書けるうちに書いておけ!
という考えで珍しく最近は構想が浮かびます
これも読者の皆さんのおかげです。ありがとう!そしてありがとう!
仙水さん懐かしむ
二次試験が終わると直ぐに飛行船に乗せられた。合格者が十名しかいないので貸切の飛行船の中は随分と広く、到着するまでに食事を済ましておけと、小さな食事会も用意されていたがどうも食欲が湧かなくて丁重にお断りした。
外では雨がポツポツと降っている
二次試験前にふと思い出してしまってから、気が付けば記憶の糸を辿ってノスタルジィに浸ってしまっているのに、更に追い討ちをかけるようなこの雨
あれはいつだったろうか? 詳しくは思い出せないがあの古びたビルの中で仲間と共に過ごし始めてそれほど経ってなかったように思えるので五歳かそこらの時だろう
その日もこんな風に雨で、俺達は天気の悪さと対照的に喜んでいた
裏の仕事も、雨の日はファミリーレストランやスーパーの客が減るのと同じように少なくなるからだ。そして、午前中に俺達への仕事を下す命令役の中年男から直接今日は休みだと告げられ、色めき立った。
普段なら仕事がないということは直接命に関わるので避けたかったが、その日の前日にマフィア同士の抗争による死体の後片付けという大仕事があったので、気持ちはまさに学校に通う子供たちの休日のそれだ(最も俺達の中で学校に通う奴は一人もいなかったが)
「今日はお祝いだ。秘蔵の肉を皆で食べようぜ!!」
年長者のリーダーの言葉に更に興奮する俺達。肉を前に食べたのはいったいいつの頃だったろう? 日々食っていくのが精一杯な俺達にその誘惑にあらがう術はない
下の子たちの立派なお姉さんであろうとするエリもあの時は子供らしい笑みを浮かべていた。
最もまともな肉ではない。街で犬をかっている家から与えられた犬用ジャーキーを横から掠め取って、非常食として全員分溜めたものだ
それでも人肉を食べるよりよっぽどマシだろう。以前飢えに飢え、一度だけ試してみたことがあるがとても食べられるようなモノではなかった
「おいしいね。仙水♪」
エリはそれはそれは大事そうに、口の中にちょこっとずつ入れて、味も無くなり原型が止めきれなくなってようやく飲み込む。思慮の浅い下の子は早々に食べてしまい、エリの元にねだりにくるが「これは私のだから、ダメッ! 仙水のにしなよ」と頑として譲らないスタンスを保つ
泣きながら自分の元へ来る子供達に断腸の思いで端っこの部分を譲ると、エリは自分を棚に上げ、子供みたいと高らかに笑った。
そんな幸せの形があった
気づけば外はもう暗く、眼下で建物の光が後方へと流れていく
一度肩を回してコリをほぐしてから自室に戻ると、備え付けの机の上に書置きが残してあった。
『第二次試験、大変にお疲れ様でした
仙水様の食事は冷蔵庫の中にありますのでどうぞお食べ下さい
なお、第三次試験の開始は本日の深夜を予定しております。精神的余裕を持つことは大事ですが我らハンター協会としてはいついかなる時でも対応する力を求めていることをお忘れなく』
一通り目を通してからクシャクシャにしてゴミ箱へ捨てた
最後にハンター協会の印がないことから、どうせトンパのイタズラだろう
二次試験の終わりに少しビスケと話してみたところ、三次試験が始まるのは明日の朝らしいし|(試験官にあるまじきカミングアウト。上も公平を期すべき試験官が情報を漏らすとは思ってないだろう)、どうせ警戒を促すような文章を残して精神的に疲れさそうとしてのことだ
それにトンパの手を使わずとも精神的に疲れているのは否めない
冷蔵庫の中にはサンドウィッチとパスタ、サラダ、パンとやたら炭水化物の多いメニュー
ビュッフェ形式だったのだろうか? ああいうのは腹を膨らませて利益を貪ろうとやたら炭水化物が多い
今と過去の食事の差に何ともいえない気持ちになって、用意されたものを全部食べてしまった
どうせトンパのことだからこの中にも下痢を促す薬物でも入っているのだろうが、毒物の耐性はつけてあるので致死量クラスでもない限り体に異変はない
……明日に備えて寝るとしよう
飛行船が停止したのを感じたのは目覚めのコーヒー(インスタントだった)を飲んでいる時だった。受験者は全員、直ぐに放送で呼び出され下船する
何故だろう?
