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仙水さん修行する(1)



イグルーの樹海

アイジエン大陸の北部に存在する二万ヘクタールのこの森は世界三大魔境の一つとして大抵の人に認知されている。魔境でありながら何故そこまで一般人に認知されているのか?
答えは簡単だ。そこは本当に魔境なのだ。

樹海は周辺部から中心部に向かうにつれ道はより険しくなり、毒蛇やワニなども多く生息している。ここまでは今までどこかで聞いたことがあるような内容だが重要なのはここからだ。
ここが魔境と言われる所以はその魔獣の多さからだと言える。

魔獣とは人語を操れる獣を総称して言うものであり戦闘力の高さもピンキリなのだがイグルーの樹海に生息する魔獣は比較的凶暴で人間と積極的にコミュニケーションをとるものはかなり稀だ。無論、会話以外の方法でなら彼らは非常に積極的に人間とコミュニケーションをとりたがる。中心部に行けば行くほど魔獣の強さも上がりより手荒い歓迎をうけることになるだろう。

そして一般人に認知されている理由の多くはここの近くに大きな町があって交通が整っていることもあり、日本での有名な自殺スポットとは比べられない程毎年ここにたくさんの人が訪れるからである。もっとも自殺志願者たちのほとんどはその目的を達成できず他殺という結果に終わってしまうことのほうが多い。

そしてその近くの街に向かう人は自殺志願者がほとんどということもあって今俺は町へむかう乗り合いのバスの運転手に命の大切さを説かれているという訳なのである。
なんでも話によるとこのおばさんもかつては死に場所を探し求めてこの地に来たらしく樹海のあまりの恐ろしさゆえに命の大切さを知り町で再就職をして今はこの生活に幸せを感じていると熱く語る。

今見えているあの町が大きく成長したのはおそらく樹海の恐ろしさから命からがら抜け出してきた者たちが想像以上にたくさんいたからなのだろう。
確かに乗客は俺以外全員目に生気が篭ってない様子のままずっと一点を見つめているか何かうわ言を言っているかでバスの車内の空気はよどんでいる。そんな死にたがりたちをゴミでも見るかのように眺めていた自分に気づき、気分を変えるためにバスの窓を開ける。

だが生温い風は胸のモヤモヤを吹き飛ばしてはくれずその淀みをいたずらにかき回すだけだった。
エリの事があってから人の弱さや醜さを見ると考えが仙水に近くなる。
今はまだ何も害はないがいずれ大切な人も傷付けるかもしれない。そう思うと少し怖くなるが自分が望んだことなので後悔はしていない。

ただ俺は今度こそあのような目に遭わない為ここへ強くなりにきたのだ。
仙水忍としてでは無く御山忍として

町につくとイグルーの樹海へ行く為の準備をする。
寝袋、ライター、空のペットボトル、サバイバルナイフ、いちおう数日分の食糧も用意したがなくなったら現地調達をしようと考えている。

「おい坊主。死にたくないならあそこに行くのだけは止めときな」

レジで会計を済ましていると店員の丸々と太ったおっさんがそう忠告するがどうせあんたもあそこに行った中の一人なんだろうと返したらそれはそれで面倒臭いことになりそうなので止めておく。皆あそこに行った暗い過去を忘れたいに違いないし、親切で言っていることだろうから。

「大丈夫ですよ。すぐ帰ってきます」
嘘だ。しばらくはあそこで暮らす予定だしこの店員もそれを信じてはいなそうだ。

「……気をつけな」

出口で一度礼をして店を出る。

町から十キロほど先にイグルーの樹海がある。
そんなに近くて魔獣が町を襲いにこないのかと思うかもしれないが樹海の中だけで食物連鎖のバランスが保たれているらしく外にでる魔獣は滅多にいないし、人間のほうから出向いてくれるので大丈夫らしい。
それに一応町の周りには巨大な鉄の柵によって覆われていて監視台から24時間交代で監視しているから安全なのだそうだ。

しかし今俺がいる樹海の入り口からはもう危険な匂いがする。足下には人間の白骨がゴロゴロと転がっていて、入り口に立てられた二本の鉄柱の間の鉄条網に絡まっている看板には『立入厳禁』の文字が返り血で汚されてほとんど消えかかっていた。
だがそれに臆するわけには行かず鉄条網の隙間から中に入る。

思ったよりも綺麗な所でここが魔獣の住む地でなければきっと今頃キャンプ場やピクニックの目的地にでもなっていたのだろう。
しばらく歩いていても魔獣の気配はしない。もっと先にいないと出ないのだろうか?

何はともあれまずは生きるために必要な水を探さなければ
地図には確かここをまっすぐ行った先にあったはずだが……案の定見つかった。
きれいな湖があるがそれを楽しんでいる暇はない。水場は魔獣が水を求めてやってくる一番危険な場所なのでバッグから2ℓ用のペットボトルを三本出して一本ずつ水を詰めていく。コポコポと空気を吐き出しながらペットボトルは水を吸い込む。
二本注ぎ終わって三本目にとりかかろうとした時背後から殺気を感じ前転を二三回転してその場から離れると同時に先程まで俺がいた地面が深く削れた。

マジで死ぬ寸前だったな。冷静を装おうとするが内心恐怖で心臓が耳のそばでなっているような感覚がする。襲った相手は凶悪な爪と牙を生やして熊のように大きくした猿で今もその冷たい赤い瞳は獲物を観察している。こいつには絶対敵わないと判断した俺は奴の足下にあるペットボトルを諦め地面の砂を相手の顔目がけて蹴りつけた。
まさか攻撃するとは思ってなかったデカ猿が俺の攻撃によって一瞬怯むとその隙に湖の奥側にある森目がけて走る。すぐにショックから立ち直ったデカ猿がドスッドスッという足音をたてて追いかけてくるが首に奴の爪が刺さるすんでのところで急に直角に曲がった俺を捕えきれず空振りする。
あの巨体ではいくら猿とはいえ密集した木の間を素早くは通り抜けれないだろうと思っていたが、何と奴は木の枝を伝って移動し上から俺を補足するために追いかけてくるではないか!?


奴はこの樹海の中でもかなりの実力者なのか、他の生き物達が介入してくる気配が全くしないのが唯一幸運だがこのまま逃げてもジリ貧になることは確実、ならば……
俺はより木が群集している方向へ逃げる。空の光さえも遮るほど枝葉が多くなりデカ猿の追いかけるスピードも遅くなってきた。
だがここで調子に乗って奴を切り離して走り続けると他の魔獣に狙われてしまう。適度な距離で気づかれない為にはここらへんで隠れるしかない。

地面にある落ち葉や土を体に擦り付け匂いを消すと5歳の俺がようやく隠れるくらいの木の窪の中に入り気配を消す。念をしらなかったゴンでさえ似たようなことが出来たので俺にも出来るはずだ。

しばらくたつと聞き覚えのあるドスッドスッという足音が聞こえ始めたので音をださないように唾を飲み込む。目の前に奴の姿が現れあたりの匂いを嗅ぐような振る舞いをはじめたので祈るような気持ちで目を閉じる。
一秒一秒が有り得ないほど長く感じ、そして長い長い時の後小鳥のさえずりが聞こえ始めると生まれてから今までずっと息を我慢していたかのように深く息を吸った。

頬を冷たく落ちるものに気づきようやく自分が冷や汗を出していることに気づく。
これからはもっと周辺部から攻略していくことにしよう。修行とは生と死ギリギリの間でやるのが望ましいがここでは死が近づきすぎる。
まだ原作開始まで時間はたっぷりあるゆっくりやっていこう。



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