仙水さん修行する(3)
† † † †
今回のターゲットはなかなかの大物だった。
おもに宝石を狙う財宝ハンターであるあたしはハンター専用サイトである『狩人の酒場』からアイジエン大陸の北部にあるイグルーの樹海に『星の欠片』というダイヤモンドが眠っているという情報を手に入れた。
三千万ジェニーという情報料はなかなか痛かったが信用のあるハンター専用サイトなので偽の情報を掴まされることは無い。懸念すべきは同業者の存在だろう。
常に新しい情報が手に入りしだい報告をしてくれる協力者がいるので他のハンターたちより先に行動できるが三千万ジェニーもかけて情報を得たというのに宝を先取りされたらあたしはたぶんそいつを許せない。非常に嫌だが怒りでうっかり元の姿にもどってしまうということも有り得る。そう考えたあたしは翌朝の最初の便でアイジエン大陸へ飛んだ。
空港から電車で五時間、そこからバスで三時間ほどした先にイグルーの樹海にほど近いイグリアの町がある。さすがにイグルーの樹海は世界有数の自殺名所なだけあって途中に乗ったバスの中は辛気臭い奴らばかりが乗っていてイライラしたが未だ見ぬ『星の欠片』の姿を思い浮かべて妄想を膨らますといつのまにか着いていた。
さて、一通りの準備はここでしなきゃね。
樹海は湿気がつよいから汗で落ちにくい化粧品を買いそろえないと、あと服も二、三着は欲しいとこだわさ。
結局その日は買い物に忙しく樹海に行けなかったが、全て必要なので仕方無い。適当なホテルでチェックインをして軽くシャワーで汗を流した後、夜更かしは肌に悪いのであたしはさっさと眠りについた。
翌朝イグルーの樹海に行くと入り口の足下が骨でいっぱいだった。汚れた骨が服につくと嫌だったので軽く足を念で強化して飛び越し、鉄条網で覆われている入り口のどこから進入しようかと迷っていると隅のほうにちょうど人一人入れそうな隙間があいていることに気づいた。先にきた誰かか開けたのであろうその隙間は子どもかあたしのような可愛い女の子が入れるぐらい小さく、入るときにスカートが引っかからないよう苦労したが何とか引っかからずに入れた時はホッとした。
入ると直ぐに蝙蝠形の魔獣があたしを襲ってきたが念も使えない動物相手に負ける気はしない。軽く撃退するとまた更に奥へと進む。
あれから十時間ほど歩き回ったが分かったことはここがとても広いということ。
ここまで広いのなら探索型の念能力者を雇うべきだったと後悔したが今更遅い。
もっと考えてくるべきだったわさ。
空も暗くなってきたきたので今日はこのへんで夕食をとって明日再びハンターを雇いに帰ったほうが効率的だわね。ああ~、一時でもここを離れるのは嫌だけどこれも『星の欠片』のためだわさ。
そんな決意を胸に野宿するのにいい場所を見つけていたら湖のそばに洞窟を発見した。
こんないい場所にあるということは九割方中に魔獣、しかも大物が住処にしているのだろう。慎重に中を覗くと魔獣は留守なのか気配を感じられない。
あたしも少しはついてきたのかねと思いながら奥へ進むと何か人影があるのに気づいた。
急いで岩陰に隠れるが向こうはこちらを気づいている様子が無くその場からじっと動かない。気配からして人に化けた魔獣ではないようだ。
凝で見てみたが隠を使っている様子も無いし、まずオーラが全くといっていいほど無い。
完全な絶の状態だ。
そのまま相手を警戒していたが聞こえてくるのはスー、スーという寝息だけで嘘がだいたい分かるあたしはそれが本当だといっている。警戒するのが馬鹿らしくなりどんな奴か確かめに近寄ると、体つきからいって16歳ぐらいで額に確かビンディだかティラカだというものを着けている黒服の美少年で将来はかなりいい男になることが想像できる。
寝顔は幼く見えるのであるいはもっと若いかもしれない。
なんにせよあたしのタイプであることは間違いないわさ。
眠っている美少年を前に涎が出てしまっているのを感じそれを慌てて拭う。
そういえば何故こんな所にこの少年はいるのだろうか?それほど鍛えているようには見えないのだけど……
服で隠されている腕を触ってみるとそこには少年の見た目からでは考えられないほどの筋肉があった。
こぶが出来たり見るからに筋肉質なわけではないのだがあたしには分かる。
これは修練に修練を重ねた上にできる質のいい筋肉だ。ホッソリとした見た目ながら皮膚の下では強靭な筋肉が出来かけている。ここで
まだ未完成ながらあたしの若い頃を彷彿させるわね~♪
きっとこの子は磨けば光る原石、それも特上の!!