目の前に広がる光景は森林、いや樹海といったほうが正しいのか
見渡す限り鬱蒼と生い茂った緑に亜熱帯のジメジメとした空気
時折森の奥の方から悲鳴のような声が聞こえる
……その全てに覚えがある
しばらく呆然としていたが試験官の声によって現実へ引き戻される
「というわけで、第三次試験はここイグルーの樹海、世界三大魔境の一つとして有名なここで三日間生き残ることだ」
イグルーの樹海。人生の半分を過ごした地、自身の故郷といってもおかしくない場所だ
ところがそうは考えない人物もいるようで
「ふざけんな! 無理に決まってるだろっ、こんなところでプレートを奪い合ったら全員死ぬぞ!!」
二次試験で合格したもう一方のチームの、金髪でさぞ女にもてそうな容姿をした男が猛抗議。まだ誰もプレートを奪い合うなんて言ってないだろうに……
おおかたこの樹海を見て原作の第4次試験を思い浮かべたのだろう
転生者確定だ
「……? 何か勘違いしておられるようですがプレートを奪い合うようなことは致しませんよ。なかなかいい案ですけどね」
「ここでは受験生同士互いに争うのを禁止します。もしこれを破った場合は即刻失格とさせていただく」
「……どういうことだ?」
「実は先ほどの二次試験でかなりの人数が絞られたみたいで、これ以上有望な人材が減るのを上も望んでないのですよ。それに付け加え、受験生同士の争いなんて不毛です
団結するもよし、一人で行動するのもよし、とにかくここで三日間生き残ってください」
十年以上過ごしていた俺の立場は……
第三次試験は協力を促していても始まる場所は別らしく、それぞれのゲートから試験が始まった
あの頃のように鉄条網の隙間を通ることは出来ないのでハンター協会の手で臨時に作られたゲートをくぐると、雨上がりということもあってむせ返るような懐かしい植物と土の匂いが出迎えてくれた
「やはり故郷はいいな」
とりあえず住居は猿の魔獣が住んでいた洞窟で決定だが、食糧や飲み水の確保がまず先だろう
その両方を確保するのはやはり湖だ
やたら毒々しい色の魚、正式名称はケプラーフィッシュなるものを手づかみで捕獲し、五匹ごとに蔓で括る。そのままでもこれは美味いが、干物にすれば更に味が熟成され絶品になるのだが三日の滞在では作れないのが惜しい
水はいつもバックに空のペットボトルを入れているので、綺麗なところで汲めばいい
コポコポと愉しそうな声をあげて水を飲み込むペットボトルに気を遣いつつ、もう片方の手で体を持ち上げて、浮いた右足を背後から襲おうとした鳥の魔獣の横っ面に叩き込む
ペットボトルのキャップを閉めながら、痛みでのたうち回る鳥の魔獣を改めて確認する。この鳥はイグルーの樹海で最も多く生息している魔獣、キバハクオウだ
一応、魔獣なので人語を解せるが知能は低く、やたら大きな嘴と、南国の鳥のようにカラフルな黄色の羽毛をもち、その名の示すとおり口の中には肉食動物のような牙が生えている。
その他にも夜行性だとか、飛べないだとか説明することは多々あるが、今重要なのは一つだけ
こいつは見た目の期待を裏切らず、美味しくないということだ
『ブ、ブチコロシテヤルッ!!』
怒りを顕にその鋭い牙を向けて突進してくるスピードは、羽ばたきによる加速もあって凄まじい
少年時代はこのタックルをまともに喰らい、肋骨が折れた中、命からがら逃げ出した覚えがある
今となっては既に慣れたもので、つま先に凝をしたままコツンと猛スピードで向かってくるキバハクオウの頭を小突く
それだけで脳髄を撒き散らしながら地面へと崩れる獲物
オーラ量は呪念錠によって少年時代以下まで落ちているがその分、修行によってオーラの密度は以前のそれとは比べ物にならない。いくらオーラ量が多くともそれを体表面に留める力がなければ紙でしかないのだ
魚と飲み水を確保して久しく帰ってきたあの洞窟は以前の主、つまり自分の匂いが残っていたせいなのか、荒らされた様子もなく、薪にピッタリの乾いた枝が隅っこに転がっているという最高の状態で主人の帰りを出迎えてくれた
ただ、その代わりに強力な魔獣たちの縄張りの間になっているようで、たどり着くのに苦労したが……
洞窟をより過ごしやすいものにする為に、木々の葉っぱを自作の木製の枠に集めて簡易的なベッドを製作し終わった頃には日がすっかり暮れ、梟の声や魔獣の奇声を聞きながらのディナータイムを始まることにした
木串にさしたケプラーフィッシュから滴り落ちる油が焚き火の火に落ちてジュッと香ばしい音をたて、まるで今が食べごろのサインですよと教えているようだ
