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仙水さん話す

ちょうど料理をトンパが食べ始める頃に後ろの茂みから視線を感じている。敵意は無いので放っておいたが、そろそろ声をかけるべきだろう

「君達、深夜に何の用だい?」

気づいていたのに驚いたのか、しばらく揺れる木々。暫く仲間内で小声で話し合うと諦めて出てきたのは3人組みの女性だった。おそらく姉妹なのだろう、顔が似ている

「何でばれたのかな~? 絶だけは師匠に褒められたのに……」

一番小柄な眼鏡をかけた青い髪の少女が先頭に、金色、紫色の髪をもつグラマーな女性が続く

「バカッ! ダークエンジェ…ゴホン、この方に通じるはずがないでしょう」

「向き合ってみると、やっぱり強いね」

一辺に喋られると話が混乱しそうなので、とりあえず焚き火の奥に座るよう促す
先ほどの発言でこの3人が転生者であることは分かった。既に残りのチームの内の四人は転生者ということになる。

転生者の数が気になるところだが、まずはここに来た理由が一番だ

「正確な数は分からなかったよ。君達かなりの使い手だね」

「……普通なら嫌味にしか聞こえないけど、ここまで実力差があるってことは純粋に評価されちゃってるのかな?」

「まぁ、感激ですわ!」

言動、及び筋肉の付き方から紫の髪の女性が参謀タイプ、青髪が補助タイプ、金髪が戦闘タイプといったところだろう
現に感激ですわ、と言っている金髪が、いざという時残りの者を守るためにこちらと一番近い場所に位置どっている。

他の試験ならともかく、この試験で他人を傷つけることは失格に繋がるのでやる気がないのは向こうも分かっているのだろうが、それでも警戒しているということはこれから話す内容がこちらを怒らせる可能性があるのだろうか? 

それとも単純にこの警戒のしかたが普段通りなのか?

後者の場合は、そういう危険がいつも付き纏っているということになるのでより警戒する必要がある。この試験中は危害はないと思うが、やっかいな念能力でもかけられたら後々面倒だ。何がきっかけで念能力の条件を達成することになりかねない。

凝で観察しつつ、発言にも細心の注意を払おう

「凝なんかしなくても別にこっちに危害を加える意志はないよ」

案の定、青髪の少女が凝に気づいてそう言うが、止める気はしない。
騙そうとする奴は大抵そういうのだ

「すまない。だがこれはもう癖みたいなものでね。悪いが我慢してもらおう」

疑われることを渋々許容した青髪が寝癖のついた頭を掻いて、諦めたように話しだした

「まず、いきなり用件を言うのもあれだから自己紹介しようか。私の名前はサイカ」

続けて貴族のように髪を縦ロールにした金髪

「ワタクシはマリアと申します。以後お見知りおきを」

最後に頭の片側に団子をつくった紫髪

「……リュウだよ。気づいているとは思うけどあたし達はトリッパーだ」

自らトリッパーだと明かすということは勿論こっちの正体も気づいているということか
だとしたら考えられる用件としては原作のまま進めるか、原作崩壊を手伝えということに違いない
どちらにしてもあまり気乗りしないな


「一応いっておくけど、勿論あなたにこれまでの人生の詮索なんかはしないよ。この世界はいろいろと厳しいからね…… そこまで強くなるにはきっとあたし達以上の過去を持っているということでしょ?」

「バカねサイカ。そう言ったら聞いているもいっしょじゃない」

「本当、我が妹ながらバカで困りますわ」

「五月蝿いなぁ」

何だか仲良く話しているみたいで暇なので、トンパのうるさいいびきを抑えるために鼻を摘んでみる。……苦しそうに唸っている
そしたら鼻を押さえていた指にトンパの油がついたので、綺麗そうなトンパのタオルに押し付けて拭い取った


「あの……トンパさんと知り合いなの?」

気づけば3人全員がマジマジとこちらの様子を見ていた

「そうだな。しいて言うなら、ゾンビとハンターの関係が一番近いかな」

「「「…………?」」」

どうやら理解されなかったらしい。こんなにゾンビっぽいのに何故気づかないのだろう?
見る目がなさすぎる


「ま、まぁ話を戻しましょう。ワタクシ達の用件は今年に起こる『クルタ族の虐殺』それを阻止するためにあなたに手伝ってほしいのです。ダークエンジェ…仙水様の実力が本物ならそれも可能のはずです」

「既に一度クルタ族のところに行って、住む場所を移すように言っているのだけど、部族の掟、掟と五月蝿い人たちばかりで受け入れてくれないの」

「若い人たちは割りと柔軟に考えを受け入れてくれるんだけど、酋長の許しがないとダメだって……
残った手は幻影旅団の襲撃を里の外で待ち受けて、時間を稼いで、日和見主義の酋長に厳しい現実を目の前で見せて考えを改めさせるぐらい。今もトリッパーの皆に呼びかけているのだけど、幻影旅団の名前に怯えて参加してくれる人は少数。でもあなたほどの強者なら…」

「断る」

目の前の3人は言われたことが分からないかのように呆然とすると、それぞれの表情は違うが揃って負の感情の篭った眼で訴えかけてきた

何故?

