外伝 仙水さんと仲間たち(3)
順調に進んでいると思われた任務だったがやはりこの世界はそんなに優しくないらしい。
今現在進行中で黒服姿の念能力者達に追いかけられているからだ。やはりあの男を操ったのがばれたのだろうか? 唯一の救いは船内の乗客を気遣ってか、余り念能力を使っての問答無用な攻撃が行われてないことだろう。
「やっぱここの警備は厳しいね」
「またあの攻撃が来たぞ」
後ろから追ってくる連中の一人が銃を撃つと同時に、俺達は観葉植物やイス、テーブルの影に隠れた。普通の銃ならただかわせばいいだけだが奴、おそらく具現化系か操作系であろう能力は撃った弾がターゲットを捉えるまで狙い続けるというものだ。
『狙撃手』の刃霧を思い出すそのやっかいな能力は通常の弾でさえ凶器に変わる。
ドンッ、ドドドン
そんな音と同時に放たれた弾は俺が隠れていたテーブルを軽く突き破って旋回すると再びこちらへ向かってくる。
やはり威力が段違いだな!
向かってきた弾を硬で強化した拳で迎撃するが、強化系の系統が20%しかない俺では念弾を完全に防げなかったらしく指の骨が何本か砕けたようだ。
……なかなかいい能力者だ。今度スカウトしてみるのもいい
とりあえずその時は今ではない。
狙撃してくる相手は六発撃った後は溜め時間が存在することは今までの攻防で分かってきたことだ。それを証明するように六発撃った後はしばらく回りの連中がしばらく時間稼ぎとして銃で弾幕をつくる。それすらもフェイクかもしれないが今はそれを信じて進むしかない。
あと二発をどうやって消費させるか
……やはり自らの命を賭けなければ難しいか
不用意にテーブルから飛び出した俺を見てパクノダ達も追いかけていた連中たちも驚くが、直ぐに気を取り直したのはやはりあの狙撃手。一発撃った後、時間差でもう一発。
一発目は烈蹴紅球波で相殺したが、二発目は空中で避けようがない。死ぬ前は時がゆっくり進むというが正にその現象が起きた。胸の真ん中目がけて、銃弾が回転しながら進んでいく。
視界の端から何かが迫ってくるのが見えたのを最後に、胸まで後数センチというとこでその銃弾が消えた。それと同時に時間が流れ出し、喧騒と火薬の匂いが再び戻ってくる。
まだ理解は追いつかないがとりあえず自分は生きているらしい。直ぐに物陰へ身を伏せるとパクノダが先ほどまで俺がいた地点へ銃を向けているのが目に入る。
パクノダと目が合うと軽くウインクしながら俺の心臓を具現化した銃で撃つ真似をした。
……なるほど、そういうことか。
おそらく狙撃手の撃った弾をパクノダが撃ち落したのだろう。そういう有りえないことをやってくれる連中だ。
「借りはいつか返そう」
「あら、意外ね。あなたがそんなこと言うとは思って無かったわ」
本気かどうか分からない笑顔を浮かべながら返事をするパクノダにどう返していいか分からなかったので無言で頷いておく。
とりあえずこれで六発撃ったので今の内に行動すべきだ。
弾幕は狙撃手の弾よりも避けやすい。
「ついて来い」
後ろから飛んでくる弾を避けながら俺達は取引相手がいるであろうB-2階層へ駆ける。狙撃手が撃ってこないことからやはり推測はあっていたらしい。
何度か引き離したり、追いつかれたりを繰り返しながらようやく目的地へと着く。
B-2階層はいわゆるホテルだ。さすが世界十大ホテルというだけはあり、その広さ、質共にレベルが高い。
「で、ここのどこにいるっての仙水?」
「貴族のお嬢さんが言うには最上階らしい」
「貴族のお嬢さんとね~……それはおもしろいことを聞いたわ」
どこがおもしろいのか良くわからないがパクノダ達が笑っているので何かしらのスラングか流行の言葉だったのかもしれない。そういう事にはすごく疎いのだという自覚はあるが、別段それをどうこうする気も起きないのは現状に満足している証なのだろう。
「問題は最上階の何処にいるかということだね」
「全てのドアをパクノダにチェックして貰うしかないだろうな」
最上階にはVIPルームしかないので部屋数は少ないが、それでも十や二十では足りないほどの部屋があるので作業は難航した。
パクノダが一つ一つのドアを調べている間、何気なく窓から外を見下ろすと先ほど追いかけた連中が次々とホテルの入り口に吸い込まれていく。
「どうやら追っ手が来たみたいだようだが」
「そう、ちょうどいいわ。こっちも終わったところよ」
パクノダが指差したドアをすぐさま蹴破ったのはフェイタン。シャルナークと軽く微笑みながら部屋に入ると、既にフェイタンが取引相手に仕事をしていた。
太り目の東洋人男で右目側に泣き黒子、今はフェイタンに腕を折られて顔が苦痛で歪んではいるが、クロロから言われた取引相手に間違いないだろう。
「いっ、待て! 私を殺せば約束の物の隠し場所は分からなくなるぞ!!」
今更裏切った存在の大きさに気づいたか、必死の形相で交換条件をもちかける取引相手。