胸の内にムクムクと膨らんでくる欲望。この子を育てたらいったいどんな綺麗な宝石になるのだろうか、興奮してくるわさ~!!
それに確かジャポンでいう『光源氏計画』、小さいときから懐かせ自分好みの男(女)に成長した所をいただくという素晴らしい計画をあたしもリスペクトすべきかもしれないだわね~♪
すっかり冷えてきたので焚き火をつけてこの子が起きるのを待つ。
絶と同時にこんなに深い睡眠までして体が己を癒そうとしている程日々の修練が苦しく、体を苛め抜いた結果だろう。その資質はあたしの好むところだけど……
ふいにモゾモゾと体を動かしだし寝むたそうな目を開ける少年。
「あ、あんたやっと起きたんだわさ。
寝顔も目のホヨーになったけど長い間寝ていたからちょっと心配したわさ~」
警戒した様子でこちらを見る少年。当然のことだけどね。
「何故こんなところに…」
「それは子どものあんたが言うセリフなのさね?
……まぁ、そんなこと言ってても始まらないしね。あたしはビスケット・クルーガー、ここの奥地に『星の欠片』と呼ばれる宝石があると聞いてやってきた美少女財宝ハンターだわさ!!あたしのことはビスケ、もしくはビスケちゃんと呼びなさい!!」
「で、あんたは?」
「……仙水 忍だ」
「へぇ~、名前からいってジャポンの人みたいね」
「ああ」
寝顔からはここまで無愛想な子だなんて想像できないわね。
「何であんたはここにいるんだわさ?」
「そこに樹海があるから…?だ」
「嘘をつくのはかまわないけどね。もっとマシな嘘をつきなさい!」
きっと触れられたくないのであろう。忍はあたしのそのセリフを苦笑で返す。
「じゃあ話を変えるけど、あんたのオーラの様子から念能力者じゃないってのは分かるんだけどよくこんな場所で生きてこれたわね~。
ひょっとして何か格闘技でも修めているの?それ以外考えられないんだけど」
「ああ、拳法を少し」
「へ~、ひょっとして心源流拳法?あたしもだわさ」
見るからに動揺する忍。どうやら腹ごとはあまり得意ではないらしい。
「動揺しているところから図星のようね。もっと表情を隠したほうがいいわさ」
「いや知り合いに心源流の使い手がいたから驚いただけだ。
それより一般人に念のことを教えていいのか?秘匿義務があるのでは…」
話がはぐらかされたけど…まっ、いいでしょう。
「あんたがカタギの人間には見えなかったし、その様子だと念について知っているようなんで大丈夫だわさ。」
「だったらちょうどいい。俺に念を教えてくれないか?」
「いいわさ♪」
どちらにしてもこの原石を放っておくような勿体ないことはするつもりは無かったし、服の様子からここで長い間生きてきたことが分かるのでこの樹海の中にある『星の欠片』探索にも役に立つだろう。
「その代わりに『星の欠片』の捜索を手伝うのと、パスの有効期限があと二ヶ月できれるからそれまでになるけどいいわさ?」
「それでいい」
「じゃあこれで契約完了だわね」
それから忍の念の修行が始まった。といっても忍は長い修練によって念に目覚めかけていたらしくあたしがちょっと念をぶつけたらすぐに念に目覚めた。
蒸気のように立ち上るオーラ。それをあたしのアドバイス無しで直ぐに纏で留めたことにも驚いたけど、忍の飲み込みの速さにはもっと驚かされた。
纏から錬の修行に移るまで一日もかからなかったしそのあとは自分で錬の持続時間を延ばす訓練から錬の応用技である凝に近いことも自分で開発したりとまるで生まれたときから念について知っていたように感じる。
「全く、可愛げが無いわねぇ。
もっとあたしに先生をやらせなさいよ!」
「ビスケには感謝してる」
最近ようやく見せるようになってきた笑みを見てため息がでる。
「じゃあ今日は(あたしが)待ちに待った発の訓練ね。
まずは自分が何の系統に属しているか調べるために水見式と言われる方法を使うわよ。
まぁ何事もやってみなくちゃ分からないからとりあえず両手をこのコップの脇に置いて錬をしなさい」
「……分かった」
何故か諦めたような表情を浮かべ忍が錬をする。
コップの中の水が
少し紫色に変わった。ということは放出系ね。
「忍は……」
言いかけたところであたしは気づいてしまった。紫色の水の中で砂金のような金色に光る粒があることに
「忍は……放出系と具現化系!?
