えてくると分かっていたからな。それにしても見間違えたぞ、何か隠していると思っていたがそこまでのオーラを隠し持っていたとは」
「あの時は持っていなかったさ。だから俺はムクロに負けた。だが今度はそうはいかない」
「ほう、見せてもらおうか。その真の力とやらを」
ムクロの黒いオーラと俺の黄金のオーラがぶつかり合う。互いのオーラが触れている場所はチリチリと静電気のような音を発しながら反発する。
俺とムクロのオーラはまったくの逆なのだ。光と闇、火と水、聖と邪
正反対の位置に属する物は互いに惹かれあい、拒絶し、袂を別つ。
唯一共通しているのはどちらも貪欲に力を求め、そしてその力を手に入れたということだけ。
「ハギリ、ノブナガが使えなくなった今お前がその代わりだ。予定通り護衛をばらすぞ」
「ああ、貰った金の分は働くさ」
クロロたちは作戦に取り掛かったようだ。俺とムクロが向き合っていた最中隠でコソコソやっていたのが関係あるのだろう、次々とムクロの護衛たちが消える。
スキルハンターの瞬間移動能力を使ったようだ。後はマチ、クロロ、ハギリが足止めしてくれると信じて、ムクロと戦うことだけに集中すればいい。
……ノブナガは本当に使えないな
「邪魔者は消えたようだな。これで思う存分楽しめる」
ムクロはやはり小細工に気づいていたようだ。それでもそれを止めようとしなかったのは強者の自信か、それともこちらの意向に気づいていたのか?
前者ならつけいるチャンスはありそうだが、ムクロなら十中八九後者のような気がする
やはり本当に戦いたくない相手だ
だがここまで来てそうも言ってられないのが事実
ただ今は俺の全力をぶつける。考えるのはそれだけでいい
先手必勝とばかりに懐へ潜り込んで掌底をムクロの鳩尾に叩き込む。今の俺は聖光気で念の攻防力が跳ね上がっているので、さすがのムクロもダメージを免れないレベルだ。
しかしやはり相手はムクロ、掌底をひょいと横に避けると裾の中で両腕を組んだままアクロバテイックな動きで飛び後ろ蹴りに繋げて来た。
それに若干遅れて回し蹴りで向かい打つと、互いの力が拮抗していたせいか完全に衝撃を殺しきり脚が止まる。
ムクロはそのまま宙返りして地面に着地。どうやら相手が宙に浮いていたことを差し引いても蹴りの威力はどうやら俺の方が強いらしい。そうでもなければ一番威力を乗せられる飛び後ろ蹴りに後手の回し蹴りで相殺できるものか
お互い一度距離をとって、裂帛の気合をあげながら再びぶつかる。
貫手、手刀、肘打ち、踵落とし、互いの技の全てが急所を狙い、一発当たっただけで肉が消し飛ぶほどの威力。元々烈蹴拳は攻撃を受け流すことに長けているが、その烈蹴拳を極めた俺でさえ掠った攻撃が肉を切り裂く。
それはムクロも同じようで、ポタポタと血を流しながら
「やはり真剣勝負はいいものだ。決する瞬間互いの道程が花火のように咲いて散る。特にお前のような相手になるとな」
とご満悦な様子だ。
何のことやらと首を傾げてやると何がツボに入ったのか笑いが止まらなくなるムクロ。ようやっと落ち着いて面を上げたその顔にはギラギラと輝く片目があった
「お前のことはだいたい分かった。だがオレばっかり分かっちゃ不公平だろう? お前にはオレの素顔を特別に見せてやるよ」
ムクロはスルスルと神字の呪符付き包帯を外していく。左半身を見た時は隠すのも勿体無いほどの美人だったが、右半身を見て包帯で姿を隠す訳を知った
右半身の皮膚はほとんど溶けているのだろう。女の命である顔の眼球が剥きだしになっているせいで初見の人は叫び声すら上げるかもしれないほどグロテスクだ。おそらく硫酸かなにかを被ったのだろう
右腕は義手なのか、金属製のフレームで作られたそれは強度も精度も申し分ないようで、ムクロはそれを証明するように義手の指先を器用に動かす。
普通ならそのムクロの姿を見てショックを受けるなり、何か思うのだろうが自分でも驚くほどムクロの姿を受け入れられた。哀れみの気持ちすら湧かなかった
唯一ムクロが自らその姿を曝け出したことへの奇妙な喜びがあっただけだ
「今までこの姿を見た者は全員殺してきた。それはこの体がコンプレックスということもあるが、最も大きな理由は手加減が出来ないからだ」
見ればムクロの内側からどす黒いオーラが吹き出てくる。先ほどのムクロのオーラは所詮このオーラが端から漏れ出していただけに過ぎないということか
しかもそれは止まることもなく湧き出続ける。まるで蛇口の壊れた水道のように
「お前は初めてオレの姿を見て生かしておいていいかもと思わせた人間だ。ここで死んでくれるなよ」
ムクロの指先に淀んだオーラが絡みつくとそれは武器になった。それは小さな小さな髑髏が重なりあって形作られた鉤爪
初見だがあれが不味いということは分かる
ぶっつけ本番だがどうやらあれをやる以外の選択肢をムクロは残してくれないようだ。
想像する。聖光気が形を変えて、純白な戦闘衣を生み出すイメージ
頭から足の先まで黄金のオーラを巡回させ、徐々にそれが形作られていく。こうしている間にもムクロは着々と近づいて、その狂気(凶器)を血で塗らそうとしているが、ここで引くわけにはいかない。一度この作業を中断させるとこの場では二度とそんな時間が与えられないだろう
つまりそれは死に直結する
ムクロの鉤爪の風切り音が耳に届いたころようやくそれが完成した。――気鋼闘衣が
「ギリギリだったな」
気鋼闘衣による防御が少し遅かったせいか頬の肉が切り裂かれて結構な血が流れ出した。最も装甲の薄い横顔の部分だったが気鋼闘衣を貫いて攻撃が通るとはさすがの一言だ
急ごしらえだったのも少し関係あるかもしれないが、それを抜きにしてもあの鉤爪がヤバイ
「それがお前の切り札か。オレの“棺断”の路を逸らすとは生半可な念ではないな」
どうも素直に喜べない。聖光気に気鋼闘衣まで使わせて未だ劣勢なこっちの身にもなってもらいたいものだ
しかしこのまま戦闘を続けると不味いな。あの棺断とやらをまともに受けてはいくら烈蹴拳でも受け流しきれず裂傷を負うことは十分に予想できる。純粋な肉弾戦では少々厳しいとなると…
おもむろにヨナの形見ということになっているベンズナイフを取り出す。聖光気で周をすれば、あの棺断の攻撃でもしばらくは持つだろう
純白の闘衣が自身の聖光気によってバタバタとはためく音だけがしばらくした。
瞬間、ムクロの棺断とベンズナイフがぶつかる金属音が響く。
一度離れては再びぶつかりあう。まるで二人で舞いを踊っているような、そんな気になってしまうのは両者の動きに無駄がないからか、それともただ純粋にこの戦闘を楽しんでいるせいか?
