仙水さん呆れる
闇の中、ほとんど手探りでただ前に進むこと4時間。
視界ゼロの中で闘ったことは数あるが、ここまで長い時間暗闇の中にいたことはない
足の裏で岩のゴツゴツとした感触を感じ取る以外に外的接触もないというのは想像以上につらく、後ろを歩く少女が疲弊の色を表し始めたので、ひとまずなるべく平らな地面で休憩をとることにした。ちょうどこの辺りは湿気が強いせいか、まばらにヒカリゴケが生えているようで周りの様子がボンヤリ見える。やはり明かりがあるというのはいいものだ
「いやぁ、疲れたぜ~」
そのトンパの声に重なるように少女はため息をついた。不満の類は聞かなかったがやはり疲れているのだろう、連れの男、イスマスにもたれかかるようにして休憩する。
ふと背後からムクロの声を聞いて振り返ると、いつものようにニヤニヤと包帯の下で笑っていた。|(出会って一日も経ってないが、いつもその人を不安にさせる笑みを浮かべているのだろうことは想像に難くない)
しかし、今回のターゲットは幸運なことにどうやら俺ではなく、少女とイスマスの二人連れらしい
「……愉しそうだな。いつも一緒なのか?」
いきなり怪しい人物に声をかけられた少女は動揺を露にした
「そ、そうよ。いや、そうです」
最初は強気でいこうとしたのだろうが、途中でムクロの放つ禍々しいオーラに怯み、口調を変える辺りが少女のなけなしの自尊心をよく表している。服従か、反抗か? の二択しか新の絶対者は与えてくれないのだ。
「クックック、それはいい! 自作自演の芝居を常日頃やっているのか……いや、本人は気づいてないのだからそうも言い切れないのか? どちらにせよ面白い」
不吉な笑い声をあげるムクロに、当の少女も俺もまったく理解が追いついていない。
トンパは何でこんなチームに入っちまったんだ? とばかりに頭を抱えて、少女を支えるイスマスは眉一つ動かさず少女を守るように抱きしめた。
ムクロが何をいいたいのか問いただそうとしたが、ムクロはクックックと不吉な笑い声をあげて自分だけの世界に入ってしまったのでそれももはや敵わない
手持ち無沙汰になった俺は、ヒカリゴケがいったいどういう原理で発光しているのか、つまりちょっとした好奇心で壁際に寄る。
うん? 確かにヒカリゴケが生えている所から発光しているが、それ以外の何も生えてない場所からも僅かに発光している
これはひょっとすると……
「確かトンパと言ったかな。少しこっちで手伝ってくれないか?」
「ああ? この空気から逃げ出すのなら喜んでやるが、いったい何やってるんだ?」
「ここのところを見て欲しい」
トンパは肩口から首を伸ばして俺が指差す先を覗く。そして、ルーペのようなものを取り出して観察すると
「これはまさか……、よし、ちょっと待ってな。今道具を取りに行ってくるからよ」
やはりというか、トンパが小さな蚤とハンマーで掘り出したその先には緑色の光る原石があった。研磨されてない状態でこの光なら、研磨すればいったいどれほどのものになるのだろう?
