仙水さん謀略を練る
飛行船に設置してあったモニターに旅団全員の顔を映し出すアイディアを出してから、とりあえず救護所へ戻ることにした。犯人は自分達の仲間の誰かに未だ化けている可能性が高いのでモニターに全員の顔が移るまで仲間同士が集まっていた方が都合良いのもあって道中を急いでいたわけだが……
まさかこの光景を目撃することになろうとは
目の前には後ろの茂みに隠れている女の子を守ろうと金髪の少年の姿。慣れない構えで木の棒を握ってこちらを牽制しているその少年は確かに二年後の面影を残したクラピカだった
木の上を猿のように飛び移っていた最中に、近くの茂みから気配を感じ今の状況に繋がったわけだ
クラピカはこちらの纏う空気で一族を虐殺した手の者と判断したらしく緋の眼になって怒りを顕にしているが、少女の方はただ怯えてポニーテールにした髪だけを覗かせ茂みから動かない。
まぁ、原作人物相手でも今までとやることは変わらないが
とりあえず今一番捕まえやすそうな茂みに隠れている少女の後ろへ移動して拘束しておく。
少女はそれに気づくと暴れだそうとしたが抑えている両腕を少し強めに握ると痛みを訴えて大人しくなった
「貴様っ! ジェシカを離せっ!」
「クラピカ! 私はいいから逃げて!」
その時強烈なデジャヴに襲われた。激しい頭痛を伴う強烈なデジャヴに思わず手の力も緩み少女はその隙にクラピカの元へ行ったようだ。
浮かんできたヴィジョンは昔の記憶。エリと一緒に逃げ出そうとして無残に殺されたその少女の姿が幻視された
状況こそ今のものと違うが、圧倒的強者によって自分の大切なものが無残に汚され冒涜を受けようとしているクラピカの姿が過去の自分のモノと重なる。
まだ、まだ残っているのか! この忌まわしい記憶が!
クラピカたちが急に地面に蹲る俺の姿に逃げ出そうか、どうしようかと悩んでいる間にだんだんと痛みは引いていき、ついにクラピカたちが決断する前に正常な思考へと戻った
どうする? ここで逃がせば後に命の恩人であるパクノダが目の前の少年によって殺される恐れがあることは確かだ。ここで殺しておくのが正しい判断であることは分かっている
分かっているがっ――どうしてもその気にはなれない
完全にクラピカとあの状況を重ね合わせてしまっている。それがお門違いであることも充分承知の上だがその気になれないものは仕方無いと情けなく言い訳を探している自分に吐き気さえこみ上げてくる
「………行け」
「「!?」」
「さっさと行けと言っているんだ!!」
クラピカ達が我を取り戻して去っていく足音が消えてからようやく体が動き出す。こうしている場合ではない、直ぐにヨナたちの下へ向かわないと……
そうして急ごうとする先に再び人の姿が
今度は中々の大人数で、一番先頭にいるトリッパー三姉妹の内の二人が黒い袋を負ぶさって夜道を急いでいる。すまないが八つ当たりさせてもらうぞ
集団の真ん中にバスケットボール大の念弾を打ち込んで開戦の狼煙をあげた
集団の三分の一が壊滅したのを確認すると場を落ち着かせようとする指揮目がけて木から襲撃する。
闇を切り裂くかのようにベンズナイフの銀色の線を走らせて、それでも近寄ってこようとする奴らは烈蹴拳の餌食に
最後に残った姉妹、金髪と紫髪はすっかり戦意を喪失して纏すらもおぼつかない様子だ
「一応、忠告はしておいたはずなんだが、ここにいるということは聞いていなかったということなんだろう」
「え、ええ」
「私は反対したんだ。でも姉さんが」
「そんなこと言ってなかったでしょ、あなた!」
「まぁ落ち着け。どうせ死ぬんだから辞世の句をそんな言葉で締めくくりたくないだろう?」
俺がそう言うと脇目も振らず逃げ出した姉妹に烈蹴紅球波をぶつけて一息ついた
そういえばあの姉妹何かを重要そうに担いでいたが……
きつく縛ってあるそれを解いてみると中には妖精もかくやというほどの美しさの少女が入っていた。というかヨナだ。睡眠薬か何かを嗅がされたのだろう、スヤスヤと眠っていて起きる気配もみせない
確かマリアに預けたはずだが何故こんな所にいるのだろう? マリアがみすみす誘拐を許すはずないし、傷も無い。もしかしてあの時マリアに預けたヨナが偽者だったのか?
