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マチが少しでもデレるとなんだかキャラが違う気がする
キャラを崩さないようにするのって難しいですね……
仙水さん考える



ビスケにメールを送ったがなかなか返信が来ない。まだ朝も早いので飛行船も出てないし、部屋に荷物が届いていたのでそこまで遠くへは行っていないだろう。
部屋でビスケを待つのもいいが、なかなか上手くいかない念の気分転換を兼ねてホテルを出た。

今日は何か大きなイベントがあるのか、街はビデオを持ち歩く観光客や地元の人で賑わっていた。ここまで人が多いとビスケを捜すのは骨が折れそうだと思い始めた時、道行く人の間にツインテールのビスケらしき姿が一瞬見える。追いかけようとしたが、誰かが俺の肩を掴んで止めた。

「仙水。団長からの伝令だよ」

「……マチか、今少々忙しいんだが」

「ここで話すのもなんだね。朝食を兼ねてそこのカフェで話すよ」

ほぼ強引にマチへ連れられて通りのカフェに移動することに
店内は朝早くにも関わらず既に混んでいた。
マチは適当に料理を頼むと黙々と食べ始める。本拠地でもこんなに近くでマチと一緒に食べないので、目の前でBLTサンドを小さな口をめいっぱい開けて頬張るマチがとても新鮮だ。知らない内に軽く微笑んでいたらしくマチに鋭い目で睨みつけられたがしばらくこの笑いは止みそうになかった。

「で、仙水はしばらく仕事を休むって話だったけど今回の仕事はなかなか大きくなりそうだからね。ダメ元で聞くけどやってみない?」

「断る」

「やっぱね」
マチは俺の返答を予期していたらしく表情に変化は無い。いつも無表情だと思われがちなマチだがちゃんと喜怒哀楽を表情に出しているのだ。
ただ得てしてそれは微妙な空気だったり、或いはほんの僅かに上がった口角だったりするので旅団のメンバー以外は気づかないことが多い。もっと感情を出せばモデルでもなんでも出来ただろう、マチはいろいろと損をしているのだ。だが常に笑っているマチというのは既にマチでは無い別の存在になってしまう。
となると今のマチで良かった……ということになるのか。

自己完結した俺はマチがこっちをジッと見ていることにようやく気づいた。

「世界七大美色の一つなんだけど……興味ない?」

ハッと気づく。そういえばそろそろ幻影旅団によるクルタ族の襲来があってもおかしくない時期だ。マチは俺の目の揺らぎから何かを感じ取ったのかニヤリと笑う。

「団長も『可能なら』って言ってたから別に無理に来なくてもいいんだけどね。
ウボォーは大暴れが出来るって喜んでたけど、あたしはあんまり興味ないから」

「ではクロロに断ると伝えてくれないか?」

マチは一度自分が引いて俺の参加を促すことが目的だったらしいが、その目論見は失敗することになった。やはりマチも最初の俺の動揺から興味を持ったと核心していたらしく驚きの色を隠しきれなかった。

「ふ~ん、意外だね。男なら自分の意志は最後まで変えないってやつかい?」

「いや、少し世界七大美色に心当たりがあっただけだ。それ以上の理由はない」

元々、クルタ族が襲われようが襲われまいがどうでもいい。所詮自分が生きていく上で何の関係性もない連中に興味を抱けというほうが難しいのだから。
――人――とはそんなものだ

「それより、そこらでビスケを見なかt「見てないね」……そうか」

何故だか知らないが少し機嫌が悪そうだ。下手をして藪を突いても興ざめなので、マチが食べ終わったのを見計らいさっさと会計を済ます。さすがに女性に金を払わせるわけにはいかないので勿論奢りだ。

マチは何かまだ言い残した言葉があるようだったが、先ほどチラッと見えたのがビスケだとすると、あまり長い間話して距離を離されるのも面倒だ。朝からこれだけの観光客がいるのなら昼からだと更に人は増えるだろうからビスケを探すのも骨が折れる。

マチと共に店を出た所で最近すっかり見慣れた顔があった。

「あっ、仙水さんここにいたのか。……ひょっとして俺、お邪魔だった?」

当のキルアはこっちを見ながら小声でマズイことしたな~と気を遣っているようだが、別に俺達はそんな関係ではない。気にしなくていいと声をかけるとキルアもホッと安堵の息を漏らす。

「それで用事は何だ?」

「そうそう、俺ついに百階まで行ったぜ!」

随分早く百階まで到達したものだ。修行の合間にキルアと手合わせしている影響かもしれない。

「へぇ~ガキにしちゃやるじゃない」

マチの言い方にカチンときたのかキルアはムスッとした表情を浮かべる。
「仙水さん、なんだよこの女?」

そんな生意気なことを言った瞬間マチはキルアの腕を掴んで背中へと捻じ曲げ、もう片方の腕で首を締め上げる。

「生意気なガキにはお仕置きしなくちゃね」

キルアは息が出来なくなり必死に呼吸をしようとかすれた声を上げて助けを求めるが、そんなことで許すような甘いマチではない。ギリギリと締め付け、キルアが落ちるその直前でようやく腕を緩めた。

「ヒュー、はぁはぁ……いったい…何すんだよ!?」

「教育だよ」

この光景を見ていたカフェの店員が警察を呼ぼうと電話のダイヤルを押しているのが窓越しから見えた俺は渋るキルアと飄々としたマチを連れ、いったんその場を離れることにした。何だか最初のビスケを探すという目的から随分離れていっている気がするのだが、いったいどこから狂い始めたのだろうか?
パトカーのサイレンを背中で聞きながらキルアを小脇に抱えビルの屋上を次々と飛び移るマチの後を追い、考え続けたがその答えは出てこなかった。