「これは……緑晶石だな。残念ながら目的のサンヴァニックじゃねぇが、これも中々の値打ちもんだ。ほら、あんたが見つけたんだ。とっときなよ」
「いや、遠慮しとくよ。それは君の手柄だ。とっておきたまえ」
その程度の宝石などしかるべき所にはたくさんある。それよりも目的の原石の見つけ方が分かった方が大きな成果だろう
お互いに譲り合っていても仕方無いと考えたのか、トンパは「ありがたく貰っとくよ」とご機嫌な様子を隠そうともしない様子。そういうとこは逆に好ましく思える
「あんたのこと誤解してたみたいだな。俺はトンパ、ハンター試験のベテランだ。よろしくな」
「こちらこそ。私は仙水 忍だ」
微笑みを浮かべて握手した。
再び探索が始まったのがそれから三十分後。少女はまだ疲れが残っているようだったが健気に立ち上がり、無言で着いてくる。体力はないが、根性ならあるらしい
先ほどのムクロのこともあり、少しこの少女に興味を抱いてきた
「君はどうしてハンターになりたいんだい?」
少女がトンパに聞かれて碌に答えられなかった質問を繰り返す。別に意地悪したい訳ではなく、ただその質問が少女の核心に近づけると思ったからだ
少女は歩きながら突然話しかけられたことに驚いたのか、随分長い時間の後に溜めていた言葉を吐いた
「……私は帰りたい」
「試験が怖ければ直ぐに帰ればいいじゃないか?」
「違う! ……そうじゃない。
ちょっと前までは家族の安全の為にハンターになりたかった。でも今は故郷に帰りたい
だからハンターになるの!」
泣きそうな声で少女は言う。
普通の考えなら、彼女は何か問題があってハンターの権力でもなければ故郷に帰られなくなってしまったと考えるだろう。いや、それは広義的には間違いではない
おそらくここでいう彼女の故郷は“地球”で、それは彼女が転生者であることを表している。そして更に言うと地球へ帰る手段はおそらく二つ
一つ目は自らの念能力で地球へと渡ること。しかし、この場合はこの世界自体が“地球”と認識されているとすれば移動はできないし、まず異世界といってもいいこの世界と他の世界を移動するという概念自体がまずあるのか? 世界が並列に存在しているとも限らないし、ここは死後の世界なのかもしれない、ひょっとするとこの世界自体が“地球”の未来の姿かもしれない
可能性を上げればキリがないのだ
そこらへんの理屈を抜かしたとしても問題は山積みである。
とはいってもこの世界で転生といった形で生まれたのだから、どういう形になろうとも元の世界に戻ることは可能であるという意見もあるだろう。確かに可能性としては考えられる
例えば念能力によってもとの世界に戻れることができると仮定しよう。時間軸は自分が地球で死ぬ前で、今までの記憶も全てあるとする。
果たしてそれに使うオーラはいったいどの位の量が必要になるだろうか?
世界を渡る。
この世界でも瞬間移動能力者がいるので無理ではないだろうが、制約と誓約はかなりキツそうだ。
それに加えてこの少女の放つオーラは脆弱。纏しかできない今の自分よりも普段身に纏うオーラはずっと少ない。これでは到底世界の壁を越えるような念能力者になることは叶わないだろう
二つ目は一つ目よりも幾分可能性はある。グリードアイランドをクリアして“同行”や”離脱で元の世界に戻るのだ。グリードアイランドは世界の念能力者の中でも五本の指に入る、とネテロ会長に言わせしめたジンの認めた念能力者たちが作ったカードシステムである。そこらの能力者に頼るよりかよっぽど現実的だ
まぁ、おそらく彼女は後者を指して言っているのだろう。ハンターになればバッテラの試験に受かる可能性も上がるし、自らを鍛える意味もあって目標としては間違ってない
まぁ、彼女が本当に転生者ならばの話だ
「あなたはどうなんですか、仙水さん?」
「君のように確固とした目標があって受けたわけじゃないさ。ただそのほうが仕事に都合がよかっただけのことだよ」
公的施設の95%はただで使えることや、ハンター専用の電脳ページに入れることが大きい。最も、ハンター試験を受けに来ている者のほとんどが俺のようにそういうハンターの特権を求め、少女のようにハンターになってから何をするかという一番肝心なことを考えてない
「ムクロはどうなんだ?」
前で無言で歩くムクロに声をかける。円で集中しているムクロに声をかけるのは悪い気がしたが、この流れで聞いておかないともうこれから聞くことはもう無いように思えた
本人さえも知らない内に人を自ら遠ざける、遠ざけようとする傾向がムクロにはあった