理解できない

最低

口には出してないがそういうことを考えているのだろう
それこそ理解できない。口ぶりでは情に訴えて生きていける世界じゃないことを十分に理解しているんじゃなかったのか?

「一応、何故と聞いてもいいかな?」

青髪は冷静になろうとしているのだろうが、頬が引きつって上手く笑顔を作れていない
そこまで意外だったのだろうか? 寧ろ幻影旅団に関わろうとしないトリッパーのほうがよっぽど現実的で賢い

「簡単だ。そうする必要も、そう考える必要さえもないからだよ」

「何で!? 力を持っているんでしょ? 救える人がいるのに助けないのはその人たちを殺していると一緒だよ!」

「そうですわ。力を持つ者には弱者を助ける義務があります。そういう信念のない力は意味がありません」

「私があんたみたいに力を持ってたらもっとたくさんの人を救うわ」


「……だったら戦争で困窮している難民たちを救済せず、湯水のように金を使い、大豪邸を建てる富豪は殺人者なのか?」

「そ、それはあくまで富豪の話でしょ!」

「同じだよ。富という力を持っているにも関わらず人を救わない人間は殺人者だ。そして私は殺人者でも構わない」

何も言えず悔しそうに引き下がる青髪

「たしか義務といったかな。ここでいう義務と信念本来対立するものだが、君の中では同じもののようだ。そう仮定して話すとしよう。君には信念があるのか?」

「勿論、ありますわ」

誇らしげに胸を張っている金髪の喉元にベルトに差していたサバイバルナイフを突きつけた
当然、直ぐに三姉妹は臨戦隊形に入ろうとするがその前にナイフを引いて敵意がないことをアピールする

「君の信念はこうやってあっけなく、信念のない力によって屈服させられる。自らの力に拠り所を求めた時点でこうも人は弱くなるのだよ。
そして義務とは人を助けるという偽善的なものではなく、自分自身の力を向けた後にその責任を持つと言う至極当たり前のことだけだ」

最後の紫髪の女に眼を向けると、強気な態度でこちらを見返してきた。
論破できるものならしてみなさいとばかりの態度だ

「君は問題外だ。いくら仮定しても君自身の力にはならない
まだ他の二人のほうが行動に移していける内容なだけマシだ」


そうして納得の出来ないような表情を浮かべて三姉妹は帰っていった
この世界に生まれた時点で自身の人生を好きなように生きる権利は誰しも持っている。やりたいなら好きなようにやってくれ


……とは言え、少なからず幻影旅団との縁を感じている身としては放っておくこともできない
トリッパーも原作の幻影旅団の強さを十分、分かって防衛戦に参加するだろうから旅団にも少なからず被害はでるだろう。
怪我を治す念能力者でも確保したほうがいいかもしれない

偉そうに言った所で結局は自分自身も彼女達と何ら変わりないのだ

信念という幻想に縋っている彼女たちと、ただ闇雲に生き続けている自分

どちらもその先にあるものが空っぽという点では同じだ






†  †  †  †  †

第三次試験が始まって早々私は重いため息をついた
試験地はあの“イグルーの樹海”、あの“イグルーの樹海”だ

私はアイジェン大陸出身なのでよく知っている。世界三大魔境の一つであり、魔獣たちの巣窟
学者の中には魔獣の故郷はこの地とまで言われているほどで、童話にもなっているこの地の恐ろしさはよく両親に教えられている

イスマスに言われ、私は恥も外聞もなくおとなしくイスマスの背中に隠れた

なんせこの樹海は不気味な声で溢れているし、鈍い私でも殺気に中てられてさっきから心臓が早鐘を打っているほどだ


案の定、樹海に入って直ぐクワガタのようなハサミをもった狼の魔獣が『殺シテヤルッ』と襲い掛かってきたが、イスマスは両手でそのハサミを掴み取ると捻じ曲げて真っ二つに引き裂いてしまった