どういうこと!?こんなこと聞いたことが無いわさ!!」
† † † †
やはり恐れていた事態が起きてしまった。
念についての上達の速さはただの才能で話がつくが系統については中々そうもいかない。
二つの系統が百パーセントなんてことは歴史上無いだろうし(クラピカは緋の目の時、特質系で全ての系統が百パーセント使えるというものだから違う)あまり人に知られたくないので水見式の対処方を考えていたが良いアイデアは浮かんでこない。
ビスケに水見式をすすめられた時はほとんど諦めていたが、二系統はやはり珍しいらしくビスケにたくさん質問された。知らぬ存ぜぬをつき通したが未だ疑いの表情を向けられる。
「俺は何も知らない。第一念が使えないのに系統が分かるわけないだろう」
「それは……そうなんだけど、忍は何か隠している気がするんだわさ」
「気のせいだろう」
その場の追求は何とかなくなった。
『ヒィーッ、俺は本当に何も知らねえんだよ。だから頼む、助けてくれ!!』
「だったらお前はもう用なしだな」
俺の言葉を聞いて一目散に逃げる魔獣の頭に念で強化した踵落としをする。頭から腰の位置までがぱっくり裂け鈍い音をたてながら地面に倒れる魔獣を見ながら考える。
やはり念での肉体強化はあまり得意では無いらしい。せいぜい普段の1.5倍程度の威力しかない、俺自身の筋力をつけるかオーラの総量でカバーするしかないようだ。
「忍~、そっちはどうだったわさ?」
林の奥からツインにしたビスケが出てきてそう言う。
「ダメだ。どいつもこいつもろくな情報を持ってない」
だいたいの念の訓練が終わって最初の約束通りビスケの『星の欠片』の探索を始めた俺達は会った魔獣から情報を聞き出すということをしていた。無論素直に答えてくれる魔獣は皆無といっていいほどだったので俺は念の訓練と併用しながら作業をする。
「あたしは良い情報を聞いたわ。何でも巨大な猿みたいな魔獣が自分の住処にもって帰るのを見たという話だわさ。」
「……それなら心あたりがある」
正確には確信だ。灯台もと暗しという言葉がこれほどまでに正しい言葉だったとは…
しばらく家捜しをすると、巨大な岩盤が意味ありげに壁際に立てかけられているのを見つけた。ビスケと協力して岩盤を動かすと中には手のひら大のダイヤが…
「ああ~、やっと見つけたんだわさ~!!
なんて名前をつけようかしら、ディアちゃん!?ベリーちゃんも捨てがたいわさ!!」
冷たい視線に気づいたビスケはコホンと咳払いして向き直った。
「あ~これであたしの願いは叶ったし、あんたはこれからどうするの?」
「しばらくは念修行の旅にでるさ。」
「じゃあ、あたしのホームコードを教えておくわね。
あんたも携帯電話を買ったらあたしに教えるのよ。」
そういえばそんなものがあったかもしれない。十数年ぶりに外にでるからきっと周りの景色もだいぶ変わっているのだろう。現代の浦島太郎とはきっと俺のことかもしれない。
「わかった。携帯を買い次第連絡するよ」
「待ってるからね♪」
そういい残しビスケとはイグリアの町で別れた。
とりあえずアイジエン大陸から離れて、ヨルビアン大陸にでも行くか。天空闘技場に行くのも良い。
やるべきことはまだたくさんあるのだから
これからも更新続けていきます。
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