「……暇つぶしだな。それも今のとこ成功しているとはいえないが、ただ祭り上げられているだけよりこうしているほうがよっぽどマシだ」
一万人以上で構成されているといわれている夜号のボスのセリフとなるとやっぱり重みがある
当たり前のことだけど、皆それぞれの事情を背負っている
「おい、俺は聞かないのかよ!?」
…………
再び暗闇は静寂を取り戻す。
しかし、大分奥に進んだせいか時折壁の奥に光を見つけるようになってきて、今では互いの顔も確認できるほどには周りも明るくなっている
だがどれもビスケの見せたサンヴァニックほどの輝きを有しておらず、採掘作業は一向に進んでない
しばらく進んでいくとはるか上から、底の見えないほど深いポッカリと空いた縦穴が行く手を阻んでいた。俗にいう完全な行き止まりかと思えたがどうやらそうでもないらしい
縦穴のはるか下のほうで、今まで進んできた道のように人が通れる洞窟があった。
だがちょうど穴を挟んだ向こう側にあるせいで距離がありすぎる上に、ロッククライミングの要領で横壁を渡ろうにも、地下水が染み出してきているのか壁はツルツルで引っかかりもない。
あきらめて引き返すという手もあるがここまでの道は一本道だったのでそれすら出来ない
「クックック、このざまじゃオレたちはハズレだったみたいだな」
「おそらく道が崩れたのだろうな」
「おいおい、何冷静に分析してるんだ仙水。このままじゃ失格だぜ!」
「そうですよ」
トンパの動揺に嫌々ながら少女も同意する。手はないこともないが、念能力者でもないトンパに見せるわけにはいかないな
すると困ったようにトンパを見つめる視線に気づいたのか、ムクロが何もいわずいきなりトンパの首にかけていたタオルを引ったくり、目隠しした。
確かにそうしようとはしていたが、何か一言かけるべきだったろうに
ついでとばかりにバックに入っていたトンパの上着を切り裂き猿轡にして、完成
少女はムクロの突然の奇行に酷く怯えていたが、念能力を見せないためだと理解するとホッとため息をつく
これでもう念能力を隠す必要のある人物はいなくなった。
周りの注目が集まる中、手の平にバスケットボールほどの大きさの念弾をつくり、まずは崖に一番近い場所に滞空させておく。続いて十メートル先と次々と設置して最後に下の洞窟の近くまで念弾を行き渡らせたら準備は完了だ
「で、どうするんだ?」
ムクロの声に急かされる
「一度やってみせよう」
少し助走をつけて、念弾の上に飛び乗ると続けて次の念弾に
ビスケの修行でやった乗り手を応用するとこんなこともできるのだ
ようやく洞窟に下りたところで少し声を張り上げながら、
「今のようにやってみればいい」
「そんなの無理ですよーー!!」
「なるほど、なかなか面白そうだ」
対称的な意見を賜った
結局少女は連れのイスマスに背負ってもらい、ムクロはトンパを片手で持ち上げることになった。トンパが最後まで反抗していたがムクロの殺気に中てられるとおとなしくなった。(気絶したというのが正しい)
少女たちの方は、少女が軽いということもあって上手くいった。浮き手のように長時間乗り続けるのは難しいが、ただの足場として直ぐに移動するならそれほど難しいことでもない
問題は体重のあるトンパを担当するムクロだった。
ただでさえ少女達が乗っていったせいで念弾に込められたオーラは少なくなっているのだ。
そしてムクロはそんな心配を他所に念弾に飛び移った
ムクロが念弾を踏んで跳んだ直ぐ後に、パツンとはかない音をたてて念弾が弾けているのを見るのはハラハラする。しかしそれは途中までは上手くいっているように見えた
ちょうど残り半分というとこで次に飛び移るはずだった念弾がはじけたのだ。
ムクロ一人ならともかく、トンパを背負って二十メートル以上ある距離を飛び移るのは流石に無理がある。だがどうする? と考える間もなくムクロは背負った荷物を投げた
こちらの方にモガモガ言いながら飛んで来るそれをキャッチすると、ムクロは余裕の表情で一つ飛ばしに次の念弾に飛び移り、無事到着した。
やはりとんでもない人物だ
「…………さすが魔界三大巨頭」
少女のよく分からない賞賛の言葉が聞こえた
再び道を進むこと一時間。どうやらさっきの道がショートカットに繋がったらしく、壁に埋まっている原石の光量も増えてきたように思える
そろそろサンヴァニックの放つ光に近い。この先これ以上に光るものがあればトンパに採掘してもらおう
「もうそろそろ採掘したほうがいいんじゃねぇのか? これとかどうよ?」
