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仙水さん気づく




「いや~、ホントに最近の武道のレベルが落ちていること落ちていること。
あたしゃこの間心源流の道場へ見学しに行ってきて確信したわさ! ジジイもあの世で嘆いていることでしょうね」

レストランでビスケはワインを片手にそう愚痴る。もう一時間近く飲んで、大声で愚痴るので店の客は気分が壊されたせいかそうそうと帰り、今ではほぼ貸切状態だ。店員も一時間前は早く帰れというアイサインを送っていたが今ではもうどうでも好きなようにしてくれと諦めの境地に達した。

「だいたい忍も訓練が足りないわさ!! 
あたしの目立てでは今頃一流のプロハンターになっていると思っていたのに、未だハンターライセンスをとってないばかりか念能力の向上もあまり見られないし……練が足りないんじゃない? 顔はあたし好みになったけどさ」

念については呪念錠をしているので仕方無いがハンターライセンスは確かに今までとってなかった。その絶大な効果を考えれば今後の仕事のことにおいても損は無いだろう。

「今年のハンター試験には行こうかと思う」

「えっ、本当!? だったらつてを使って今年の試験官に任命してもらおうかしら?」

「……随分簡単に言うな」

「ハンター協会は一年間の厳重な審査の上で試験官を選定すると公には開示しているけど、実際はジジイがその時の気分次第と思いつき、二つ星ハンター以上の自主推薦で一ヶ月前に決めるのが常なのさぁ~!」

ビスケは大分酔っているせいかガンッと大きな音をたてワインをテーブルに叩きつけると、そのテーブルは不吉な音をたて真っ二つになった。オーク製の頑丈そうなテーブルで、滅多なことでは壊れそうもないがどうやらビスケは『周』を無意識の内に使っているようだ。

「もう飲むのはやめておきたまえビスケ」

ビスケは忠告を軽く聞き流すと再びワインを飲み始める。
結局、酔いつぶれたビスケを背負って帰ることになったので店員にかなり多目の金額を渡し、店を出た。

最近、夜が冷えてきたのでレストランを出た時にはコートを着てくるべきだったかと少し後悔したが、背中からビスケの温もりが伝わってくるので平気だった。背中に背負った女の子特有の甘い香りと酒臭さが合わさった匂いが自分を酷く複雑な気持ちにさせる。

パシャッ

突然シャッター音が後ろから聞こえて振り返るとそこにはデジカメを片手に笑顔を浮かべるシャルナークの姿が……

「やっ仙水、久しぶりだね」

「電話も遣さずに直接ここへ来るとは、よっぽど旅団は時間を持て余しているように見えるな」

「やだな~、俺達は仙水に伝令と暇つぶしを兼ねてここに来たってわけ」

暇つぶしなら分かるが、俺はしばらくの間旅団の仕事を止めるとクロロに言ったはずだ。わざわざその俺を呼びだすほどの大仕事があるというのか?

「仕事の内容は?」

「それは一緒に来たマチに聞いてよ。俺も詳しいことはまだ良くわかんないし」

終始ニヤニヤが止まらない様子のシャルナークが気になったが、とりあえずビスケをホテルへ送ろうとするとシャルナークもついて来る。事情を聞いてみるとどうやら同じホテルに今日チェックインしたらしくマチも既にホテルの一室で待機してるらしい。



「へぇ~、仙水ってそういう趣味だったんだ」
シャルナークの案内でマチと会った時の一言目がそれだ。おそらく背中で涎をたらしながら眠っているビスケを指して言っているのだろうが、ここへ連れてきたのはやはり間違いだったか……
とはいえ、ビスケの部屋は知らないし、ロビーへ眠ったビスケを置いていくのも躊躇われたので連れて来る他なかったのだが。

「残念ながら『そういう趣味』がどういう意味か分からないな。今背負っているのは俺の念の師匠でちなみに年は50を越えている」

マチとシャルナークが息を呑む。無理も無い
どう見てもただの少女にしか見えないのだから。

「忍~、そこは触っちゃダメだわさ~」

ビスケが何の夢を見ているかは分からないし、分かりたくない。

「ふ~ん、あたし明日早いからこれで」

シャルナークと俺は半ば無理やり部屋から追い出されるとそのままマチに部屋の扉を閉められてしまった。シャルナークと別れた後、まだ仕事の内容を聞いていないことを思い出したがそれは明日でも構わない。

ビスケをベッドへ運ぶと急に喉の渇きを覚え、冷蔵庫に入っているペットボトルを取り出し口へ運ぶ。
それから念の修行に移る。今度戦う相手は一筋縄ではいかない。呪念錠をつける前でも真っ向勝負で勝てるかどうか分からない相手だ。

通常以上のオーラを生み出す『練』が使えないのなら、それ以外の四大行と応用を徹底的に鍛えるまで。とりあえず今まで呪念錠をつけたまま念弾を作ったことがなかったので試してみる。
今まで練の状態で念弾をつくっていたので、纏の状態で作るのは初めてだが予想以上に難しい。掌にある野球ボール程の大きさの念弾を一分も維持できず、形が崩れてしまう。
いつもならここで念弾に注ぎ込むオーラ量を多くして問題を解決するのだが、纏しか出来ない今では限られたオーラ量でどうにかするしかないのだ。
百三十回目の挑戦でなんとかいつもの綺麗な形の念弾がつくれたが、こんなに時間がかかっては戦闘に使えない。
少し落胆したが念の修行の後で疲れ切った体は心地よい怠惰感を覚え、俺の気など知らず眠りにつくのであった。




翌朝目覚めると俺はソファの上にいた。ご丁寧に毛布も掛けられていたが、あの状況で自分がかけたとは考えにくい。おそらくビスケの手によるものだろう、だが当のビスケがいたはずのベッドは既にもぬけのからだった。

ルームサービスで遅めの朝食をとると再び念の訓練を始める。
昨日の特訓のせいか念弾をつくることは随分簡単になったが、いつもは数十の念弾をつくっても平気なのにせいぜい十ぐらいしかつくることが出来ない。それに加え空中に念弾を漂わせている間『纏』で体に纏わせているオーラ量が少なくなってしまい、攻防力が欠けてしまう。顕在オーラはたかが一ヶ月やそこらで増えるものでもないのでこれは大きな問題だ。
呪念錠を外せばなんとかなるかもしれないが、この先キメラアント以上の敵が現れるかも分からないというのにその考えは甘すぎだろう。

「まぁそういう時の為のビスケ(師匠)なんだが……」


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