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仙水さん目覚める

目が覚めて体を起こそうとする時痛みが走るかと思ったが、包帯で固定されていて少し動きにくいことを除けば、予想していた痛みはなかった。どうやら俺の体は予想以上に頑丈だったらしい。
切れたはずの右腕も繋がっている。幻かと思い指を動かしてみると指も何の遅れもなく動く。ここまで完璧に動くという事はマチの念糸縫合によるものだろうか?

辺りを見回すと、おそらくクロロの趣味であろうアンティークの小物が自らを主張しすぎないよう配置されている。そしてこのゴシックな雰囲気の家の造りからどうやらここは本拠地ホームのようだ。一応旅団員以外が入ってはいけないらしいのだが気がつくとクロロに鍵を渡されていて、仕事の時以外はここでくつろいでいるのだが未だ何故ここにいるのかが分からない。確かマチを担いで裏の医者のとこまで運んだのは覚えているのだがそれ以降の記憶が曖昧だ……

とりあえず寝かせられていたソファーから起き上がり談話室の方に行ってみると、

「8きりで上がりね」

「俺も上がりだ!」

「クッソーーッ!! お前らイカサマしてんじゃねーだろうなっ!?」

フェイタンとフィンクス、ノブナガが大富豪をしていた。

「おっ、仙水! どうやらもう動けるみてぇーだな」

「ああ、おかげさまでね」

「礼なら右腕縫い付けたマチとそのお前らをホームまで運んだフランクリンに言いな。
それにしてもあの時のフランクリンの顔は今思い出しても爆笑もんだったぜ!!」

とフィンクス。

「確かに面白かたね!」

いったいどんな顔だったのだろう? パクノダも見ていたなら記憶弾メモリーボムでその時のフランクリンの顔を見せて欲しい。今後パクノダとはいい関係を築いていこう

「それよりそのマチはどうしてるんだ?」

「マチなら二階の部屋で寝てるぜ。
意識が朦朧としている中、念糸縫合でオーラを使いきっちまったもんだからあと二日は目覚めねぇだろうな」

言いたいことだけ言って再び騒ぎ始めたノブナガたちを後に俺はマチの部屋へと足を進める。


部屋には点滴を受けてゆっくり眠っているマチとその隣でイスに座りながら本を読んでいるクロロの姿があった。クロロは部屋に入る俺の姿をチラッと見ると再び本に視線を戻す。

「マチは?」

「全治五ヶ月らしい」

何の表情も浮かべずクロロが言う。

「それと、お前たちが苦労して盗ってきたあの『リトルドラゴンの琥珀』だが…」

「傷でもついていたか?」
さすがにあの状況じゃあ傷がついていてもおかしく無いか。価値は落ちるかもしれないがそれでも一億ジェニーはするだろう

「傷はついていなかったがあれは模造品レプリカだ。」

一瞬、間違いなく時が止まった。

模造品レプリカ自体が非常に良く出来た代物で五百万ジェニーはするだろう。
専門家でもないと見分けられない上に、ゾルティック家を雇って金庫を守らせることで本物だという信憑性を高めた知略に富んだ策だ。…完全にしてやられたな。
おそらく本物は既にフヴァロン家の者が回収しているだろう。」

あれだけ苦労してゼノと闘ったのが無駄だと知り少し落ち込んだが、命が助かっただけありがたいと思うことにしよう。そうでも無いとやってられない。

「そうか。……俺の次の仕事はキャンセルにしてくれないか?」

「マチのことなら心配するな。」

「そうじゃない。今回俺は自分の無力を思い知った、鍛えなおす時間が欲しい」

しばらくの沈黙の後、クロロは好きにしろとだけ言って部屋から出て行った。おそらく気を使ってくれたのだろう。
マチの顔は穏やかで死んでいるのではないかと思うほどだが、呼吸のたびに胸が上下することでなんとか生きていることが分かる。

「また……エリのように死なれるのは怖いな」

彼女は何事にも冷静でみんなのまとめ役だった。悩みを抱え込んでもそれを人に打ち明けることを良しとせず、いつも一人で解決し、そして傷つく。傷ついているところを人に見られて優しくされることを恐れていた。その時自分はいったいどうしていいのか分からなくなるから

彼女は誰よりも強く、誰よりも弱かった。
内と外で相反する二つが彼女をよけいに傷つけた。

そんなエリの姿がマチと妙に重なって見える。
生まれも、育ちも違い、顔なんて全然似てないのに……




今度は助けよう。
内と外の間に挟まれて苦しむのならその間をつくってあげればいい。
強さと弱さを併せ持つ純なる存在、それが彼女の葛藤の緩衝材となるだろう。


そんな純なる存在でいられる場所が俺につくれるだろうか?

エリはそれを許してくれるだろうか?

