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仙水さんとその他の思惑



電車が終点に着いたのはおよそ一時間前
一般客はそこで降りたのだが、受験者はそこで車掌に一人ずつチケットを確認され認可されたものだけがその電車に残り、再び地下の暗いトンネルを進み続けている。
地下鉄というのは地面と平行に続いているはずだが、この電車はどんどんと地下へと降りていっているようだ。

さすがに受験者の間にも不安そうな表情が現れ始めた頃、電車が地下に造られた駅へ到着した。タイルの汚れ具合からこの試験の為に用意されたものではなく、何らかの原因で利用しなくなった駅を利用しているようだ。

車掌に促されて電車から降りると、やけに体が丸い男にチケットと受験番号の書かれたプレートを交換してもらった。

受験番号は“103”
辺りの番号の中で一番大きな数字を探してみたところ“376”
多くもないけど、少なくもない。そんなところだろう

「てめーら、集まったか? これからハンター試験を始める!!」

やたら筋肉質で熱そうな男が試験官なのだろう。大声を上げて馬鹿なフリをしているが、念能力者全員をさっと見ると受験番号を手元のボードに書いて仕切り始めた

「第一次試験は簡単だ。お前たちがさっきまで乗っていた電車に再び乗り込め」

「なっ!? 電車はもう十分前ぐらいに行っちまったぞ! 間に合う訳がない!!」

前列にいる男の発言に、そうだそうだと辺りで声が上がる

「まぁ、話を聞け。あの電車はこれから数十キロ置きに一時間の停車時間がある。その時に乗り込めばいいだけの話だ。ただし! 乗員は二百名までで、早い者勝ちだ。
乗車権獲得の方法はお前らで好きに決めればいい」

乗車権獲得の為に周りの受験生を狩りすぎると電車に間に合わなくなり、かといって電車に追いつくまでに周りを潰さないと団子状態になり、到着後戦闘が激化する。
そういう考えが辺りの連中には浮かんだだろう

しかし実際は、どうせ脱落する奴は脱落するので合格者は定員の二百名までいかないだろうし、我先と辺りの受験生を襲って競争相手を減らそうとしない限り、実力のある者は充分間に合う計算だ。試験官がわざわざ早いもの勝ちといったのは周囲の人間への猜疑心を生み出し、互いに潰させる為だろう

だが難関と言われているハンター試験で、緊張して冷静な判断が出来なくなった受験生というのは結構いるもので、試験官の説明が済むと同時に会場には気迫の掛け声が響いた。

両隣の巨大な斧を担いでいた二人組みの男。おそらく双子なのだろうその二人もそういう輩のようで、同時に頭をかち割ろうと振り下ろされたそれを人差し指と中指で挟んで受け止める。

少し手が痺れた。中々力が強いじゃないか……

「「何っ!?」」

動揺する双子の頬を掴んで頭上へ持ち上げると、大きくなりすぎた子供のように思えて少しおかしい
恐怖で引きつった双子の顎の骨をそのままグシャッと潰し、そこらに投げ捨て先へ急ぐ。

そんなに急がなくても充分間に合うとは思うが、ここでの試験結果が次の試験に影響するとも分からない。どうせなら楽なほうがいいだろう

さすがに受験生もここで戦闘を繰り広げても電車に間に合わなければ意味が無いことに気づいたのか、互いに視線で牽制しながらレールの上を走りだす集団の頭上を助走をつけて飛び越える
トンネル内は薄暗く、時折光るコケが地面に生えていなければまともに進むことは困難だったろう。

それになにより暑い
この時期はこっちでは夏に当たるらしい

涼しいイメージのあるトンネル内だがここは空気の通り道が無いのだろう、唯でさえジメジメとした生ぬるい空気だというのに、受験生が多く集まることでその不快指数は倍になっているような気さえする


そのまま暑さを我慢しながら進んでいると電車のレールが二手に別れているのを見つけた。
せいぜい五メートル前ほどしかはっきり見えないので、先頭集団がどちらに進んだのかさえ分からない

レールに耳を当て、振動が聞き取れないか試してみたところ右の方からかすかに振動が感じられた。しかし、人にしては振動が大きすぎる
魔獣? あるいは動物か?

