早くも感想をくださった読者の皆さんに感謝します!!
仙水さん修行する(2)
あれから十数年の月日がたった。年は16歳になり体もすっかり大きくなって170あるかないかぐらいになり見た目はますます仙水さんに近づき、周辺部の魔獣相手に毎日命がけの特訓をしていたので烈蹴拳もまだ荒いながら形になってきた。もともとこの烈蹴拳とはあらゆる体術を習得及び鍛錬した後でしか習うことが出来ないとされているので普通ならこう簡単に掴めることは有り得ないのだが幼女(神)様が上手いとこやってくれたのだろう。
だがここまで来るのにそれはそれは長い道のりがあったということをここで語っておこう。
まずは生きるうえでもっとも大切な食糧調達だがそのほとんどが倒した魔獣の肉に限られる。とはいえここイグルーの樹海に住む魔獣は大変強力で、狩るどころか狩られることの方が多く最初は空腹のまま森をさまよった。運がよければ親が巣を離れた隙を狙って魔獣の子どもを仕留めれるがそんなことはそうそうあるわけが無い。力とスピードで劣る俺は魔獣に気配を悟られずに近づき不意打ちを成功させることでしか狩りができず返り討ちに遭い一週間まともに動けないほどの怪我もしょっちゅうあった。
そのやりとりを何百回と繰り返し“絶”を覚えることができたので悪いことばかりでもなかったのだが…
もちろん魔獣相手に力とスピードで劣るからといってそっち方面を鍛えなかったわけではない。もともと漫画で自身が言っていたように仙水は魔族に覚醒する前の幽助にパワー、スピード、バネ、スタミナ全てが負けていたのだが仙水に生まれ変わった俺は二度と同じ轍を踏まないため巨大な岩を背負ってランニングしたり、水中で魔獣と戦ったりと、集中的に鍛えてきたのである。おかげで体は傷だらけになったがその分強くなった自信もある。
今なら試しの門も三の扉までは行けそうな気がする。
試してみないと分かんないけどな。
そのようにして力をつけていった俺はイグルーの樹海を攻略し始めたのだがまだ全体の三分の一程度しかマッピングが済んでいない。理由は簡単で魔獣が強いからだ。
周辺部の魔獣は人の姿に擬態して騙そうと近づいてくるほど力に自信がないのもいたが中心部に近づくにつれ強い魔獣たちが現れてくる。一番初めに出会った猿のような姿をした魔獣もそのなかの一匹だ。
あれから二度戦ったが鉄並みに堅い皮膚と分厚い毛皮によってダメージは通らないし攻撃は重く、速い。だがそれも修行前の話だ。
今から修行の結果を確認するために奴を倒しに行くとでもするかな。
思い立ったら行動、早速ボロボロになったボストンバッグからサバイバルナイフを取り出し腰のベルトにつけるといつも隠し場所として使っている木の洞にバッグを投げ込む。
ナイフは戦闘で使う気は無いが念の為と、死体から肉を切り裂いたり皮を剥ぐために持っていく。
さぁ、狩りの時間だ。
デカ猿の住処は大きな木の下にある自然にできた洞窟の中だ。一度“絶”で追跡した時に分かったもので、今もその時と同じように“絶”をして入り口を慎重に覗く。
猿は眠っているようで俺の存在に気づいてないようだ。中は獣臭くて息がつまりそうだったがギリギリ我慢できないことも無い。
足下に転がっている奴が食った獣の骨を拾い上げ眠っている奴の頭に向かって投げる。
見事命中するとデカ猿は起きて俺の存在に気づきいやらしい笑みを浮かべた。
『メシガメノマエニイルトハ、コウウンダ』
「奇遇だな。今俺もそう考えていたところだ」
『ヨマイゴトヲ!!』
別に奇襲をしかけるために“絶”をしていたわけでは無い。奴から奇襲を受けないために“絶”をしていたわけで、俺がやりたいのは純粋な殺し合いだ。
猿はその巨大な岩を連想させる拳を振り下ろすがそこには俺の姿はない。既に攻撃を予期して後方にバク宙していたのだ。勿論わざわざこんな避け方をしたのは今の身体能力を確かめる為と相手を虚仮にして怒らせ冷静な思考を困難にさせるためだ。決してかっこいいからとか少し憧れてとかじゃない。
何はともあれその作戦は成功したらしく更に攻撃が荒く読みやすくなったので俺の頭を吹き飛ばそうとしたフックを体を反らして避け、がら空きの横腹に回し蹴りを放った。
以前の実力では猿に当たっても微動だにしなかったその蹴りは猿にとって想像以上のダメージだったらしく苦しい顔を浮かべる。
だがそのダメージが猿に再び冷静さを与えた。
先程までの笑みをピタリと止め、相手の弱みを探そうと警戒しながらこちらを見る。
しばらく何もせずに向かい合っていたがその静けさも長くは続かなかった。
猿のこの森での強者としての矜持が膠着状態を許さなかったのだ。しかし今度は先程のような大振りの攻撃ではなく鋭い爪である程度俺と距離をとりながら戦うことを選んだ。
こちら側からの攻撃は当たらず一方的に避けるばかりとなったこの状況を作り出した猿はさすが知恵のある魔獣といったところだ
だがまだ終わらんよ!!
