今回は短文かも? あと人によって嫌に思うかもしれません
そこんとこどーぞよろしく
仙水さん洗脳する
天空闘技場、パドキア共和国の東部に位置する地上251階、高さ991mの建造物。
下から見上げると呆れるほど高い。飛行船の飛んでいる位置が低く思えるところからその高さがわかるだろう。
とりあえずここでずっと眺めていても仕方無いので受付の行列に加わる。屈強な体の連中がこちらを一度見ると興味が失せたように視線を逸らす。確かに俺の体は見た目スラッとしていて到底強そうには見えないかもしれないが、見る人が見れば長年の修練によって鍛え上げられた身体だということが一目で分かるだろう。
呪念錠に最近ようやく慣れてきて日常生活は苦労しないレベルにまではなったが、戦闘においては未だ満足に動けるかどうかわからないので、あまり余裕をこいていられる状況でもないが…
少しずつ前の列の人間が回収されていき、ついに整理番号1733の俺の番になった。
「天空闘技場へようこそ。こちらに必要事項をお書き下さい」
受付嬢に渡されたバトルクエスチョンと書かれた紙に記入する。
名前:仙水 忍
生年月日:1974年 6月6日
闘技場経験:無し
格闘技経験:16年
格闘スタイル:烈蹴拳
「ふ~ん、お兄さん珍しい拳法使うんだね」
振り返ってみるとその声の主はなんとまだ幼い少年だった。銀髪で多少生意気な顔はしているが端整な顔立ちのその少年はどこか気品を感じる。だがこの少年が放つ気配はその容貌と違い、あまりに鋭く静かだ。それに隠しているようだが殺気が漏れ出している様子からカタギの人間ではないことは確かだ。
「少年も天空闘技場にエントリーしに来たのかい?」
少年の質問を軽く流してこちらから質問する。えてして、この誘導は大抵の人間が引っかかるので使い勝手がいい。
「ああ、そうだよ。で、その烈蹴拳だっけ?
最近じいちゃんから聞いたような気がするんだけど」
「……少年、君の名前は何というんだい?」
「普通そういうの自分から名乗るもんだと思うけど、さっき名前盗み見たからおあいこだね。
俺はキルア、あんたは仙水さんだっけ?」
何故か最近はよくゾルディック家の人間に会う。
そういえばキルアは6才の時に二百階まで行ったような気がする。原作の記憶が薄れているというのもあるが、幼い姿というだけでわからないものだ。
「ああ」
『1562番、1733番の方Bのリングへどうぞ』
早くも呼び出しがかかったので動き出そうとするとキルアも同時に動き出す。
「ひょっとして……」
「少年が1562番だというなら俺と戦うことになるな」
「やっぱりか。まぁ、次があるから頑張りなよ♪」
キルアは嬉々としてリングへ進んでいく。自分が負けることなんて想像だにしてないのだろう。さすがに子供のキルアに負けるわけにもいかないので少し実力を見せよう。
「両者リングへ、それでは始め!!」
キルアはへらへらと笑いながらこちらへ近づいてくる。おそらく油断した相手の後ろにまわり、首へ手刀の一撃を叩き込む天空闘技場で使ったやり方をするつもりなのだろう。
「お~い、あんちゃん。ガキ相手に何ビビッてやがる!! さっさとやっちまえ!」
野次馬もうるさいのでとっとと済まそう。俺はキルアと同じようにゆっくり相手に向かって進む。
キルアは少し驚いたようだが絶対な自信があるのか、不敵な笑みを浮かべて再び歩き出す。
ちょうどリングの真ん中で俺とキルアがぶつかりあうように見えたその時、キルアが瞬時に脇を抜けて後ろから手刀を振り下ろす。
だが既にその場所に俺の姿は無い。
キルアが脇を抜けたちょうどその時に、キルアの死角から後ろに廻りこんでいたのでキルアの目には俺が一瞬で消えたように見えただろう。目の前でオロオロしているキルアの首に逆に手刀を打ち込んでやるとキルアはガクッと倒れた。
「1733番…キミは50階に行きなさい」
思ったよりも動きはマシだった。問題は二百階に行った後だ。
果たして練も使えない状況で勝てるのか?