相変わらずイスマスは強いな~と関心していると、おそらくさっきのハサミが引っかかったのだろう、イスマスの腕に傷跡が残っているのが分かる

「大変! イスマス、ちょっと待っててね」

肩からぶら下げたバックから医療道具を取り出して、別に必要ないと断るイスマスの腕を消毒し、ガーゼを貼ってその上から包帯をグルグル巻きにする。
少し汚くなっちゃったけど、あたしが気づかないと、イスマスはこういう怪我を軽視する傾向があるので直ぐに手当てするようにしている

そしていつも満更でも無さそうな笑みを浮かべるので性質が悪い



二人で食べられそうな食材と飲み水、一夜を凌げそうな場所の確保が済む頃には既に日は暮れていた
むしろあの魔境でそれだけ必要なものを確保できるのに一日もかからなかったのは偏にイスマスのおかげだろう

しかし魚の塩焼きを二人で味わうという、ささやかな幸せは深夜の来客によって壊された

最初に気づいたのはイスマスだった。
しばらくして私もようやく闇の奥から人影がやってくるのが分かった。

人の形をしているとはいってもキリコのような変幻魔獣がいるので油断ならない
そして焚き火の火に照らされてハッキリと姿が見えた時、私はなんで魔獣じゃないのだろうとこの世の厳しさを思い知ることになる

「夜分遅く失礼するぜ」

ムクロ様だ!!! よりにもよって危険度ナンバー1が来るとはついてないね、アニーちゃん♪

……何でさ?

そんな私の心情は何処へやらムクロ様は焚き火の前に当然のように胡坐をかいてこちらと対峙する。ムクロ様は包帯をとれば綺麗な女の人だからもっと女らしくしたらもてるのだろうに……
勿体無いという気持ちと、女の私でも憧れてしまうカッコよさを内包したムクロ様を見ていると、気分を害してしまったのか包帯から覗く眼球で睨みつけられ萎縮してしまう
やっぱ怖い

「……あの、何の用事ですか?」

イスマスはムクロ様を警戒するのに集中しているので私が恐る恐る切り出す
出来れば早く帰っていただきたい

「オレは今まで数限りない念能力者と対峙してきた。純粋に力を求める奴、変わった能力を持つ奴、日常生活にしか使えない能力をつくる奴、まるで使えない能力を持つ奴もいれば神の奇跡のような能力を持つ奴もいる。そんな念の奥深さに最近では変わった能力者を見るのが唯一の娯楽になりつつある。そして中でも一番興味深いのは死者の念だ」

「はぁ」

いきなりの話しについていけず、気の抜けた相槌になってしまうのは仕方無いだろう

「なぜ死者の念が強いか考えたことがあるか? 
専門家達は念が当人の心の動きに密接に関係していることから、生物として一番感情が高ぶる瞬間である死ぬ直前に最大のオーラが体内から発生するせいだと考えているが俺は違う。
その念が死者の憎悪や執着の強いものに向かうというのは正しいと思うけどな……

結論を言うと、人間の魂という奴の大部分はオーラで出来ているから死者の念は強いってわけだ。なんせそれ自体が凝縮されたオーラの塊だからな」

なかなか信じられない話だった。
転生者である私が言うとちょっと違和感を感じるけど魂というものは存在しないと考えているからだ。だったら前世と連続しているこの私という記憶はどうしてあるのか? と問われたらそれは神のみぞ知ることだろう

「それで、用件は何ですか?」

「どうやら白けてる訳じゃなさそうだな。これ以上は見たほうが早い」

ムクロ様は呆れたように言うと、目の前から消えた。間違いなく消えたのだ
何処にいったのかイスマスに訪ねようとすると、消えたはずのムクロ様の腕が



イスマスの腹部にムクロの腕が突き刺さって・・・・・・反対側から血まみれの指が覗いていた

「えっ!? わぁーーーー!!!」

急いでムクロをイスマスから引き離そうとただ闇雲にタックルしたけど、片手で止められる

目の前で腹部から血を流しているイスマスを助けたい! でもムクロに止められて何も出来ない私は自分の不甲斐なさに泣きながら、ただイスマスの無事を祈るしかなかった

「よくもっ!! よくもっ!!よくもっ! ……ヒック、イスマスを助けてよ~」

行く手を阻むムクロの手を念で強化することも忘れて叩く

「こいつを助けたいなら、ただ死なないことを祈るんだな」

そう、ムクロの手を逃れようとしても私の力じゃ無理だろう。癪だけど今のあたしに出来ることは祈ることだけ
眼をつぶって、再び開けた後に無事なイスマスの姿が見れたらきっと幸せだろう
それが到底無理な願いだってことは分かるけど、このままイスマスが死んでいくのをただ何も出来ずに眺めるよりはずっといい

「おい、目を開けろ」

嫌だ、見たくないと抵抗すると、ムクロは私の瞼を引っ張って無理やり目を開けようとさせる。嫌がる私にイスマスの最後の瞬間を見せようとするなんて最悪だ

しかし、抵抗も空しく私の目は開かれ、ムクロは首を固定してイスマスの最後の瞬間を見せ…………えっ!?

