まさにタイトル通りのお話です
久々にのんびりした感じが出ていると思う今日この頃
仙水さん蕩ける
仙水がハンター試験に合格してから数週間ぶりにホームへ帰ってきた
それというのも仙水に金を貰いキルアの修行を任されたからだ。修行といってもだいたい模擬戦と、訓練にピッタリな秘境に連れて行くことしかあたしはやってない
だが、それでもグングンあの子は伸びる
天性の才能ってやつだろう
怪我も多いが、死なさないように注意だけしていれば、あたしはほとんど苦労しないで金が入ってくるので随分楽な仕事を任されたものだ
「おおマチか」
ホームに帰ってくるとほぼ百%の確率でそうノブナガに出迎えられる。別に嫌いじゃないんだけど、こうも同じ出迎えをされると少し飽きてしまう
適当に頷いてシャワーを浴びようとしたところで、
「マチさん、お帰りなさい♪」
ヨナの声に引き止められた。三十近いオッサンの低い声の後に、ヨナの透明感のある声で迎えられるというギャップもあって、あたしの足を止める理由としては文句なしで上位入りだ
キルアも黙っていれば可愛いのだが、あの生意気な態度でそんな気もあまり起きない。それがいいのだと言うショタがいるがあたしには理解できない
素直なヨナのような子が一番だと思う
ヨナはTVを見ているノブナガの後ろでサクサクとリスのようにジャンクフードを食べていた。久しぶりにヨナを可愛がろうと、近づくと何だか様子がおかしいことに気づく
顔色があまり良くない。体調でも悪いのだろうか?
「どうしたんだい、ヨナ? 何かノブナガにいじわるされたのかい?」
「いや違うからな! ……俺も聞いてみたんだが、何でもないの一点張りだよ」
「本当に何でもないのマチさん。しいて言うなら厨二病患者さんという存在のせいかな」
またヨナが冗談めかして言うけど、それがあたし達に心配かけないようにしているのが分かり、逆に心配になってきた。
ヨナは素晴らしいマスコット兼、私達の仲間だ。
仙水のハンター試験合格のお祝いの時はこうではなかったから、それからあたしが帰ってくるまでの間か……
「ノブナガは本当に何にも知らないの?」
「俺が仕事終わって帰ってきた時には既にこうだったからな。あっ、そういえばパクとヨナと仙水が一緒に何処かへ出かけたってシャルが言ってたような気が……」
「バカッ、そういうのはさっさと言いなよ」
ノブナガの頭を叩いてそう言ってやると、痛そうに頭を擦りながらノブナガが忘れてたんだから仕方ないだろう? と口を尖らせて唸る。全然可愛くない。むしろキモイ
ノブナガに聞いたところパクノダは団長の護衛で今いないらしいが仙水はホームにいるらしい
仙水……仙水といるとペースが崩されて嫌だ
以前のように嫌いな訳ではなくなってきたけど未だ苦手というか、どう振舞っていいのかよく分からないというか
団長への憧れや団員の皆への親愛の情とは別な感情。別に悪く思っていないのは確かだ
あたしが部屋を訪れた時、仙水は本を読んでいた
こちらに気づくと本に栞を挟んで机の上に置く。少し本の内容が気になる
「やぁ、お帰り」
軽く微笑みながら手をあげる仙水を無視して向かいの席について早速ヨナのことを聞き出す
「ヨナの様子がおかしいんだけど何か知らない?」
仙水の表情が僅かに歪んだ。間違いなく何か知っている
それにしても、仙水がこういう風に表情を曝け出すのは珍しいと場違いなのは分かっているけど、思わずマジマジと見つめてしまった。
「マチの様子もおかしいんじゃないか?」
仙水があたしを見てのそんな発言に冷静さを取り戻す
今気になるのはヨナだ
「茶化さないで」
仙水は少し渋ったがあたしが納得するまであきらめないと悟ったのか、足を組み替えると諦めのため息をついた。時々見せるその仕草が何処か団長と被っていることに仙水は気づいているのだろうか? 本人は至って自然にそうやってみせるので違和感はないけど……
団長はうすうすそれに気づいているからホームにいる時は髪を下ろすようになった
「……実はヨナと観光をしに行った際に強烈な物を見てしまってね。最近では夜もグッスリ眠れるようになったがそれまでは悪夢にうなされて大変だった。よく悪夢でうなされるヨナの声で目覚めたものだ」
ふ~ん、ヨナがそこまで恐怖するとはよっぽどだったんだね。