危険な生物が通るような道を電車が進むとは考えにくい
となると左だな

向きを変えて左に進んでいくとやはりというか、何者かに殺られた受験生が道にゴロゴロ転がっていた。ここで受験生同士の争いが有ったということはこの道で正しいということだが、足や手がそこらに散らばっていて一体として楽に死ねた顔はないのが少し気になる。

そのままレールの上を走って二時間、ようやく前方にライトを灯した電車が見えてきた。
運よく停車しているようで乗り込むと既に数人の受験生、全員能力者でその中には見覚えのある人物もいた

「よう。待っていたぜ」

ムクロが気だるそうに裾の中で腕組みしながら挨拶したので、軽く手を上げてそれに答える

「しばらくぶりかな?」

「まぁ座れよ。話はそれからだ」

お言葉に甘えてムクロの向かいの席に腰を落とす。席のスプリングは悲鳴にも似た軋みを上げ受け入れた。ムクロはそれを見届けると再び語りだす

「気づいているんだろう? 」

「何のことを言っているかよく分からないな?」

おそらく飛行船から感じ始めた視線。転生者であろう者たちの視線のことを言っているのだろうがとりあえず惚けてみる。包帯の下でムクロが笑うのが分かったので、成功したとは到底言えないが

「念が使えるくせに動きが全くなっていない連中のことさ。あれじゃあ銃器を持った人間のほうがよっぽど役に立つ。無理やり起こされた奴がなる典型的なパターンだとは思わないか?」

もし本当に転生者であったら、例え前世で相当名の知れた喧嘩屋でさえ、この世界では周りのレベルが高すぎてただの一般人になってしまう。それほどまでに戦闘のレベルが違うのだ。
それに、ただでさえ前世にない念能力を見につけたせいで、己の力に過信した転生者は肉体を鍛えることを忘れる。

キメラアントは既に生まれ持つ肉体が強靭なせいで、並みの念能力者には勝てない存在となっているのだ。念能力は要だが、それが全てではない良い例である


「……途中に落ちてたのは君がやったのかい?」

「良い面してただろ? 四肢を切り落とされて嘆く姿だけは一人前だったぜ」

どうりで途中に転生者と全く会わなかった訳だ。

同郷の存在とはいえ、彼らもこの世界が弱肉強食ということを分かっているだろうから未練はないだろう。この世界では等しく……弱ければ死ぬ


ふと一人の少女を思い出した。


いつも笑っていた彼女。

死体を運んで、泥水に塗れた紙幣を握って、時には殺しもやって、それでも笑っていた彼女。今ではその時彼女がいったいどんな思いでいたか確かめる方法は無いが、彼女はきっと幸せだったのだろう

そう信じたい




†  †  †  †

「アニー、避けろ!!」

試験官の第一次試験開始の声が会場に響いた途端、イスマスが叫んだ。私の体に染み付いた心源流がその声に反応して身を左に投げ出す。するとガキンという音と共に、今既に私がいた場所にはナイフが三本突き刺さっていた。

もしイスマスが声を上げてくれなかったらと思うとゾッとする

イスマスは未だ戸惑う私に絶をさせると、襲撃者を探しに人ごみの中を素早く移動し始めた。

結局、いつもイスマスに世話になってばかりだ。

せいぜい今の私に出来ることはなるべく身を屈めて、狙われないようにするだけ……
仙水さんやムクロ様といったイレギュラーな存在もいるし、やっぱりまだ私にはハンター試験はまだ早かったのかな?

しばらくそこで待っていると右腕を血で塗らしたイスマスが帰ってきた。その右腕の犠牲になった人のことを思うのは私の下らないエゴだし、何より私のためにそれをしたイスマスに対して失礼なので直ぐに手を繋ぎ、逃げるように電車の向かった先へ急ぐ

イスマスは一瞬心配そうな顔をしたが、私の表情を見て

「心配させるなよ。私は兄さんにお前を頼むと言われてるんだからな」

とだけ言って私の手を握る力を強めた。私が悩んでいる時に一言一句変えたことのない常套句だ。本当に過保護だよ……
イスマスは私がいずれ結婚した時は父さんよりきっと泣くだろう

想像したらちょっとおかしくて、少し元気が出たように思う。もしやそれすらも考えて……いくらイスマスでもそれはないよね?


私達を飲み込もうとしているかのような暗いトンネルの中には、闘うことを止めて、ただゴールを目指す為にひたすら走る人たちの姿があった。いつ襲われるとも限らないので、イスマスは私をカバーするように走り続けていてくれるが、その本人はちょっとしたジョギングぐらいにしか汗をかいていない。
守られてる私の方は、ムッとした暑さで肌と服がベッタリくっついているというのに……


異常。異常の一言だ

地面に生えている光るコケのおかげで、トンネル内は頑張れば辺りの様子が見えるくらいの暗さを保ってはいるけど距離感も掴みづらいし、今どのくらい進んでいるかもよく分からない。そんな精神的に追い詰められる状況の中、余裕で走っているイスマスは何なのだろうか? 
我が叔父が魔獣であるとは信じたくないけど、今なら頷けるよ


