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仙水さん試験地に入る



たくさんの人が列をなして次々と飛行船に乗り込んでくる。その中に人目を惹く人物がいた。
首元から頭部を包帯で雁字搦めにして、唯一包帯の隙間から見えるのはギョッとするようなほど大きな右の眼球。更にその包帯の上から何かを封印するかのように幾つも怪しげな字が書かれたお札を貼っている。
服は中国の武道家たちが好んできそうな道士服を着ていた。

おおよそ、その人物から感情や性別さえも知ることは出来ない、正に謎の人物と呼ぶに相応しい人物といえよう。それゆえに誰一人その人物が座っている席に近づこうともしない

(オレを見て近寄ってくる奴は気狂いか命知らずだけだろう)

その人物自身でさえそんなことを考えていた。


そもそもその人物、ムクロは生前中国の片田舎で生まれ死んだ唯の女だった。
どういうわけか死んで後に再び蘇り、いや正確には生前とまったく違う世界に前世の記憶をもったまま産まれた。産まれて直ぐに母親は死に、家族は父親だけ

その父親が最悪な奴だった。
生まれて直ぐにわが子の体を弄び、玩具同然に自らの体を使うだけ使って、自らの欲が解放されるとそのままの状態で放置する。日々悪化するその醜悪な生活に涙も耐えなかったが、その辺りは毎日新しい死体が転がる最低のスラム街だったので、子供の手だけでは到底生き抜くことは敵わない。

そうしてオレの体が開発されきったころ、あいつはオレを時々マフィアの下っ端に売りにだすようになった。下卑た大人たちが体の下で歪んだ笑みを浮かべているのを見ると、そいつらが余りにも哀れでおかしくオレの心は黒い喜悦に満ちる。その男達はそうやって蔑みの視線を受けるのが酷く気に入らなかったらしく酷い体罰を加えた。
それでもオレの愉悦の表情は消えず男達はすっかり萎えてしまったようで家に帰した。

家に帰るとあいつが何人の女と戯れながら電話相手と話している。どうやらその相手は女を何人も遊び殺している狂った野朗のようで、オレをいたぶりたいとあいつに熱っぽく話しているようだ。

さすがに面倒になったオレは用意してあった硫酸をあいつの目の前で被り、そのことを聞いた相手も傷つける楽しみが減ったと取引を断った。そうして目の前で激怒するあいつの脇腹をあらかじめ用意してあったナイフで突き刺すのは簡単だった。拍子抜けするぐらいあっさり人は死ぬんだな、と前世でも人を殺したことがないオレはその時深く実感したものだ。

硫酸の痛みは凄まじいものだったが、それ以上の快楽が、あいつを刺す喜びが強い。
どうせこのままオレは目の前で倒れたあいつに続いて死ぬのだろう。
一度死という経験をしたオレには死への恐怖はなかった。それに硫酸を自らの体にかけたことに後悔はないが、このまま醜い体を晒して生きるくらいなら死んでしまったほうがいっそ楽だ。後オレに出来るのは甘美な死という感覚が体全体を包むのを待つだけでいい。


ところが予想に反してオレは死ななかった。体中から溢れる湯気のようなものが何らかの力を発し、オレの体を修復していく。右半身の酸による焼け爛れは直らなかったが、結局死にはしなかった。

それが念だと知ったのは数日後、逃げるように街から出たオレへの追っ手が口を滑らしたからだ。以前とは比べ物にならないほどの速度で動く自身の体に戸惑いながら、オレはその追っ手を返り討ちにする。そうして念についての情報を吐かすだけ吐かせた後は始末した。



そうして数年間、向かってくる奴、逆らう奴、あるいはこの体を見た奴その全てを老若男女関わらず殺す日が続いた。


この半身は憎悪の象徴であり、触れられたくない過去でもある。


そして戦闘はその発散の為の手段でしかなかった。


そうして向かってくる奴を殺していたら、いつの間にかオレは闇の世界で有名になっていた。

おそらくオレが殺した奴らの中にマフィアの連中もいたのだろう、気づけば一都市の長に祭り上げられていたのだ。

最近では無差別に人を殺すことも飽きていたので、気まぐれに長として部下に人身売買や薬物を流布させてみたがどうも面白くない。そんなオレの表情に顔を強張らせながら部下が面白い情報を伝えた。