攻撃をよけながら洞窟の地面にゴロゴロと落ちている拳大の大きさの石を拾い上げて感触を確かめる。
十分な硬さがある、これなら使えそうだ。
『バカメッ、ソンナイシコロガ、オレニキクカ!』
「それはやってみなければ分からないさ」
手の中にある石をそっと放して地面へ落ちる前に猿目がけて蹴飛ばす。まだ念が使えないので念弾の代わりを石で代用した烈蹴紅球波だ。ただの石と侮る無かれ、今の仙水さんの実力で蹴り出した石は木を軽く貫通するぐらいの威力がある。
勿論そんな攻撃を喰らってはこの猿でさえも無傷には済まず、一発打つごとに鮮血が溢れ肉が散り当の猿は苦痛を訴え醜い叫び声をあげるのだが攻撃は止まない。
数分後には体中ボロボロの状態でありながらもまだかろうじて生きている猿がそこにいた。
「もう…休みたまえ」
『ク・・・クソ・・ニンゲン・・・・・ナンゾニ』
足裏に頭蓋骨を踏み潰した時の感覚がするが嫌悪感は湧いてこない。歓喜、快感に近いであろう感情が胸を満たす。もはやそれが仙水忍としての感情なのか御山忍としての感情なのかはどちらでもいい。ここで喜んでいるのは俺という存在であるというのに変わりはないからだ。
無論このデカ猿を食べようとしたがあまり美味しくは無かったので毛皮を剥いだ後は放っておいた。どうせ他の魔獣が掃除してくれるだろう。
木の実を食べすっかり満腹になった俺は主のいなくなった洞窟でこれからどうしようと考えながら獣のように深く眠った。
目が覚めたら体がやけに暖かいことに気づいた。大抵ここらは夜になると気温がかなり落ち起きてもしばらくは体が動かないことがよくある。不思議に思い目を開けると目の前でパチパチと小気味いい音をたてながら薪が燃えている。寝る前に焚き火をした覚えはないんだが……
「あ、あんたやっと起きたんだわさ。
寝顔も目のホヨーになったけど長い間寝ていたからちょっと心配したわさ~」
焚き火の奥にいて見えなかったがこちらを心配そうに見つめるゴスロリ姿で金髪をポニーテールにしている少女が目の前にいた。一見すると害のない美少女だが長年魔獣を倒してきた俺の勘がこいつは只者ではないと言っている。
殺意や敵意を感じればすぐ起きるのでおそらく敵ではないのだろうが分からないのは何が目的でこんな危険なところに来たのかだ。
「何故こんなところに…」
「それは子どものあんたが言うセリフなのさね?
……まぁ、そんなこと言ってても始まらないしね。あたしはビスケット・クルーガー、ここの奥地に『星の欠片』と呼ばれる宝石があると聞いてやってきた美少女財宝ハンターだわさ!!あたしのことはビスケ、もしくはビスケちゃんと呼びなさい!!」
へぇ~、ビスケね。ハンターだというならこんな危険な場所にこれたのも納得だ。
・・・うん!?
ビスケって確かどこかで聞いたことがあるような・・・
ハンター×ハンターを十六年間も読んでないので細かいところは忘れてしまったからな。
忘れるということはそんなに重要人物でもないのだろう。
「で、あんたは?」
「……仙水 忍だ」
「へぇ~、名前からいってジャポンの人みたいね」
「ああ」
「何であんたはここにいるんだわさ?」
やはり聞かれると思った。別に隠す必要はないので本当のことを話しても構わないのだが初対面の人にわざわざ聞かせるような話でもないな。
「そこに樹海があるから…?だ」
「嘘をつくのはかまわないけどね。もっとマシな嘘をつきなさい!」
ビスケのその返しを苦笑して話をごまかそうとしているのに気づいたのか、ビスケも呆れた顔で詮索するのを諦めた。
「じゃあ話を変えるけど、あんたのオーラの様子から念能力者じゃないってのは分かるんだけどよくこんな場所で生きてこれたわね~。
ひょっとして何か格闘技でも修めているの?それ以外考えられないんだけど」
「ああ、拳法を少し」
「へ~、ひょっとして心源流拳法?あたしもだわさ」
かの有名なネテロ会長が師範を務めている心源流拳法を学んでいる金髪少女、念能力者で『だわさ』という特徴的な語尾はもしかしてあの……ビ、ビスケか!?
ようやく思い出した!
……だとしたら目の前に座っているのはかなり大物だぞ。いろんな意味で
しかし念の師匠としては申し分ない人材だ。
「動揺しているところから図星のようね。もっと表情を隠したほうがいいわさ」
どうやらビスケはさきほどの動揺を勘違いしたようで得意気な顔を浮かべる。
「いや知り合いに心源流の使い手がいたから驚いただけだ。
それより一般人に念のことを教えていいのか?秘匿義務があるのでは…」
「あんたがカタギの人間には見えなかったし、その様子だと念について知っているようなんで大丈夫だわさ。」
「だったらちょうどいい。俺に念を教えてくれないか?」
「いいわさ♪」
断られてもしつこくお願いするつもりでいたのだが答えはあっさりおkだった。喜ぶべきなのだがあっさり了承されたのとビスケの素敵な笑みであまり良い予感はしない。
「その代わりに『星の欠片』の捜索を手伝うのと、パスの有効期限があと二ヶ月できれるからそれまでになるけどいいわさ?」
話がうますぎると思ったらやはり条件つきだったか。『星の欠片』とやらの捜索は魔獣を脅して聞けばわかるだろうからいいのだが期間は二ヶ月か、決して満足できる時間ではないが念の基礎でも学べればそれからは自分でもなんとか出来る。幸い能力は既に決まっているので能力開発に費やす時間も必要ないと考えればなんとか我慢できる時間だ。
「それでいい」
「じゃあこれで契約完了だわね」
諸君、私はマチが好きだ。
……というわけなのでいつか絡ませたいなぁ
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