†  †  †  †

「しばらくここに滞在することになったから」

「それは別に構わないんだが仕事はいいのか?」

雑居ビルの屋上で錆びついた貯水タンクの上に座るマチは携帯で誰かとしばらく会話した後そう言った。

「団長が次の仕事までに仙水の考えが変わるかもしれないからそこにいろって」

「どうやら期待に添えそうもないな」

「でしょうね」

今回はクロロがやたら誘いをかけるな。昨日の夜シャルナークがクロロと話しこんでいたのと何か関係がありそうだ。その後ニヤニヤしながら画像を添付したメールを送っていたのも関係があるのだろうか。

そんな心情も知らずキルアはマチに長時間運ばれたこともあってグッタリと力つきていた。

「やばい。吐きそう」

「男なら我慢しな」

「……そういえば結局あんたは仙水さんの何なの?」

「仕事仲間だ」
妙な疑いを持たれる前に自ら言っておく。

「ふ~ん、だから強いんだ」

「少なくともガキよりはね」

「俺はキルアだ!」

最初は仲が悪いと思っていたが予想以上に二人の相性はいいようだ。互いに貶しながらも会話が弾んでいる。きっと同属嫌悪というやつなのだろう。

「キルア、これから一ヶ月近くはお前に構えない」

「えーーっ!?」

「そう言うな。代わりにお前の相手はマチがしてくれる」

要は念の修行の為の厄介払いだ。毎日来られては満足に修行が出来ないからな

「はっ!? 何言ってんの仙水。あたしガキは嫌いだし、そもそもあたしがそんなことをしてやる理由はないよ」

「俺だって嫌だよ仙水さん!」

「二千万ジェニーで手を打たないか?」

「無理だね」

「五千万」

ピクッとマチの耳が動いたがまだ乗ってくれなさそうだ。

「一億」

「……やり方は?」

「好きなようにしてくれて構わない」

「ったく。俺の意見は無視だもんな~」

長い間無視されている間にようやく気分が増しになったか、顔色もすっかりよくなったキルアが不満を溢す。

「キルア。お前は家業を継ぎたいか?」

真剣に聞くと、キルアも渋々と答える。

「そりゃ継ぎたくないよ。でも他にやりたいことも無いし、面白くないことばかりさ」

「面白くない世の中なら面白くしてやろう」

「……!?」

「だから今は力をつけろ。それはお前自身の望みを叶えることにも繋がる」

教育費が一億もしたのだからそれを無駄にして貰っては困る。出世払いという形で返してもらうがな。
キルアの了承を得たところでマチに後のことは任し、ビスケ探しに出かけた。
既に太陽は真上に昇っていて予想されたとおりに人が混雑している。細い路地にさえ人の姿がチラホラ見えるのでビルの屋上を飛び移って時間の短縮とビスケの捜索を続けるがいっこうにその姿は見えない。

もうホテルに戻っているのかと帰りを急ぐと後ろから肩を叩かれた。振り返ると弾けんばかりの笑みを浮かべたビスケ。

「誰か探しているんだわさ?」

「……意趣返しか。趣味が悪いな」

「ニシシシ、師匠をからかった罰だわよ」

呆れながらホテルへ帰ると直ぐに念のアドバイスをビスケにお願いした。勿論呪念錠のことは秘密にしてだ。いくら念の師匠でもこういった情報を教えることはいつか自分にとって致命的なダメージを与えるだろう。それは旅団内でも同じだ。

ビスケも俺のオーラ量の少なさと練が出来ないことから何かあると分かり執拗に訳を求めてきたが、俺がそのことに関しては一切話さない態勢を維持したので、あんたは昔から秘密主義だったわねとあきらめてくれた。

「う~ん。普通なら練を繰り返し行って訓練するんだけど練が出来ないとなるとちょっとね」

「策はないのか?」

「二つ案があるわね。一つ目は相手の練での攻撃を流と凝で対応する為に徹底的に訓練を行う。凝は練じゃなくて纏で行うからニセ凝だけどね」

纏と練では圧倒的にオーラ量が違うので対処方としては正しいが、それ以外の場所に攻撃を受けると死にかねない。それにただでさえオーラを消耗する放出系にとって長時間の戦闘は危険すぎる。しかし戦闘では絶対必要な技術ではあるのでこれから訓練はするが、いささか勝敗を決する決定打が欠けているように思う。

「もう一つの案は?」

ビスケが待ってましたとばかりにウインクする。

「二つ目は忍の具現化系の発をつくることだわさ!! たかが一ヶ月で具現化出来て更に応用力があり、戦闘に向いているものをつくりあげるのは常人には無理……というかその発想自体が馬鹿げているのよ。でもあんたのセンスならなんとか出来るかもねぇ」

具現化するものに関しては既に決まっているのだが、あれ(気鋼闘衣)はおそらく聖光気が必要だろう。毎回聖光気を身につけて攻撃するとオーラの損失が激しそうなので低燃費で普段の戦闘でも使える発をつくるのもいいかもしれない。
なにより具現化系の才能があるのに使わないのはもったいない。

クラピカが常に鎖を具現化していることから分かるように具現化系はそれを最初に具現化するのに必要なオーラさえあれば後はほとんどオーラを必要としないのだ。

問題は気鋼闘衣の他にどんなものを具現化するかだ。
やはり具現化のイメージに時間をとられすぎては実用化が遅れるので、基本的には気鋼闘衣のように身に着けるものが理想だろう。

念は奥が深いな



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