ハンター試験。毎年世界中から数百万もの腕利きが挑み、会場にたどり着くものでさえその中の一万人に一人とも言われている。そして無事ハンター試験に合格すると富と名声の象徴であるライセンスカードが授与される、そこまで部下から聞いたところで下がらせた。


既に欲しくも無い富と名声は手に入れている。欲しいのはこの身に届くほどの強者との出会いだ。






この飛行船も受験地であるアイジェン大陸のボルトデルンへ向かうものだが、カタギではない連中もあちこちに見る。あれらが全てハンター試験の受験者だとしたら、聞いていたよりもハンター試験は楽なのかもしれない。中には念の使える奴もいるが、せいせい片手で数えるほどで警戒するほどではないだろう。

そうして広い席を独占しているとその男が現れた。






退院して天空闘技場を出る前にシャルナークがガイドを紹介してくれた。なんでも以前シャルナーク自身をハンター試験会場へ導いた人間らしく、良心的な値段でガイドを請け負ってくれるらしい。
アイジェン大陸のボルトデルン行きの飛行船に乗れとガイドは告げた。それから先は現地で落ち合うとだけ言って、電話を切ったガイドが本当に信用できるかどうかかなり微妙だが、もしダメならまた来年を目指せばよいだけだと自分に言い聞かせ飛行船に乗り込む。

既に飛行船の中には人が数えるのもバカらしくなるぐらい乗っていて、これは立ち乗りも覚悟せねばならない状況だろう。すれ違う人の中にはまるで化け物でも見るかのようにこちらを見つめ、口をパクパクと開け閉めする人間もいる。オーラも一般人並みに抑えたし、特別威嚇をしているわけでもないので、結局その理由は分からなかった。


そのまま通路を進むと席がポッカリ空いているスペースが見つかったので、後の人を考えそこで既に座っている人物の隣に座る。その人物は顔を包帯で巻いていて、その隙間から眼球が覗いていたが変わり者揃いの旅団の連中に慣れているのでそこまで気にしない。
懇ろ、ボノレノフと包帯繋がりで親近感が湧くくらいだ。

「そんな顔でオレを見てくる奴は初めてだな」

口も包帯で隠れているので、目の前の包帯姿の人物が話したのだと気づくのに数秒かかった。
声は想像していたよりも高いが、男とも女とも捉えられる声色だったので、はっきりとは分からないがなんとなく女性だと予想する。

「オレのいう事をハイハイ聞く脳無しのグズどもに比べたら大分マシだな。お前オレの部下にならないか?」

そしてまた一つ分かることが……見た目に反してこの女性はお喋りだ。
そして想像以上に強い。強者のみが持つ、そのプレッシャーから判断するに、少なくともゼノと同等程度の力量があるだろうことが分かった。

「ありがたいお誘いだが」

「決まってそう言う奴に限って欲しくなるんだ」

そう言いながら人目も気にせず、放つ凶悪なオーラで周囲のイスをギシギシ鳴らす女性。周囲のハンター受験者はオーラにあてられ気絶していき、念を使える受験者は顔色を変え更にこちらと距離をとる。
戯れでやっているのだろうということは分かるのだが、時と場所を選んで欲しい。

俺達の周りだけスッポリ空いたその空間を残したまま飛行船は出発した。

なんでもこの女性の名前はムクロというらしく、何処かで聞いた名だと記憶を引っ張りだすと、最近A級のビンゴブックに載っていた名だった。裏では人身売買などで名が知れているので、専らお宝専門の幻影旅団では仕事でも鉢合わせたことがないが、本人と出会った今ではそのことが幸運だと分かる。もし仕事先で鉢合わせたら血を血で洗う戦争になりかねないからだ。

目的地に到着するまで暇なので、本を読んで暇を潰すことにした。そして文庫本の半分ほど読み終えた所で突然強い揺れが飛行船を襲った。
船内は上下左右に揺れ、人や雑誌などが宙に舞う。俺は時折飛んでくる危険物、おそらく受験者の物であろう剣や斧などを避けながらバランスを保っていたが、ムクロの方は激しく揺れる船内でイスから全く動いてないにも関わらず、まるで物の方がムクロを避けているかのように何一つ当っていない。念能力の一部かと思い凝で確かめたが、ムクロはまるでオーラを纏ってない絶の状態でいたので驚きを通り越して呆れてしまった。


おそらくこれは受験者を落とすための一部なんだろうが、この飛行船に乗っているのは受験者だけでなく一般人も大勢いる。それらを巻き込んでまで受験者を落とすことが出来るほどハンター教会は力を持っているということなのか?


