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この話はハンター×ハンターの独自解釈がつきます。

どうぞご了承してください。
仙水の生まれた日


何だ?何も見えない

この現状を打開しようととりあえず動こうとするが体が上手く動かない。

ズルッという擬音の後、ようやく体が少し動かせるようになって安心していたら生命としての本能が俺にある衝動を促す。そのむせ返るような強い本能に抗えず俺は終にそれを行動へと移してしまったのだ。

「ホンギャー、ホンギャー」

そう産声を上げることだ。どうやらトリップではなく転生らしい。
まぁ修行する時間が増えたのでこちらとしては万々歳だけどな。

「ようやく産まれたのねあなた。」

こちらを見て優しそうに微笑む決して美人ではないが不細工でもないおそらく母親が、隣で嬉しそうに俺を見つめる平凡な眼鏡をかけた男、父親に語りかける。
実の親に向かって失礼なことだとは思うがこの二人の遺伝子からあのクールでかっこいい仙水さんのようになるとはとても思えないのだが大丈夫なのだろうか?

その点については神様がどうにかしてくれたのだろう。そうでなければたとえ大隔世遺伝をしたとしても仙水のように成長するとはとても思えない。

今はただ祈ることしか出来ないな。
俺はこらえきれない程の眠気に逆らえず意識を手放した。



5年後

まぁ急に5年もたったのは不自然に思うかもしれないが、ちいさいころからずっと体力をつけるために修行をする他は特になかったので割愛させていただく。
どうやらカレンダーによると今は1979年のようだ。ゴンさんたちが受ける1999年のハンター試験の時には26になる計算だな。

この頃になると顔が大分仙水さんに近づいてきて近所で話題の美少年になっていたのだがその反面、親はまるで自分たちの血を受け継いでいるとは思えないせいか冷たく当たるようになってきた。

父親は俺が母親の浮気相手との子だと思い込んでいるようで毎晩喧嘩が絶えない。
そして母親は記憶にないことで父親に疑われたことへのストレスを俺を痛めつけることによって解消するのだった。

俺が子どもながら冷静で素顔を出さなかったことも原因に入るのかもしれない。
体力をつける修行の一環として山篭りをして二、三日帰らなかったこともよくあったし、そんな挙動不審な子を我が子として見るほうが難しかったのだろう。

住む場所を提供してくれるだけの人間だったので俺も親と思ってないのだが、
……ここまで自分が冷徹だとは正直思わなかった。

ひょっとして仙水忍の肉体に御山忍としての精神が引きづられているのではないか?

だが俺は仙水ほど人間に絶望してないはずなんだが…………絶望した!!

修行を終えて元家に帰ると電気もついていなく、部屋には物がすっかりなくなっていた。
おそらく、いや間違いなく両親は俺をおいて出て行ったのだろう。

別に怨みはしないが何もベッドまで持っていくことはないだろうに……

これからどうするかな~。……とりあえず修行を始めて列蹴拳はマスターしなければ身寄りもなく危険なこの世界じゃあ生きていけない。
念能力を覚えるには師匠がいないしそれが済んでからだ。

そう決めたならまずは行動だ。ここがアイジエン大陸の南東に位置する小さな村であることは既に村人から調査してある。上目づかいで「教えてほしいな♪」と頼んだら大抵のお姉さま方はあっさりしゃべってくれるのだ。
注意しなければいけないことはそのまま家に連れ去られそうになること。
それさえ注意すれば彼女たちは非常に優秀な情報提供者となる。

水道設備すらもこの村にはないので井戸から汲んできた数日分の水をペットボトルにつめ、家に唯一残っていた食料である干からびて端の方から崩れかけているパンと一緒にボストンバックに入れ家を出る。服装は言わず知れた全身黒の格好で、普通なら痛い感じになるのだが仙水には有無を言わさない何かがある。


とりあえず近くの一番大きな街までは野宿しながら移動した。一日に数本ほど村から街へ行くバスも通ってはいるのだが何分金がない。

金の工面もしなければそこで野垂れ死んでいる奴のようになることは想像に難くないがこんなガキを受け入れてくれる所なんて、



「ここで働かせて欲しい」

「いいだろう。だが何でもやってもらうぞ」

例え大半の人々が綺麗な服を着て栄養のある食事を取っている場所でもそのどこかに影の部分は存在する。それは当然のことだ。

体中に弾丸の穴が開いた死体を片付けながらそう自分を慰めた。
大人の死体と背が合わないのでどうしても背負う形になってしまう。だから頬や体に流れ落ちる血液や脳しょうを時折拭いながら処理場へ運ぶのだが途中でキリがないことに気づき無心で歩き続けた。やっとの思いでたどり着いたとしても一日に貰える賃金は300ジェニーぽっちで労働基準法舐めてんのか?と言いたいぐらい悲惨なものだ。
無論そんなことを口走ったらそれ以上に悲惨なことになるので何も言わないのだが。