答えはまだ出てきそうにない。





部屋から出て、風にあたりにベランダに行くとクロロがこれまたアンティークのテーブルでコーヒーを飲みながら本を読んでいた。どうやら新たに蔵書室から本をもって来たようだ。

ホームにはクロロが世界中から集めた本がおさめられている巨大な蔵書室がある。その数はおよそ三百万冊、そこらの図書館とは比べ物にならないほどの蔵書数だが専らクロロと俺、シャルナークしか本を読まないのでその大半は今も眠ったままである。宝の持ち腐れとはこのことだ。確か3億ジェニーぐらいする珍しい神字についての考察が書かれた本もあるというのに



……なるほど、その手があったか

「クロロ」

「……どうした?」

「神字である物を作りたいんだが、腕の良い物作りの能力者を紹介してくれ」





「いやいや、苦労しましたぞ。仙水殿の要望を全て答えるのは」

クロロに紹介された人物はキブソンと名乗る能力者で齢130という会長並みの化け物だ。

「すまなかったな」

「いえいえ、私もここまでやり甲斐のある仕事が出来て嬉しいばかりです!

またご要望があれば優先してつくりましょう」



キブソンにつくって貰ったのはいわば呪霊錠のようなものだ。いや、この世界には霊力がないから呪念錠というのが正しいな。見た目はただのリストバンドだがその裏にびっしりと神字が刻まれていて効果は絶大だ。

これは言わば両手両足につけることによってまるで鉛で出来たバネのように両手両足を拘束する枷だ。相当なオーラを動員させないと動くことすらできないだけでなく、オーラは垂れ流し状態(体を動かすだけでかなりのオーラが呪念錠にいくから)か、額に汗を浮かばせてようやく纏ができるくらいで動きもかなり制限される。

だがこの呪念錠は長く身に着ければ着けるほど外した時のオーラ量が増える。幽助は少なくとも数日の間に霊力が五倍になったのだから、一ヶ月以上着けると外した時はまさにオーラの塊になるだろう。

早速リストバンドをつけてみると予想以上の拘束力が体を襲った。全オーラを体中に行き渡らせてようやく立っていられる事が分かった時はキブソンに拘束力を強くするよう注文したことに後悔の念が浮かぶ。
一歩一歩、歩くのさえ苦労して夕食の席では不自由な思いがしたがマチが少し笑っていた気がするので良しとしよう。


そういえばマチへのお礼を言うのを忘れていたので夕食後、おぼつかない足どりでマチの姿を探していたがなかなかマチの姿が見当たらない。円を使えば早くみつかるのだろうが、今の俺はほとんど念の使えない一般人だ。

勘でバルコニーの方に赴くと果たしてマチはそこにいた。マチは思案顔でそこにいたが俺に気づくとおもむろにこちらへと歩いてくる。
手が届きそうな位置まで来るとマチは俺の目を見つめて、まるで自分の目の奥にある何かを捕らえようとしているかのようだった。酷く気まずかったがマチの様子は真剣そのものだったで、黙ってマチの気が済むまでこのままでいることにした。


一時間、あるいは五分間だったかもしれないが俺にとって長い時間は終わりを告げた。

「仙水はあたしのことをどう思う?」

突然マチの堅く閉ざされていた唇が開きそんな音を発する。
しばらく考えたが自分でも満足できそうな答えは出てきそうにもなかった。

「あたしはあんたの事が嫌いだよ。」

マチの発言はおおよそ予想のついていたことなので驚きはしない。しかし、例え嫌いでいても、嫌いでいるからこそ腕を繋げてくれたことには礼が必要だ。

「ああ知っている。だが…「だけど、認めてやってもいい」…!?」

「仙水は確かに気に食わない。だけど仙水も旅団のメンバーだ。

例え蜘蛛の刺青はつけていなくてもね。」

マチが初めて肯定的な発言をしたことに喜びよりも驚きの感情が強かった。ノブナガ以外にそんな事を口に出して言う奴はいないから余計に…

「だから腕を治した礼なら五百万でいいよ」

「……金をとるのか?」

「当然」

マチが不敵に微笑みながらそう言ったのがあまりに彼女に似合っていたので、耐え切れず思わず笑ってしまった。マチは変なものを見る目をしていたがそれすらも彼女に妙に似合った仕草だったのでついに声に出して笑ってしまう。

「……? とりあえずこの口座に金を振り込んどいてね」
不思議そうな顔をしたマチはそう言い残し去って行った。まだまだマチという人間を知るには時間がかかりそうである。

「……」

「……」

マチの前だったから普通にしていたがその気配が消えるとガックリ膝を落とした。立っているだけで体力が削られているような呪念錠の効果は予想以上に大きい。
とりあえず普通に動けるようにならなくては実戦すらもできない。

「シャルナーク、いるんだろ? 動けるようになったらしばらく天空闘技場で修行するからクロロに伝えておいてくれ」

「あははは、バレてたか?」

調度品の影からヌッと現れたシャルナーク。

「気をつけなよ仙水。
あそこは二百階から念能力者たちしかいないから、今の仙水じゃかなりキツイと思うよ」

「そのくらいしないと意味がない」

「……まったくマチも仙水も素直じゃないな。楽に生きれないよ」

シャルナークは肩をすくませ呆れたように言うがそんなことは既に分かっている。
俺は楽に生きれないし、楽に生きるつもりもない。
そういうニンゲンなんだ。


腕は気硬銃にしようかと思いましたがやはり素手のほうが格好よかったのでなしにしました。

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