『この飛行船は今乱気流の中にいます。このままだと船体に大きな影響を与えかねないので急遽ボルトデルン空港行きの予定を変更しまして、ここから一番近い飛行場のカラリア空港へ向かいます。ご搭乗の皆さんには大変迷惑をおかけしますが、何卒ご了承下さい。尚この先も船内は揺れると予測されます』


船内放送が済むとにわかに船内の受験者は騒がしくなってきた。なにせ唯でさえ合格率の低い今年のハンター試験に間に合わなくなるかもしれないのだ
受験者の何人かは飛行船の操縦室にまで押しかけたらしいが、激しい気流の中あれを操縦するのは本当に難しい。一度クロロに勧められて操縦をやってみたことがあるのだが全く出来なかった覚えがある。そのことでしばらくクロロにからかわれたのはいい・・思い出だ


「成るほど。これも試験の一部ということか」

包帯の下でニヤリとムクロが笑うのが分かる

「そのようだな。どうやら飛行船でのボルトデルン行きは外れだったようだ」

一応、これから向かうカラリア空港もアイジェン大陸にあるのだが試験の開催地であるボルトデルンへは距離がある。ガイドは現地で落ち合うと言っていたが果たしてカラリア空港にいるのだろうか? 




結局、二、三の暴動はあったが無事カラリア空港に着いた。
受験者たちの多くは、直ぐにタクシーや最寄りの交通機関を使って受験地に向かおうとする。残りの少数派は俺と同じようにガイドを待っている奴か、どうしたらよいか分からず立ち尽くしている者、他人の動向を観察する者が約十数名。
ムクロは部下がガイドらしく、「受験地でまた会おう」とだけ言い残し去っていった。


そのまましばらく待っていると、スキンヘッドでグラサンをかけたスーツ姿の男が話しかけてきた。よほど急いでいたらしく、少し声を弾ませているようだ

「あなたが仙水様ですね?」

「ああ。君がガイドかい?」

「はい……えっ!?」

俺が男の背中から突き出た片腕を引き抜くと、男は支えを失い地面に倒れ伏す。
血で塗れた右腕を男のスーツの裾で拭ったが、ベトベトして全てを拭いさることは出来なかった。


周囲で様子を窺っていた者は何故ガイドを殺したのか? と衝撃の表情を浮かべていたが、その答は簡単だ。あれはガイドではなかった。
まずあのいかにもな格好がおかしい。ガイドをする者は基本的にそうと分かる見た目はしておらず、一般人と同化することを目的としている。最近ではマフィアの奴らでさえあのような格好をする者は滅多に見ない上に、自らがガイドと名乗るのはいかにも臭い
おそらくハンター教会に雇われた偽ガイドなのだろう

そして何よりガイドの者と打ち合わせしていた合言葉が最初になかった。

殺した理由の大半は前半によるところが大きいが……

とにかく空港で真昼間から人を殺した所為で、あたりの人間が騒ぎだしたのでとりあえず空港から出ると、待ち合わせていたようにジャケット姿の男が現れる。

「昨日のおとといは何を食べたんだ?」

「今日食べたものと同じものだ」

しっかりと合言葉を聞いてきたので本物のガイドなのだろう。
「目立つようなことは控えてくれ」と苦笑気味にガイドに忠告されながら、あらかじめ用意されていた車に乗り込む。今は午前十時、試験が始まる一時までは後三時間ほど猶予があるが試験地までの交通機関はおそらく全て封鎖されているだろう。結局走って試験が始まる一時前に到着するか、ガイドの紹介によってしか試験地に到着できないのだ。

ふと車の窓から外を見ると道路を走って行く男がいた。
念で体を強化したその男が向かう先はやはりボルトデルン

なかなか愉しくなってきた


ボルトデルンはアイジェン大陸の中で三大都市のひとつに数えられている。飛行船が常に何処からでも見つけることが出来るほど交通が発達した街だが、今日に限って飛行船は飛んでいない。そういう大都市では貧富の差が激しいものだ

今日も車どおりの多い大通りの横で、体を洗ったのは何時だと伺いたくなるようなホームレスの爺さんが帽子を置いて物乞いをしていた。その帽子には小銭が少し端にある位でせいぜい缶ジュース一本買えるほどしかない。

その帽子の中にガイドにあらかじめ渡されていた金貨を入れる。爺さんは濁った目に光を取り戻し、意味ありげに目配せするとラミネート加工のチケットを渡した。
それを受け取ると人々がゾロゾロと集う地下鉄の入り口へと足を運ぶ。

