仙水さん参加する
マリアが本拠地に招待されたのはそれから一ヵ月後だった。クロロの許可なしで入れるのは不味いし、団員が揃うのを待たなければならなかったので、クロロからOKの連絡が入るまで天空闘技場で時間を潰すこと約半月、団員全員がそろうまで半月。ようやくマリアと共に本拠地へ入る。ちなみにキルアはマチの修行による怪我で入院していたらしく会えなかった。いったいどんな修行をしたのか気になるところだ
団員以外が本拠地に入ることは滅多にないこともあって珍しそうにこちらを観察するいつものヤクザコンビや旅団員。並みの者ならそのプレッシャーで目を逸らしてしまうところだがマリアはむしろこっちが捕食者よ、と言わんばかりに口の端から透明な雫を滴らす
マリアという存在に大分慣れた自分でさえその表情に思わず胃の奥から酸っぱいものが溢れてきそうなのだから、初対面の旅団にはさぞキツイだろう
案の定、シャルナークはトイレへ駆け込んでいった
ゲンナリとした表情で俺を見つめる大多数。その瞳はどうしてこんな奴を連れて来たんだ? と説に訴えてくる
唯一ヨナだけが一人ニコニコしているのが不幸中の幸いだ。その笑顔に何度助けられたことだろう
「それで団長。あたしたちはそいつが旅団員以外は立入禁止のはずの本拠地にいる理由を聞いてないんだけど……」
「そういえばまだ言ってなかったか? 彼は貴重な治癒系の念能力者だ。残念ながら蜘蛛に入ることは断られたが戦闘時では協力して貰える。パクノダやシャル同様に俺達の命を繋ぐ重要人物だ」
息を呑む音が聞こえる。勿論俺も最初マリアが治癒系の能力者であることを聞いて驚いた。念能力は本人の資質や性格に因るところが大きいのだが彼はどうみても癒し系ではない、彼が癒し系だとしたらヨナの存在を例えるほど上手い形容詞はこの世にはないだろう
因みにマリアの念能力は“婦人の優美な血化粧<コスメ☆デ☆バートリ>”
変化系よりの強化系な彼が相手の血液と自分の血を混ぜ合わせた特別製クリームを患部に塗りこむ事によって、その相手を治療することが可能
手術が困難な大きな怪我でも治すことが出来るが、傷が大きければ当然その分必要な血液やオーラ量も増える。尚、治癒能力は傷や骨折、内出血などにしか使えず、病気にはまったく効果がない
そして肝心なことは治療する相手の血液は前もって採血した血を怪我した場合に使っても構わないが、術者の本人の血液は怪我を治す三分前のものでしか効果を発揮しないことだ
その制約によって治癒効果を上げているらしい
クロロにそのことを伝えると具現化していた盗賊の極意を閉じて能力を盗むことを諦めた。多量の出血はマリアのあの大柄な体だからこそ耐えられるのだ。それにクロロでは医学知識が不足している為充分にあの能力を使いこなせるとは思えないし、的確に指示を出す団長が戦闘中にそんなことをしている暇はない。結果、他人に任せたほうがいい。そういう結論に達したらしい
そんな訳で来るべき戦闘の為に団員全員の採血をしておく為と、顔見せの為にマリアを連れて来たと説明するとマチやその他の団員も納得したように頷く。唯一顔を予め知っていたパクノダは隠していたわねと声に出さず口パクで伝えてきたが、さぁと知らぬ振りをしておく
「まぁ、あなたいい筋肉してるわね♪ たまらないわ~~♪」
「ウゲッ!? ちょっ、近づくんじゃねぇよ! 気色悪いな!」
ウボォーギンとマリアの筋肉コンビがじゃれ付く姿はお世辞にも綺麗とは言い難いものだったので、トイレから戻ってきたシャルナークは再びトイレに行く破目になった。
「仙水、こいつどうにかしてくれよ」
団長命令でパクノダやシャルと同列になったマリアに手荒にすることも出来ず、珍しくウボォーギンが助けを求めてくる
「すまない。二人の邪魔をしたようだな。採血も済んだことだし俺達は別室へ移動することにするか」
「ハハッ、しっかり可愛がって貰えやウボォー」
「クッソー、覚えてやがれ!!」
ヨナは何も言わずとも既に特別性のロープを片手に用意している。だったら俺はもうノブナガの体を拘束するしかないじゃないか!
「なっ!? 止めろ!」
ノブナガの体をロープで縛ってモンスターの巣へと投げ出す。
「あらっ!? また一人男が♪ ……でもあまり好みじゃないわね。私にはダーリンがいるからあなたはいらないわ」
「グオッ、てめぇそれ以上触ったらぶち殺すぞ!!」
「私、あなたの愛を全て受け止めきれる自信がないわ♪」
(…………何だこれ? 確かにあのオカマに絡まれずに済んだのはありがたいが、何だこの敗北感は? そして何故俺は筋肉男同士の絡み合いを簀巻きにされたまま見なくちゃいけないんだ? クッソー!! 怨むぜ仙水!)
意図していたものとは違ったが、ある意味マリアに絡まれるよりも嫌には違いないので良しとしよう。
「忍お兄ちゃん、マリアさん楽しそうで良かったね♪」
「……そうだな」
「仲良くしてるところ悪いんだけどさ。結局仙水はクルタ族の襲撃に行くの? まさか治療師だけを派遣して自分は行かないつもり?」
「そうだぜ、仙水! ヨナは行くって話してたぞ」
シャルに続き、簀巻き状態のノブナガがそんな話をしたところで違和感を覚える
俺はヨナが行くとは聞いてなかったぞ……
寄り添っていたヨナを見ると、必死で目を合わせないようにしていた。明らかに挙動不審だ。腹事が得意なタイプかと思っていたが案外白を切るのが下手なのか、それすらも演技なのか分からないところが怖い。
「ヨナは行くのか?」
ヨナは不安そうに目を左右に動かして首を縦に振った
「マリアさんが心配だし、それに……久しぶりに人を殺したいから♪」
これは後でヨナの教育係のマチに一言、言っておかないといけないな。少なくともそのセリフは満面の笑顔で言うセリフではない
続けてヨナは俺に行かないのかと尋ねた。気を遣わなくていいと口では言っているがその表情は来て欲しいと訴えている
原作に関わらないと最初は決めていたが、今更俺がどう行動した所でトリッパーという存在によって原作の未来はほとんど崩壊するのがオチだし、あまり原作を意識しすぎるのも良くない。
ヨナや命の恩人であるパクノダの命を救うということが達成できれば何も問題はないのではないか?
「分かった。参加しよう」
「出かした! ヨナ!」
「――厨二病患者さんは黙ってください」
「ハハ、ノブナガ泣いているね」
一気に騒がしくなる。このまま行くと今日も宴会になりそうだ。
クロロも口元を『盗賊の極意』で隠しながら微かに笑っていた
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