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今回は短めです。旅団の皆との掛け合いを久しぶりに楽しみたかったので書いてみました。しばらくはこんなほのぼのとしたのを書きたいな~
仙水さん帰ってくる


「仙水、よく帰ってきてくれた」

……おかしい、こんなことは今まで一度もなかった。ひょっとして今自分は白昼夢でも見ているのかもしれない
そうでもなければ本拠地に帰ってきて直ぐにクロロからそんな甘い言葉が出るなんて不自然すぎる

俺がいない間に何が起こったというんだ?

「そういえばまだ紹介してなかったな。あそこで、フィンクスをからかっているのが新メンバーのヨナだ」

見ると、両腕を後ろからフェイタンに拘束されたフィンクスと向き合っている少女がいた
まるで新緑の色に染まったかのような双眼と柔らかそうな髪。どう控え目に見ても美少女と言えるようなその子は、世界中の富豪たちが自身のコレクションが盗まれるのを恐れている相手であり、A級首の幻影旅団のヤクザコンビの片割れに真っ向から勝負をしかけていた

「フェイお兄ちゃんが側にいないと、何も出来ないんですか片思いさん? 団長さんにラブなのは分かるけど、気を惹こうと別の人に色目を使ってもきっと団長さんには通用しませんよ。懇ろせいせいするはずです」

「ウガーーーッ!! 違うって言ってるだろ! てめぇぶっ殺す!」

「ハハハ。いいねヨナ、その調子よ」

「……そのへんにしとけよ、ヨナ」

呆れたように言うクロロの言葉はすんなりと口から出てきた。今まで何度少女、ヨナを嗜めてきたのだろう
全く反省の色が見られないので意味はなさそうだけど

「は~い♪」

その返事に何度騙されたことか、とクロロはため息をつく
俺が帰ってきて直ぐに喜んだのはきっと自分以外にヨナを嗜める存在がいなかったからだろう。旅団はほとんど煽るタイプか無干渉のタイプに分かれるからな

とは言え、憶測ばかりを並べても意味がない。その本人のことを知りたければ本人と話をするのが一番だ

とりあえず近くにいたマチを通じてヨナとの接触を図る。余計なことに楽しそうだからとノブナガも着いて来た

「やあ。君が新しい旅団員かい? 私は仙水 忍という者だ、よろしく」

「よ、よろしくお願いします。私はヨナです」

続けて何かいいたそうな顔をした後、俺達はしばらく見つめあった
そして互いの瞳の中に悪戯の光を見出すと、納得したように握手する。

この子とはとても気が合いそうだ

後ろでノブナガが俺の時の対応と違いすぎるだろっ! と大声で喚いているが、俺もおそらくヨナもこれからどうノブナガを弄ろうかという碌でもない事を考えている

「やっぱりあたしの勘が当たったね。当たって欲しくなかったけどさ」

クロロもマチに追従するようにハァッと再び溜息をついた






あいかわらず本拠地は広い。大小五つの館が渡り廊下で繋がっていて、部屋数もかなりある
ここまで広いと普通家政婦や掃除夫が必要になってくるのだが、雇うと情報が漏れる恐れがあるのでシャルナークがそこらの人間にアンテナを刺して毎回雑用をやらせている
一通り掃除が済むとポケットに札束を詰め込んで、はいさよならという訳らしい

その様子をソファーでのんびり眺め終わると、パクノダやマチ、ヨナの女性陣と手先が器用なシャルナーク、コルトピ、クロロが料理の支度にとりかかった。普段ならそこに俺も入るのだが内臓を傷めていることと、ハンター試験合格の祝いの席らしいのでおとなしくソファーに座ってその様子を見ていることしかできない

……暇だ。他の旅団員は何をしているのだろう?

ノブナガとウボォーギンは料理が出来る前に飲んで既に出来上がっているし、ボノレノフはヘッドフォンに耳を当てて音楽に没頭している
旅団の良心であるフランクリンはヨナが包丁を扱っている様子に気が気ではないらしい
あんなに上手く包丁を扱っているのに、大人しそうな少女が包丁を持っているということだけで心配なのだろう。