少しグタッとはなっているけどそこには無事な姿のイスマスがいた……どういうこと?

よく見てみるとイスマスの服は先ほどの光景は嘘じゃないとばかりに、ムクロの手によって破けてはいたがお腹には傷が全くない。
気が抜けたのか、あたしはドサッと地面に倒れこむ
なんだかやけに体がだるいな

心配したようにこちらへ駆け寄り、ムクロから庇うイスマス。ああ、よかった。生きていてくれて

「大丈夫かアニー?」

「イスマスの方こそ」

「私は大丈夫だ」

それにしても何故怪我してないんだろう? むしろこれは治癒ってレベルだけどイスマスはそんな能力者じゃなかったはずだし、隠し能力だったのかな?

「見ての通り、そいつはお前の念能力だ」

何をいっているのかまったく理解できなかった。ここで言うそいつはおそらくイスマスのことなんだろうけど、イスマスはちゃんと自分の意志を持っているし、血も流れている人間だ。それに私はオーラ量が異様と言えるほど少ないし、発が出来るほどの技術も持っていない
毎日練をしているのにも関わらず、それを認めるのは嫌だけど……
とにかく、そのどれもがムクロの発言を否定するのに十分な理由を持ちえていた

「何を言っているんですかムクロさん。イスマスに失礼でしょ」

「悪いが何か勘違いをしているのではないか?」

「では聞くが、その男が過去に死にかけたこと、または危なかったことはないか?」

……たしかにある。五年前だったか、私達が乗っていたフェリーを突然襲った海賊の凶弾に倒れて海へと落ちたように思っていたが、無事戻ってきて私を襲おうとしていた犯人を倒した
でもそれが何だと言うのだろう?

私の無言を肯定と受け取ってムクロは再び話しだす

「それにオレの能力は死者の念を感じ取ることがその条件の一部だ。死者の念に気づかないはずがない」

「でもこうしてイスマスは生きているじゃないですか! それに死者の念と私の念能力に何の関係があるんです!」

「……オレの仮説はこうだ。いつかは分からないがその男はその時死んでいた
しかし、お前はそれを信じたくない余り、男を具現化。その男への強い思いがそれを成功させたがそれだけならその男はそこまで人間らしくならなかっただろう。念の未熟なお前の実力ならせいぜい上辺だけをつくるのが精一杯で、構成も五分と持たなかったはずだ

だがその男の死者の念がその奇跡をおこした

生前の自分と全く同じ姿の、お前が作り出した人形に引き寄せられ、そこにいる男は完成したってところだな。まったく念は奥が深い」

「それは全て憶測でしょう。些かその理論には無理があるように思えますね」


まるで答えから無理やり式を求めていくような強引なやり方だ。それにその憶測はどれか一つでも欠けたらなし得なかった。正に奇跡としかいいようのない出来事を信じるほど私は非現実的な人間じゃない


「だったらオレが殺したはずのその男が今そこで生きていることをどうやって説明する? そしてお前が今どうしてそこで疲れ果てているのかも
全ては能力者であるお前がその男の無事を願って、無意識に自身のオーラを提供し損傷した部分を再生させたと考えれば全て説明がつく。

まだあるぞ。今まで直接その男は人から話しかけられたことはあるのか?
誰も話しかけるはずがない。それは男の姿をとっているだけで、いわゆる念獣の一種に過ぎない存在だ。たとえ人だと思っていても、その男に話しかけるという行為は酷く不自然に感じるはずだ」


どうして、どうしてどうして!! この人は私達の邪魔をするのだろう?
ただ私達は互いに必要な存在で、それ無しで生きていくことなどが考えられないだけなのにっ!!
突然現れた人がそれを邪魔する権利などあるはずがない


「ほぉ、やはり薄々気づいていたようだな。全くの無意識で具現化し続けることなど不可能だから当然と言えば当然だが……その顔が見たかった。憎悪と自己憐憫、羞恥、敵愾心に満ちたその表情を、それを見るために今夜来たからな。クックック、おもしろ過ぎるぞお前っ!!」


樹海が殺気で満ちた

今回はタイトルの通り、会話がほとんどの回でした。最近あまり会話を書いてなかったせいか、不自然な所もありこれから努力していく次第です!

あと、うざくないトリッパーを書こうと努力したんだけどどうしてもうざくなってしまうのは何故!?

……その内いい性格のトリッパーを出すようにします





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