そのチケットを自動改札へ通さずに駅員へ見せ、つり革に捕まり、しばし車内の揺れに身を任せる。そうしていると、ふと車内で人目を惹く人物をみつけた。

三十代は超えているだろう男だ。短く刈り込んだ金髪と鋭い眼光の持ち主で、ダンディを絵に描いたような人物。その男を注目した理由は常に立っていられないほど揺れる車内で、つり革にも掴まらず立っている。その横にはピンク色の髪をポニーテールにした活発そうな女が不安そうにその男の服の裾を掴んでいた。
おそらく十七かそこらだろう。両者は纏をしていたので能力者であることが分かった。

この二人組みもおそらくハンター試験に向かうとすれば、今年の受験者は粒揃いだ。
既に今日は念が使える受験者を数人見た。
川を泳ぐシーラカンスの大群を見たようなそんな気持ちになる。それほどまでに念能力者は少数なのだ

もしかすると自分と同じ転生者なのだろうか?
だとするとヒソカに目を付けられたくない一心で、この時期にハンター試験を受けたということか……
それなら納得出来る。だとすると先ほどから感じる視線の数は全て転生者の数ということか
いったいどれほど転生者がいるんだ?



†  †  †  †  †


「う~ん、おはようイスマス」

イスマスは軽く頷いて再び調理にとりかかった。朝のこの時間はイスマスが焼いたパンの匂いが食卓に溢れる。私はいつもこの時間が好きだった。
普段はすまし顔のイスマスも料理をしている時だけは表情も緩むのだ。
イスマスはこうやって私の世話をかいがいしく焼いてくれるが、私の実の父親では無い。そこらへんの事情を説明するにはまず私の出生から知る必要があるだろう

私、アニー・トレイルはこの世界の住人ではない。元々日本の普通の女子高生だった私はトラックに轢かれ、気づいたら母親の胎内から産まれていたのだ。
学生時代に携帯小説をよく読んでいた私は、これが俗に言う転生トラックってやつかとその時は暢気に思っていた。だがちょうど小学校に入る前、偶然見た地図にはアイジェン大陸やNGLの文字。


この世界にもHUNTER×HUNTERの漫画があって、誰かがそれを真似て作ったのだろうと思ったが、それにしては精巧に出来すぎていた。嫌な予感がして母親に聞いてみたところ笑いながら、「この世界の地図に決まっているでしょ」と聞かされた時は思わず何度も聞き返してしまった。それが真実だと分かった時の私の衝撃ときたおそらく生前にも味わったことがない程強いものだったように思う。

この世界ではあっという間に人が死ぬ。懸念すべきものときたら、幻影旅団やキメラアント、ゾルティック家、漫画ではバンバン幻影旅団に殺されていたマフィアだって一般人にしてみたら危険度はそう変わらない。ジョネスの暴れていたザバン市に住んでいた親戚には直ぐに引越しをするよう伝えた。

だがこの程度ではまだ足りない。第二の家族を守りたいし、私も死にたくない。
幸運なことにお父さんの兄にあたるイスマスおじさん――そう言ったら怒るから、便宜上イスマスと呼んでいる――は心源流の道場の師範だったので、お父さんに頼み込んでイスマスの弟子にしてもらった。

それからはイスマスに心源流を一から学んだけど、生前運動音痴だったのが影響しているのか、なかなか強くなれない。原作のゴンやキルアたちは本当に特別な才能を持っているんだな~と実感するよ

それからも心源流を学んで、最近イスマスがようやく念を教えてくれるようになった。イスマスには私がハンターになりたいと伝えているから、私の肉体の弱さを念で強化させようとしたのだろう。それほどまでに素の私は弱いのだ。
もう、つい先日道場に入った五歳下の子に負けるくらい……

勿論、肉体を鍛えることばかりではないよ!
私と同じように転生者がいないか電脳ページを捲ったところ、出るわ出るわ。私と同じように原作を知ってない人には入れないようにパスワードも設置してあった。
例えば『この世界の作者の名前は?』なんてのもあった。