気持ちは分かる

残るは一風変わったところで、フェイタンとフィンクスと一緒にゲームをやるのもいいが、二人がかなりやり込んだ格ゲーなのでボロボロにされるのがオチだ

結局手持ち無沙汰になってムクロとトンパの番号を携帯に登録した

「ムクロねぇ。こいつ女だろう?」

いつの間にマチがソファーの後ろから携帯の中を覗きこんでいた。調理の最中に手の平に付いた雫をパッパッと払いながらそんなことを訊ねてきたので、顔に若干雫が飛んだ

「マチの勘は時々念能力の一つなのかと疑ってしまう所があるな」

脅威の的中率に感心してみせると、まぁねと適当に答えるマチ
その様子からどうやら続きを促されているようだ

「ハンター試験で偶然知り合ったんだよ。本人曰く夜号のボスらしい」

「夜号!? ちょっと今、仙水夜号って言ったの?」

シャルナークが何か炒めている最中だったフライパンを置いて、忙しげにこちらへ向かおうとしたが、炒めていた物が焦げ付きそうになって再びフライパンの面倒を見に戻る。
そんなシャルナークを他所にクロロが、

「パクノダ。しばらく代わってくれないか?」

「了解」

「あー! 団長だけずるいよ」

ブーブー五月蝿いシャルナークを完全に無視して、クロロは長丁場を予想したのか、ソファーの反対に椅子を持ってきて話を聞く体勢になった

ここまで来たからには話さない訳にはいくまい

「そのムクロについて詳しく教えてくれ。容姿、年齢、念能力。分かることだけでいい」

マチも立って聞き続けるような内容の話ではないようだと、黒い革張りのソファーに腰を下ろした

俺は、とは言っても分かっている内容なんてほとんど無いに等しいのだがと前置きして、

「容姿は顔に包帯を巻きつけているので分からなかった。年齢はおそらく20代~30代といったところだろう。念能力は分からないが、とにかく彼女は強いな
ただの掌底だけでこの有様だ」

「……夜号のボスについて聞いていた情報と一緒だな。だが女性だとは思わなかった」

「本人もあまり進んで女性だと知られたくない様子だったみたいだ」

「だったら何で仙水はそいつが女だって気づいたんだい?」

「……勘かな」

そうとしかいいようがないのだが、やはり周りには理解が及ばないようで納得のいかない表情を浮かべる二人。

「とりあえず、食事の後にしたら?」

料理の乗った皿を片手に三つずつ抱えてきたパクノダのその一言に甘えて俺達は食事をとることにした。
内臓を傷めた自分には特別にポタージュなどの汁物や煮込んで柔らかくなった野菜が運ばれてきた時には、さすがにパクノダの笑みに隠された物を感じたが、当の本人はどう、おいしい? と言わんばかりの笑みを浮かべるので俺にはただ美味しそうに啜ることしか選択肢は残されていなかった。悪意が全くないというのは恐ろしい

体にはそれが一番良いのは分かっているが、これが合格祝いだというのだから空しいところだ



食事が終わる頃。ウボォーギンはワインの酒樽に顔をつっこんだまま起き上がってこないし、フェイタンとクロロは新メンバーのヨナと楽しそうに話をしていた
ベンズナイフは90番代が一番ベンニー=ドロンの狂気が刃に込められていていい、とかやはり人の脂を多く吸った後期がいいとか、そんな話だ

「そんなにベンズナイフとはいいものなのか?」

俺のその場の空気を読まない発言にしばし呆然すると、ヨナはベンズナイフの良さを勢い良く捲くし立てた。製造における過程、ベンニー=ドロンの過去など、ざっと原稿用紙十枚分ほどの長い説明を受けることになるとは思わなかった


「という訳です。分かりましたか仙水さん?」

「ああ。もう十分だ」

「その感じ分かってないでしょ! もう……仕方ありませんね。布教用に私のベンズナイフを一本あげましょう」

そう言ってヨナが一度本拠地の自分の部屋から取ってきたのは重厚な金属性のケース
重そうに時々地面へ置いて休憩しながら持ってくるので途中で見てられなくなり、運ぶのを手伝う

ケースの中身は黒いクッション素材に包まれている十数本のベンズナイフだった。
形はそれぞれだったが、そのどれもが怪しいオーラを放っていて美しい
素人の俺でも一目で素晴らしい品だということが分かる

満足そうに自分の表情を眺めてヨナが手渡してきたのは、刃渡り十センチ程の両刃のナイフ。俗に言うタガーナイフと呼ばれる物だった
柄の部分は黒と銀で装飾されているが、それ以外の余計な装飾はなく、装飾のおかげで逆に手に馴染むのが心地よい

「さすがにそれは少し勿体無いんじゃないか?」

今まで黙っていたクロロが口を開いて出たのはそんな言葉だった
クロロもベンズナイフのファンなので、特に拘りのない俺にそんな上等なナイフを渡すより寧ろ自分に欲しいのだろう