帰る場所は雇い主というか、ただ俺達を扱き使う髭がボサボサのおっさんが与えた廃墟と化したビルの一階で、そこは二日に一度水を使ってもいい許可が下りる。
当然血まみれの俺は早くシャワーに浴びたいのだが今日に限って周りの連中がそれを止める。

「まだ中に人がはいっているから……」

「それがどうしたんだ?いつも2,3人一緒に入っているじゃないか」

「だから……」

それでも制止の言葉をかける皆を無視してシャワー室に向かう。こっちは血まみれで気持ち悪いんだ。それにこのままで寝ると酷い悪夢を割と高確率で見る。

「入るぞ」

汚れた服を洗濯桶に入れ、一応軽く声をかけて中に入る。

中はシャワーの熱気でムワッとしており蒸気で視界が曇って見えにくいがシャワーを浴びるのには問題ない。二つあるシャワーノズルの一つには俺と同じぐらいの年の子がかなりこちらを驚いたような顔で見ていた。

「気にするな。」

「いや、もう私はでるところだったから」

「……そうか」

女の子だったんだな。このぐらいの年の子は起伏に乏しいのでよく分からない。
片手の力だけで日課の懸垂をしながらそう考えた。


そんなかんじでつらい毎日を過ごしながらお金を貯めた。
1年たって仲間たちは仕事に失敗して死んだのか、処分されたのか最初の頃のメンバーはシャワー室で男と間違えたエリを除いていつの間にかいなくなっていた。

「ねぇ仙水、私も連れて行ってくれないか?」

出発まで一週間きった時エリが背を向けながら話した。
最近は敵対するマフィアを殺してくるよう命じられたりやばい金を盗んで来いという命令も当然のようになって来ている。俺らの組の連中もだいぶあせっているようで数日以内に大きな抗争があるということを大人たちも話していたのでエリが相談するタイミングとしては正しいのだろう。

「本当にいいのか?」

「……私は着いていきたい」

「準備をしておけ。」
顔を綻ばせるエリ。


その夜マフィアたちは俺たちの住処を襲ってきた。銃を向けられればただ死という選択肢しかない。幸いこういうこともあろうかと俺達は密かに抜け穴を用意しておいたので年齢の低い順に仲間を逃がす。

「よしっ、次は仙水とエリが行け」

年長の子に言われスライダー式の抜け穴に向かう。

「エリ、先に行け。」

「レディーファーストって訳ね」

脱出の時間が早まったことが嬉しいのかエリはこんな状況でありながら笑顔を向ける。
軽く笑い返すとエリをスライダーへと押して俺もそのあとに続く。
予想以上に長い距離を滑った後丸い出口が夜の景色を切りとる。

だがスピードを抑えきれずに前のエリはその勢いのまま出口へと向かっていく。

「大丈夫か!?」

スピードを緩めゆっくりと出口を通過した後俺が見たのは先に脱出したはずの幼い子ども達の死骸。仕事上死体には慣れていたが今まで一緒に過ごしていたモノの死骸はより死をリアルに感じさせる。

「おっ、次の獲物は君かな~?」

カウボーイハットを被り右手にマシンガンを持ったニヤケ面の若い男が踏みつけているのはエリ……だったモノ。
顔の右部分は皮がめくれており腕や足は銃で打たれたのか千切れかけていてその目に先程までの生気は無い。今にも悲鳴を上げて嗚咽しそうになるが悲しみを凌駕するほどの生への執着が俺を目の前の敵から逃げさせる。

しかし獲物が逃げるのを予期していたかのように配置されていた大柄なスキンヘッドの男に片手を捕まえられるが俺はそいつの手を渾身の手刀で打つ。

さすがに少しは聞いたのか捕まえられている腕の力が緩んだスキに片手を振り払い夜の街へ逃げ込む。後ろから弾丸が飛んできて足に当たったがその痛みすら生への執着には敵わない。

血の痕で追っ手に見つけられないように服を切り裂いて縛り、ゴミ捨て場の中で夜が明けるのを待った。ようやく安全を確保出来たと確信した後にやっとエリのことを考える自分の身勝手さに腹が立つ。

フフッ、フハハハハハハ!!

これが人間の本質だというのか!?呆れを通り超すと笑えてくる!!

この日、仙水忍が生まれた。



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