そのサインに充分に従いつくした後、森は急に静かになった
この静けさがどうしても苦手だった
頼りにしていた梟の声も、魔獣の恐ろしい声も聞こえなくなるとこの森は本当に静かになってしまう。闇の中では魔獣が息を殺して自分を狙っているのかもしれないと考えると、怖くて怖くて眠れなかった。実際魔獣が夜襲ってきたこともあるので尚更恐怖は増す
エリが死んでしまってもう恐れるものは何もないと嘘ぶいていたが、所詮は子供
母の温もりも、父の優しさも知らずに生きたこの世界に味方はなく、見るもの全てが珍しく、見るもの全てに怯える毎日
生前の記憶を思い出そうにも、その記憶は今いるこの世界と直接的な繋がりはなくどうしても心細かった
そんな時は忍によく慰めてもらったものだ
彼が自身の真の理解者であり、唯一の繋がりでもある
最近ではすっかり姿を隠してしまったが、彼の存在がなければここまで生き残ることは出来なかっただろう
二日目、昨日は久しぶりに帰った故郷の景色を充分に眺められなかったので、食糧調達も兼ねて周囲の散策をすることにした
樹木にベッタリと張り付いたコケの裏には、陸上に生息している海老の一種であるオカエビがいる。この樹海に住んでいる生物のほとんどが毒を持っているので、処理無しで唯一安全に食べることが出来る貴重な栄養源だ
他にも野鳥の卵などの食材を次々にバックパックと詰め込んでいく。今日は昨日よりも随分豪華な食事になりそうだ
ふと、木陰の奥から人影が向かってくる
「お~い、仙水!! 探したぜ」
それがトンパだと分かると食材の確保を止め、バックパックのチャックを閉めて反対方向へ駆け出した
「えっ!? おい、何で逃げるんだよ!! 俺だって、トンパだって!!」
クソッ、追いかけてくるか!
走る場所を木の上に変えてみるが追っ手は変わらず追いかけてくる。追跡を免れる為に湖へ飛び込んだり、木陰に隠れたりするが、さすがハンター試験常連者なだけあってなかなか奴は鋭く引き離すのは難しい
そうして逃げ回ること約二時間
さすがに面倒臭くなってきたので停止して、背後追いかけてくるトンパを待つ
息を切らして、前のめりになって追いかけてくる姿はさながらゾンビのよう
「ぜぇ~、ぜぇ~……何で…逃げるんだ?」
「……!? トンパだったのか?」
「何今更気づいたみたいな言い方してるんだよ!! 絶対気づいて逃げたろ」
「すまない、てっきりイグルーの樹海に迷い込んだゾンビかと思ったんだよ」
「逆によくそんな推測が出来たな!」
「私もゾンビの存在は信じてなかったが、実際この眼で確認できたなら信じるほかないだろう?」
「確かに疲れて少しはゾンビっぽくなったことは百歩譲って認めよう。でもお前と出あった頃はまったく疲れてなかったぞ」
「生まれ持っての才能という奴だな」
「そんな才能は断じて認めねぇ!!」
そんな掛け合いで飛行船での夕食の恨みを晴らす。執念深いのだ
事情を聞いてみるに、何でもトンパは直ぐに他の受験者と合流しようとしたらしいのだが、もう片方のチームには何故か全く受け付けられなかったらしい
こちらのチームでは少女とイスマスの中に入り込むほど図々しくはないし、ムクロとの団結行動は命が惜しいので消去法で俺の元に来たということだ。
協調性のない連中だな
さすがに魔獣のうろつく樹海の中放っておくほど人が出来てない訳ではないので、住処へ案内する
我が物顔で葉っぱのベッドに腰を下ろしながら
「へぇ~、いいところに住んでいるんだな?」
と早速睡眠をとりだすゾンビ、もといトンパ
昨夜は警戒して眠れなかったのか、スヤスヤと眠りに落ちるトンパを他所に食材の下ごしらえに取り掛かる
オカエビの殻を剥いて、アクを抜いた山菜と炒めるとあたりに好い香りが漂い始めた
うん、なかなかいい味だ
何故昔の俺は料理をあまりしなかったのだろう?
修行のほうが大事だったから? たぶんそれだ
最後に目玉焼きを作って、出来上がり
ちょうどいいタイミングで目覚めたトンパにそれを運ぶと、毒は入ってないだろうなと失礼なことを言い出したので目の前で食べて見せて渡した。
君のようなことはしない
それで安心してトンパは食べ始めたが、毒見の後に睡眠薬をこっそり盛ったので彼は倒れこむように眠った
毒は盛ってないので嘘は言ってない
深夜の来客に彼は立ち会うこともないだろう……
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