「ナイフは人が使ってこそ価値があるんですよ団長さん♪ それにハンター試験のお祝いも兼ねていますし……」

「…………そうか」

渋々というように頷いてみせるクロロ。
そんなリアクションをされると、このナイフのことが少し気になってきた

「確かに素晴らしい品だというのは分かるが、これはいったいどういう物なんだ?」

「ベンニー=ドロンはナイフを作る時に徹底的に利便性を追求しているせいか、作品は戦術的ナイフの中でもコンバットナイフやサバイバルナイフのようなタイプがほとんどだ。戦闘中、そのタガーナイフのように急所を的確に狙わないと致命傷にならないような武器を作ることはほとんどなかった為に、ある意味90番代よりも希少だといえる」

「ベンニー=ドロンが利便性を追求したが故に、変り種のこのような品に希少価値が出るという訳か」

「それだけではない。それで少し指を斬ってみろ」

言われたまま指先にナイフを当てると何の抵抗もなく指先が斬れ、赤い雫が浮かび上がってくる

切れ味もかなりいいな

と言おうとしたところで、傷口から更に多くの血が溢れて来た。よく観察すると傷口が先ほどより広がっているではないか

「見ての通りだ。普通切れ味がいいとあまり出血せず完治も直ぐなんだが、そのベンズナイフは刃に込められたオーラのせいか、傷が治りにくく広がるという特徴がある
これによって急所を狙わなくても十分致命傷に出来るタガーナイフという……」

クロロはそのまま長々と語り始めてしまった
確かに止血点を押さえているのだが、言われたとおり血が止まりにくい
見かねたマチが念糸縫合するまで血は滲み出続けた

まだジンジンとする指の痛みを無視してナイフを握り、仮想の敵と向かい合う
敵は3人。中肉中背の一般的なタイプで軍上がりの様に逆手でナイフを持っている
両側の二人がサポートの役目を果たし、真ん中の一人が斬り込んできたナイフをまずはタガーナイフで受け止める

二、三度斬り結ぶと一度バックステップして両側の二人が牽制をしかけてきた。
右側から突き出してきたナイフの刃先を横から薙いで剣線をずらすと、その勢いで逆側に回転し反対側から振り落とされたそれを受け止める。それを待っていたかのように今まで戦闘に参加してなかった真ん中の男が飛び込んでくる
だがそれは予知していたわけで、ナイフを振り下ろした男の崩れた体勢を利用して向かってくる男を遮る壁兼、盾にした
ついでに盾の足を引っ掛けて隙だらけの首を掻き切る

その用済みになった死体を今まで攻撃のチャンスを狙っていたもう片方の男へと投げ、もう一人の男の方へ滑り込みざまにふくらはぎへナイフを突き立てる。

大分温まってきた体は頭の中でなぞった通りの剣線を描く

そうして二人目を始末すると、逃走を図った三人目の背中にナイフを投擲して終了
いい。予想以上にいい
ほとんど拳技を使わない烈蹴拳は手が留守になるので、ナイフとの相性も良さそうだ


満足して投げたタガーナイフを鞘にしまってようやく俺は辺りの様子に気づいた



座っていた革張りのソファーはボロボロで、カーテンは切り裂かれ、とりあえず眼に見える範囲のあらゆるモノは斬られている。不幸中の幸いは誰も怪我してないことだが、荒く息をしているノブナガを見れば必死で攻撃から逃げたことは想像に難くない
そして最後に投擲したナイフはクロロの首横数ミリ先に突き刺さっていた

「……なるほど。これがベンズナイフの魔力か」

「絶対違う!!!」

皆の声がピッタリ揃っていた



どうでもいい情報
~ヨナの団員の呼び方編~

仙水:仙水さん
クロロ:団長さん
パクノダ:パクノダさん
マチ:マチさん
フランクリン:お父さん (皆のお父さん的存在だから)
フェイタン:フェイお兄ちゃん
フィンクス:片思いさん (団長に片思いしてるから)
ボノレノフ:ホクロさん (ホクロがついているからww)
ノブナガ:厨二病さん (厨二病だから)
シャルナーク:腹黒さん
ウボォーギン:アフロさん (昔アフロだったから)
コルトピ:キタローさん (それっぽいから)

ちなみにこの呼び方はあくまで今現在の呼び方で後々変わる恐れがあります
それとヨナはトリッパーではありません



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