もはや何度目の衝突かというところでムクロの動きが唐突に変わった。今までのような、隙を見せず次の攻撃に備えるような動きではなく、棺断を大振りに振り下ろしてきたのだ
その大振りな攻撃を必要最小限のバックスッテップでかわし、逆手で持ったベンズナイフで頚動脈を狙ったが、ムクロの超速反応で肩を切りつけるだけに終わった
まったくもってやっかいな相手だ
そこで仕留め切れなかった油断が不味かった。ムクロはベンズナイフを持つ左手に脚を絡ませて、何の迷いもなく――折った
激痛に叫びそうになるがそれを堪えて、なんとか左腕を地面に叩きつけることでムクロを引き剥がすことに成功
とは言え、ベンズナイフを落としたのと左腕が使えなくなったのは大きい。これ以上時間をかけてもこちらが不利になる一方だ
「楽しいな。こんなに楽しいのは久しぶりだぞ忍!」
ムクロも俺と同様に傷ついているがそれもまったく気にしないほど戦いに酔っている。こういう重度のバトルジャンキーは痛覚すらも戦闘のご褒美のように考える
ヒソカが良い例だが、ヒソカと同一視されるとさすがにムクロが可哀そうなので例えるのは止めておこう
「俺はそろそろ終わらしたいな」
全力で行かせてもらおう
練を維持して堅にする。こうでもないとムクロのあの多角的な攻撃を受けきれない
まず足下に転がっていたベンズナイフを拾うと見せかけて、足でムクロ目がけて飛ばした。ただベンズナイフを蹴飛ばしただけではムクロは避けようともしないので勿論周をしてだ
予定通りそれを避けたムクロに肉迫して独楽のように蹴りから後ろ回し蹴りの連携を続ける
そのコンボの途中で時折掌に念弾を作ってだす烈蹴紅球波は思わずムクロも舌打ちするほどの良い攻撃だった。生きて戦いを終わらせることが出来たらまた使うとしよう
焦れたムクロは俺の回転を体を突っ込ませ緩衝材にして止めると
「隙だらけだぞ」
と、棺断を脇腹深くへ差し込んだ。
棺断の爪が肉を切り裂き、内臓まで届くところで俺は筋肉を収縮させて進行を止める
「隙だらけなのはそっちの方だ」
俺はこの瞬間を待っていた。ムクロ相手に完璧に勝つ方法なんて無い、そうなれば肉を切らせて骨を断つ方法しかないだろう?
硬に限りなく近い凝で無事な右腕にオーラを集め、ムクロの鳩尾にそれを叩き込んだ
轟ッと鈍い音がしたがムクロは軽く笑ってダメージがないことをアピールする。しかし徐々に不思議な表情を浮かばせ始めた
そう先ほどの攻撃はあまりにも軽い。あれだけのオーラを集めた攻撃にしては威力が少なすぎるのだ。ムクロがハッ!? と事態に気づいた時には既に俺の壊れた左手がムクロの背中に当てられていた
ムクロが凝で防御するより早く左手から発をする。さすがのムクロも鳩尾にオーラを集中させていたので防御の薄い背中からの発で気絶してしまった。
種明かしすると実に簡単だ。右腕に集めたオーラであのままムクロに攻撃しても超人的な反射神経が凝で阻止することは想像がついた。だから当たる瞬間流でほとんどのオーラを左腕に写したまでのこと
まさか壊れた左腕が本命とは思わないだろう。まぁ、右腕のオーラを少なくしたせいで今や右腕は左腕以上に悲惨な結果になっているがそれは仕方ないことだろう
何にせよ勝ったのだ
勝ったことをクロロたちに伝えようとビルの上に立ち上がると強烈な立ちくらみを感じた。血が足りてないらしい
視界がぼやける。それでもふらふらと歩きクロロたちの姿を見つけたところで、前へ倒れてしまった。普通ならビルの冷たい屋上の床にキスするのだろうが、重力はいつまで経っても消えない
その状態が三秒続いたところでようやく自分がビルの上から落ちてしまったことに気づいた。
風の音が耳元で五月蝿い。もうしばらく休ませてくれ
――バサッ
何か柔らかいもので受け止められたような気がして、俺の意識は完全に落ちた
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