まだ慣れない纏が疲れで解けはじめた頃、イスマスが急に私の前に手を突き出して制止させた。事情を聞こうとした時に私もその異常に気づいてしまった

匂い。血の匂い

イスマスがここで待ってろとジェスチャーをしたので軽く頷く
修行で動物を殺すこともしたけど、その時でさえここまでキツイ匂いはしなかった。おそらくこの先には大量の死体があるのだろう
道はこの先一本道だし、きっとその死体を見る事にもなることは明らかだ
……まだ私は人の死体を見たことはなかった

この世界で生きるためには私もいずれ人を殺めることがあるのかもしれない。だから今の内に慣れていたほうが自分のためにもなる。遅いか速いかだ

そう自分に言い聞かせ、私はイスマスが帰ってくるのをただ待った。


急に口を誰かの手によって塞がれ、体が後ろに傾いた。叫ぼうにもその分厚い手を口の中に突っ込まれて声を出すことが出来ない

イスマスがすぐ帰ってくると思ってたし、絶をしていなかったのが不味かった

謎の襲撃者が私の顔を振り向かせるとその男は間近で私を品定めでもするかのようにジロジロ眺めだす。
ボサボサの黒髪に横長の顔。目は気でも狂ったかのようにグルグル回っていて、焦点もまともに合ってない様子だ
そして次に何をされるか分からない恐ろしさが目の前の男にはあった

「キヒヒ、可愛い子だな~。僕のペットにならない?」

粘着質な舌で顔をそっとなぞられる。あまりのおぞましさに全身から鳥肌が立つのが分かった。

お願いだから、早く来てイスマス!!

「そそるよ。その表情♪ 絞め殺してからたっぷり愛してあげるからね」

ガッと片腕で首を絞められる。目の前の男は念能力者じゃないようだけど、ただでさえ纏も切れ掛かっていたのでもう余り持ちそうにない
肺が、体全体が空気を求めているけど今はもう意識さえ怪しくなっている
白目をむいて、口からよだれを垂らし始めていたけど途端に首への圧迫が無くなった

ヒュー、ヒューと体内へ空気を送り込んで、イスマスが背中を擦ってくれて、気分は正直最悪だけどとりあえず落ち着いた。

「大丈夫……な訳はないだろうな。もう今年のハンター試験は諦めるか?」

イスマスは別に意地悪で言っているんじゃなくて本当に心配だから言っているのだろう。
でも……

「ううん。私やるよ」

ここで諦めてはいけないのだ。家族やイスマス、そして何より私自身のために……
「そうか」と苦笑いを浮かべるイスマスは続けて、

「だったらこの先にある死体から目を背けるな。アニーにこういう経験はさせたくなかったが、ハンターになるには覚悟しなければならない道のりだ」

死体を見ることは覚悟していたけど、イスマスの口ぶりからはどうやら伝えたいことはそれだけではないと言っているようだ。
唾を飲み込んでトンネルの先を進むとやはり人型が幾つか転がっている。あまりよく見えないが手や足のない死体が多いのは分かった。

イスマスに「もっと近寄って見ろ」と促され、その死んだ人の顔を恐る恐る見て私は驚愕した。

誰かを呪うような顔、泣き喚いてクシャクシャになった顔、死んだことに気づかずまったくの無表情の顔、驚きの顔。

私はその全ての顔に見覚えがあった。

電車の中で大分親しくなれた転生者の人たちだった。さっきまで一緒に笑ったり、悩んだりした人が無残な姿になっている。
その強烈な違和感に吐き気が催し、私は吐いた。そして泣いた

吐しゃ物の酸っぱい匂いの中に呆然と立ち尽くしながらイスマスの伝えたかったことに気付く。

身近な存在の死。転生者の皆とは今日が初対面だったけど、イスマスは電車での私たちの意気投合から古い友人だと思ったのだろう。
実際、故郷を同じくするだけで私達は気が合っていた。この世界に訳も分からず生まれて、ようやく本当のことを、本当の自分で話せる相手に恵まれたのだ。
古い友人といっても間違いじゃない

……私は甘く見ていた
いくらこの世界では人の命が軽いと分かってはいても、それはあくまでマンガという目の粗いフィルターによって描写されたもので、現実味が足りなかった

だけど現実は私の目の前で生々しい形をもって私の前へ立ち塞がる

しばらく呆然としていた私の手を引いてイスマスがトンネルの奥へと進んで行くのを、まるで他人事のように見る自分がいた。

なんでこんなつらい目に会わなければならないのだろう?
そんなことを考えても無駄だということは分かっている。でもそうでもしなければ自分という弱い存在を守りぬけなくて、また泣いてしまいそうで