とりあえずこの次の試合が終わって昼食をとってから考えることにしよう。
天空闘技場の周りには食堂やホテルがたくさん並んでいる。観客や選手をもてなす為にその手の店が増えただろう。そして俺はその中で有名人達が通う隠れ家的な定食屋を選んだ。
美味しい。このカレイの煮付け定食は非常に美味しい。
それはいいのだが、
「後、チャーハンとラーメン、から揚げ定食もお願い!」
「はいはい、お宅のお子さんはたくさんお食べになるんですね」
店の人は微笑ましい顔をキルアに向けてそう言うが、俺に子供はいない。気絶したばかりだというのに、目の前でパクパク食べている暗殺一家の少年に血のつながりもなければ何の関係性もない……はずだ。
「いったい君は何を考えている?」
キルアはマンガのように丼を天高く重ねた横で、がっついているチャーハンへの手を止め真面目な顔をして俺と視線を合わせるがほっぺについたご飯粒がいろいろと台無しにしていた。
「まぁいろいろ話したいことはあるんだけど、とりあえずお兄さんって何者?」
「幻影旅団の協力者、といったところだな」
「ハハッ、何それ? 面白いこと言うねお兄さん!
だったら俺は暗殺一家の息子だよ。」
「知っている。ゾルディック家の三男だろう」
からかわれているのだと思ったのだろうキルアは冗談でも言うようにゾルディック家だと明かすが、俺の一言でその軽い態度を改め本気で警戒し始める。とはいえイルミに刺された針のせいかその体勢は逃げ腰で、何とかして俺の隙を狙って攻撃する気はないようだ。俺も油断する気は無いし、例え隙が出来たところでかかって来ても返り討ちにできるからその選択は正しいともいえるが。
「とりあえず落ち着いて座ったらどうだ?」
キルアは実力差の前に何をしても無駄だと悟るとイスに着く。その額には脂汗が浮かび店員も険悪な様子に声もかけられずにいる。
「……」
「君はどうして俺についてきた?」
キルアは少し逡巡を見せた後、あきらめたかのように語りだす。
「……別に、ただの好奇心だよ。」
「好奇心は猫をも殺すというが君はどう思う?」
「……」
キルアの額から滝のような汗が流れ落ちていく。
「な~に、軽いジョークだよ。君に危害を加えるつもりは無い。
むしろ興味をもっているのだよ、君という人間に対してね。」
「……どういうことだ?」
「君は今の自分の状況、つまりその状況をつくりだしたゾルディック家に対して不満を持っているんじゃないか? ゾルディック家を継ぐために毎日人殺しの訓練をさせられ、将来継いだ後は君も何の抵抗もなく、自らの父親がしたように我が子へその技術を伝える。そんな不毛な人生は嫌悪すべきだと俺は思うがね」
ここに来て初めてキルアの表情に戸惑いの色が混ざった。幼いがゆえに何の疑いもなくやってきたことに俺の発言で疑念が芽生えたのだろう。普通の六歳児はこんな風に考えられない、やはりこの子は天才だ。
だがそれゆえに染まりやすい。
「俺は……よくわからない」
まぁ、今日はこんなところだろう。
「考えておくことだな。君には自分の意思という尊重すべきものがあるのだから」
再び考え込むキルアに声を投げかけて心を揺さぶる。
「会いたくなったらまた来るがいい、いつでも話を聞こう」
「……うん」
キルアは弱弱しく年頃の声を響かす。
「それではまたな」
店を出てゆっくり去っていく姿を見送りながらキルアは小さく呟いた。
「え……俺がお金払うの?」
最後のオチはあまりシリアスにならないための予防線です。
ちょこちょこシリアスな感じにしたいので……
まぁ何はともあれ、読者の皆さんに喜んでもらえるように頑張ります!!
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