それを読んでいる内に転生者の数は予想以上にいるのが分かった。少なくとも千人以上はいると思う。その全てに共通していた事は前世で死んで、気づいたらこの世界に生まれていたということぐらいで、国籍も年齢も性別も共通していない。やはり中には原作知識のない人もいるようで、そういう人はアメリカの大統領だとかの名前を言えばその人宛にパスワードが送られるらしい。
そして電脳上で議論される内容はどうやったらキメラアントに殺されないか? というのが主だ。そしてベストアンサーはやはり『念を覚える』ということ
逃げるにしても闘うにしてもやはり人間の力だけでそれをしたとしても、キメラアントには通用しないだろう。転生者で念が使える者は必死でキメラアントの女王を探しているらしいが成果はないらしい。結局今の私達に出来ることはほとんどないということだ

そして中には『幻影旅団に会って、仲間に入れてもらう』とか、『ゾルティック家の人と友達になる』とか言い出す連中もいたが、そういった連中は全員帰ってこなかったので暗黙の内に不干渉の態度をとることになった。
あんな人たちと関わろうとするなんて命しらずだよ……

クルタ族襲撃は今年中に行われるらしいけど、皆やっぱり幻影旅団に怯えて参加する人もごく少数らしい。誰だって死にたくないもんね

そして私も勿論そういう考えなので、ヒソカと会ってしまう前にハンター証をとってみんなと安全に暮らすという案に行き着いた。
だけどみんな考えることは同じなんだね。いざハンター試験会場へ行くと、何人か電脳上で見覚えのある顔がちらほら。

ちょうどハンター証をとるつもりだったと、イスマスが着いてきてくれたのが本当に嬉しい! 転生者といえども皆親切だとは限らないし、いざという時は守ってくれる。

この電車はいったいどこまで進むのだろうと、考えていた時私はおそらく人生で二度目のショックを受けた。

つり革に掴まっているのはあの……幽遊白書の仙水 忍だった!?

目をゴシゴシと擦って再び確認したが、全身黒でオールバック、イケメン、額に黒い印、まず間違いなく仙水だろう。コスプレかな? と思ったけどあまりに似すぎているし、放つ空気が逸般人のそれだ。やはりというか、体を纏うオーラは滑らかで念能力者であることは間違いない

急いで周囲の転生者にコンタクトをとる。何も知らないイスマスが『知り合いか?』と言っていたがそれに答える余裕はない。ゴメンね、後で説明するから

『何・で・仙・水・が・い・る・の!?』

遠くで同じように驚いている転生者の男の子に口パクで伝える。すると相手もそれに気づいて返してくれた。

『知・ら・ん・!』

続けて隣のお兄さんが、

『と・に・か・く・ノー・タッチ!』

3人組みのお姉さん達が、

『ダー・ク・エン・ジェル・☆・様・~~~~~!!』

とりあえず辺りの人全員と同じようなことをした結果、やはり不干渉ということになった。
最後まで仙水さんと関わろうとする三人組を私達全員で必死に止めたせいか、転生者の人たちの間に妙な連帯感が生まれ、少し空気が和らいだ気がする

仙水さんがいつキレてカズヤになり、『このくそガキャー!!』と気硬銃を撃たれる想像をしたら怖くなったので、イスマスを連れて別の車両に移動することにした。
イスマスはさっきから私の行動を不思議そうにしていたけど、何も言わず付いて来てくれる。こういうところがイスマスおじさんのいいところだね!

しかし、現実とは残酷なもので、そこでは人生で通算三回目の驚きが待っていた。

「む、むむむむむむ…」

「どうしたアニー、調子でも悪いのか?」

「……ムクロがいる」

こちらも見間違えはしない包帯姿の特徴的な女性が地下鉄の安っぽい席に座っている。違和感マックスなその現状を認めたくないっ!

魔界の三大巨頭の内の一人、もしその実力が本物なら幻影旅団だって敵わないだろう。
ハッ!? もしかして他の三大巨頭の方々もいるかも?

その後車内を念入りに探したけど、そのお方たちはみつからなかった。
本当に……よかった。全盛期の雷禅様なんかが来たら、今年のハンター試験は中止になるだろう。

絶望的な存在が現れた代わりに、車内の転生者の人たちと仲良くなれたのは嬉しいけど……余裕でお釣りが来て大富豪になるレベルだよ。
なんで私、こんな時にハンター試験受けに来ちゃったのかな!?

何をしでかすか分からないヒソカのほうがマシと思えるのは、いろんなことがあって疲れてしまった幻覚のせいだよね……

ムクロの漢字が環境依存文字だったようでカタカナ表記にしました。
ちなみに仙水さんは魔界トーナメント編を知りません。


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