そしてそんな自分が何より嫌いだった





†  †  †  †


電車が数回の停車を繰り返して、その度に電車に入ってくるのは僅か数人ほど
その多くが大なり小なり怪我をしている。

電車に乗りこんで二回目の停車であの男女二人組みが入ってきた。女の子のほうは何か酷いものでもみたかのように、憔悴しきった様子で席に倒れこむのを見ると、連れの男に睨みつけられてしまった。
どうやらあまり機嫌がよろしくないらしい


試験官が第一次試験の終わりを告げた時、車内の席は最初の半分も埋まってなかった
確か最初の受験者数が376人だったからその半分、188人以下しか残ってないということだ。最も、競争率の高いハンター試験にも関わらず、定員ギリギリの数が残っているのだから“しか”では無く、“も”の方が正しいのかもしれないが……

そして更にその半数が念能力者
ムクロによって大分数が減らされていたが、やはり念能力者であるということは強みだ
一般人に少々殺気を込めたオーラをぶつけるだけでその大半が死ぬのだから、かなり効率のいい殺し方である。最も念能力者が一番警戒すべきはマフィアでもその他の武装勢力でもなく、同じ念能力者なのだ


そして今も目の前の俺目がけて殺気の篭った視線を向けてくるのは、やはり念能力者のムクロだった。どうやら気にいられたらしいが、その方向性は大きく間違っている

気にいられると殺気を向けられるというのは、その間にいったいどんな飛躍的な論理展開があったのだろうか? ムクロの高尚なる考えは俺程度の頭脳では到底理解できそうに無い


電車が再び止まり、降りるように言われる。
どうやら今度こそは終点らしく、レールもこの先は続いていないみたいだ
ただ地面にポッカリと空いた巨大な穴がレールの途切れた先に不自然に空いている。
深さもよく分からないほどだが、縁の削られ方からおそらく人間の手によって掘られた穴だということは分かった。

「はいは~い、とっとと集まりなさい。これから第二次試験の説明をするわよ~!」

試験官の声が受験生の壁のむこうから聞こえる。少し出遅れたか……
それにしても何処かで聞き覚えのある声だな

内心ではその人物が誰かということはほとんど予想出来ていたが、認めたくなかった。
もし予想が当たっているならば、きっとこの試験ではかなりの受験生が落ちるだろう
試験官の性格はかなり歪んでいるから

「第二次試験はずばり“チームで乗り越えろ! 宝石争奪バトル”だわさ!!」






†  †  †  †  †
~幻影旅団~マチ



「紹介しよう。新しく入団したヨナだ。ちなみに彼女には空いていた8番を埋めてもらった」

団長がそう言ってホームに連れて来た新入りは見るからに普通の女の子で、体を鍛えた様子もないばかりか、倒れれば軽く骨でも折れてしまうかのようなか弱い美少女。
春の新芽を思わすような緑髪と揃いの瞳は、旅団のいかつい面々(主にウボォーギンやフランクリン、フェイタンとフィンクスのヤクザコンビ。こうしてみると旅団には碌な人物がいない)に怯えて今にも泣き出しそうだ。
正直、最初に団長が連れて来た時は何処ぞの令嬢でも攫ってきたか、それとも団長の子供か? と考えたがどうやらそうではないらしい

「あの……よろしくお願いします」

頬を真っ赤に染めてモジモジと喋るその様子に子供嫌いの私でもさすがに惹かれる所があるので、子供好き(決してそっちの意味じゃない……と信じたい)のノブナガは勿論微笑ましそうに眺め、あのフェイタンも「フンッ、興味ないね」と去って行ったが満更でもない様子だった
この子に戦闘力は無い様子だから、あたしのように連絡係か、何か特別な能力者なのだろう

「ヨナは念獣を使って他人のトラウマを脳内にたたきつける能力をもっている。その点を踏まえて、ノブナガやウボォーの補助を任せようと思う」

「ちょっと待って団長、補助とは言えウボォー達の闘う場所は最前線だよ! さすがにその子が行っても早死にするんじゃない?」

シャルナークが珍しく至って真面目な事を言っているけど事実だ
体も弱そうだし、念能力も生きるか死ぬかという戦場の中では精神作用系の能力より、確実に仕留める打撃系の能力のほうが効率もいいし確実
そこらの能力者集団を手玉に取れるほどの実力がある幻影旅団に団長が何故こんな子を入れたのか、今でも不思議に思う