「ハハハ。何言てるか? そんなことこちには関係ないね。無理やり聞き出せば一緒よ」
フェイタンのあの楽しそうな様子から拷問で体に聞くことは確実だろうが、ここはより正確な情報が手に入るパクノダに任せるのがいいだろう。それにフェイタンの拷問は時間がかかるので追っ手が差し迫った今ならなおさらだ。アイコンタクトでパクノダに伝えると、
「あなたに残された道は、情報を吐いて死ぬか、拷問を受けて死ぬかのどちらかよ。
どっちがいいかは選ばせてあげるわ」
パクノダの究極の二択に観念したのか取引相手も素直に答えだす。ようやく隠し場所を吐かせた後、にわかにドアの外が騒がしくなりだした。
「よしっ、ぶち破るぞ!!」
「お客さんの到来ね」
「シャルナーク、脱出路の確保は?」
「五分前に完了済みだよ」
いつの間にそんなことをしていたのかは分からないが上々だ。ちょうど良い具合にドアをぶち破って来た連中もいることだし。
牽制に烈蹴紅球波を先頭の顎髭男へ打ち込むと、爆音と共に頭を吹き飛ばし残りの連中も蜘蛛の子を散らすように一時部屋から避難する。
「ならさっさとその方法を教えてくれないか?」
シャルナークはニコニコしながら船外の様子が見える窓を指差す。窓は飛行船専用の分厚いものでちょうど人一人が潜り抜けられるほどの大きさだ。
「……雲が綺麗だな」
とぼけてみたがどうやら通用しないらしい。
「あきらめるのね、仙水。入船も非合法なら下船も非合法と相場は決まっているわ」
そうこうしている内に外の連中が勢いを取り戻してきた。どうやら増援が来たらしく、怒号が飛び交う戦場の中にあの狙撃手もいた。まさに刃霧のような見た目で、切れ長の目でターゲットであるこちらへ銃口を向ける。俺はさっきまでの躊躇を捨て、窓に念弾をぶつけ青空へと身を投げ出した。
轟々という音が耳を劈きながら落下を続けるがまだ大地の姿は見えてこない。空中でなんとか向きを変えて空を仰げばパクノダ達も飛行船から飛び出してくる瞬間だった。百や二百メートルなら落ちても平気だがこの感じだと二キロぐらいはありそうなので、このまま落ちたら死ぬだろう。シャルナークは窓から降りろと言っていたが何か策は考えていたのだろうか?
そんな疑問を抱いていた俺は急に落下スピードが弱くなったと感じた。いやそれだけではなく、先ほどまでの大気の抵抗が感じられない。確認の為よくあたりを見回すと、そこは屋内のようでよく分からない機械類が並んでいた。
「ブツは手に入ったか?」
背後から話しかけられ振り向くと、そこにいたのは片手で“盗賊の極意”、もう片方で操縦桿を握っているクロロだ。
まだよく今の状況に頭が追いついていってないがとりあえず近くにあったイスに座って落ち着く。一息ついた所で疑問をぶつけた。
「ここは何処だ?」
「小型飛行船の中さ。シャルナークから連絡がある前は近辺で待機していたが、連絡が来たのでアン・ストッパブルの低空でお前たちを待っていた」
「そこまでは理解できるが聞きたいのは俺をここに連れてきた方法なのだよ」
「……それは直ぐに分かるだろう」
クロロは“盗賊の極意”を片手に練をした後、あまり広いとはいえない船内にパクノダ、続けてシャルナーク、最後にフェイタンと現れた。
シャルナーク以外は俺同様に皆驚きを隠せないでいるようだが少し分かったことがある。
おそらく“盗賊の極意”で使った能力は瞬間移動能力だ。それも高速で落下する俺達の速度を完全に失わせるのだから相当便利な能力だ。誓約は少しきつそうだが……
「パクノダ、成果はどうだ?」
「ブツは自宅の金庫に保管してあるそうよ。位置はだいたいここから二百キロ南西」
さすがに旅団結成時からの付き合いらしくパクノダは直ぐに状況を理解したらしい。
「このままだと備蓄している燃料だけじゃ持ちそうにないな。……そういえばすっかり忘れていた。紹介しよう新しく旅団に入ったコルトピだ」
「よろしく」
クロロの紹介と共に船内の奥から小柄で顔を隠すような長髪の人物が現れる。シャルナークは興味深そうにニヤニヤと、フェイタンは少しキャラが被っているせいか不機嫌そうだった。唯一まともな俺とパクノダは普通に挨拶をする。この時期に入団するとは思ってなかったので少し驚いた。
「では早速頼む」
コルトピは燃料タンクを左手で触ると、右手から全く同じ燃料タンクが現れる。
二十四時間後にコピーは消えてしまうがそれまでにコピーした燃料の方を使い切ればいい。
具現化系を極めるとここまでの能力も手にいれられるのだなと感心した。
今度コツでも聞いてみようか。
「見ての通り、コルトピの能力は左手で触れたものをコピーできる。これからコルトピはパクノダと並ぶチームの要だ。お前らは命懸けで守れ」
パクノダの能力は貴重だから分かるとして何故お前らの中に俺も入っているのだろうか?
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