そう考えるとマリアの能力が発動しなかったのも納得できる。
「少し急ぐか」
道中飛行船に設置してあるモニターが点灯して全員分の顔が映しだされる。恐らくこれを見たマリアも既に気づいているはず
案の定、救護所に到着すると化けの皮を剥がしたケバイ女性がマリアから逃げ出そうとする途中だった。
「何処へ行く気かな?」
目の前を塞ぐ俺の姿とさっきまで化けていたヨナを見つけるといよいよ混乱の極みを迎えたようで瞳孔が怪しげに揺れる
「さぁ、ゆっくり話しあおうか」
ゆっくり話し会ってみたがもはや気がどうにかなってしまったようでまともな話も出来ない。するとその騒がしさでようやく起きたヨナが背中で下ろしてとパタパタと動き出したので地面にゆっくり降ろす。まだ少し眠いのかふらついていたがしばらくすると足取りもしっかりしてきたので一安心だ
「へぇ~。この人が私に化けていたわけですね」
「そういうことだな」
ヨナはウケケケと壊れたように笑う女を汚い物でも触れるようにつま先でツンツン額を小突いている。やがて興味がなくなったのか女の手に握られている自分のベンズナイフを布で綺麗に拭うと頚動脈を一気に切り裂く。噴水のように血を噴出して倒れる女は最後にニヤッと笑ったように見えた
「ウワッ!? この女キモイよ忍お兄ちゃん」
何もヨナは死ぬ前に笑ったことを気持ち悪がったわけではない。死ぬ前に泣き叫ぶ奴もいれば、無表情の奴、笑う奴もたまにいる。ヨナもその経験がないわけではない
奇妙なのは死んだ女の顔がヨナの顔だということだ
先ほどまではまったく別の女の顔だったはずなのに、今は全身どう見てもヨナにしか見えない。視界の中にヨナと死んだ女を入れて見比べるとハッキリ違うと分かるのだが、そうでもしないと分からなくなる。
「おそらく死後念が強まったのだろう」
死後その念の制約が緩くなったり、なくなったりするのはよく聞く話だ
マリアはヨナが死んだ姿を見たくないらしく常にヨナを視界に入れて精神の安定を保とうとする様子からもその精巧さを窺わされる
「まったく! ヨナちゃんに化けるなんて有り得ないわ! こんな可愛い娘は世界中に一人で充分だってのに」
「マリアさん。ありがとっ♪」
ベタベタする二人を他所に頭の中は打算で一杯だ。クラピカを助けてしまったからには何か奥の手が必要になるだろう。まだまだトリッパー連中は現れてくるだろうし、この先何が起こるか分からない。
そうして考えたそのアイデアは旅団への裏切り行為になるかもしれないが、敵を騙すにはまず味方からという言葉があるように奥の手は隠しておかないと意味がないものだ
ヨナには悪いことをしてしまうがそうでもしないと奥の手になり得ない
勿論自分のエゴにヨナを巻き込んでしまうお詫びとしてヨナは幸せにしよう。それぐらいしか自分には出来ないのだから
「ヨナ。少し話がある」
「何? 忍お兄ちゃん?」
† † † † †
確かにクルタ族は強かった。でもそれはあくまで念能力者じゃないにしてはの話で、蜘蛛が勝てないレベルではない。何人かは念能力者もいたがどれも経験不足であたし達の敵じゃない
それがどうして、
「どうしてヨナが死んでいるんだ!」
第一発見者の仙水は旅団全員に囲まれて責任を問い詰められている。無事クルタ族の緋の眼を奪って祝杯ムードだった私たちはこの悲報に水どころか、液体窒素を差された気分だった。
仙水ともあろうものがみすみすヨナの死を許してしまった。その事実が堪えようも無く嫌だった
「おい、落ち着けマチ。まだ仙水の弁解を聞いてないだろう」
「そうだぜマチ。それにヨナの死は仙水だけの責任じゃねぇ。ヨナ自身が弱かったからだ」
嗜めるフランクリンとノブナガの意見も正論だけに余計あたしのイライラを高まらせる。そんなことは結成当時からいるあたしが一番分かっている。だがヨナという初めての妹分、そして尊敬に近いものを抱いていた仙水が何も出来なかったというのが悔しいやらイラつくやらで複雑な気分になる
団長はあたしの肩に手をおいて
「とりあえず仙水、こうなった理由を説明してくれ」
仙水はいつもと変わらぬ表情で淡々と答えた。ヨナが怪我をしてマリアの元へ連れて行ったが相手の念能力のせいか、治癒が出来ないばかりかそのかけた相手をそうと知らずに仙水が殺してしまい死後の能力強化のせいでヨナが狂い、自分のナイフで首をかき切ってしまった。
言葉にしてしまえばそれだけだ
「それに関して何か弁明は?」
「無い。俺の責任だ」
「そうか。今日はヨナの葬儀だ。皆、式の後は思い思いの夜を過ごせ」
そうあっさり終わってしまった。皆ヨナの死を悲しんでいるがそれを表に出すと次に死ぬのは自分だと理解しているので悲しんでいるフリを見せないのは分かっている。分かってはいるがヨナが一番懐いていた仙水ぐらいは表だって悲しんで欲しいと思うのはあたしのエゴなんだろうか? そうでもしないと死んだヨナが浮かばれないと思うのはあたしの大きなお世話なんだろうか?
ヨナの火葬が終わって
酒が入るとさすがにノブナガが泣き出して、それを追うようにフェイタンも惜しい子を亡くしたねと珍しくぼやいている。フランクリンは自分の娘を無くしたような気持ちなのかいつも以上に黙って酒を飲み、もう数十本は瓶を空けているというのに、仙水はただ黙ってクロロと一緒にゆっくり飲んでいるだけだ。
「マチ。あなた考え過ぎよ」
「パク」
パクノダはあたしの横のソファーに座って肩に寄りかかる。甘える素振りを見せるということはどうやら相当酔っているみたいだね
「ヨナのことは残念だったけどそれを一番深く受け止めているのは私や勿論マチでさえない仙水だってこと、それを分からなくちゃあなた何時まで経ってもくっ付けないわよ」
「ハッ? 意味がわかんないんだけど」
「まだまだね~。言っとくけど仙水の良い所を知ってるのはあなただけじゃないこと覚えておくことね」
何だかパクは酔っ払って訳のわからないことを言っているが、仙水がヨナを失って悲しんでいることが分かればそれで充分だ。あたしはウボォーやシャルナークの宴会に混ざって騒いだ。今日の星はいつもより綺麗なそんな気がした
という訳で今回いろいろありましたが勿論ヨナは死んでいません←ここ重要!!
あとパクノダ萌えるな、こんにゃろー!
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