補助より癒し系という新ジャンルに入れたほうがいいというのがノブナガとの会話で出た結論だ

団長は何か思い出したかのように頭に手を当てた後

「その点においては心配ない。ヨナの能力は入団試験で一度俺も受けてみたが……もう二度と味わいたくないな。それに戦闘においてもヨナは優秀だぞ」

団長はノブナガに試してみろと促すと、ノブナガは心底だるそうに立ち上がって構える
誰だってあんな子相手に戦いたくないのは分かるが、団長が二度と味わいたくのない能力というのが妙に気にかかる

ヨナはワンピースの裾からスルッと小振りなナイフ、念が篭っているのでベンズナイフかな? 
そして構えという構えもとらず、逆手にベンズナイフを握る様子は包丁を握りなれてない子供のように、見てるこちらを冷や冷やさせる


「団長。俺は手加減出来ないぜ」

「構わん。むしろそれぐらいしないとお前も納得出来ないだろ?」

「さぁ来て下さい♪」

ヨナがそう言い切る前にノブナガの居合いによる一閃。
首を狙った一撃でいくら子供好きのノブナガでも遠慮は一切無い
無残にも少女の首は胴体と別れを告げると思いきや、高い金属音とともにノブナガの刀は見当違いの方向へ真横に振るわれていた。

確かにあたしはまばたきせずに凝で見ていたけど念を使った様子はなかった。
続けてノブナガが刀を素早く振るうがその全てが少女に当たらない。厳密に言うと、ノブナガの刀は直前まで急所を斬り裂こうとしているのだが、その寸前で予定調和のごとく別の方向へ弾かれるのだ
ベンズナイフで目にも止まらない速度で弾いているのだと気づいた時はさすがに驚いた
あの細腕で目にも止まらないスピードでナイフを操っているところはなるほど、確かに団長が勧める実力はあるらしい

「嬢ちゃんやるな」

「そ、そうですか? でもそんな変な髪形の人に言われても……」

赤面しながら毒を吐くヨナ。あたしも聞きはしなかったけどずっと思っていたことだから納得は出来るよ

「これはな~!! ちょん髷つってジャポンの誇りある“武士”の象徴なんだぞ!」

「す、すみません。変人さんだけじゃなくて、妄想癖もある厨二病患者さんとは思わなくて……つい」

その発言にムキーッとキレだすノブナガ。団員同士のマジギレ禁止だっていうのに…

「もう許さねぇ!」

「え!? え? 何で怒っているんですか? あなた危ない人ですか?」

「もうっ――許さねぇ!!」

円をつかってノブナガも本気のようだ。それと対峙していたヨナの影からオーラの塊が膨れだす
そのオーラはバレーボール程の大きさになり、そして形が定まった

それは一言で言うなら……異物だ
粘液に包まれたテントウムシの姿をしていて、足はテントウムシのそれではなくタランチュラのように毛の生えた蜘蛛のそれだった。美少女とそのおぞましい生物とのコントラストはおぞましかったがやはり本人の念能力だからなのだろう、矛盾してはいるものの、不思議と調和が取れた美しさがある

ノブナガは自らの方へ向かうそのテントウムシを周で強化させた刀で真っ二つにするが、テントウムシは空中で再びくっつきノブナガの体にぶつかるとスウッと体内へ消えていった。

「何だこりゃ!?  
仙水、止めろ! 笑顔で手に持ってるそんな物騒なもんは何だ!? 来るなっ! 
アアッーーーーーー!!」


あのノブナガが酷くうなされている。……きっと仙水との愉しい思い出が蘇ったのだろう

まぁ、地面を虫けらのようにのたうち回るノブナガはいいとして、とりあえずヨナは実力も頭のキレ具合も幻影旅団に相応しいということがこれで分かった。

なかなかおもしろそうな子だし、今度女メンバーで話すのもいいかもしれない

「ヨナって言ったね。あたしはマチ、仕事じゃあまり鉢会わないと思うけどよろしくね」

「は、はい。どうぞよろしくお願いします」

「僕はシャルナークって言うんだ。ようこそ幻影旅団へ!」

「ごめんなさい。そういう黒そうな性格の人に言われても……あまり嬉しくありません」

黒いのはどっちだよ、という質問はどうやら受け付けないらしく唖然とするシャルナークの前で、ただニコニコと笑うヨナ

どちらにしろまたユニークなメンバーが旅団に加わった。仙水はハンター試験に今行っているから帰ってきたらヨナを紹介しよう。
意外と気が合うかもしれないね……


幻影旅団の八番が埋まりました
たしかシズクの前任者でシルバに暗殺されたという設定でしたが、書いてみると死ぬには惜しい人材ですww
これからも出すかも?


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