「詳しい知識はないから、君に任すよ」
少しずつ周りの岩を砕いて調査しているようだが、その苦い表情から当たりはまだないらしい
だいたい素人に採掘させるとか無理があるだろう。専用の道具も持ってないチームが採掘できるとも思えない――なるほど、そのための奪っていいというルールか
自己完結したところでムクロが巨大な光り輝く岩石を持ち出してきた。それは今までの岩石の中でも一番の輝きで、サンヴァニックのように見るものを惹きつける求心力がある
「さすがにこれは無理――分かったよ、やればいいんだろ?」
ムクロの眼力に根負けしたトンパがその巨大な岩石の中にある原石を掘り出す。さすがに巨大なこともあって苦労していたが、ブツブツ文句を言いながらも見事掘り出した。
「こんなに小さいのか……」
掘り出されたサンヴァニックは手の平に収まるほどの大きさ
それの魅力にやられない内に黒い布で輝きを覆い隠そうとしたが、それでも光が漏れてしまう
道を照らせるのはいいが、敵の被発見率も上がるのは少し痛い
そうして無事目的を手に入れたので帰路を急ごうとすると、前方から空気を切り裂く音が聞こえ、地に伏せる。背後でキャアッという少女の叫びが聞こえたが、イスマスが守ったようで怪我はないらしい
トンパは長年の経験で身を伏せ、ムクロに至っては無論、円を利用してその凶器、小さめの投げナイフを指先で掴み取っていた。
襲撃者は闇の奥にいるようで、闇を照らすサンヴァニックを持っている俺はいい的になり優先的に狙ってくる
なんとか今は空気の流れでナイフをかわしているが、飛んで来るナイフの数はどんどん増えてきているのでこのまま増え続けられるといつか当たるだろう。明らかに一斉に数十本のナイフを投げられているのだが、闇の中の気配は少なく、多く見積もっても3人だ
不思議に思い、凝で確認するとやはりナイフはオーラが込められていた。あらかじめたくさんのナイフを用意して操作系で操ったのか、それとも具現化したナイフに何かしらの付属効果をつけたのか。
とりあえず同じ場所に留まるのは拙いと駆け出すと、ナイフの矛先は完全に自分に移ったようで背中にザクッザクッと二本のナイフがささったようだ。だがそれ以上の攻撃をされる前に黒魔装束を具現化すると、まるでこの場の闇が纏わり付いたかのようなエフェクトと共にそれは現れた
ああ、やはりいい
強化系のレベルが上がったせいか、体の調子が一気によくなるのを感じる。とりあえず軽く拳を握って力の確認をすると、地面を蹴り一直線に襲撃者の元へ向かう
途中、何度かナイフが体に当たったが黒魔装束の前に跳ね返されダメージはない
襲撃者は若い赤髪の男とそれに身を寄せる同じく赤髪の女。
兄妹だろうか、容姿がよく似ている
「ぼ、僕は殺してもいいが姉さんは殺さないでくれ!」
「ちょっと何言ってるの!? 私の方が年上なんだから死ぬのは私よ!!」
何やら争いを始めてしまった
「ムクロはどう思う?」
「そんなことオレに聞くまでも無いだろう。確かジャポンのことわざであるだろう、喧嘩両成敗ってやつだな。うちではそうしている」
よくそんなことわざ知っているなという前に、「その論理だと成敗を受けるのは俺とこの二人組みになってしまうだろう」と指摘すべきなんだろうか?
何はともあれ結局出た答えは、どちらも殺すほうが後腐れがなくて楽ということだ
殺したほうが楽という考えが直ぐに浮かぶあたり、俺も旅団の影響を受けているのかもしれない
本人達にその旨を伝えたところ
「俺はこんな役立たずの女と違ってよく働くぜ! 殺すのはこの女にしてくれ!!」
「こんな馬鹿のいう事を聞いても意味ありませんよ。あたしならあんた達の欲望のはけ口に喜んでなるわ!!」
殺す気が一気に失せた。
「……俺もここに来るまでたくさんの物を捨ててきたが品性まで捨てた覚えはない」
「何だ、気が削がれたか? なら代わりにオレがやっておくか」
断末魔の悲鳴は最後まで聞こえなかったが、背後で肉と骨の軋む音が聞こえ続けていた。
「もう帰ってくるチームはないようね。じゃあこれで二次試験終了だわさ!!」
二次試験受験者180名中、死者113名、行方不明者54名
合格者10名
気づけばヨナのことばかり考えている。
病院にいってきま~す
⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン
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