って!? 最後に何かおかしなことを言っていたような……悪夢でうなされるヨナの声で目覚めるってことはつまり、そんなに近くで寝ていたってことだ
仙水に限ってそんなことは無いとは思うが一応、
「それでヨナを慰めながら同じベッドで寝たんだね」
「ああ」
そうあっさり返されると反応に困る。別に今なら構わないのだが、これから先ヨナも多感な時期が来るはずだ。その時にいつまでもそんなことをしていたらヨナの成長に悪い影響を与えるのではないか。それだけが心配だ
「まぁ、何があったかは聞かないけどあまり構いすぎてもヨナの為にならないからね」
「分かっているさ。だがさすがに今回は少し責任を感じてな」
「そう、ならいいけど」
やっぱり少し気になる。後でパクノダに何があったのか聞いてみよう
† † † †
マチの訪問は少し予想外だった。ドアが開いた時にはどうせノブナガが酒でも持ってきたのだろうと思いきや、まさかのマチだ。
とはいえ、ヨナをまるで実の姉のように可愛がるマチのことだから、あれ以来少し落ち込んでいるヨナに関係あるのだろうと考えたが案の定そうだった
ヨナに関しては最近随分落ち着きつつあるので大丈夫だ。
自らが人を殺すことは喜んでやるのだが、人外の魔王が自分と同年代ぐらいの子供を食い殺すシーンはさすがにショックだったらしい。
確かに殺しに慣れてきた俺でさえ、あまり思い出したくないシーンだ。ウボォーも人を噛み殺す時はあるが、魔王のあれは完全に捕食する目的での行為でその差は大きい
オカマに関してはもっと大変だった。いや、こう呼ぶと怒るのでマリアと呼ばなければならなかった
マリアは起きると直ぐに半狂乱になり暴れまわろうとしたが、そうさせないように特注のロープで体を縛っておいたのでジタバタとする事しか出来ない。暴れまわると体に食い込んで痣ができるようになっているそれを破ることが不可能と知ると、こちらをただジッと睨みつける。
よく舌を噛み切って死ぬという描写があるがあれは嘘だ。切った舌によって窒息死することは本当に稀にしかないらしいし、舌の血管の数から出血死するほど血がでるわけでもない。かといってショック死で死ぬという僅かな可能性にも賭ける気はないらしいマリアはさすがに人体を知り尽くした専門家なのだろうと改めて思う
「何のつもりかしら?」
「君が自殺したいならしても構わないが、まずこちらの話を聞いてからにして貰えないだろうか?」
そんな風に切り出した俺だが実際、自分がすることはほとんどなかった。どうせ俺のいう事など聞きやしないだろうと最初から交渉は全てヨナに任したからだ。
マリアも亡くした子供たちのことを思えばこそ、ヨナを無視できないようで大人しくなる
それから数時間後、隣の部屋で待機していた俺をヨナが呼びに来た。
その間隣の部屋から泣き声や、怒鳴り声が絶えることは無かったので少し心配だったが、どうやら上手くやったようだ。
マリアは仲間になると言う。だがその代わりに
「“闇のソナタ”ピアノ、フルート、バイオリンのパートを集めるのを手伝うこと。ハープは既に持っているからいいとして、後の三つはぜひ集めておきたいわ。もしかするとこの楽譜の中に治療のヒントが隠されているかもしれないから。その代わり、あたしも子供相手以外なら戦闘も治療もするわ、いいわね♪」
もはや頭を頷くことしか残されていなかった。
ヨナは嬉しそうにオカ…マリアの腕にしがみ付く。どうやら俺のいない間に仲良くなったらしい
仲間が増えるのはいいが、この先ヨナに頭が上がらなくなってしまいそうだ
本当にヨナが旅団であることが惜しい
ふと耳をすますと通路をパタパタと駆ける足音が
「忍お兄ちゃん、マチさんが昼飯だって!」
今日もいつものように白いワンピースの裾を翻しながらヨナが部屋に駆け込んでくる。そんなに急がなくてもいいと言うのに、手をフリフリ動かして早くおいでよと急かす
俺はヨナの柔らかい髪をそっと撫でると、片腕でヨナを持ち上げる。
少し驚いたような表情を浮かべた後、ヨナは照れを誤魔化すように笑った
そんな俺達をノブナガが迎えに来て、マチがキッチンでヨナと共にノブナガをからかう俺の姿を眺め微笑む。
しばらくはこんな感じでいいじゃないか
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。